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【書籍化&コミカライズ!】少年マールの転生冒険記 ~優しいお姉さん冒険者が、僕を守ってくれます!~  作者: 月ノ宮マクラ


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722・ギルドの合同慰霊祭

皆さん、こんばんは。

こうして再び読みに来て下さって、本当にありがとうございます!


本日より『少年マールの転生冒険記』の更新再開となります。


どうか、またマールの冒険と物語を見守りながら、ゆっくりと楽しんで頂けたなら幸いです♪



それでは、第722話になります。

どうぞ、よろしくお願いします。

「――今回のクエストもお疲れ様」


 赤毛の獣人の受付嬢であるクオリナさんは、クエスト完了手続きを終えた僕ら夫婦にそう笑った。


 冒険者ギルド『月光の風』での出来事だ。


 本日、2週間ほどのクエスト旅を終えて、僕らは帰還、たった今、報告をしたばかりだった。


(あぁ、終わった……)


 僕は、安堵する。


 まぁ、魔狩人として対象の魔物を倒した時点でほぼクエストは終わってるんだけど、完了手続きをして初めて、本当の意味でクエストが終わった訳だからね。


 そんな僕の様子に、


「ふふっ、マール」


 隣のイルティミナさんが微笑んで、その白い手で僕の髪を撫でてきた。


 うん、気持ちいい。


 僕も青い瞳を細めて、自分の奥さんを見上げてしまう。


「イルティミナさん、お疲れ様」


「はい、マールも」


「うん」


「家に帰ったら、ゆっくりしましょうね」


「ん、そうだね」


 彼女の優しい声に、僕も頷いた。


 そんな僕ら夫婦をのやり取りを、クオリナさんは微笑ましそうに、またどこか羨ましそうに眺めていた。


 その後、赤い報酬カードを受け取る。


 後日、銀行で換金、貯金しておこう。


 そんなことを思いながら受け取り、2人それぞれの財布にしまった。


 その時だった。


 冒険者ギルドの中に、少しざわめきが起きた。


(ん……?)


 顔を上げる。


 すると、ギルドの螺旋階段を降りて、珍しく真っ白な獣人でありギルド長であるムンパさんが1階フロアにやって来る姿があった。


 後ろには、秘書さんもいる。


 その手には、いくつかの書類の束があるので何かの業務手続に来たのかな?


 ムンパさんは、30代半ば。 


 スタイルも良く、波打つような白い髪は雪のようで、そこから生えた垂れ耳も可愛らしい。


 尻尾は長くフサフサとして、艶のある毛並み。


 うん、大人の美人さんだ。 


 でも、その美貌には、少女みたいな可憐な微笑みが咲いていて、


「みんな、こんにちは」


 と、自分の司るギルド所属の冒険者たちに声をかけていた。


 みんなも「こんにちは、ムンパ様」「おう、ギルド長」「ど、どうも」「こんちわっす、姐さん!」なんて返事をしている。


 そんな彼や彼女に、


「ふふっ、はい、こんにちは、シンリャオちゃん」


「あら、アルちゃん、この間の怪我は大丈夫? そう、よかったわ」


「リシアちゃん、この前のクエスト、がんばったわね。偉かったわよ」


「はい、姐さんですよ、こんにちは、リュディカ君」


 と、ムンパさんは、1人1人に対応していた。


 やがて、彼女は、僕らにも気づく。


 柔らかな足取りでこちらに来て、


「おかえりなさい、マール君、イルティミナちゃん」


「うん、ただいま」


「こんにちは、ムンパ様」


「ふふっ、今回のクエストは『霊亀の討伐』だったかしら? 無事に達成したようね、さすがだわ」


 と、甘く笑う。


 それから、


「怪我もないみたいだし、安心したわ。次のクエストまで、ゆっくり休んでね」


 ポン ポン


 僕らの肩の横を軽く叩いた。


 そして、また他の冒険者に声をかけられて、返事をしながらフロア奥の『素材管理室』の方へと行ってしまった。


 その歩く背中を見つめてしまう。


 すると、


「凄いよね、ムンパ様」


 と、クオリナさん。


 僕らは、赤毛の受付嬢を見た。


 彼女は、ポニーテールにした髪を揺らして笑い、


「ムンパ様って、ギルド所属の冒険者と職員の名前と顔、全員分を覚えてるんだよ」


「え、そうなの?」


 僕は青い目を丸くした。


 冒険者ギルド・月光の風は、設立20年と王都では新興のギルドだ。


 所属冒険者も少数精鋭。


 とは言え、150人以上は在籍している。


 職員だって50人以上いるはずだ。


 その名前と顔を覚えるだけでも、結構、大変である。


 だけど、


「それだけじゃなくて、冒険者全員が今、どんなクエストを受けてるか、どんな状態かも把握してるんだって」


「…………」


 ひぇええ……。


 それ、どれだけの情報量なんだろう?


