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【書籍化&コミカライズ!】少年マールの転生冒険記 ~優しいお姉さん冒険者が、僕を守ってくれます!~  作者: 月ノ宮マクラ


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086・魔に抗う人々

第86話になります。

よろしくお願いします。

 空中庭園をあとにした僕は、王女の侍女フェドアニアさんと護衛の騎士2人に連れられて、神聖シュムリア王城から、再び大聖堂の控室へと戻ってきた。


 控室の扉を開けると、


「マール!」

「お、帰ってきたの」


 ソファーに座っていた2人が振り返る。


(あ、キルトさん、着替えたんだ?)


 銀髪の美女は、すでにドレスを脱いでいて、いつもの袖なしの黒シャツとポニーテール姿になっている。

 ちょっと残念。


 一方のイルティミナさんは、すぐに立ち上がって、僕に近づき、その前に膝をついた。


「おかえりなさい、マール」

「うん、ただいま」


 僕は、笑う。


 でも、それを見た彼女は、少し不思議そうな顔になった。


「……何かありましたか、マール?」

「え?」


 キョトンとする僕の前で、イルティミナさんは、美しい髪を肩からこぼして、首をかしげる。

 真紅の瞳が、僕の目を覗き込んで、


「いつものマールと、少し違う気がします。……レクリア王女に、何かを言われたのですか?」


 …………。


(敵わないなぁ、イルティミナさんには)


 普通にしていたつもりなのに、彼女には、一目で見抜かれてしまった。


 奥のキルトさんは、「?」という顔だ。


 僕は、困ったように笑って、


「うん、少しね。でも、大丈夫だよ」

「……そうですか」


 イルティミナさんは、頷くと、僕を抱きしめてくれる。


 大きく柔らかな双丘が押しつけられ、甘やかな匂いに包まれながら、頭を撫でられる。

 なんだか落ち着く。


(……幸せ)


 うっとりする僕を優しく抱きしめながら、イルティミナさんの真紅の瞳は、王女の侍女であるフェドアニアさんの方を詰問するように鋭く見た。


「…………」


 でも、侍女さんの表情は、能面のように変わらない。

 スカートを軽く摘み、


「では、私はこれで」


 美しい所作で、こちらに一礼する。


「うむ、ご苦労であったの、フェド」

「…………」


 キルトさんの労いに、もう一度、頭を下げて、彼女は控室を出ていった。


 残されたのは、僕ら3人。


 ソファーに座り、足を組んでいたキルトさんが、イルティミナさんの腕の中の僕を見る。


「それで、マール? レクリア王女とは、何を話した?」

「…………」


 イルティミナさんも、心配そうだった。

 僕は少し迷ってから、


「多分、聞いたらもう、後戻りできないような話だよ?」


 と警告する。

 でも、2人は、当たり前のように頷いた。


「構わぬ」

「何を今更。さぁ、話しなさい、マール」


 …………。

 

「うん。――それじゃあ、話すね」


 湧き上がる嬉しさを隠して、僕は2人に、レクリア王女から聞かされた、今、この世界が晒されている脅威についてを話しだした。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 話が終わると、なんだか部屋が、少し暗くなった気がした。


 しばらく、2人は何も言わなかった。


 やがて、重い空気を払うように、ソファーに深くもたれかかったキルトさんが、「ふぅぅ」と大きなため息をこぼした。


「封印された9体の悪魔に、悪魔の欠片……か」

「…………」


 金印の魔狩人は、苦笑する。


「なるほどの。これは確かに、聞かなかったことにしたい話じゃ」

「何を今更」


 イルティミナさんが、冷たい視線を向ける。


「遅かれ早かれ、金印の魔狩人、鬼姫キルト・アマンデスの耳には、届けられる内容です。それを可愛いマールの口から伝えられただけ、まだマシだと思いなさい」

「ま、そうじゃの」


 キルトさんは頷く。


 伝えた張本人の僕としては、何も言えない。


 と、そんな僕に気づいて、イルティミナさんは、優しく笑いながら、僕の手を握りしめる。


「大丈夫ですよ、マール」

「…………」

「私たちがついています。貴方は、何も心配しなくていいのですからね?」


 甘い囁き。


 そして彼女は、控室の壁を――神聖シュムリア王城のある方向を睨んで、


「むしろ、私のマールに、このような思いをさせるなんて……。過去がどうあれ、マールは、もうマールなのですよ? 私は、レクリア王女を、殴ってやりたい気分です」

「おいおい」


 過激なイルティミナさんに、キルトさんは呆れていた。


 でも、


(……ありがと、イルティミナさん)


