漫画マール第15話の公開記念SS
こそっ……と投稿。
「はぁ、しんどぉ~」
ソルティスが、ため息をこぼした。
紫色の少しウェーブがかった髪の少女は、けれど今、砂まみれだった。
僕も苦笑する。
「本当にね」
「酷い砂嵐でした」
同意する僕の横で、僕の奥さん――イルティミナさんも頷いている。
僕らも全身、砂だらけ。
少女の横の金髪幼女、ポーちゃんは、
ポンポン
慰めるように相棒の肩を叩いた。
けど、それだけで黄色い砂煙がポワポワと舞う。
そんな僕ら4人に、
「今回は、皆、すまなかったの。わらわの頼みで緊急依頼を引き受けさせてしもうて」
と、謝るキルトさん。
申し訳なさそうに頭を下げるだけで、その銀髪からもサラサラと砂がこぼれた。
実は、僕らは今、ケラ砂漠にいる。
シュムリア王国の西端国境にある砂漠で、アルン神皇国との重要な貿易路の1つとなっている場所なんだ。
だけど今月、そこに『砂漠竜』が出現したのだ。
おかげで、両国の貿易は一時ストップ。
王家と外務大臣から対応を頼まれたキルトさんは、
「すまぬ、手を貸してくれ」
と、僕ら4人に協力を依頼してきたんだ。
もちろん、僕らは快諾。
冒険者ギルドも、僕らに予定されていた依頼を後回しに変更してくれ、休暇中だったソルティス&ポーちゃんも集まってくれた。
で、数日間の旅。
砂上船と呼ばれる砂漠用の船で砂海を走り、砂漠竜を発見。
「やあっ!」
「はっ!」
「むん!」
「とりゃああ!」
「ポオッ!」
と、僕らは戦った。
体長40メードの巨体の竜で、何度も砂に潜るし、砂嵐を巻き起こすしで大変な相手だった。
だけど、こちらは『金印の魔狩人』に『元・金印の魔狩人』、更に『銀印』が3人という魔狩人としては王国最強クラスの戦力だった。
5時間の激闘の果て、見事、勝利したのである。
だけど、代償もあり……それが、全員、『砂まみれ』という訳だった。
…………。
…………。
…………。
砂海の岩山にある宿場町で、僕らは船を降りる。
町の人たちは砂漠竜が倒されたことにお祭り騒ぎで、僕らは歓迎されながら宿に戻り、そして、先の会話となったのだった。
(やれやれ)
歩くだけで、砂が落ちる。
ソルティスなんかは、
「うげ……口の中にも砂が入ってるわ。ジャリジャリするぅ」
と、涙目だ。
宿前で、皆、身体を払う。
ザラザラ
服や装備、髪の中に入り込んだ砂が大量に落ちていく。
でも、それでも、爪の間に入ったり、汗で肌に張りついた砂までは落ち切らない。
イルティミナさんが、僕の髪に触る。
パラパラ
「マールの髪も、真っ白です」
「そう?」
「はい」
「なんか、払っても払っても砂が無限に出てくる感じ」
「ふふっ、そうですね」
僕の言葉に、彼女も苦笑する。
キルトさんも困った顔だ。
ポーちゃんは甲斐甲斐しく、懸命に、相棒の少女の髪や背中などを小さな手ではたいている。
そんな時だ。
宿屋の女将さんが、僕らの方へとやって来る。
(ん?)
5人とも、手を止める。
そんな僕らに、にこやかに、
「皆さん、お疲れ様でした。もしよろしければ、当宿には露天温泉がありますので、そこでお身体を流しませんか?」
と、おっしゃったんだ。
◇◇◇◇◇◇◇
ザパァン
「うはぁ……気持ちいいわぁ♪」
ソルティスは、湯船でご満悦の声をあげた。
露天風呂は貸し切りで、まるでプールみたいに広く、5人で入っても全然余裕があった。
周囲は岩に囲まれ、砂避けの樹木もある。
木々の向こうに、広い広い、地平の果てまで続くケラ砂漠の景色が覗いていた。
(ん~、いいお湯)
僕も、お湯の中で笑う。
今回は、僕1人だけ別だと寂しいだろうと水着着用で5人での混浴だった。
僕の奥さんは、
「別にマールなら、皆、全裸でもいいと思うのですが」
なんて言っていた。
キルトさん、ポーちゃんも構わない感じ。
だけど、
「だ、駄目に決まってるでしょ!」
「そ、そうだよ!」
と、ソルティスと僕は、断固反対。
まぁ……イルティミナさんと2人きりなら考えなくもないけど、他の3人もいるとね。
そんな感じで、5人で入浴中です。
水着は全員、シンプルな白色。
女性用は、ビキニタイプ。
ポーちゃんだけは、ワンピースで……うん、なんかスクール水着っぽい。
男性用は、トランクスタイプだった。
チャポッ
湯船に浸かりながら、イルティミナさんが白い腕を持ち上げ、反対の手でお湯をかける。
何だか色っぽい。
頭の後ろにまとめられた濡れ髪も、大人の女性らしく、また艶やかだ。
彼女は、吐息をこぼし、
「しっとりしたお湯ですね。肌に吸いつきます」
と、微笑んだ。
確かに……。
砂漠にある温泉は、一種、オアシスのようなものだ。
今は砂漠だけど、大昔は植物が生い茂っていた土地だったようで、地下には植物の堆積した地層があるらしい。
そこを通り、地下の温水が地表の岩山に出ているのだ。
キルトさんも笑う。
年齢を重ねても抜群のプロポーションの彼女は、小柄だけど胸も大きい。
そのお胸も、お湯にプカリと浮かんでいる。
そして、その前には、お盆に載せられたお酒の徳利……うん、彼女らしい。
その杯を煽りながら、
「女将も、美肌の湯と言っていたからの」
「そうですか」
「何でも、この温泉に浸かれば、10歳は肌が若返るらしいぞ」
「まぁ……」
イルティミナさんは、軽く驚く。
チラッ
夫の僕を見る。
(ん?)
