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【書籍化&コミカライズ!】少年マールの転生冒険記 ~優しいお姉さん冒険者が、僕を守ってくれます!~  作者: 月ノ宮マクラ


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742・先輩マール

第742話になります。

よろしくお願いします。

 突然、現れた3人の女冒険者。


 僕は青い目を瞬かせ、誰だっけ……と小首をかしげてしまう。


 その反応で気づいたらしく、


「あ、ご、ごめんなさい」


「お、覚えてないですよね……」


「そ、そっかぁ」


 彼女たちはあからさまに気落ちした様子で肩を落とした。


 う……こっちこそ、なんかごめんなさい。


 僕も申し訳なくなりながら、必死に記憶を探る。


 彼女たちは3人とも15歳ぐらい、成人したかしてないかぐらいの年齢で、僕よりも若そうだった。


 外見的には、まぁ、成長の遅い僕と同じぐらい……かな。


 装備は、うん、初心者向け。


 冒険者になって、まだそんなに経っていないかなぁって感じだった。


 あと、2人は人間。


 1人は犬のピンとした耳と丸まった尻尾をした獣人だ。


(…………)


 う、う~ん?


 どうしても思い出せない。


 困っていると彼女たちは苦笑して、獣人の子が言った。


「覚えてないです? ほら、ウチら、2週間前にマールさんに回復魔法をしてもらった新人で」


「え……あ!?」


 言われて、ハッとした。


 そっか、そうだ。


 実は先日、僕とイルティミナさんはちょっとした用事で冒険者ギルドを訪れたんだ。


 ギルド1階はクエスト受付の場所なので、必然、たくさんの冒険者が集まるんだけど、その冒険者たちの中には怪我をしてる人も結構いるんだ。


 特に、クエスト後とかで。


 実は、ギルドには有料で回復魔法をかけてもらえる施設もある。


 ちなみに、対象は所属冒険者のみだけど。


 で、大抵は、みんな、そこで治療する。


 その時、僕が見かけた彼女たちも怪我をしていて、でも、3人とも治療を受けないまま1階フロアにたむろしていたんだ。 


 それで僕、気になって声をかけたんだよ。


 そうしたら、


「お、お金がなくて……」


 とのこと。


 新人にはよくあるんだけど、装備を揃えたり、王都で新しい生活を始めたばかりで金欠の人は、結構、多いんだ。


 彼女たちもそうだったらしい。


 新人の受ける初級クエストは報酬も少ない。


 田舎から出てきた人の場合、王都は物価も家賃も高くて、ほぼ生活費に消えてしまう。


 彼女たちも、今回の報酬は生活費と家賃で消えてしまうとのこと。


 落ち込んだ様子で、


「無傷でクエスト達成できると思ったんですけど、今回は思った以上に、巣穴のゴブリンの数が多くて……」


 と、教えてくれた。


 熟練冒険者のイルティミナさんは、呆れた様子だった。


 冒険者の仕事は、命懸け。


 だからこそ、慎重に、計画的にクエストに挑まなければならない。


 そんな危険なクエストを無傷前提に、日々の生活費を得られる計算なんて論外であり、そんな彼女たちの甘さに呆れてしまったのだ。


 でも、僕は少しだけ3人の気持ちもわかる。


 生きるって大変だ。


 でも、憧れの冒険者になれたんだから、生活が苦しくても続けたいよね。


 だから無茶な計画だけど、そうしたかったんだ。


 3人の怪我を見る。 


 打ち身、斬り傷がほとんどで、薬と包帯で放置しても1ヶ月で治ると思う。


 でも、1人だけ、左手首が紫色に腫れあがっていた。


(骨折してる……かも?)


 僕は医者じゃないので、はっきりとはわからない。


 彼女は心配する仲間2人に「大丈夫、大丈夫!」と、無理をした様子で気丈に笑っていた。


 僕は、少し考える。


 治療費を渡してもいいけど、ここには他にも怪我をしている冒険者がいて、彼女たち3人だけに渡すのは不公平だ。


 特に、僕の奥さんは『金印の冒険者』。


 公の目は常になるので、行動には気をつけなければならない。


 と、なると、


(うん)


 僕は頷いた。


「じゃあ、僕が回復魔法をかけてあげる」


「え?」


「初級しか使えないから、ほんの少し症状を和らげるぐらいだけどないよりマシだと思うから。――どう?」


「い、いいんですか?」


「うん」


「お、お願いします!」


 骨折してる子より、他2人の方がそう強く言った。


 それに、僕は笑った。


 うん、この先の成長が楽しみなパーティーだ。


 そして僕は、彼女に回復魔法をかけてあげた。


 完治できるほどの魔法ではないし、きっと他の冒険者たちにもそこまで不公平だとは見られないだろう……多分だけど。


 骨折の腫れは、少しだけ引いた。


 痛みも大分和らいだみたいで、その子の表情も柔らかくなっていた。 


 あとで考えたら、熱も出てたのかもしれない。


「あとは安静にね」


「は、はい!」


「ありがとうございました!」


「このご恩は忘れません!」


 伝える僕に、彼女たち3人は大袈裟なほどペコペコ頭を下げて、その後、家へと帰っていった。


 僕ら夫婦は、それを見送る。


 僕の奥さんは、


「マールは、本当に優しい子ですね」


「え?」


「あの子たちも貴方に出会えて、運が良かったのでしょう。私も出会った時、その優しさに命を救われましたから」


「…………」


 見上げる僕に微笑み、その白い手で髪を撫でてくれたんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 そっか、あの3人だったんだ。