 そのおかげで、僕は少しだけ、気が楽になった。


 そして、色々と心配なことはあるんだけど、今、一番心配していることを2人に相談する。


「あのさ? この話、ソルティスにも、した方がいいかな?」

「…………」

「…………」


 2人は、黙った。


 正直に言うと、まだ幼いあの少女も巻き込んでしまうのは、ちょっと心苦しかった。

 多少の重さなら、いい。


 でも、これから背負うのは、世界の重さだ。


(上手く誤魔化して、知らせない方がいいのかも……?)


 そうも思ったんだ。


 でも、キルトさんは難しい顔で、はっきり言う。


「話すしかあるまい」

「ですね」


 イルティミナさんも、同意した。

 彼女は、僕を見る。


「ああ見えて、あの子は、とても頭のいい子です。黙っていても、私たちが何かを隠していることに、すぐ気づくでしょう。それに――」

「我らは、パーティーであるからの」


 キルトさんは、言う。


「善きも悪きも分かち合う――それが仲間というものじゃ」


 …………。


「うん、そうだね」


 僕は、頷いた。


 そんな僕に、2人は穏やかに微笑み、そして最後に、ソルティスの姉が付け加えた。


「それに、あの子は寂しがり屋ですもの。仲間外れにしたら、きっと泣いてしまいますよ?」

「…………」

「…………」


 思わず、想像してしまい、僕ら3人は、つい声を立てて笑ってしまった。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 大聖堂をあとにして、僕らは、イルティミナさんの家へと帰る。


 キルトさんの来賓特権で、馬車に乗っての帰宅だった。


 帰る途中、窓から、国王の生誕50周年式典で賑わう、王都の人々の姿を見ることができた。

 みんな笑顔で、楽しそうだった。


(……がんばらないと)


 この笑顔を消さないように、僕らは、『悪魔の欠片』と戦うのだ。


「あ、おかえり~」


 家に入ると、眼鏡少女のソルティスが出迎えてくれた。

 彼女は、小さな手でお腹を押さえて、


「2人とも遅かったじゃないの~。お昼抜きで、お腹ペコペコよ? ……あれ、キルトもいたの?」

「…………」

「…………」

「…………」


 なんか、笑っちゃった。


 彼女のお姉さんも笑って、「では、話の前に、ご飯にしましょうね」と台所に向かった。


 やがて、美味しいお昼を、4人で食べる。


「あのさ、ソルティス? ちょっと話があるんだけど」

「ん?」


 食後のデザートを食べている少女に声をかけると、ソルティスは、キョトンと僕を見返した。


 僕は、年上2人に聞かせた話を、彼女にも伝えた。


 …………。

 …………。

 …………。


「な、なんで、そんな話、私にも聞かせるのよぉ~!?」


 泣きそうなソルティスに、怒られた。


 ゲシゲシ


 テーブルの下で、僕の足が、何度も蹴飛ばされる。


(あ、あれ~?)


 な、仲間なんだし、伝えた方がいいんだよね?


 確認するように見たら、キルトさん、ソッと視線を外してくれました。えぇ?


 イルティミナさんは、額に手を当てて、ため息をこぼしている。


「落ち着きなさい、ソル」

「こんな話、聞いて、落ち着けないわよ! このこの……っ」

「もう」


 妹を羽交い絞めにするイルティミナさん。


「いくらマールを蹴っても、現実は変わりませんよ? ほら、このリンガーアイスでも食べて、落ち着いて」

「うぅぅ……」


 モグモグ


 泣きながら、アイスを食べるソルティス。


(さ、さすが、イルティミナさん)


