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【書籍化&コミカライズ!】少年マールの転生冒険記 ~優しいお姉さん冒険者が、僕を守ってくれます!~  作者: 月ノ宮マクラ


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717・北上の旅路

第717話になります。

よろしくお願いします。

「この英雄たる者の負傷を癒したまえ。――ラ・ヒーリオム!」


 ポワァン


 ソルティスの回復魔法が、ラサラキプトさんの怪我を癒していく。


 全身の裂傷、打撲。


 平気そうな顔をしているからわからなかったけど、彼女は相当のダメージを負っていたみたいだ。


 治される間、


「あぁ、助かるわぁ」


 と、彼女は気持ち良さそうだった。


 う~ん?


 狼とか動物って自分の弱みを見せないから、もしかしたら獣人のラサラキプトさんも同じだったのかもしれないね。


 この状態で色々と話させて、ちょっと申し訳なかったよ……。


 とはいえ、彼女も回復した。


 水と食料も分けてあげたら、すぐに平らげてしまった。


 食べながら、


「このあと、どうするんやの?」


 と、聞かれた。


 僕としては、遺跡に直行したい。


 そして、奴らを倒して、その蛮行を止めたいと思った。


 だけど、


「1度、地上に戻る」


 と、キルトさん。


 彼女は言う。


「これだけの真実を、誰にも知らせずにおくのはまずい。わらわたちが死ねば、最悪、真実が闇に埋もれ、更なる犠牲が出る」


「…………」


「それに、遺跡までも距離があろう?」


「そやね」


 ラサラキプトさんは頷いた。


 彼女の話だと、洞窟を移動して20日以上かかるという。


(そんなに?)


 さすがに獣人でない僕らは、補給なしでそこまで活動できない。


 キルトさんは、地上に戻って翼竜便で報告を出し、自分たちは地上を竜車などで移動して、再び北にある村の穴から洞窟に潜り遺跡を目指すと考えを話した。


 うん、僕らとしても異論はない。


 その方が多分、洞窟を行くよりも時間短縮にもなるだろう。


「それでいいんよ」


 と、ラサラキプトさんも同意した。


 それから、僕らは転進して、洞窟を南下する。


 3日間かけて、僕らが入ってきた穴に到達、そこから地上に出た。


 2日かけ、徒歩で近くの町へ移動。


 そこの町長さんに話して、レバインド領国の首長さん宛てに翼竜便を飛ばしてもらった。


 ちなみに『魔血の民』である3人は入町を拒否されたので、ラサラキプトさんと僕とポーちゃんの3人での交渉となった。


 差別なんて嫌いだ。


 幸い、ラサラキプトさんの権威と首長の書状もあって、交渉は上手くいった。


 そして、僕らは竜車を借りる。


 そのまま、6人で乗ると、1番北にある最初に被害があった村を目指したんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 ガシュン


 ラサラキプトさんの持っていた戦斧は、斧の部分が変形して、細長い1本の金属棒になった。


(うわ、格好いい!)


 竜車の中で、僕は目を輝かせてしまう。


 ラサラキプトさんは、そんな僕に得意げだ。


 僕は聞く。


「それ、タナトス魔法武具ですか?」


「そやよ。ま、こうして細くならないと、穴も通れなかったんよね?」


「そっか……言われてみれば」


 その通りだ。


 納得する僕に、彼女はクスクスと笑う


 その赤い瞳を細めて、


「神狗はんは、こういう子なんね?」


「え?」


「正直、『神の子』なんていうから、もっととっつき難いんかと思ってたんよ。それなのに、なんか和むわぁ」


「…………」 


 そ、そう……。


 まぁ、威厳がないのは自覚してるけどね。


 周りが色々と言うだけで、僕自身は、そんなに大した奴じゃないのだ。


 なんて思っていると、


「この子は、マールですから」


 と、僕の奥さん。


「生まれはどうあれ、この子はこの子でしかありません。ただ、それだけのことですよ」


「そやね」


 ラサラキプトさんも同意した。


 僕を見る目は、とても優しい。


 イルティミナさんも同意が得られて、満足そうな様子だった。


 僕らの様子を見て、ソルティスは肩を竦める。


 ポーちゃんも、仕草を真似っ子だ。


 キルトさんも微笑む。


 けど彼女は、すぐに表情を戻して、


「しかし、まさか『魔の眷属』が関わっておるとはの」


 と呟いた。 


 僕らは、彼女を見る。


 キルトさんは考えながら、


「連中の目的は、何じゃ? タナトスの殺人人形を甦らせ、それで何を求めておる?」


「それこそ、神狗はんやないの?」


「む?」


 え……?