 僕の表情の変化でわかったのだろう、彼女たちも嬉しそうだった。


 僕も笑って、


「あの時の怪我、どう?」


「はい、もう大丈夫です!」


 骨折してた女の子は、元気に答えて、その左腕をグルンと回してくれた。


 動きも違和感なく、変な後遺症もなさそうだ。


(うん、よかった)


 僕も安堵する。


 あれから3人は僕の回復魔法もあって動ける状態になったので、比較的安全な薬草採取や町中の清掃などのクエストでお金を稼ぎ、その後、施設での治療も受けたそうだ。


 骨折も完治。


 担当した回復魔法使いの話だと、放置してたら骨が変に歪んでいたかもしれなかったとのこと。


 下手をしたら、冒険者業どころか日常生活にも影響があったかもしれなかったらしく、初期治療の回復魔法がとてもよかった、と言われたそうだ。


(そうだったんだ……)


 それには僕も驚きだ。


「だから、本当に本当にありがとうございました!」


「た!」


「です!」


 3人はそう揃って僕に頭を下げた。


(あはは)


 少し恥ずかしいな。


 でも、ギルドの後輩の役に立てたのならよかったよ、うん。


 ちなみに彼女たちは、その後、他の冒険者たちから僕があの『金印の魔狩人イルティミナ・ウォン』の夫のマール・ウォンだと教えられたらしい。


 だから、僕の名前、知ってたのか。


 というか、個人情報……。


 ま、この世界は、その辺、緩いよね。


 ともあれ、そんな訳で彼女たちはずっと僕にお礼を言いたいと探していたらしく、本日、僕は無事に発見されたということらしかった。


(そっか、そっか)


 いい子たちだね。


 心が温かくなった僕も「わざわざありがとう」とお礼を言い返した。


 それに彼女たちも嬉しそう。


 そのあと、僕は3人とテーブルを同席して、しばし談笑した。


 先輩冒険者として、クエストでの心構えや、これまでのクエストの話など、聞かれるままに答えたりした。


 彼女たちは驚いたり感心したり、とても良い反応をしてくれた。


 うんうん、先輩冥利に尽きる。


 見た目もあって、普段、先輩扱いしてくれる人なんていないから、なんか嬉しかった。


 それから30分ほどして、


「あ、ごめんなさい、長話しちゃって」


 と、1人がハッとした。


 他の2人も気づいた顔をして、


「いけない。ウチら、明日もクエストがあるんで、そろそろ帰らないと」


「え~、もうちょっとぉ」


「駄目よ、ほら、マールさんにも迷惑になるから!」


「先輩、またです」


「この間も今日も、本当にありがとうございました!」


「た!」


「です!」


 元気娘な3人は席を立つと、深々頭を下げてくれた。


 僕は「ううん」と笑う。


「気をつけて帰ってね。それと明日のクエスト、がんばって!」


「はい!」


「うっす!」


「がんばります!」


 彼女たちも笑顔を輝かせ、そして、会計を済ませるとレストランを去っていった。


(……うん)


 新人らしくていいな。


 何だか懐かしいような、昔の新鮮な気持ちを思い出してしまった。


 ついつい、笑顔で見送ってしまう。


 と、その時だ。


 何だか背中側から、ふと冷たい風が吹きつけてきた気がした。


(ん……?)


 何だろう?


 そう思いながら、振り返る。


 すると、視線の先、レストランの別の出入り口付近に立っている僕の奥さんの姿があった。


 あ……と喜び、でも、今さっきまでの自分を思い出す。


(……あれ?)


 3人の女の子と談笑していた自分。


 それって、傍目から見たらどう映るだろう?


 まして、自分が神経をすり減らすような貴族社会の荒波にもまれている最中、自分の夫が他の見知らぬ若い女の子たちと一緒にいたとしたら……?


 …………。


 …………。


 …………。


 あ、駄目だ、これ。


 ギルティ。


 有罪です。


 自分のしでかしたことに気づいて、僕の顔色は真っ青になった。


 そんな僕の方へと、僕の奥さんはその美貌にとても綺麗な微笑みを貼り付けながら、静かに歩いてきた。


 ヒュオオ


 周囲の温度が下がる。


 レストランにいた他の客たちは不思議そうに肌を擦り、身体を震わせる。


 僕の奥さんの存在に気づいた何人かは、まるで強大な魔物に出会った者のように息を潜め、震えながら気配を殺していた。


 コツ コツ


 美しい足音が響く。


 僕は硬直して、動けない。


 コツン


 足音が止まり、僕の奥さんはすぐ目の前で止まった。


 氷の笑顔のまま。


 でも、その真紅の瞳はまるで笑っていなくて。


 と、その唇が開き、


「ふふっ、マール、ただいま帰りました……が、さて? 今の若い女たちは誰なのか、早速ですが、その説明をしてもらわないといけませんね?」


「…………」


 ガクガク ブルブル


 久しぶりの大失敗に、僕は涙目だ。


 そこから2時間、僕は必死の弁明をすることになる。


 …………。


 結局、我が家に帰れたのは、深夜の時刻でした。

ご覧頂き、ありがとうございました。


次回更新は来週の月曜日を予定しています。どうぞよろしくお願いします。



また10日に、マールのコミカライズ第12話が公開されました。


今回から、なんとキルトとソルティスの2人もコミカライズの世界に本格的に登場しています!


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今話も無料公開してますので、どうぞお気軽にお楽しみ下さい♪




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