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729・月光の風のギルド長

第729話になります。

よろしくお願いします。

「ムンパ! マール!」


「マール、無事ですか!?」


 1時間もすると、捜索隊の冒険者10人ほどを引き連れて、キルトさんとイルティミナさんが来てくれた。


 300メード以上の高さの転落事故。


 きっと生きていないと思われていたのか、2人以外の冒険者たちは無事な僕と真っ白な獣人さんの姿に驚いた顔をしていた。


 更に言うと、周囲には襲撃犯の死体もある。


 そちらには、イルティミナさん、キルトさんの2人も驚き、すぐに察して険しい顔をしていたけれど。


 ともあれ、


「うん、無事だよ」


「ふふっ、マール君のおかげでね」


 と、僕らは笑った。


 キルトさんは「そうか」と息を吐き、ムンパさんに微笑む。


 そして、イルティミナさんは、僕のことを強く胸に抱きしめて泣きそうな表情になっていた。


「あぁ、マール、ごめんなさい、ごめんなさい。まさか、私がそばにいない間にこんなことになるなんて……本当に無事でよかった。本当によくがんばりましたね」


「イ、イルティミナさん……」


 ギュウ


 お、お胸の弾力が柔らかい。


 そして、こんな姿を他の冒険者の目もある中で晒すのは、少々恥ずかしい。


 だけど、


(心配かけちゃったな……)


 そう思うので、僕は彼女の気の済むようにさせることにする。


 もちろん心配されて嬉しかったし、愛されているんだなと感じられて心地好かったんだけどね……。


 ギュッ


 だから僕も、さりげなく彼女を抱きしめ返したんだ。


 それから僕らは捜索隊の人たちにもお礼を伝え、その後、彼らの力も借りて襲撃犯の遺体を回収、捕縛した1人も連行して冒険者ギルド団と合流を果たした。


 僕らの生存に多くの人が驚いた。


 奇跡だ、神の加護だと騒ぐ人もいた。


 また2人とも生き残ったのは僕の魔法のおかげだったとなり、『月光の風の冒険者は大したものだ』と感心したような目で見られたりもした。


 でも、そんな中、舌打ちした人、青い顔をしている人もいた。


(…………)


 多分、暗殺計画の関係者だろう。


 顔、覚えたぞ?


 キルトさん、イルティミナさんも気づいて、少し怖い顔をしていた。


 でも、当のムンパさんは、


「あらあら?」


 と、頬に手を当てて、いつもみたいに笑っていた。


 う、う~ん?


 柔らかな微笑みのまま、襲撃犯にも対応していたし、何だか彼女の笑顔を少し怖く感じる僕でした。


 …………。


 ともあれ、その後は各ギルド長にも事情説明。


 ムンパさん、キルトさんの口から暗殺計画の可能性やレクリア王女も介入している事実を伝えられて、皆様、かなり驚いている様子だった。


 ただ詳しい捜査は下山後、王都に帰ってからという話。


 すぐに冒険者ギルド団の移動が再開される。


 ちなみに僕らの竜車は壊れてしまったけれど、『黒鉄の指』から竜車を1台、厚意で貸してもらえることになり、それに乗って下山することができたんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



「今日はありがとね、マール君」


 ムンパさんは、そう微笑んだ。


 その日の夜、各冒険者ギルド連名で予約していた大型の宿屋で、僕ら夫婦とキルトさん、ムンパさんは1つの部屋に集まって、今日の話をしていた。


 ギルド長の感謝に、僕は「いいえ」と首を振る。


「僕こそ助かりました。ムンパさんがいなかったら、あの10人の襲撃犯に僕は負けてたかもしれないから」


 そう正直に答えた。


 ちなみに、答える僕のことをイルティミナさんは背後からずっと抱きしめている。


(……うん)


 まぁ、今日のことがショックだったんだろうね。


 竜車の中でもずっとそばにいたし、とにかく僕の存在を確かめたがっている感じなんだ。


 引き離すのも可哀相なので、好きにさせてる。


 僕も温かくて気持ちいいし……えへ。


 ムンパさんは笑っているし、キルトさんも呆れつつも受け入れて、現状もそのまま会話をしてる形なんだ。  


 ともあれ、僕の答えに「あらあら?」とムンパさんは驚いた顔。


 すぐに困ったように笑って、


「何だか、はしたない姿を見せてしまったわね」


 なんて恥ずかしそうに言う。


 はしたない……と言うのだろうか、あれ?


