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719・正義を騙る聖戦

第719話になります。

よろしくお願いします。

 通路を走り、何度か階段を駆け降りた。


 かなり広い遺跡だ。


 雰囲気としては、邪教の神殿のような妖しい景観をしていた。


 内部に、人形の姿はない。


 誰もいない空間を、僕とイルティミナさんの2人は駆け抜けていく。


 やがて、


(――ここだ) 


 臭いの1番強い場所へと辿り着いた。


 そこは、3階分まで吹き抜けとなった巨大なフロアだった。


 フロアの壁面には、起動していない『古代の魔法人形』がチューブに繋がれた状態で何千体も陳列され、金具に固定されていた。


 チューブの先は束になり、天井を抜けて正面の装置に繋がる。


 焼却炉のような装置だ。


 開放された扉の奥の穴には、真っ赤な溶鉱炉のような輝きが灯っていた。


(……熱い)


 そこから、強い熱波を感じる。


 同時に、気づいた。


 その輝きの中には、無数の黒い影となった人の遺体が積み重ねられていた。


 ドクン


 心臓が強く鼓動する。


 そこにあったのは、行方不明になったテテト連合国の人々、7000人の遺体が材料とされている光景だった。


 輝く液体の中、人体が溶けていく。


 それは白濁した液体となり、チューブを抜けて、起動前の古代の魔法人形に注ぎ込まれるのだ。


(……う……あ)


 その凄惨な光景に。


 無残な人々の状態に、僕は声が出せなくなった。


 足元の感覚が薄い。


 その状態で、僕はフラフラと溶鉱炉のような装置に近づいて、


 ガッ


 その肩を、イルティミナさんの手に強く引かれた。


(え……?)


 その力の強さに、僕は驚く。


 イルティミナさんは、僕の前方の空間を険しい眼差しで見つめていた。


 そして、『白翼の槍』を一閃する。


 パチン


 見えない何かが斬れた音がした。


 え……何?


 僕は目を瞬き、


「糸です」


 イルティミナさんは短く言った。


(糸?)


 そう思って目を凝らせば、


「あ……」


 その装置の周辺には、髪の毛よりも細い無数の糸が張り巡らされていたんだ。


 これは……蜘蛛の糸?


 僕の奥さんは、


「気をつけてください。恐らく、鋼よりも硬い糸です。迂闊に触れれば、簡単に手指が落ち、首も斬れてしまうでしょう」


「…………」


 その警告に、僕はゴクッと唾を飲んだ。


 そうだ、ここは敵地。


 重要な装置のそばには、こうした罠があってもおかしくない。


 弛緩していた精神を、また引き締める。


「ごめん。ありがとう、イルティミナさん」


「いいえ」


 彼女は微笑み、首を振る。


 僕を見つめて、


「厳しい現実ですが受け入れねばなりません。悲しむのはあとにして、今は、装置の破壊を行いましょう」


 と、やるべきことを告げた。


 僕も「うん」と頷く。


 そして、この許されざる装置に向けて、僕らは武器を構えた。


 その時だった。


 ドン


 強烈な殺意の圧が、僕らに叩きつけられた。


(ぐ……っ)


 突然、重力が倍になったような錯覚に、僕は必死に歯を食い縛った。


 視線を巡らせる。


 すると、装置の上部、天井付近から強大な蜘蛛が……いや、人間の男性の上半身に蜘蛛の下半身を持った魔物が、1本の糸にぶら下がって音もなく降りてきたのだ。


 刺青の魔人。


 その変身した魔物の姿。


 タタン


 僕とイルティミナさんは、すぐに後方へと下がり、それぞれの武器を構えた。


 音もなく、蜘蛛男は着地する。


 その頭部には、人間の目と蜘蛛の複眼が備わっていた。


 それが、僕らを見据える。


 強い敵意。


 その輝きが灯っている。


 そして、その牙の生えた口が動いた。


「信じられぬ……なぜ、お前たちがここにいる……?」


 それは、動揺に震えた声だ。


 その意味を、僕は量りかねる。


 見つめる僕の顔を、蜘蛛男は忌々しそうに睨みつけた。


 ギリッ


 無数の牙を噛み締め、


「この計画も、いつかは人間共に気づかれるとわかっていた……。あの狼の獣人が姿を見せてからは、時間の問題だとも……」


「…………」


「だが、あり得ぬ」


「…………」


「なぜ、お前がここにいるのだ、神の狗よ! ここは異国の地、いくらお前であっても、この短期間でこの場所に存在するなど、あり得ぬことなのだ!」


 その叫びで理解した。


(あぁ、そうか)


