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【書籍化&コミカライズ!】少年マールの転生冒険記 ~優しいお姉さん冒険者が、僕を守ってくれます!~  作者: 月ノ宮マクラ


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743・クオリナの助言

第743話になります。

よろしくお願いします。

「今回のクエストは中止、ですか」


 僕の奥さんの口から、そう驚きの呟きがこぼれた。


 それは、イルティミナさんに必死の弁明をした翌日である。


 本日も、以前から予定されていたクエストを受注するため、僕ら夫婦は冒険者ギルドを訪れた。


 だけど、受付嬢さんに伝えられたのはまさかの『クエスト中止』だったんだ。


 どうも討伐対象の魔物が、他の地域に移動してしまったらしい。


 依頼者は元の地域の領主だったんだけど、魔物が他領に移ったことで依頼主がその移動先の地域の領主に変更になるそうな。


 そのため、クエストは中止。


 魔物の移動先の把握、報酬の調整などなど、少し時間が必要になったとのこと。


 後日、改めて、新しい依頼となるそうだ。


 おかげで、次の予定されていたクエストまで15日ほど、空白期間が生まれてしまった。


「本当に申し訳ありません」


 受付嬢さんは深く頭を下げて謝罪する。


 僕は慌てて、


「あ、いえいえ、大丈夫ですよ」


 と微笑み、頭を上げさせた。


 別に彼女が悪い訳でもない。


 そもそも魔物の生態を僕らが管理できる訳でもないんだし、そんな事情ならしょうがないじゃないか。


 イルティミナさんも吐息をこぼして、


「まぁ、臨時の休みがもらえたと思いましょうか?」


「うん、そうだね」


 苦笑する僕の奥さんに、僕も笑った。


 そんな僕らに、事情を説明してくれた受付嬢さんは改めて深く頭を下げてくれたんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 そのあと、僕ら夫婦は冒険者ギルド2階のレストランで、少し早い昼食を食べることにした。


 午前中だからか、席も空いている。


 適当に軽食を注文して、予定外の休暇に何をしようかなんて話し合った。


 基本は家でゴロゴロ、たまに買い物デート、気が向いたら、近くの町の温泉施設まで3泊4日ぐらいで出かけてもいいかもしれない。


 時間が合えば、キルトさんやソルティス、ポーちゃんと食事もしたいな。


「ふふっ、いいですね」


 僕の考えに、イルティミナさんも笑顔で頷いてくれる。


 やがて、注文した料理が届いて、一緒に食べた。


 うん、美味しい。


 談笑しながら食事をして、やがて、食後のアイスココアを飲む。


 冷たくて甘い。


 その心地好さに息を吐き、ふと、そう言えば昨日も同じアイスココアを飲んでいたことを思い出した。


 同時に、あの3人の若い女冒険者の顔も浮かぶ。


 そして、僕の奥さんの氷の微笑も。


「…………」


「? どうしましたか、マール?」


「あ、う、ううん」


 僕は慌てて首を振り、「何でもないよ!」と伝えた。 


 そんな僕の顔を、彼女は見つめる。


 少しジト目になり、


「もしかして……昨日の若い女たちのことを思い出していませんか?」


 ビクッ


 なぜわかる!?


 いや、それはイルティミナさんだからだ。


 彼女はなぜか僕の表情から、必死に隠している僕の考えまで見抜けてしまうのだ。


 凄いよね?


(さすが、イルティミナさん)


 何でもできるお姉さんだ。


 と、僕は冷や汗を流しながら必死に表情を取り繕いつつ……あ、そうだ。


「あの、僕、ちょっとお手洗いに行ってくるね」


 と、席を立つ。


 ほ、ほら、アイスココアをいっぱい飲んだからね?


