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漫画マール1巻、発売記念SS・その1

本日は『少年マールの転生冒険記』のコミック単行本1巻の発売日です!


なので、その発売を記念して、今日から4日間、本編を一時中断して、コミック単行本1巻の発売記念ショートストーリーを4話、お届けします。


本日はその1話目、なんとイルティミナ視点のお話です。


どうかお楽しみ下さいね♪



※本編再開は、通常更新日の金曜日になります。その合間として、お楽しみ下さいませ♪

 日暮れの時刻、空からは雨が降ってきました。


(おや?)


 自宅で冒険者ギルドから頂いた次の討伐対象の魔物の資料を読んでいた私――イルティミナ・ウォンは、その気配に顔を上げ、リビングのガラス戸の方を見ました。


 透明なガラスに、ポツポツと水滴が当たります。


 思ったより、強い雨足のようですね。


 そして、そのガラス戸の前で、床に胡坐をかいて外を眺める1人の少年がいました。


 柔らかそうな茶色の髪。


 小柄な体躯は、愛らしい童顔も相まって、まだ未成年にも思えます。


 この子の名は、マール――私の最愛の夫です。


 彼のその青い瞳は、今、ガラスの向こう側に降りしきる雨の景色を見つめていました。


 その後ろ姿に、私は微笑みます。


 彼の姿を見ただけで、どう魔物を殺すか、そんな殺伐としたことを考えていた私の心は、ふんわりと柔らかくなりました。


 カタン


 椅子から立ち上がり、彼の隣へと向かいました。


「…………」


 彼は、こちらを見ませんでした。


 私の気配には気づいているようですが、その瞳は窓の外だけを夢中に見つめています。


 私も、マールの隣に座りました。


 彼の横顔を見つめ、そして、彼の眺める窓の外を見ました。


 ガラスの向こう側では、天から降り注ぐ水滴に、我が家の庭の芝生が濡れていました。奥にある1本の木は、雨粒に叩かれた葉が踊っています。


 空は曇天で、景色はいつもより薄暗く、その雲の向こう側には、夕暮れの太陽が薄っすらと透けて見えました。そこだけ、雲も淡い赤色に染まっています。


「――綺麗だね」


 ふと、マールが呟きました。


 その大きな青い瞳に、雨の景色を映しながら、


「僕、雨の日も好きなんだ」


「…………」


「雨の匂いや音って、何だか懐かしい気がする。どうしてだろう?」


 彼は、そう小首をかしげました。


 コツ コツ


 青い瞳の見つめる先で、ガラスに雨粒がぶつかっては散っていきました。


 その時、彼の瞳が不意に私へと向けられます。


 ドキッ


 突然、目が合い、その美しい青色に心を吸い込まれた私は、鼓動が少しだけ速まりました。


 そんな私に、マールは優しく笑いました。


「雨の日に家にいると、凄く不思議」


「…………」


「たくさんの雨粒とその音に閉じ込められているせいか、世界がここだけになった感じがするんだ。そして、今この瞬間、この場所が凄く大切で愛おしくなる」


「…………」


「きっと今、この世界には、僕とイルティミナさんの2人きりだよ?」


 彼の小さな手が、私の頬を撫でました。


 あぁ……。


 触れた部分がとても熱くなったのを感じます。


 年下の夫であるこの子の感性は、本当に繊細で美しく、それに触れる時に、私の心はいつも震えてしまうのです。


 私は、マールを見つめました。


 小さな、小さな男の子。


 いつまでも変わらない純真な心、無垢な瞳は、私のことをいつでも優しく照らしてくれます。


 この世界の醜さ、汚さ、愚かさを目にして尚、彼の心と瞳は美しいままなのです。


 ――やはり、神狗。


 この子は、神の眷属であるのだと、今のような瞬間には強く感じてしまいます。それは彼の個性の1つに過ぎないと、頭でわかっていても……。


 私は、私に触れる小さな手に、自分の手を重ねました。


 この子が私のマールであることを、強く自分の心に刻むために、思い出させるために。


 触れる手が、熱い。


 彼は言いました、世界には今、自分と私の2人きりだと……。


 私は紅い目を伏せ、


「ええ、そうですね」


 この子の思いに、そう答えました。


 彼は嬉しそうにはにかみ、それに私もつい微笑んでしまいました。


 雨音だけが、耳に響きます。


 少し薄暗い、どこか非日常の空間で、私とマールは見つめ合いました。


 そして、雨音に交じり、


「大好きだよ、イルティミナさん」


 彼の声が、私の鼓膜を震わせました。


 胸が甘く、苦しい。


 顔が熱くなり、鼓動のリズムは更に強まってしまいました。


 マールの可愛らしい顔も紅潮し、けれど、その青く美しい瞳は真っ直ぐに私の顔と心を貫いています。


 この子の熱い思いが伝わります。


(ああ……)


 私も心の中で、熱い吐息をこぼしました。


 このイルティミナ・ウォンは、この少年の妻です。


 私は自分の旦那様が与えてくれた愛の囁きに、言葉では物足りなく、行動で応えることにしました。


 彼の手を握ったまま、顔を近づけました。


 察した彼は、瞳を伏せます。


 私も小さく微笑み、自らの瞳も閉じて――そして、唇を重ねました。


(んん……)


 お互いの心が溶けていくのを感じます。


 シトシト バラバラ トトトッ


 雨音の演奏会が続く2人きりの世界で、私とマールばしばらくの間、その愛を確かめ合ったのでした。

ご覧いただき、ありがとうございました。



明日は、発売記念ショートストーリーの2話目を公開します。今度はキルト視点のお話ですので、どうぞお楽しみに!



また、本日発売となった少年マールの転生冒険記、コミック1巻もどうぞよろしくお願いします♪


この表紙が目印

挿絵(By みてみん)


発売する1巻には、なんと描き下ろしのおまけ漫画も掲載されています。


どうかご購入頂いて、漫画となったマールやイルティミナのことを応援して頂けたら嬉しいです♪



僭越ながら、マールの公式のコミック紹介サイト、アマゾン購入サイトのURLも貼っておきます。


マールの公式のコミック紹介サイト

https://firecross.jp/comic/series/525


アマゾン購入サイト

https://www.amazon.co.jp/dp/479863574X


公式の紹介サイトには、各書店様のリンクもありますのでよかったらご活用下さいね。


どうぞ、よろしくお願いします♪

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ご購入して下さった皆さんは、本当にありがとうございます♪

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