 連中だって馬鹿じゃない。


 自分たちの計画が僕らにバレることも織り込み済みで、今回の災禍を引き起こしたのだ。


 ただ、僕らは本来、シュムリア王国の人間だ。


 何かが起きても、対応は後手になる。


 真相に辿り着くまでには時間が必要で、恐らく、その時には僕らでも手の施しようがないほどに計画が進行していたはずだったのだ。


 だけど、僕らはここに来た。


 テテト連合国の対応が早く、シュムリア王国も迅速に応じて。


 また、ラサラキプトさんが残したヒント……そして、実際に出会ったことにより、多くの情報を手に入れたことによって。


 刺青の魔人たちの予想を上回り、僕らは彼らの前に立ったのだ。


(はは……)


 僕は笑った。


 静かな怒りを秘めて、


「人々の意思が、僕をここに導いた」


 多くの人が平和を望み、悲劇の解決を求めたから、今、僕はここにいる。


 そこにはきっと、7000人の亡くなった人々の魂の導きもあったのかもしれない。


 シャリン


 背中の翼を、大きく開く。


 手にした2本の剣を、眼前に立つ魔物へと突きつけた。


 そして、告げる。


「お前たちを、ここで狩り殺す」


 そう、魔狩人の神狗として。


 その隣で、シュムリア王国の誇る金印の魔狩人も『白翼の槍』をジャキッと構えていた。


 蜘蛛男は、苦々しげだ。


「おのれ……おのれ、我が主の仇よ」


「…………」


「悪魔王様の遺志を穢し、我らの悲願を阻む悪辣なる神の狗め……! 貴様は、貴様だけは許さぬぞ!」


 キシャアアッ


 牙を剥き、蜘蛛の巨大な前足を振り被り、奴は叫んだ。


 許さない?


 それは、こちらも同じだ!


 僕はギラギラと青い瞳に殺意を灯して、


「神気開放!」


 自身の体内に神なる力を駆け巡らせ、獣耳と尻尾を生やしながら、自身の戦闘力を一気に跳ね上げた。


 タイムリミットは、3分間。


 さぁ、


(――行くぞ!)


 覚悟を定めて、僕は前方へと足を踏み出した。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 僕とイルティミナさんの2人に対して、蜘蛛男は動かなかった。


 一見、無防備。


 罠の可能性を考えつつ、けれど、それを食い破る覚悟で、僕らは奴に向けて自分たちの武器を振るおうとした。


 その瞬間だった。


 ドギャアン


 突然、隣にいたイルティミナさんが後方へと吹き飛ばされた。


(――え?)


 僕は驚き、足を止める。


 そして気づく。


 膝をつく彼女の正面に、透明で巨大な何かがいた。


 光学迷彩のように、その輪郭が妖しく歪み、その全体像が何となく体長3メード近いカメレオンのような生き物だと気づいた。


 やはり、もう1人いた!


 刺青の魔人は、あと2人いるはずだった。


 蜘蛛男がいる以上、もう1人いると思っていたけれど、姿が見えなかった。


 だけど、まさか、


(透明状態で、すでに姿を現していたなんて……)


 さすがに気づかなかったよ。


 おかげで、先手を取られてしまった。


 ただイルティミナさんもさすがで、不意打ち直前の殺意に気づいたのか、『白翼の槍』を間に挟んで直撃は防いでいた。


 透明なカメレオンは、また輪郭を消していく。


(く……っ)


 気配が薄く、位置がわからなくなる。


 どこへ……!?