 ラサラキプトさんの言葉に、僕らは驚いた。


 彼女は、僕を見る。


「連中は、自分たちを『悪魔王の忠実なる信徒』って名乗ったんや」


「…………」


「悪魔王を倒したんは、マールはんやろ?」


「…………」


「地下洞窟は、もしかしたら、シュムリア王国まで続いてるかもしれないんやよ。となれば、狙いは王都にいる主人の仇の『神狗』はんやない?」


 そう……なの?


 僕は、聞かされた内容に呆然だ。


 でも、あり得なくはない。


 悪魔王……つまり『闇の子』の狙いは、世界の破滅だった。


 殺人人形を撒き散らし、人々を殺しながら、やがて王都まで到達して、その王都民と共に僕を殺す――それは確かに考えられる可能性だった。


 一石二鳥の計略。


 でも、


(僕のために……多くの人が巻き込まれたの?)


 その事実が恐ろしい。


 血の気が引き、顔色が悪くなる。


 イルティミナさんが慌てて「マール?」と僕の肩を揺らして、そのまま抱きしめた。


 ギュウ


「違いますよ、マール」


「…………」


「貴方のせいではありません。悪いのは、魔の眷属です。貴方は何も関係ありません」


「……う、ん」


 僕は頷いた。


 でも、心は納得していない。


 自分の罪深さに震えて、手足の指に力が入らなかった。


 キルトさん、ソルティスは困った顔。


 ポーちゃんは、励ますように僕の背中をポンポンと叩く。


 すると、


「いや、逆なんよ?」 


 と、ラサラキプトさんが意外そうに言った。


 え……?


(逆って?)


 僕らは彼女を見てしまう。


 狼獣人の彼女は、


「むしろ、マールはんの存在が、テテトの人々を守ったんよ」


 と、白い歯を見せて笑った。


(僕が……?)


 テテトの人々を守った?


 意味がわからない。


 そんな僕に、テテト連合国の『金印』は言う。


「連中は、自分たちの主人を滅ぼしたマールはんの存在を脅威に思ってるんよ。だから、何よりも優先して狙おうと動いてるんよ」


「…………」


「でも、もしマールはんがいなかったら?」


「…………」


「きっと連中は、殺人人形をテテト中にばらまいてたんよ」


「…………」


「そうなったら、もっと多くの犠牲が出てたんよ。下手したら、テテト連合国は壊滅してたかもしれないんよ? ……わかる、マールはん?」


「…………」


「偉大なる神狗マール、その存在が連中の心に楔を打ち込んでるんよ。だから今、テテトは滅んでないんやよ?」


 彼女の赤い瞳は、僕を見つめた。


 慰めじゃない。


 嘘でもない。


 ラサラキプトさんは本気でそう思っていると伝わってきた。


(……うん)


 僕は頷いた。


 彼女の言葉の熱が、僕の心に届いていた。


 イルティミナさんも「そうですよ」と力強く言葉を重ね、ソルティスとポーちゃんも大きく頷く。


 キルトさんも頷いた。


「そうじゃな」


「…………」


「魔の眷属にとって、そなたは何よりも世界を滅ぼすためには邪魔なのじゃ。ゆえに、決して無視できぬ」


「…………」


「それに現実、こうしてそなたは今、期せずとも連中の企みを潰そうとここにいるしの」


 クシャッ


 彼女の手が、僕の髪を撫でた。


 笑って、


「『世界の守護者』……そなたは、そんな存在なのじゃ、マール」


 と言った。


 僕が……世界の守護者?