 ムンパさん、凄い……。


 イルティミナさんも「そうなのですね」と感心した顔で、彼女の歩き去った方を見ていた。


 う~ん、僕らのギルド長様は、本当に凄い人みたいだね。


(でも、何か嬉しいな)


 大変だとは思うけど、でも、それだけ僕らのことを見てくれているのだと思うと、正直、やっぱり嬉しいし、その思いに応えたくて、よりがんばりたいって思えるよ。


 クオリナさんも、自分の職場のトップに誇らしげな顔だった。


 そんな風に3人で真っ白な獣人さんの消えた方向を見ていると、


「あ、そうだ」


 突然、クオリナさんがハッと声をあげた。


(?)


 何だろう?


 夫婦で彼女を見ると、


「思い出した、ごめんなさい」


「うん?」


「何です?」


「実は、キルトさんから伝言を預かっていたんです」


「え?」


「キルトから?」


 僕ら夫婦は、目を丸くしてしまった。


 クオリナさんは頷く。


 拍子に、長いポニーテールも踊る。


 そして、


「2人が帰ったら、少し頼みたい用事があるので自分の部屋に来て欲しい……って」


「…………」


「…………」


 僕は、イルティミナさんの美貌と顔を見合わせる。


 キルトさんの用事。


 何だかわからないけれど、また大変なことかな……?


(少し不安……)


 でも、楽しみでもあるような、ちょっと複雑な気持ち。


 と、僕の奥さんは嘆息する。


「またクエスト後の休暇が潰されてしまうのではありませんよね……?」


「あはは……」


 どうかなぁ?


 半分恨めしそうな声を漏らす僕の奥さんに、つい苦笑しちゃった。


 クオリナさんも困ったように笑っている。


 やがて僕らは、美人受付嬢さんにお礼を言って別れ、ギルド3階の『キルトさんの部屋』を目指したんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



「おお、よう来たの」


 玄関の扉が開くと、銀髪の美女が笑顔で迎えてくれた。


 僕らも「うん」と頷き、挨拶もそこそこに室内へと上がらせてもらった。


 部屋主の勧めで、リビングのソファーに腰かける。


 キルトさんは手ずから飲み物の紅茶を用意してくれて、そのカップを目の前のテーブルに置いてくれた。


 僕ら夫婦は、それを一口。


(うん、美味しい)


 お酒好きなキルトさんだけど、お茶を淹れるのも上手みたいだね。


 身体も心も温かいなぁ。


 そう、僕は緩んだ表情で息を吐いてしまう。


 けど、イルティミナさんはカップをすぐにソーサーに戻して、


「それで、キルト?」


「ん?」


「頼みたい用事というのは何ですか? まさか、またマールと2人きりの休暇を潰されるのではないですよね?」


 と、警戒した表情で聞いた。


 キルトさんはキョトンとする。


 それから、言いたいことを理解したのか、苦笑した。


 軽く手をあげ、


「いつもすまんの。じゃが、安心せい。今回はそうではない」


「本当ですか?」


「本当じゃ」


「それならば、良いですが……」


 豊かな胸に手を当てて、僕の奥さんは安堵の息をこぼした。


 僕も苦笑。


 そして、彼女の白い手を安心させるように握って、


「よかったね」


「はい」


 気づいた彼女は、嬉しそうに笑った。


 そんな僕らに、キルトさんはまた苦笑を浮かべている。


 それから、


「頼みたい用事というのは、休暇が終わったあと、次のクエストに向かう時の話じゃ」


 と、言った。


 休暇後の次のクエストに向かう時……?


 僕らは、キョトンとなってしまった。


 キルトさんは自分の紅茶を一口、喉を湿らせてから、


「合同慰霊祭というのを、知っておるか?」


 と聞いた。


「合同慰霊祭?」


 僕は、青い目を瞬いた。


 意味はわかる。


 大勢の人が合同で慰霊を行うということだろう。


 でも、キルトさんの質問は、その言葉の意味を問いかけたのではないはずだった。


 それに答えたのは、僕の奥さん。


 彼女は思い出した顔で、


「あぁ、そういう時期でしたか」


「時期……?」


 僕は、彼女を見る。


 イルティミナさんは「はい」と頷いて、


「マールは知りませんでしたね。実は、3年に1度、この時期になると各冒険者ギルドの代表が集まって、亡くなった冒険者の慰霊祭を合同で行うのです」


「そうなんだ?」


「はい。慰霊祭に冒険者は基本、参加しませんが、各ギルド長や職員、王国関係者などは集まるのですよ」


「へぇ……」


 初めて知った。


 行事は立派たけど、あまり表立って行われてはいないらしい。


 冒険者たちは、日々の仕事がある。


 故人に思いを馳せることはあっても、それに一斉に参加して大規模に仕事が停滞すれば、現場で困っている依頼人などにも迷惑がかかる。


 そのため、ひっそり上層部の関係者だけで行われているらしいのだ。


(そっかぁ……)