 焦る僕に、イルティミナさんは言う。


「この者の相手は、私がします! マールは眼前の敵に集中してください!」


「!」


「大丈夫、姿が見えぬ程度の敵に負けはしませんよ」


 彼女は、そう微笑んだ。


 そして、


 タン ヒュオン


 横に跳躍しながら、白い槍を回転させた。


 ドパッ


 瞬間、空中に鮮血が散る。


 透明なカメレオンの突進を回避して、逆に反撃を与えたのだ。


 どうやら彼女は、僕にはわからない鋭敏な感覚で、見えない敵の動きも把握できているみたいだった。


(……凄いや)


 僕は、唖然と尊敬だ。


 彼女の絶技に、蜘蛛男も驚いた様子だった。


 僕の奥さんは、重ねて言う。


「さぁ、マール! 貴方はその蜘蛛男を倒してください! そして、装置を破壊しましょう!」 


「うん!」


 僕は、大きく頷いた。


 透明なカメレオンは、イルティミナさんに任せて大丈夫だ。


 僕は、目の前の敵を。


 この蜘蛛のような姿の魔物を倒すのだ。


 キィン


 改めて、2本の剣を奴に向け、殺意に青い瞳を輝かせる。


 奴は「くっ」と歯軋りした。


 けど、すぐに覚悟を決めたように、人と蜘蛛の両手を広げて、キシャアアッ……と僕を威嚇してきた。


 その圧を受け止め、


 タッ


 僕は前へと動くと、手にした2本の剣を振るった。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 蜘蛛男は、その巨体に反して驚くほどに俊敏だった。


