703・海中遺跡
リニューアルされて投稿手順が代わり、悪戦苦闘……(汗)。
何とか間に合いました。
第703話になります。
よろしくお願いします。
翌日の早朝、僕らは1隻の漁船に乗って、セントルーズ湾を出発した。
ドドドッ
青い海原に、魔導エンジン音が響く。
(……ん)
風が気持ちいいや。
漁業ギルドが用意してくれた船は、全長30メードほどだ。
船尾に網を引き揚げるクレーン装置があって、それ以外にも、船首と船尾に銛を撃ち出す砲台みたいな物も装備されている。
砲台は、漁のためではない。
対魔物用の自衛のための装備だそうだ。
危険なこの世界の漁師たちは、こうした武装した船で漁を行うんだね。
ザパァン
波を砕きながら、船は進む。
意外と船は上下に揺れて、僕とソルティスなんかは船酔いしないよう、なるべく遠くの景色を眺めながら乗船していた。
幸いにも天気に恵まれて、空は憎いくらいの快晴だ。
(……うん、暑い)
朝から汗を流している僕らである。
やがて、昨日のギルド長が話していた通り、10分ほどで目的の海域へと到達した。
360度、海が広がる。
……ここ?
遠くには、セントルーズの街とその海岸線が見えていた。
50代ぐらいの船長さんは、
「遺跡があるのは、この真下だな。だが、龍魚なんかが回遊している海域でもある。本当に気をつけろよ?」
と、渋い顔で警告してくれた。
僕らは頷く。
こっちは凄腕の魔狩人集団。
とはいえ、地上と海中では勝手が違うし、戦闘はできる限り避けた方が無難だった。
「はい、マール」
イルティミナさんが、小さな布袋を渡してくれる。
中には、香草が入っていた。
これが水に溶けると、魔物が嫌がる匂いがするらしくて、魔物が近寄ってこないらしいんだ。
もちろん、限度はある。
この香草を持っていても、襲われることもあるそうだ。
でも、ないよりはマシ。
僕ら5人は、それを腰ベルトや水着などに括りつけ、その上でそれぞれの武器を装備した。
準備が整うと、
「よし。皆、気を引き締めていくぞ」
と、黒い水着に槍斧を手にしたキルトさんが、船首から僕らを見回した。
僕らも「うん」と頷く。
目的は、まず海中の遺跡まで辿り着くこと。
魔物があまりに多くて、僕らの手には負えないと判断されたら、すぐに引き返すことにもなっていた。
辿り着けたら、遺跡の内部確認。
そして、目的の『光の昆布』と『蒼白の花苔』がないか、その捜索だ。
ただし、時間は5分間。
ソルティスの魔法のタイムリミットだ。
もしかしたら、船と海中を何回か往復して、遺跡の探索を行うことになるかもしれないね。
…………。
その辺の意思確認を、僕らは再度、行った。
そして、ソルティスが『竜骨杖』の魔法石を輝かせて、僕らの額をコツ、コツ、コツ……と軽く叩いていく。
(ん……)
頭部に空気の膜ができたのを感じる。
僕らはお互いの顔を見た。
銀髪の美女が頷き、
「よし、行くぞ!」
タン
船首の甲板を蹴って、煌めくポニーテールの銀髪をなびかせながら、その身を空中へと舞わせた。
ザパァン
華麗な飛び込みで、海中へ。
(よし!)
僕も気合を入れて、船の甲板を蹴る。
タン
数秒の浮遊感。
直後、僕は爪先からザパン……と、海中に飛び込んだ。
気泡が湧き、それも頭上に消えていく。
透明な青い海中にはキルトさんが浮かんでいて、そして、僕の周囲に次々とイルティミナさん、ソルティス、ポーちゃんの3人も飛び込んできた。
5人全員、海の中だ。
キルトさんが頷き、
クン
真下の海域を、黒い槍斧の先端で示す。
僕らも頷いた。
そして、キルトさんを先頭にして、僕ら5人は海の深みへと潜っていったんだ。
◇◇◇◇◇◇◇
透明度の高い海を沈降していく。
見える世界は青く、下方に行くほど、太陽の光が届かないのか色が濃くなっていく印象だ。
音はない。
静謐な世界は、ある意味、安らぎに似た感覚をもたらした。
そんな中、
グッ
突然、近くを泳いでいたイルティミナさんに腕を引かれた。
(ん……?)