 少し悩む。 


 けど、ムンパさんは本当に凄かった。


 ナイフ投げの技術、クロスボウの実力、それもあるけど、それ以上に場の掌握力が素晴らしかった。


 まず、敵の意識を僕に集中。


 そして意識外からの攻撃で敵を混乱させ、更には隠した武器で倒す。


 だけでなく、混乱させたまま、相手の感情をコントロールして攻撃を単調化させ、つまりは弱体化もしてみせた。


(なんて言うか……僕も含めて全員、手のひらで転がされてた?)


 そんな感じなんだ。

 

 僕の感想に、


「それほどですか?」


 と、僕を抱きしめるイルティミナさんも驚いた様子だった。


 ムンパさんは「恥ずかしいわ」と赤面。


 そして幼馴染のキルトさんは苦笑して、


「当然じゃ。こう見えて、ムンパは『鬼王団』時代に軍師や参謀的な立場じゃったからの」


 と、言った。


(へぇ、そうなの?)


 僕らは驚く。


「こやつは昔から頭が切れた」


「…………」


「鬼王団として、自分たちより戦力の高い相手と戦ったことも多いし、ギルド長になる前も冒険者として前線にいた経験があるしの。まぁ、当然の結果じゃ」


 キルトさんは、そう笑った。


 友人の暴露に、ムンパさんは「もう」と怒った真似をする。


 でも、そっか。


 言われたら確かに。


 ムンパさんは若い頃から厳しい経験をしてたんだ。


 ギルド長になって前線で身体を張って戦うことはなくなったけれど、偉い人たちとの交渉などで頭を使う戦いはずっと続いていたとも思う。


 そう考えたら、襲撃犯を手玉に取るなんて簡単なのかもしれない。 


 僕は、彼女を見る。


 真っ白な獣人さんは、美しく、そして穏やかに微笑んでいる。


(…………)


 裏方だから、あまり意識しなかった。


 でも、彼女もキルトさんの認める人物で、ある種、戦いの場が違うだけで実はキルトさんと同じような傑物なのかもしれない。


 僅か20年で王国トップクラスになりあがった冒険者ギルドの長。


 うん……凄い人なんだ、やっぱり。


 と、僕の視線に気づく。


「あらあら、なぁに?」


 向けられる尊敬の眼差しに、そんな真っ白な獣人のお姉さんは、頬に手を当ててくすぐったそうに顔を赤らめていた。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 窓の外には、紅白の月が美しく輝いている。


 その月光が差し込む部屋の中で、僕ら4人はテーブルを囲んでお茶を飲みながら――キルトさんはお酒だけど――今日の話もした。


 山道での渋滞。


 実はあれは、


「仕組まれたものであった」


 と、キルトさん。


 僕は「そうなの?」と驚く。


 実は渋滞の原因、脱輪事故を起こした車両は、車輪の軸部分に細工された形跡があったそうだ。


 それによる人為的な事故。


 そうして、冒険者ギルド団全体の車両を停止させたのだという。


 でも、何のために?


「月光の風の竜車を、所定の位置で止めるためじゃろうの」


「所定の位置?」


「道が崩れ、崖下に転落するように地面に細工がされておったのじゃ。微弱な魔力操作で土を崩す遠隔の魔法陣が刻まれておったのを確認した」


「そんなものが……?」


 なるほど。


 それが暗殺計画の内容だったんだ。


 まず渋滞事故の発生。


 それによって細工された場所で、ムンパさんの乗る車両を止める。


 だけでなく、渋滞事故を起こした車両の救助のため、キルトさん、イルティミナさんのどちらか、あるいは両名が離れることも想定し、仕組まれていたのだろう。


 事故に見せかけ、かつ護衛も自然に引き離す。


 そして、ムンパさんの乗る車両の落下。


(……うん)


 僕らは事前に知っていた。


 だけど、もし何も知らなければ、本当にただの事故に思われたかもしれない。


 それなりにいい暗殺計画だったのだ。


 自分も殺されかけて、褒めたくはないけど……。


 ちなみに、実はこの街に移動するまでの道中で、あの1人生き残った襲撃犯に対する尋問も行って、そうした計画だった裏も取れたそうだ。


(…………)


 何でだろう?


 こんなことが思いつくぐらい頭が良いのに、どうしてそれを悪い方向で使うんだろう?