 その大袈裟な物言いに、僕はポカンとしてしまう。


 僕の奥さんは、


「もうっ……マールに余計な重荷を負わせないでください。この子はただのマールです。そうした役目はご自分で背負いなさい、キルト」


 と、銀髪の美女を睨んだ。


 キルトさんは苦笑。


「本人の意思は関係ない。マールは生きているだけで、そうなる運命なのじゃろうよ」


「…………」


「わらわたちにできるのは、それを手助けすることだけじゃ」


「私は信じません」


「イルナ」


「仮にそれが本当だとしても、マールが望まぬ限り、私がその運命を砕いてみせますよ」


「……そうか」


 断言する僕の奥さんに、キルトさんも頷いた。


 そんな2人の美女のやり取りに、ラサラキプトさんは目を丸くしていた。


 彼女の紅い瞳が、僕を見る。


 クスッ


 小さく笑って、


「愛されてるんやね、マールはんは」


 と囁かれた。


(あはは……)


 何と答えていいかわからず、僕は曖昧に笑った。


 少し恥ずかしい。


 でも、嬉しい。


 だから僕は、イルティミナさんの手に自分の手を重ねて、


 ギュッ


 と、強めに握った。


 それに気づいて、彼女はこちらを見る。


 嬉しそうに頷いて、「ふふっ、大丈夫ですよ、マール」といつものように微笑んでくれたんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 目的の村までは、10日の距離だという。


 北上するにつれ、外の気温は大分下がって、夜には肌寒くなるほどになった。


 それでも夜は、野宿を行う。


 本当は宿屋などに泊まりたかったけど、ここはもうテテトのかなり北部で魔血差別の激しい地域だったため、町や村には立ち寄れなかったんだ。


 イルティミナさんは、


「苦労をかけてごめんなさいね、マール」


 と、申し訳なさそうに微笑んだ。


「ううん」


 僕は首を振る。


 絶対に、イルティミナさんたちが悪い訳じゃない。


 差別をする世間の方がおかしいのだ。


 いつか差別をしない人々の心が、テテト連合国の全土にも広がって欲しいな。


 …………。


 その日も、野宿を行った。


 まだ目的地まで日数もある。


 体力にも余裕があったので、その夜は、キルトさんと軽く剣の稽古をしたりもした。


 すると、


「なんか、楽しそうやね」


 と、眺めていたラサラキプトさんが呟いた。


(ん?)


 それを聞いたキルトさんは、


「ならば、そなたもやってみるか?」


「アチキも?」


「そうじゃ。マールにとっても良い経験となるじゃろう」


「あはは、弟子思いやね」


「どうする?」


「ん、そやね。せっかくだし、やってみるんよ」


 と、彼女は了承した。


(わぁ……)


 まさか、テテト連合国の『金印の魔狩人』と手合わせできるなんて……ありがたい出来事だ。


 僕らは向き合う。


「お願いします」


 頭を下げて、2本の剣を構えた。


 ラサラキプトさんも「よろしくなんよ」と微笑み、金属の棒を構え、ガシャンと戦斧の刃を展開した。


 他の4人も、興味深そうに見ている。


(……ん)


 向き合うだけで、痺れる圧を感じる。


 ――強い。


 それがわかる。


 当然だ、相手は格上なのだから。


 僕は息を吸い、


 タン


 と、踏み込んだ。


 そうして、彼女の戦斧と2本の剣を交える。


 カィン キィン


 数合の剣戟。


 でも、それだけで彼女の技量を感じた。


 彼女の振るう戦斧は、どれだけ速く動こうとも確実に芯の部分を当ててくるので、妙に重さがあった。


 逆に、


(く……っ)


 僕の攻撃は、芯を外して受けられる。


 おかげで力が乗らない。


 そのため、こちらの攻撃は簡単に受け止められてしまう。


 当て感……というのかな?