 冒険者は、死亡率の高い職業だ。


 特に魔狩人は、毎年、必ず死者が出る。


 1年目の死亡率は3割、5年間での生存率は6割という恐ろしい数字なんだ。


 自分のため、人のために戦い、死ぬ。


 それが日常にある、そうした面もある職業なんだ。


 そして、きっとそれはどこの冒険者ギルドでも同じ感覚を共有しているのだろう。


 …………。


 なるほど、だから合同慰霊祭、か。


 そうした行いがあることに、今だ生きている冒険者として、けど、いつか死ぬかもしれない冒険者として、ありがたく感じるよ。


 そう思う僕の髪を、


「…………」


 イルティミナさんも何かを感じたのか、優しく撫でてくれた。


 うん、心地好い。


 もちろん、死ぬ気はないけれど。


 でも、そうした合同慰霊祭が行われることは、とてもいいことだと思えた。


 キルトさんも頷いて、


「それに、ムンパも参加することになっていての」


 と言った。


 僕らは「うん」と頷く。


 彼女は、月光の風のギルド長、参加も当たり前なのだろう。


 そのムンパさんと幼馴染の銀髪の美女は、言う。


「そして合同慰霊祭の行われる場所が、今回は、次、そなたらがクエストで赴く地方と同じ方角での」


「そうなの?」


「うむ」


 聞き返す僕に、キルトさんは頷いた。


 そして、


「そこで日時を合わせ、道中、その行きの途中までの期間、そなたらにはムンパの護衛役をして欲しいのじゃ」


 と、頼まれた。


 僕ら夫婦は、目を見開いて驚いた。


(護衛役?)


 僕らが?


 そんな表情の僕らに、キルトさんは頷いた。


「せっかくじゃしの、金印のそなたに護衛させることで、他ギルドに対しての箔を付けたいのじゃ」


「…………」


「無論、わらわも同行する」


「…………」


「行きだけでよい。帰りはわらわもおるしの、何とかする。――どうじゃ、頼めぬか?」


 それは……。


(別に構わないけれど)


 何となく、僕とイルティミナさんは顔を見合わせる。


 でも、


「……本当に箔付のため?」


 と、僕は確認した。


 正直に言うと、それだけのために僕らを護衛にしたいなんて、キルトさんが提案するだろうか?


 そんな疑問があった。


 多分、イルティミナさんも同じ気持ちだったろう。


 だから、問いかけるように、彼女もキルトさんを真紅の瞳で見ていた。


 キルトさんは、そんな僕らに驚いた顔。


 すぐに苦笑して、


「そうじゃな」


「…………」


「まぁ、実は気になることがある。それゆえじゃ。じゃが、その内容はまだ言えぬ」


「……何で?」


「色々あるのじゃよ、色々の」


「…………」


「どうじゃ、引き受けてくれぬか?」


 彼女は、頼みを繰り返した。


 僕は、イルティミナさんの顔を見る。


 彼女も僕の方を見て……うん、お互い、同じ思いでいることを確認した。


 なので、2人で頷いた。


「うん」


「わかりました、引き受けましょう」


「おお、そうか」


 僕らの答えに、キルトさんは喜んだ。


 嬉しそう……でも、どこか安心したようにも思えた。


(う~ん?)


 まぁ、理由がわからなくても、キルトさんが頼むのなら、元々、僕らに断る選択肢は存在しなかったんだけどね。


 だって、大切な仲間からの頼みだもの。


 理由なんて、気にはなるけど、きっと本当はどうでもいいんだ。


 キルトさんの笑顔。


 それだけで、充分なのだ。


「ありがとうの、2人とも」


 彼女は、そうはにかむように笑って、僕らにお礼を言う。


 僕らも「ううん」と微笑んだ。


 …………。


 そうして僕らは、7日後に行われる合同慰霊祭に参加するムンパ・ヴィーナの護衛として、その旅路に同道することになったんだ。

ご覧いただき、ありがとうございました。


※次回更新は、今週の金曜日を予定しています。どうぞ、よろしくお願いします。

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