「そうですか」


 僕の奥さんの視線が冷たい。


 あはは……。


 という訳で、僕は彼女の気持ちが落ち着くまで、緊急避難的にトイレに向かったのだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



(ふぅ……)


 すっきりした僕は、手を洗ってトイレを出る。


 少し時間を空けたので、イルティミナさんももう忘れてくれてるかなぁ……なんて淡い期待を持ちながら、彼女の待つ席に向かった。


 自分たちのテーブル席が見え、


(おや?)


 そこにはイルティミナさんだけでなく、彼女の隣の席に座っている女性の姿もあった。


 赤毛の獣人さん――クオリナ・ファッセさんだ。


 現在23歳のギルド職員さん。 


 綺麗な赤毛の髪をポニーテールにしていて、そこからピンとした犬耳が生えている。


 柔らかそうな尻尾は、クルンと丸まっていた。


 笑顔が素敵な元気なお姉さんで、僕とは6年来の付き合いだ。


 僕が冒険者登録する時や、昇印の時にも担当をしてくれた人なんだ。


 昔は冒険者だったんだけど、怪我で引退して今はギルド職員になっている。


 だからその右足は、後遺症のせいで動きが悪く、歩き方は少しぎこちない。


 そんなクオリナさんは、冒険者時代からイルティミナさんとは知り合いだ。


 なので、実は僕よりもずっと付き合いが長かったりする。


 多分、休憩中、イルティミナさんを見かけて声をかけたのかな? 


 イルティミナさんは『孤高の人』の印象がある。


 そのせいか、あまり他の冒険者に声をかけられることもないので、クオリナさんと話しているのがなんか嬉しい。


(どんな話、してるのかな?)


 と思いながら、そちらに足を踏み出して、


「――イルナさん、知らないかもだけど、マール君って意外と人気あるんだよ?」


(……はい?)


 僕の足に、急制動がかかった。


 自分が話題になっていると知った僕は、思わず近くの柱の陰に身を隠してしまう。


 幸い2人は話に夢中で、まだ僕に気づいていない。


 ソッと聞き耳を立てる。


 イルティミナさんは少し驚いた顔だ。


「そうなのですか?」


「そうだよ。イルナさんがお城に行ってる間、マール君1人で、よくギルドでお留守番してるでしょ?」


「はい」


「その時のマール君って、初めて依頼に来て戸惑ってる人を受付に案内してくれたり、職員や冒険者の落とし物を拾ってあげたりしててね。依頼人が連れてる子供の相手をしてくれることもあるんだよ」


 ああ……うん。


 そう言えば、そんなこともあったっけ。


 僕の奥さんは、目を丸くして、 


「まぁ……それはマールらしいですね」


「でしょ? でも、それだけじゃなくて、新人冒険者が売店で荷物選びに迷ってると色々教えてあげたり、ベテラン冒険者が彼に声かけて、魔物の討伐方法の助言とかもらったりすることもあるんだよ」


「助言を……? マールがですか?」


「そうだよ」


 クオリナさんは、ポニーテールを揺らして大きく頷いた。


 顔の前に人差し指を立て、


「忘れてるかもしれないけど、マール君は『銀印の魔狩人』なんだよ?」


 と、僕の奥さんに言った。


 冒険者の最高峰の称号は、当然、『金印の冒険者』。


 だけど、それは王国で3人だけで、一般的な冒険者の最高ランクは『銀印』になる。


 実は僕は、その『銀印の魔狩人』だ。


 なので、他の冒険者たちから一目置かれる立場だったりする。


 いや、自分でも意外なんだけどね?