 それが異常に上手い。


 自分の力を十全に発揮して、相手の力を半減させる戦い方は、これまで戦ってきた強者の誰とも違っていた。


 凄くやり辛い。


 ラサラキプトさんは、笑っている。


(……そっか)


 あの地下洞窟で、彼女がキルトさんと互角に戦えていたのは、この技術があったからなんだ。


 僕は、そう気づいた。


 彼女は『魔血の民』じゃない。


 そもそも、魔血差別の強いテテト連合国では、『魔血の民』が『金印の冒険者』に選ばれることはないらしい。


 つまり、彼女は普通の人間なんだ。


 もちろん身体能力の高い獣人ではあるけれど、でも、それだけでキルトさんの超人的な身体能力に追いつける訳もないのだ。


 それでも互角に戦えた。


 その秘密が、この自分の長所を生かし相手の長所を殺す技術なのだ。


(……凄いな)


 魔血がないことは、戦士としての生まれながらのハンディだ。


 でも、それを補う能力がある。


 それは、アルン神皇国の常勝無敗の大将軍アドバルト・ダルディオスも同じだったように思う。


 僕にも、魔血がない。


 だからこそ、ハンディを負いながらも人類最高峰に到達したラサラキプトさんの強さには、深い感動と敬意を覚えるんだ。


 キィン


 やがて、彼女の戦斧は僕の2つの剣を弾き、僕の喉に当てられた。


 うん、完敗だ。


 でも、短い稽古だったけど凄く学べた。


「ありがとうございました」


 僕は、ラサラキプトさんに深く頭を下げた。


 彼女は微笑み、頷く。


「マールはんの剣は、素直で気持ちのいい剣やね」


「…………」


「でも、1つでも間違えたら、全てを斬り裂かれそうな恐ろしさも秘めていたんよ。本当に強かったんよ、マールはん」


 そう褒めてくれた。


(嬉しいな)


 多少、お世辞もあるかもしれない。


 でも、本当に強い人に褒めてもらえるのは、やっぱり嬉しかった。


 キルトさんも満足そうだ。


 ソルティスも剣士としての実力ができてきたからか、「むぅ……」と、今のレベルの高さに気づいたように唸っていた。


 真似っ子ポーちゃんは、相棒のその口の形を真似していた。


 そして、イルティミナさんは、


「がんばりましたね、マール。よかったですよ」


 ギュッ


 僕を抱きしめ、労うように髪を撫でてくれた。


(あはは……)


 そんな僕ら夫婦に、ラサラキプトさんは目を丸くして、すぐに「仲良しやねぇ」と笑った。


 …………。


 その日の野宿も、そんな風に過ぎていく。


 やがて何事もなく朝を迎えると、僕らは竜車に乗って、再び街道を北上していったんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 竜車の旅は続く。


 その車内で、ラサラキプトさんは、


「今の内に、アチキが戦った『古代の魔法人形』についてを教えとくんよ」


 と、言った。


 僕らは頷いた。


 古代の魔法人形。


 それは、400年前、タナトス魔法王朝の時代に造られた魔力で動く人形だ。


 大きさは、約1メード。


 見た目は人型。


 前世でいう土偶や埴輪に似ている外見かもしれない。


 武器は、手の爪。


 3本の指の先端にあるそれは、鋭利な刃にも土を掘るドリルにもなるという。


 それ以外にも、


「口から、溶解液を吐くんよ」


 と、ラサラキプトさんは自分の口を開けて指で示しながら、そう教えてくれた。


 溶解液……?


 僕らは驚いた。


 それは、人体を簡単に溶かしてしまうという。


 いや、人体だけでなく、衣服や地面の岩なども溶けていたそうだ。


 謎の穴の表面が硬く固まっていたのは、その溶解液で溶かされ、固まった結果だったのかもしれない。


 ただ、人形の材質は溶かさない。


 なので、同士討ちなどは起きないそうだ。


(爪と溶解液……か)


 厄介と言えば厄介だけど、わかっていれば対処もできそうだね。


 キルトさんは、


「奴らの運動能力はどうなのじゃ?」


 と聞いた。


 ラサラキプトさんは「それなりやね」と答えた。


 ゴブリンや邪虎など、小型の魔物と同程度の素早さはあるらしい。


 でも、動き自体は単純。


 とにかく目標に対して直線的に、止まることなく全力で襲ってくるだけなんだって。


 思考能力は低いみたい。


 やっぱり人形だからかな?