 善い方向に使ってくれればいいのに、と、少し悔しい。


 そんな僕の思いを感じたのか、慰めるようにイルティミナさんの手が僕の茶色い髪を撫でてくれる。


 それから、


「尋問で首謀者の特定もできたのですか?」


「一応の」


 僕の奥さんの問いに、キルトさんは頷いた。


 元々、ある程度、捜査はされていたので目星は着いていたそうだけど、今回で決定的になったらしい。


 その相手は、


「『軍靴の剣』という冒険者ギルドの長と幹部連中じゃ」


 と、キルトさんが言う。


 それを聞いた時、ムンパさんは少し悲しげに赤い目を伏せていた。


 軍靴の剣……か。


 僕は、あまり世間に詳しくない。


 だから、名前を聞いてもその冒険者ギルドのことを何も知らなかった。


 だけど、僕の奥さんは、


「ああ……あのギルドですか」


 と、納得したように呟いた。


 僕は「知ってるの?」と聞き、彼女は「はい」と頷き、教えてくれた。


「創立50年ほどの、そこそこ老舗のギルドですね」


「うん」


「ですが、躍進する月光の風とは対照的に、軍靴の剣は最近、落ち目となっているギルドなんです。恐らく、数年以内には解散するのでは……と噂になるほどで」


「そうなんだ?」


「はい。そして、その原因が……魔血の排斥なのです」


「魔血の……排斥?」


「はい」


 彼女は淡々と頷いた。


 軍靴の剣の創立は、およそ50年前。


 当時は、まだ『魔血の民』に対する人権もなく、差別も多い時代だった。


 だからこそ、軍靴の剣は『魔血の民』が所属していないということを謳い文句に、人々の信用と信頼を集めて設立された冒険者ギルドだという。


(…………)


 僕は驚いた。


 それは魔血の民の居場所になろうという『月光の風』とは真逆の理念。


 対極に位置する冒険者ギルドだった。 


 でも、時代が時代だ。


 50年前の当時は、その考えは人々に支持され、『軍靴の剣』はかなりの隆盛を誇ったという。


 そして、時代が流れた。


 転機は、35年前の『魔血の民』にも人権を認めるシュムリア、アルン両国の共同宣言。


 魔血排斥の考えは、国の方針と相容れない。


 結果、国からの支援、依頼は激減し、また国と関わる仕事の人々からの依頼も減っていく。


(…………)


 軍靴の剣も、魔血排斥の考えを改めればよかったのだろう。


 でも、できなかった。


 それはギルドの理念で背骨、存在意義だったから。


 もしかしたらギルドが大切で大事で、必死に育て、懸命に仕事をしてきたからこそ、ギルド関係者は逆にその理念を覆すことができなかったのかもしれない。


 イルティミナさんは、


「つまりは、時代の変化に対応できなかったのでしょう」


 と、冷静に評した。


 キルトさんは重そうな吐息をこぼす。


「だからこそ、時代の波に乗り、躍進する月光の風とムンパが許せなかったのじゃろうの」


「…………」


 でも、だからって。


「――それで、人を殺していい訳がない」


 僕は、はっきり言う。


 キルトさんは頷いた。


「そうじゃな。マールの言葉は正しく、当然じゃ」


「…………」


「じゃが、月光の風と対照的に死にゆく我が子のようなギルドを思い、連中は心を病んだのじゃろう、そういう者たちには正しさは意味をなさぬ」


「…………」


「人は正しさではなく感情に従う生き物じゃからの」


 その声は、少し悲しげだ。


 魔血の民は、人々から多くの理不尽な差別を味わってきた。


 彼女もその1人。


 だからこその言葉かもしれない。


 結論として、冒険者ギルド・軍靴の剣を中心に魔血差別派の人や月光の風の躍進に妬み嫉みを持つ人、既得権益を侵された人たちが暗殺計画に関わった。


 中には、そうした冒険者ギルドと癒着していた貴族も含まれる。


(……酷い話だ)