視線を向けられ、僕はキョトン。
僕の奥さんは、
「私の方が年上ですし、マールのためにも若々しさは保たねばなりませんね」
「…………」
僕は、目を瞬いた。
(いや……今でも普通に若々しいし、美人さんだけど?)
と、突っ込みたい。
キルトさんも「そうか」と笑う。
と、そんな姉と年上の友人に、
「アタシは別に、美肌とかどうでもいいけどね~」
と、ソルティス。
特に考えもなく、気軽に言ったのだろう。
でも、その瞬間、
ゾクッ
温泉に入っているのに、なぜか寒気がした。
見れば、年上のお姉さん組2人が笑顔のまま、1番若い少女を見つめていた。
(…………)
まずいです。
2人は、
「まぁ、そうですか」
「ふふっ、若い内はそうじゃの。じゃが、あと数年もすればわかるじゃろうて」
「ええ、そうですね」
「うむ、そうじゃ」
「うふふっ」
「はははっ」
と、そんな会話。
内容は普通なのに、なぜか怖い。
というか、キルトさんも、お肌を気にする微妙なお年頃なのか。
(全然、美人なのにね)
僕個人としては、あの鬼姫様は年を取らないんじゃないかと疑っているぐらいだ。
いや、出会った時より、若々しい気もする。
イルティミナさんの方は、より大人っぽく、魅惑的な女性になったように思う。
最近は特に、色気も凄い。
僕は夫だけど、でも、いつも魅了されている。
ソルティスは、
「? ……何か寒いわね」
と、何も気づかずに不思議そうな顔をしている。
つ、強い……。
鈍感なのは、ある意味、最強かもしれない。
そんな彼女も今は、少女から大人の女へと成長している途中の雰囲気で、幼さと色気が交差している感じ。
成長の遅い僕には、少し羨ましいような……寂しいような……。
その時、ふとポーちゃんと目が合う。
僕と同じく成長の遅い、永遠の幼女。
(……うん)
なんか、ほっこり安心感。
その間にも、3人の女性の会話は続く。
「しかし、ソルティスの肌は本当に綺麗ですね。若さというのは……全く羨ましい限りです」
「本当にのぅ。髪も艶々じゃ」
「何言ってんのよ? 2人の方が綺麗じゃない」
「まぁ……そうですか?」
「わらわたちのは、努力の結果じゃよ」
ワイワイ
何だか3人で、お互いの肌や髪を触りっこしてる。
う~ん、やっぱり仲良し。
それに、美女、美少女が仲良く戯れている光景は、何だか目と心の保養になるよね。
僕は、のんびり眺める。
そんな仲良し姉妹の姉が、妹に、
「ソルも今から手入れをしておくと、後年助かりますよ」
「はいはい」
「もう……やはり今は実感もないので、無理ですか」
「いや、っていうか、こんだけ美人のイルナ姉が言っても説得力ないのよね。何でずっと綺麗なのよ、ってさ」
「だから、それは日頃の手入れが――」
「違うでしょ」
「え?」
「イルナ姉の場合、もっと別の理由でしょ」
妹は断言する。
(え?)
銀髪の美女も、不思議そうにソルティスを見る。
僕の奥さんも、目を丸くしている。
そんな姉に、
「イルナ姉の場合、マールにずぅっと恋してるからでしょ」
と、妹は言った。
イルティミナさんは驚いた顔。
そして、3人が僕を見る。
ドキッ
なぜか、僕の方が緊張する。
キルトさんも「ふむ」と頷き、
「そうかもの」
「でしょ?」
「まぁ、2人とも……」
「あれじゃな、女にとって1番の美容は『惚れた男への恋心』という訳じゃな」
「そうそう」
頷き合う2人。
なぜか離れているポーちゃんも『うんうん』頷いている。
イルティミナさんも、また僕を見る。
視線が合う。
「…………」
「…………」
お互い、ほんのり顔が赤くなった。
ソルティスが「ほらね」と言う。
肩を軽く竦め、
「古今東西、やっぱ、恋する乙女は最強なのよ♪」
と、笑った。
…………。
そんな風に、僕ら5人は、ケラ砂漠での温泉での一時を楽しんだんだ。
ご覧頂き、ありがとうございました。
久しぶりのマールの投稿でしたが、少しでも楽しんで頂けたのでしたら幸いです♪
またタイトルにもある通り、本日、マールのコミカライズ第15話が公開されました。今回は、マールとイルティミナの2人が、メディスの街を散策デートするお話となっております。
漫画のURLはこちら
https://firecross.jp/ebook/series/525
今話も無料ですので、どうかお気軽にご覧下さいね。
また、もう1つ、個人的宣伝ですが。
現在、マールは休載中ですが、実は新作『女勇者を拾った村人の少年 ~記憶のないお姉さんと、僕は田舎の村で一緒に暮らしています。~』を連載中です。
またまたお姉さんものですが、もしご興味ありましたら、どうか読んでやって下さいね。
新作のURLはこちら
https://ncode.syosetu.com/n6460jt/
こちらも、よろしくお願いします~!