 ただ、


「厄介なことに、爪を使って壁や天井も移動してくるんよ。そこは注意やね」


 とのことだ。


 3次元の動き、か。


 それは確かに気をつけないといけないね。

 

 その助言に、僕らは頷いた。


 そんな僕らに、ラサラキプトさんも頷く。


 それから、


「それと1番の注意点は、連中には魔法が通じない(・・・・・・・)んよ」


 と続けた。


(え……?)


 思わぬ言葉に、僕らは呆けた。


「素材か、表面の紋様のせいかわからんけど、魔法攻撃は全て無効化されてしまうんよ。もちろん、タナトス魔法武具の魔法も通じんよ?」


「…………」


「だから、倒すには物理攻撃で倒すしかないんよね」


 そう、なんだ。


 それは、かなり厄介だ。


 魔法なら1発で広範囲を攻撃できるから、多数の敵には有効なんだ。


 でも、それができない。


 地道に1体ずつ、剣などで倒していくしかなくなる。


 魔法が得意なソルティスなんかは、特に渋い顔で「むむぅ……」と唸っていた。


 ラサラキプトさんは言う。


「多分、この人形たちは古代の兵器だったと思うんよ」


「…………」


「400年前、魔法全盛の時代だからこそ、魔法の通じないこの人形たちは戦時ではかなり有効やったと思うんよね」


「……うん」


 確かに、そうかも。


 魔法文明のタナトス時代なら、現代よりも脅威だったろう。


(いや……)


 今でも充分、脅威ではあるけれど。


「それと、人形の中にね。2体だけ、人間サイズの大型の奴もおったんよ」


「え?」


「多分、司令官やね」


「…………」


「他と比べて、そいつらは、結構強かったから気をつけるんよ」


「うん」


 2体の司令官、か。


 こいつらにも注意しないとだね。


 ラサラキプトさんは、


「相手は人形やから、ミスもしないし疲れることもない。その上、何千体もの数で波状攻撃をしかけてくるんよ」


「…………」


「だから、勝負は持久戦。その覚悟はしとくんよ?」


「うん」


 僕は、大きく頷いた。


 他の4人も、しっかりと頷いていた。


 とても重要な情報ばかり。


 でも、これは全て、ラサラキプトさんが実際に戦って、だから得られた命懸けの情報なんだ。


 何も知らずに戦ったら……?


 僕らは、かなりの苦戦を強いられていたかもしれない。


 最悪、負けていたかもしれない。


 それを考えると、これだけの情報をたった1人で手に入れ、持ち帰ってくれた彼女には本当に感謝しかなかった。


 テテト連合国でただ1人の『金印の魔狩人』。


 ラサラキプト・ドーラクス。


 うん、本当に凄い人だ。


 思わず、彼女の美貌を見つめてしまう。


 それに「ん?」と気づいて、ラサラキプトさんはフサフサした尻尾を揺らすと、僕にニコッと微笑んだんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 人形の話を聞いたあと、


「それでラサラキプト、『魔の眷属』はどんな連中であったのじゃ?」


 と、キルトさんが聞いた。


(!)