 胸の奥が苦しく、心が痛い。


 やりきれない感情がある。


 でも、ムンパさんは、いつも通りの笑顔だ。


「悲しいし悔しいけれど、でも、生きていればそういうことをされる日もあるわ」


「…………」


「けど、気にしては駄目よ? だって、そんな人たちのせいで思い悩むなんて馬鹿らしいじゃない。だから、顔をあげて?」


「…………」


「前を向いて、明日を見るの」


 彼女の両手が僕の頬を挟み、持ち上げる。


 赤い瞳が僕を見つめる。


 真っ白な獣人さんは、甘く微笑み、


「大丈夫。みんながいるわ。だから、明日はきっといい日になるわ」


 そう言った。


 ああ……そうか、と思った。


 幼い頃の辛かった日々に、きっと彼女はそう自分に言い聞かせて生きてきたのだろう。


 そうやって生き抜いてきたのだろう。


 その厳しく、強い声に心が痺れた。


 だから僕は、


「――はい」


 と、青い瞳で彼女を見返して、大きく頷いた。


 ムンパさんも笑みを深くする。


 キルトさん曰く、レクリア王女の協力の元、捜査も進んでいるはずで、今回の証拠も含めて王都に帰れば、関係者全員を捕縛できるだろうとのことだ。


 キルトさんは、


「軍靴の剣は、これで本当に終わりじゃの」


 と、鉄の声で告げた。


 50年の老舗冒険者ギルド、その最後がこれとは悲しくもある。


 けれど、


(これも時代の流れ……か)


 僕は、そんな風に思った。


 ともあれ、暗殺計画も無事に乗り越え、当面の危機は去ったろう。


 僕は、深く息を吐いた。


 すると、そんな僕を見つめて、


「今回は、マール君には本当にお世話になったわね」


 と、ムンパさんが微笑んだ。


 ん……?


 彼女を見上げる。


 真っ白な獣人さんは優しい表情で、


「崖からの転落もそのあとの襲撃も、マール君がいなければ、私は死んでいたかもしれないわ。本当にありがとう」


「いえ、そんな」


「何かお礼がしたいけれど、欲しい物とかあるかしら?」


「え……?」


 欲しい物?


 僕は、キョトンとしてしまう。


 と言われても、別にお金も要らないし、ただ自分のギルド長を守っただけだし……。


(何もないなぁ)


 と思った。


 そう伝えると、キルトさんは「欲がないの」と苦笑する。


 ムンパさんは困った顔で、


「そうねぇ……もしマール君が結婚してなかったら、昔みたいにまた私の耳や尻尾を触らせてあげても良かったんだけど」


 と、呟く。


 え、耳と尻尾?


(……そ、それは少し触ってみたいかも……はっ!?)


 心動かされた僕だったけれど、すぐに僕を抱きしめているお姉さんの気配に気づく。


 僕の奥さんは、


「ムンパ様……?」


 と、氷の微笑と声だった。


 ムンパさんは「あらあら、冗談よ?」と頬に手を当て微笑んだ。


 でも、キルトさんは青い顔で「質の悪い冗談はやめよ……」と友人に警告している。


(あはは……)


 ま、僕も既婚者ですから、耳や尻尾だけでも他の女性を触るなんてしちゃ駄目だよね。


 うん、わかってます。


 と、イルティミナさんは、


「マール? もし触りたいのなら、代わりに私の髪をいっぱい触らせてあげますから……どうか、それで我慢してくださいね?」


 なんて、自分の長く綺麗な髪を一房摘まんで、そんなことを言う。


 表情は、少し切なそう。


 それに、ドキッとする。


 僕は「う、うん」と答えながら、その髪に触ってみた。


 深い森のような色の艶やかな髪は、サラサラと手触りが良くて、指と手のひらが凄く気持ちよかった。


 なんか、ずっと触っていたい……。


 コホン


 と、キルトさんの咳払いがして、我に返った。


「そなたら、そういうことは自分たちの部屋に帰ってからにせい」


「あ、うん、ごめんなさい」


「……仕方ありませんね」


 銀髪の美女の呆れたようなお叱りに、僕は謝り、イルティミナさんも不承不承頷いた。


 ムンパさんは、クスクスと笑う。


 赤い瞳を細めて、


「うふふっ、みんな、本当に仲良しね」


 と、僕らのギルド長は、そんな風に幸せそうにはにかんだんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 それから、10日間が過ぎた。