 ただ、イルティミナさんは僕が『ただの子供』だった時からずっと見てるから、あまり実感ないのかもしれない。


 でも、クオリナさんは客観的で、


「わかってる、イルナさん? マール君はまだ10代の若さで『銀印』、人望もあって本人の性格も謙虚でいい子……そんなの、モテるに決まってるじゃない」


「…………」


 断言されて、イルティミナさんは沈黙である。


 少々、顔色が悪い。


 ゴクリ


 唾を飲み込んで、


「で、ですが、あの子は私の夫ですよ?」


「……あのね、イルナさん? 私は2人が愛し合ってること、よく知ってるよ。でも、よく知らない人たちからどう見えるか、自覚してる?」


「……自覚」


「大人っぽいイルナさん、子供っぽいマール君。並ぶと、やっぱり身長差あるよね?」


「…………」


「2人の年齢も、それなりに離れてるし」


「…………」


「ぶっちゃけ『金印』の立場を使って、若い燕を囲ってる印象になるんだよ。だから、よく知らない人たちは余計にワンチャンあるって感じちゃうの」


「ワ、ワンチャン……」


 青い顔色のイルティミナさんは、声を震わせた。


 クオリナさんは、嘆息する。


 それから神妙な顔で、僕の奥さんを見て、


「はっきり言えば、マール君の第2夫人の座、狙ってる女の人、多いと思うよ?」


「!!!?」


 ガガァン


 年下の友人の言葉に、イルティミナさんはまるで雷に撃たれたように愕然となっていた。


 いや、僕もびっくり。


 シュムリア王国では、王侯貴族や豪商だと一夫多妻もあったりする。


 ただ、一般国民では珍しい。


 価値観的にも一夫一妻が尊重され、それが常識とされていた。


 だけど法律的には、一夫多妻、もしくは一妻多夫でも問題はなく『銀印』の社会的立場なら辛うじて複数の伴侶がいても受け入れられる感じかもしれない。


 その現実を突きつけられ、僕の奥さんは呆然だ。


「まさか……そんな」


「…………」


「いえ、私のマールに限ってそんな私以外の女など……ええ、あり得ません!」


「うん、だよね」


 クオリナさんは、頷いた。


 それに僕の奥さんはパァッと表情を輝かせた。


 でも、赤毛の獣人さんは、そんな年上の友人の顔をジ~ッと見つめる。


 そして、言う。


「でも、マール君、若いし、一応、男だし?」


「…………」


「気の迷いとか、優しいから情に絆されてとか、あり得なくはないかもしれないよ。――それにさ?」


「そ、それに……?」


「聞いたけど、昨日、マール君、イルナさんに公衆の面前で凄く詰められたんでしょ? 目撃情報、結構、あるよ?」


「!!!」


「大丈夫? マール君、実は傷ついてるかもよ? 他の女の人とただ話をしただけなのにって」


「…………」


「平気な顔してても、実は彼の心の奥で少しずつ不満が積み重なってて、ある日、突然、別れ話が……とか」


「っっっ」


 ガクガク ブルブル


 クオリナさんの言葉が続く内に、イルティミナさんの全身が細かく震えだして、まるでこの世の終わりみたいな表情になっていた。


(いやいやいや……)


 昨日のあれは、やっぱり僕が悪いし。


 嫉妬されるのも、ちょっと嬉しいし。


 だから別に、イルティミナさんを嫌いになるとか、別れ話とか、絶対にないんだけれど。


 でも、僕の奥さんは、結構、真に受けてる様子。


 クオリナさんも気づいて、


「まぁ、マール君に限って、それはないかな?」


「…………」


「でも、その優しさに安心して、あまりマール君に厳しくし過ぎちゃ駄目だよ、イルナさん。いつだってマール君にとって、自分が1番魅力的な女なんだって思わせなきゃ」


「……と言われても、実際にどうすれば?」


「ん~、やっぱり年上の包容力で甘やかせてあげればいいんじゃない?」


「年上の包容力……」


「だって、マール君って、やっぱりイルナさんの大人な魅力に惹かれて結婚したと思うから」


 赤毛のお姉さんは、そう笑った。


(う、う~ん)


 その点は否定できない。 


 イルティミナさんは本当に大人な美女で、優しく素敵なお姉さんだ。


 僕は、そんな彼女と結婚できて、凄く嬉しく思っている。


 だから、イルティミナさんは、僕にとって当たり前にクオリナさんの言う『1番魅力的な女』として不動の存在なんだけどなぁ。


 でも、彼女本人には伝わってなかったのかな?