 僕は、ハッとする。


 みんなの視線が集まり、狼の獣人さんは頷いた。


「数は5人」


「…………」


「全員、気配が尋常じゃなくて、実際に戦ったのは2人だけなんやけど、とても5人は無理と思ってすぐに逃げたんよ」


 うん、それで正解だと思う。


 刺青をした魔の眷属。


 その正体は『闇の子』に、眷属にされた元人間だ。


 でも、心の内に深い負の感情を秘めている。


 その結果、より強力な魔物に変身できる能力を有していて、その実力は最低でも『銀印』と互角かそれ以上なんだ。


 1年前の竜国戦争の元凶。


 闇の竜王オルガード。


 奴も、そんな『魔の眷属』の1人だった。


 それが5人。


 いくら『金印の魔狩人』でも1人で相手をするのは無謀である。 


 だから、すぐに戦略的撤退を決断したラサラキプトさんは、実に英断だったと思う。


 キルトさんも、


「逃げて正解じゃ」


 と頷いた。


 ラサラキプトさんも頷いて、


「いたのは、男3人、女2人。アチキを追ってきたのは、男2人」


「ふむ」


「1人は下半身が蜘蛛に変身して、もう1人は3つ首の狼になったんよ。どっちも強くて、正直、よく逃げ切れたと思うんよ」


「そうか」


 キルトさんは考え込む。


 魔物の正体を想像し、どう戦うかシュミレートしているのかもしれない。


 僕は聞く。


「5人は、何をしてたの?」


「人形を製造する装置を動かしてたみたいやったんよ」


「装置?」


「そやよ。洞窟の遺跡の中にあって、連中が400年眠ってたその装置を起こしたんやと思う」


「じゃあ……」


「そやよ、多分、連中が今回の事件の首謀者やよ」

 

 彼女は、そう断言した。


 やっぱりか……。


 魔に魅入られた彼らは、本当に世界に災いを起こそうとする。


(…………)


 頭の中では、黒い少年が笑っていた。


 赤い三日月の笑みで。


 あぁ……もう!


 4年も前に倒したのに、今だにアイツの残した悪意は世界で芽吹き続けている。


 本当になんて嫌な奴なんだ。


 ギュッ


 僕は唇を噛み、両手を握り締めてしまった。


 気づいたイルティミナさんが「マール……」と僕の肩を抱き寄せ、気持ちを落ち着けるように優しく髪を撫でてくれた。


 うん、ありがとう……。


 息を吐き、僕も微笑んだ。


 それに、イルティミナさんも微笑んでくれた。


 ソルティスは、そんな僕らを眺める。


 それから、


「それにしても、5人の『魔の眷属』に『古代の魔法人形』か……。私たちだけで勝てるかしら?」


 と、呟いた。


 確かに、敵は強い。


 数もいるし、厳しい戦いにはなりそうだった。


(でも、やらなきゃ)


 そうしなければ、平和に暮らしていた多くの人が犠牲になる。


 そんなの駄目だ。


 絶対に。


 厳しくても、やるしかないんだ。


 キルトさんも、


「やらねばならぬ」


 と、鉄の声で言った。


 そして、


「じゃが、連中を倒す必要は必ずしもないじゃろう」


 とも続けた。


(え……?)


 僕は呆けた。


 みんなも驚いたように銀髪の美女を見る。


 彼女は言う。


「今、わらわたちがすべきは、人形の製造装置の破壊じゃ。それさえ成せば、最悪、これ以上の被害の拡大は防げるからの」


「あ……」


「無論、今後を考えれば、連中も倒したい」


「…………」


「じゃが、優先順位はつけておかねばならぬ。現状の最優先は、装置の破壊じゃ。奴らを無理に倒す必要はない」


「うん、そうだね」


 キルトさんの言う通りだ。


 倒せるなら倒しておきたいけど、それは二の次だ。


 今は、テテト連合国を救う。


 そのために、古代の魔法人形がこれ以上、生み出されないようにすることが重要なんだ。


 ラサラキプトさんも「そやね」と同意した。


 ウォン姉妹とポーちゃんも頷く。


 キルトさんも頷いて、


「連中も、さすがにわらわたちが動いていることまでは気づいていまい」


「…………」


「後手に回るのは連中じゃ。こちらの勝機は、充分にあるぞ」


 と、頼もしい笑みを見せた。


 僕らも笑った。


 …………。


 決戦までは、もう少し。


 旅の間、僕らはどう戦うか、色々と話し合った。


 そして10日後、僕ら6人は目的の村へと到着し、地下洞窟の遺跡を目指していくことになったんだ。

ご覧いただき、ありがとうございました。


次回更新は、今週の金曜日を予定しています。



また先週金曜日、マールのコミカライズ第8話が公開されました。


今回もあわや先生に素敵に描いて貰えました。


よかったら漫画となったマールとイルティミナの姿をどうかご覧になってみて下さいね。


URLはこちら

https://firecross.jp/ebook/series/525


最新話など無料ですので、ぜひお気軽に楽しんで頂けましたら幸いです♪

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