 途中、僕とイルティミナさんは予定通り、道中の街で冒険者ギルド団と別れて、討伐クエストの目的地へと2人で向かった。


 暗殺計画は阻止された。


 あとはキルトさん1人の護衛でも大丈夫だろう。


 その後、僕ら夫婦は、目的地で対象の魔物を発見、そして、無事に討伐に成功した。


 ちなみに、


「ふふっ、マール。私の髪は気持ちいいですか?」


 と、その間の日々に、イルティミナさんの髪を触ることがお互い少し癖になってしまったのは、夫婦だけの内緒の話である。


 いや、本当に綺麗で気持ちいいんだ、僕の奥さんの髪。


 …………。


 コ、コホン


 閑話休題。


 討伐クエストのあと、僕らも王都ムーリアへの帰路に着いた。


 この10日の間に、キルトさんとムンパさんは、冒険者ギルド団と共にとっくに王都に到着しているだろう。 


(事件……どうなったかな?)


 竜車に揺られながら、そんなことを思う。


 と、そんな帰途のある日、道中に立ち寄った町で見かけた新聞に『軍靴の剣、不祥事により解散!』の見出しを見つけることになった。


 また貴族家が2つ、お取り潰しになったことも小さな記事として載っていた。


 ただ、どこにも暗殺計画のことは書かれていない。


 複数のギルド、貴族が関わっていることで情報統制が行われたのかもしれない。


「…………」


「…………」


 僕とイルティミナさんは何も言わず、ただお互いの顔を見る。


 そこには、達成感も喜びもない。


 ただ『ああ、終わったんだな……』という肩の荷を下ろしたような気持ちだけがあった。


 彼女は小さく微笑んで、


 ギュッ


 僕の身体を抱きしめてくれた。


 僕もしばらく身を委ねて、その感触に浸っていた。


 そして更に数日後、僕らを乗せた竜車は、無事に王都ムーリアへと辿り着いたんだ。


 …………。


 …………。


 …………。


 王都の大門を抜け、馬車ギルドで竜車を降りると、大通りを北へと歩く。


 大聖堂の前を左に曲がり、そこから湖に沿った道を歩いていくと、やがて、いくつかの建物の向こうに『白亜の塔』が見えてくる。


 冒険者ギルド・月光の風。


 僕らの第2の家とも言える場所。


(…………)


 僕は青い瞳を細める。


 ギルドの正面玄関では、今も何人かの冒険者が出入りをしている。


 ポン


 微笑む自分の奥さんに軽く背中を叩かれ、僕は再び歩きだした。


 開かれた門を潜り、建物までの短い石畳の道を歩き、やがて、白い外壁に造られた木製の立派な扉を潜った。


 広がる1階フロア。


 中央にあるのは、円形の総合受付。


 壁には依頼書の貼られた4色の掲示板があり、手前側には依頼人や冒険者のための休憩スペースがある。


 更に奥には、魔物の素材の解体検査所や装備と道具の売店もあった。


 いつもの景色。


 フロアにいた何人かの冒険者が『金印の魔狩人』の帰還に気づき、視線を送ってくる。


 正面の総合受付の受付嬢さんたちは、軽く頭を下げてきた。


(あ……)


 ふと見れば、2階に続く階段に、キルトさんがいる。


 気配を察したのか、銀髪を揺らし、彼女も振り返った。


 僕らを見つけ、笑顔になる。


 僕も笑い、イルティミナさんも微笑んだ。


 すると、キルトさんは一緒に歩いていた女性にも声をかけ、その人もこちらを振り返った。


 真っ白な獣人のお姉さん。


 振り返った拍子に、柔らかくウェーブした新雪のような長い髪が舞い、獣の垂れ耳が揺れる。


 ドレスのようなロングスカートの白い衣装は、お尻の部分からフサフサした長い尻尾が覗いていて、それは僕らを目にすると左右にパタパタと動き出す。


 白い美貌には、穏やかな微笑みが咲いていた。


 彼女がそこにいる――それだけで、ここがとても安心できる場所だと感じた。


 冒険者ギルドのお母さん。


 綺麗な獣人のお姉さん。


 信頼する僕らのギルド長さん。


 そんな彼女は、帰還した僕らに赤い瞳を細めて、


「――うふふっ、おかえりなさい、マール君、イルティミナちゃん!」


 輝くような笑顔で迎えてくれたんだ。

ご覧いただき、ありがとうございました。


これにて『冒険者ギルド・月光の風とムンパ編』も完結となりました。最後までお読み頂き、本当に感謝です。


次回は、来週の月曜日を予定しています。


また新しいお話となりますので、よかったらまた読んでやって下さいね。




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