 妹の扱いに、慣れていらっしゃるようです。


 そこから、10皿ぐらいアイスを胃袋に納めて、彼女はようやく、話ができる状態になった。


「はぁ、本当に信じられない。今の話、マジなのよね?」

「うん」


 僕は、頷く。


「レクリア王女、直々に話されたんだよ?」

「うへ~、絶望」


 少女は、テーブルに突っ伏した。


「冗談じゃないわよ。この世界に、9体も悪魔がいるっての?」


 うん。


「一応、封印を破ろうとして2体、死んでるから、あと7体だけど」

「7体でも、大差ないわよ」


 まぁね。


 ソルティスは、身体を起こして、僕を見る。


「つまりさ、今回、300年前みたいに、なんとか『闇の子』を倒せても、あと7回、また『闇の子』が現れる可能性があるんでしょ?」

「うん」

「その内、1回でも失敗したら、もっと強い悪魔ちゃん本人が復活……でしょ?」

「……うん」


 彼女は、もう一度、テーブルに突っ伏した。


「絶望~」

「…………」


 言葉にされると、本当に絶望的だった。


(しかも、対抗する『神の子』たちは、その戦いのたびに、きっと数が減っていくんだから)


 僕は、天を仰ぐ。


 更に悪いことを重ねれば、悪魔を封印した地の1つは、いまだ謎に包まれた暗黒大陸にも存在するらしいのだ。

 最悪、この50年、不可能だったその地の開拓も、成功させなければいけない。

 

(このクエスト、とんでもない難易度だよ)


 …………。


「それでも、やらないと」


 僕は呟いた。

 3人の魔狩人が、僕を見る。


「駄目かもしれないけれど、やらなければ、本当に世界が終わっちゃうんだ。……僕はまだ、イルティミナさんやキルトさん、ソルティスと一緒に、この世界にいたいよ」

「…………」

「…………」

「…………」


 キルトさんが頷いた。


「そうじゃな。やるしかあるまい」

「……そうね。絶望だけど……最初から諦めるのは、悔しいもん」


 ソルティスも、唇を尖らす。

 そして、イルティミナさんは、いつも通り、優しく笑った。


「そうですね。――みんなで、がんばりましょう、マール」

「うん」


 僕も、大きく頷いた。


 互いの目を見つめ合い、そうして僕らは、世界のために最後まで抗う覚悟を決めた。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 それから、僕らは、アルン神皇国に行くことについてを、話し合った。


「大国よ、あそこは」


 ソルティスは言う。


「良くも悪くも、人が多いわ。そして、差別も強い」

「…………」

「シュムリアが、いかに『魔血の民』にとって暮らし易い土地かって、マールも思い知らされるわよ?」


 そうなの?


 大人たちを見ると、2人も、難しい表情で頷いた。


「正直、我らが好んでいく国ではないの」

「はい」


 ……そうなんだ。


(なんか、不安になっちゃうな)


 でも、アルン神皇国には、僕以外の神の眷属、『神の子』がいるんだし、神武具を手に入れるためにも、どうしても行かないといけない。

 うん、覚悟を決めないと。

 

「マール」


 ふとイルティミナさんが、僕を呼んだ。


「もしもの時は、私たちのそばから離れてくださいね?」

「え?」

「マールは、『魔血の民』ではありませんから、そうすれば、差別は受けな――」


 ピタッ


 言葉の途中で、僕は、イルティミナさんの横に、ぴったり寄り添った。


「マ、マール?」

「…………」


 驚き、赤くなるイルティミナさんの腰に、両手を回してホールドする。

 彼女を見上げる。


「…………」

「…………」


 無言の訴えに、イルティミナさんは、嬉しそうな、困ったような顔をした。


 キルトさんは、楽しそうに笑う。

 ソルティスは、小さな肩を竦めて、「ほんと、お人好し」と呟いていた。


「ごめんなさい、マール」

「ん」


 謝るイルティミナさんに、優しく抱きしめられて、僕は、彼女を許すことにした。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 そのあと、僕らは家を出て、冒険者ギルド『月光の風』を訪れた。

 向かったのは、ギルド5階。


 僕らがアルン神皇国に行くのは、レクリア王女の配慮によって、ギルドを介した依頼の形になる予定だった。だから、一応、ムンパさんにも、先にレクリア王女の話を報告しておこうと思ったのだ。


「あら? キルトちゃんにマール君、イルティミナちゃんにソルティスちゃんも?」


 突然押しかけた僕らに、真っ白な美しい獣人さんは、驚いた顔をする。

 すぐに来客用のソファーに案内される。


 そして、ソファーに座ると、彼女は嬉しそうに笑って、


「ウフフッ……ちょうど、よかったわ」

「え?」

「あのね? 前に、マール君、精霊と交信したいって言っていたでしょう? その方法に詳しい人に、アポイントメントが取れたのよ。今、紹介状を書いて、それをマール君に届けようと思ってたところだったの」


 な、なんだって!?