 またその速度から振るわれる爪や牙の攻撃は重く、直撃すれば致命傷にもなりかねない威力があった。


 それだけではない。


 奴は、2種類の糸を蜘蛛の尻から吐いた。


 1つは、移動用の糸。


 それを使って、空中を自在に移動し、四方八方から攻めてくる。


 またもう1つは、粘性の糸。


 それは僕の動きを封じ、捕まえるためのもので、絡まってしまえば、僕は身動きもできなくなり、一方的に殺される運命にあった。


 そういう難敵だった。


 かつて、アルン神皇国のヒュパルス寺院を訪れた際、アラクネという蜘蛛女の森を通ったことがある。


 その魔物と特徴が同じだった。


 恐らく、男女の違いだけで魔物の種類的には同一の存在なのかもしれない。


 だから、助かった。


 その時に、キルトさんから注意点を知らされていたから。


 何も知らず、戦闘中の初見であったなら、僕は対処できなかったかもしれない。


 でも、僕は知っていた。


 蜘蛛の魔物がどういう攻撃をするのか、を。


 だから僕は、蜘蛛男の攻撃を全て回避できたし、僕自身も翼を使って空中戦に応じることができた。


 ほんの少しの違い。


 情報の有無。


 それだけで僕は、多分、上回ったのだと思う。


 ヒュパッ


 奴の移動用の糸を斬り、粘性の糸はかわして、空中で逃げ場をなくした奴を、翼で空中を自在に動ける僕は、


「やああっ!」


 ヒュコン


 2本の剣を使って、その8つ足全てを切断した。


 ドスン


 鮮血を噴く巨体が、重い音と共に床に落ちる。


「ぐは……っ」


 奴は苦悶の表情だ。


 その正面に、僕は着地する。


 蜘蛛男は、人間の両腕で必死に身体を起こし、僕を睨みつけていた。


 コツ コツ


 僕は、そちらに近づく。


 白く輝く2本の剣を携えたまま……。


「ま、待て……!」


 奴は、こちらに両手を向けた。


 生存を求める懇願。


 けど、同時に、切断された蜘蛛の前足が動くのを、僕は見逃さなかった。


 魔の眷属。


 その特徴の1つに、驚くほどの再生力がある。


 腹部を裂かれ、内臓をこぼすほどの致命傷を負わされても普通に動けるし、その傷も回復もしてしまうのだ。


 それを、僕は知っていた。


 何度も戦ってきたから。


 だから、


 ズリュッ


 切断された蜘蛛の前足が粘液と共に生え、その鋭い爪が僕に振り下ろされるのを見ても、僕は少しも慌てることはなかった。


 ヒュパン


 横に振るった『妖精の剣』が、その前足を再び斬り飛ばす。


 もう1本の『大地の剣』は頭上に掲げた。


 ギラッ


 刃が僕の殺意に呼応したように、あるいは溶鉱炉の中の人々の遺志が宿ったように、美しい死の輝きを放った。


 蜘蛛男は、それを見つめた。


「正義という名の悪意を騙る狗め……。お前は、我ら魔の殺戮者だ」


 歪んだ笑み。


 死を覚悟し、けれど、僕への憎しみの炎が燃えている。


 憎悪の眼差しが、僕の心を焼く。


 僕も答えた。


「知ってるよ、僕が一方的な正義を語っていることは。それでも……いや、だからこそ、僕も君たちの正しさを許すことはできないんだ」


 少しの悲しみと共に。


 その感情が伝わったのか、奴は少し驚いた顔をした。


 そこに向かって、


「さようなら」


 ヒュオン


 僕は2本の剣で十字を切るように、最後の剣閃を走らせた。


 鮮血が散る。


 頭部を……脳を完全に破壊された蜘蛛男は、もはや復活することもなく、その巨体を床に崩れ落ちさせた。


 僕は、それを見届けた。


「…………」


 少しだけ、心が寒い。


 それを堪えながら、後ろを振り返る。


 視線の先では、透明だった巨体に紫の血を大量に流しながら、イルティミナさんと戦っているカメレオンの魔物の姿があった。


 血のせいで、輪郭がはっきりわかる。


 一方で、イルティミナさんは完全に無傷だった。


 あまりに強い。


 シュムリア王国の誇る『金印の魔狩人』は、かつてのキルト・アマンデスのような強さで魔物を圧倒していたんだ。


 カメレオンの視界は広い。


 ほぼ360度の視野を持つという。


 だから、カメレオンの魔物は、仲間の蜘蛛男が死ぬ瞬間も目撃していた。


 その動揺。


 瞬間の揺らぐ心の隙を、僕の奥さんは見逃さなかった。


 キュボッ


 その巨大な頭部に、真っ直ぐ繰り出された『白翼の槍』が深く突き刺さった。


 明らかな致命傷だ。


 刺青の魔人であっても、脳と心臓は弱点だった。


 その脳が破壊された。


 そして、イルティミナさんは容赦なく、回転させながら白い槍の連撃を繰り出して、その手足を斬り裂き、外皮を斬り裂き、やがて、胸部の心臓も貫いた。


 ドシャア


 3メードの巨体が、床に沈んだ。


 その下から、紫色の血だまりが広がっていく。


 彼女は、美しい深緑色の髪をなびかせながら、白い美貌を全く変えずに、その光景を静かに見下ろしていた。


 やがて、息を吐く。


 そして、僕の方を見て、


「マール」


 と、今度は花が咲くように微笑んだ。


 僕も笑った。


 今回も、僕ら夫婦は生き残れたんだ。


 その事実を確かめ合うように、僕とイルティミナさんは互いの身体を抱きしめ合い、しばしの抱擁の時間を味わったんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



「――羽幻身・七灯の舞」


 イルティミナさんの紡ぐ魔法の文言が、空間に朗々と響く。


 彼女の構える『白翼の槍』の周辺には、無数の光の羽根が集まってできた7本の『光の槍』が浮かんでいた。


 彼女は槍を突き出し、


「はっ!」


 ヒュバッ


 同時に、7本の『光の槍』は、眼前にそびえる巨大な人形製造装置の溶鉱炉内へと飛び込んでいく。


 数秒の間。


 そして次の瞬間、発生した魔力爆発によって、装置は内側から爆発を連鎖させた。


 ドンッ ゴォオン ドゴゴォン


 地震みたいに、フロア全体が揺れた。


 天井からは砂埃が落ち、壁に並んでいた起動前の人形の何体かは、金具が外れて、そのまま床に落ちて壊れてしまった。


 溶鉱炉から、熱した液体が漏れる。


 それがより、装置を壊していく。


 400年間、生き延びていた古代の魔法装置は、今、ここでその役目を終え、永遠の眠りにつこうとしていた。


(……うん)