(…………)


 見れば、僕の奥さんは真剣に考え込んでいる。 


 クオリナさんは、言う。


「ごめんね、色々言って」


「…………」


「でも私は、イルナさんとマール君を応援してるから、ずっと仲良しでいて欲しいんだよね。だから、ちょっとだけ思ったことを伝えてみました」


「……クー」


「モテる旦那さんがいて大変だと思うけど、がんばってね、イルナさん」


「はい、ありがとう、クー」


 両手を握って言う年下の友人に、僕の奥さんもようやく微笑んだ。


 そして、クオリナさんは「おっと、そろそろ休憩終わりの時間だ」と言うと、イルティミナさんと別れの挨拶をしてレストランを去っていった。


 彼女を見送ったあと、


「…………」


 イルティミナさんは、また何かを考え込む顔をしていた。


(えっと……そろそろ、戻ってもいいかな?)


 僕は、柱の影から出る。


 何気ない風を装って、


「ただいま。お待たせ、イルティミナさん」


「!」


 ビクン


 声をかけた瞬間、彼女は面白いぐらいに身体を跳ねさせた。


「あ、お、おかえりなさい、マール」


「うん。遅くなってごめんね」


「いいえ」


「えっと、このあと、どうしようか?」


「…………」


 彼女は、すぐに答えなかった。


(???)


 イルティミナさん?


 自分の奥さんの顔を、僕は覗き込む。


 すると彼女は、どこか思い詰めた表情のまま、キッと僕を睨むように見つめた。


 思わずビクッと、僕の背筋が伸びてしまう。


 そして、僕の奥さんは言う。


「い、家に帰りましょう」


「家に」


「は、はい。……嫌ですか?」


「え、ううん、いいよ全然」


 僕はプルプルと首を横に振った。


 僕としては、イルティミナさんと一緒にいられるならどこでも構わないのだ。


 彼女はホッと「そうですか」と息を吐く。


「で、では、行きましょう」


「あ、うん」


 僕ら夫婦は席を立ち、レストランの会計を済ませた。


 そのまま歩きだし、


 ギュッ


(わ……っ?)


 いつもは手を繋ぐぐらいなのに、今日は腕を組まれてしまった。


 二の腕に、


 ムニュン


 彼女の大きく実った豊満なお胸が押しつけられ、僕の腕で魅惑的に潰れている。


 うわぁ……。


 ドキドキ


 その感触の心地良さに、鼓動が速くなった。


 何だか頬が熱い。


 見上げれば、イルティミナさんの白い美貌も今は朱が差していて、いつも落ち着いた美貌には羞恥の色が滲んでいた。


(うはぁ、可愛い……)


 思わず、見惚れちゃった。


 もっと恥ずかしいこともしてるのに、どうして腕を組んだだけでドキドキするんだろう?


 ずっと一緒にいるのに、どうしてその魅力に慣れないんだろう?


 本当に不思議。


 そんな僕に、彼女は恥ずかしさを堪えながらニコッとはにかみ、


「ん……さ、さぁ、帰りましょう」


「う、うん」


 赤い顔のまま、僕も頷いた。 


 僕の奥さんは恥ずかしそうに、でも僕の腕に自分の胸を押しつけながら歩く。


(ク、クオリナさん効果、凄いや……)


 イルティミナさんの大人な肉体の感触にクラクラしながら、僕らは冒険者ギルドをあとにする。


 やがて、密着したまま何とか自宅まで帰ったんだ。

ご覧頂き、ありがとうございました。


次回更新は今週の金曜日を予定しています。どうぞよろしくお願いします。



また10日より、マールのコミカライズ第12話も公開中です。


今回から、あのキルトとソルティスの2人もコミカライズの世界に本格的に登場しております。


まだ読んでない方がいらっしゃいましたら、どうぞ2人の活躍をご覧になってやって下さいね。


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今話も無料公開ですので、ぜひお気軽にお楽しみを♪




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