「本当ですか!?」

「もちろん」


 笑顔で請け負う、ムンパさん。


 や、やったー!


(ついに、この『白銀の手甲』の力を、自由に使える日が来る?)


 あの骸骨王を、倒した力だ。

 これからの戦いにも、きっと役に立つはずだ。


「よかったですね、マール」

「うん!」


 喜ぶ僕に、イルティミナさんも笑っている。


 キルトさんとソルティスも、『へ~』と感心した顔だ。


 そんな僕らを、ムンパさんは優しく眺め、ふと思い出したように聞いてくる。


「そうそう? それで4人は、どうしてここに?」

「あ」


 僕らは、ハッとする。


 それから、改めて、ムンパさんに、レクリア王女がしてくれた世界の危機についてを話してあげた。


 聞き終えたムンパさんは、


「……聞かなかったことにした~い」


 真っ白なたれ耳を、両手で押さえて、ソファーの後ろにうずくまってしまった。


(え~?)


 ソルティスと同じ反応されちゃった。


 フサフサした尻尾も、ムンパさんの足の間に、引っ込んでしまっている。


 唖然とする僕ら。

 キルトさんは、苦笑しながら、ムンパさんを引きずり出して、ソファーに座らせた。


「諦めよ。どうせ、王家から、すぐに連絡が来る」

「……はぁ、そうね」


 ムンパさん、ため息だ。


(な、なんか、悪いことしちゃったかな?)


 申し訳なく思っていると、気づいたムンパさんが、優しく笑う。


「あらあら、ごめんなさいね。ちょっと言ってみたかっただけだから、気にしないで。……キルトちゃんのおかげで、あちこちから無茶な要求されたり、色々と厄介事に巻き込まれるのは、慣れてるから」

「は、はぁ」

「でも、今回の話は、さすがに飛び切りだけれどね」


 頬に手を当てて、ちょっと困った顔のムンパさん。


 でも、すぐにギルド長の顔に戻って、


「わかったわ。じゃあ、アルン神皇国に行けるように、こっちで予定していたキルトちゃんのクエストは、全てキャンセルや調整をしておきます」

「すまんな、頼む」

「フフッ、シュムリア王家には、また1つ貸しだわ」


 ムンパさんは、ちょっと楽しそうに言った。


 それから彼女は、秘書さんを呼んで、それらに関する指示を出し、すぐに僕のための紹介状を書いてくれた。ギルドの紋章のついた封蝋の封筒が、僕へと差し出される。


「ありがとう、ムンパさん」

「ううん」


 彼女は、優しく笑う。


「色々と大変だろうけど、がんばってね、マール君。何か困ったことがあったら、いつでも言ってちょうだい。このギルドは、できる限り、マール君の力になるからね」

「…………。はい」


 僕は、深々と頭を下げる。


 ムンパさんの白い手は、そんな僕の頭を、「よしよし」と優しく撫でてくれた。


 イルティミナさん、自分の右手を押さえて、ちょっと羨ましそうな顔だ。

 ちなみにソルティスは、興味なさそうである。


 そして、キルトさんが、僕の手にある封筒を見ながら、聞いた。


「ところで、ムンパ? その紹介状の相手は、誰じゃ?」

「コロンちゃんよ」

「何!?」


 その名を聞いた途端、キルトさんは、大きく目を見開いた。


 いや、よく見たら、イルティミナさんやソルティスも、とても驚いた顔をしている。


(え? コロンちゃんって、誰?)


 戸惑う僕。


 そんな僕ら4人に、真っ白な獣人さんは、楽しそうに笑った。

 そして、その正体を口にする。


「コロンチュード・レスタ。――シュムリア王国の誇る『金印の魔学者』にして、最強のエルフの魔法使いよ」

ご覧いただき、ありがとうございました。


これまで、ブクマ、感想、評価などを下さった皆様、本当にありがとうございます。また、それ以外でも読んでくださった皆様も、ありがとうございます。

いつも本当に励みになっております!

(ずっと心で思っていたのですが、ちゃんと伝えておきたいなぁ、と、改めて書かせて頂きました。唐突ですみません……)


※次回更新は、来週の月曜日0時以降になります。よろしくお願いします。

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