 これで、もう2度と同じ事件は起きないだろう。


 火の手と黒煙が上がり、小さな爆発が続く。


 僕は、しばらくその光景を見つめた。 


 そんな僕の肩に、イルティミナさんも白い手を触れさせながら、壊れていく装置を見ていた。


 やがて、


「さぁ、マール、行きましょう」


「うん」


「こちらは役目を果たしました。ですが、キルトたちはまだ戦っているかもしれません」


「うん、そうだね」


 もしそうなら、加勢しなければ。


 自分の奥さんの言葉に、僕は頷いた。


 赤く灼熱し、壊れ、溶けていく溶鉱炉のような魔法装置を最後に見つめ、そして、僕らはそちらに背を向けて走り出した。


 …………。


 …………。


 …………。


 遺跡の外に出た。


 すると、状況はすでに終わっているみたいだった。


 2000体の『古代の魔法人形』たちは、その半数が破壊されて地面に転がり、もう半数は無事だったけれど、動きを完全に停止させていた。


 視線を巡らせる。


 すると、遠くに戦斧を担ぐラサラキプトさんと、その足元に倒れている指揮官の人形を見つけた。


 また、少し離れた場所に、同じように壊れた指揮官人形があった。


(……なるほど)


 多分、指令を発していた2体を失って、他の魔法人形は停止してしまったんだ。


 呆気ない……とも言えない。


 だって、ラサラキプトさんは、傷だらけだった。


 2体の指揮官人形は、軍の要だ。


 だからこそ、その2体を守るための他の人形の防衛行動は、凄まじいものがあっただろう。


 それを越えての、破壊。


 それは並大抵では不可能だったはずだ。


 でも、それを成す。


 ラサラキプト・ドーラクスは、まさにテテト連合国が誇る『金印の魔狩人』に相応しいと、改めて敬意を払いたいと思ったよ。


 …………。


 その一方で、奥の空間では、キルトさん、ソルティス、ポーちゃんの3人が集まっていた。


 その足元には、


(あ……)


 3つ首のケルベロスと、蛸の怪人の死体が転がっていた。


 そうか、彼女たちも『魔の眷属』を倒したんだね。


 こちらも激しい戦闘だったようで、大きな怪我は見えないけれど、あちこち鎧が壊れたりして、3人ともにボロボロの状態だった。


 ただ、もう1体の竜の魔物の死体が見当たらない。


 それに気づいて、


「どうやら、最後の1体には逃げられたようですね」


 と、僕の奥さんが言った。


 そっか……。


 恐らく、遺跡の装置の破壊音は、ここまで聞こえていたはずだ。


 それに合わせて、仲間の死も悟ったろう。


 自分以外の4人の仲間が死に、兵器として運用していた人形も行動不能の状態に陥った。


 もはや、勝ち目はない。


 だからこその逃走。


 それは命を惜しんでではなく、恐らく、次の機会のために、また新たに世界に災厄を招くことを求めての逃走だった。


(…………)


 できれば、倒したかったな。


 でも、それはキルトさんたちも同じで、だけど、成せなかったんだろう。


 ならば、仕方ない。


 それに最初から話し合っていたんだ。


 僕らの1番の目標は、テテト連合国の人々を殺戮する人形の製造装置を破壊することだって。


 それは、無事に成功した。


 なら、それ以上の高望みは必要ない。


 僕らは最低限、絶対に果たさなければならない役目だけは果たせたんだ。


「ふぅ……」


 僕は息を吐く。


 イルティミナさんも、ようやく重荷を下ろした顔だった。


 お互いの顔を見て、


「これで、全てが終わりましたね」


「うん」


 僕らは安堵を分かち合うように、微笑み合った。


 そして、皆の方を見る。


 キルトさん、ソルティス、ポーちゃん、ラサラキプトさんも、遺跡から出てきた僕らに気づいて、笑顔をこぼして手を振ってくれた。


 僕らも満面の笑顔で、ブンブンと手を振り返した。


 …………。


 7000人以上の人々が消失したテテトの怪現象。


 その真相を突き止め、悍ましい原因も破壊して、そして、僕らはこの地の平和を取り戻すことに成功したのだった。

ご覧いただき、ありがとうございました。


次回更新は、今週の金曜日を予定しています。どうぞ、よろしくお願いします。



マールのコミカライズ第8話公開中です。


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― 新着の感想 ―
[一言] マールたちの武具とか、技とか、魔法の詠唱とか。 そういう設定集みたいのも、あれば読みたいな~、などと思ってしまいました。 物語の邪魔になるようでしたら、別作品として作っていただけたら、捗り…
2024/05/27 00:11 退会済み
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