彼女を見る。
長い髪を海中に揺蕩わせ、白い水着を着たまるで人魚みたいな美女は、けれど、美貌を険しくしながら後方の海を白い槍で示していた。
僕もそちらを見て、
(!)
思わず、大きな声を出しそうになった。
その蒼い海の中を、1体の龍魚が泳いでいる姿があったんだ。
体長は、3メード強。
見た目はワニに近く、その4つの足がヒレに変わったような姿だ。
前世の世界で言うなら、映画などで目にした人もいるかもしれない、海の恐竜モササウルスに酷似していると言えばわかり易いかもしれない。
僕らは、他の3人の手も取る。
言葉は喋れないので、視線と武器の先だけでその存在を示し、知らせた。
キルトさんは表情を厳しくする。
ソルティスは緊張した顔で、ポーちゃんは、そんな少女を庇うような位置に移動した。
「…………」
僕も武器を手に、戦いに備える。
距離は20メード以上、離れていた。
ただ、向こうがその気になれば、一瞬で距離を詰められてしまうだろう。
すると、その時、
グイッ
イルティミナさんが僕を、キルトさんがソルティスとポーちゃんを自分たちの方へと引き寄せた。
5人で1つの塊になる。
(?)
どうしたの?
そう思いながら、ふと自分たちを客観的に見て気づいた。
あ、そうか。
5人で集まることで、より大きな1つの生物みたいに見せかけているんだ。
よく小魚たちがやる奴だね?
それが功を奏したのか、あるいは魔物除けの香草の効果があったのか、たまたま龍魚にやる気がなかったのか……。
その危険な魔物はしばらく周囲を泳いだあと、音もなくどこかに消えていった。
(…………)
こ、怖かった。
自由に動けない水中で、捕食生物に出会うというのはこんなにも怖いのか。
ドクドク
鼓動がかなり速くなっている。
ふぅ……落ち着け、落ち着け。
見れば、4人の表情にも安堵の色が滲んでいた。
あのキルトさんでさえ、だ。
それだけ水中で魔物と遭遇するというのは危険な状況なのだろう。
……うん。
僕らはお互いの顔を見て、頷き合う。
ひとまずの危機は去ったけれど、この先も何があるかわからない。
僕らは慎重に、5人で1つになったまま、蒼い海の深みへと泳いでいった。
◇◇◇◇◇◇◇
(あ……)
しばらく進むと、目的の場所が見えた。
青い海の底に、街がある。
規模は、セントルーズの街と同じぐらい。
それは巨大な岩盤が崩れ、その上にあった街ごと海中に沈んでしまったような感じだった。
あぁ、なるほど。
セントルーズの街は、渓谷にあった。
その渓谷部分に、本来、この海中遺跡の岩盤があったんだ。
遥か昔に大地が隆起し、その影響で地割れが起きて岩盤が剥がれ、その上の古代の都市ごとこの海中に沈んでしまったんだね。
何となく、その想像ができてしまった。
しばらく、その海中の遺跡を見つめる。
地上にあった建物によく似た石造りで、地上の物ほど風化はしておらず、けれど、海草やフジツボみたいな貝がたくさん張りついていた。
また、街の通りや噴水みたいな構造も、上からよく見えた。
ただ、岩盤の落下の衝撃で砕けたのか、大きな地割れのできている地面も多かったけれど……。
(あるかな?)
目的の『光の昆布』と『蒼白の花苔』が。
それを確かめるためにも、僕らは、その海中遺跡の街へと入ってみようとする。
眼下の街へと近づこうとして、
(!)
けれどその寸前、気づいた僕らは、慌ててその場に停止した。
全員が青ざめていた。
街の通りに、建物の窓や出入り口に、たくさんの龍魚や鬼蜘蛛大蛸、他にも様々な海の魔物たちの泳いでいる姿があったんだ。
(何だ、これ……?)
まるで海の魔物の街だ。
街の住人が、地上から海に落ちたことで、人間から魔物に代わってしまったみたいだ。
……恐ろしい。
あんな中に迂闊に入ったら、一瞬で群れに食い殺されてしまうぞ。
近づくなんて、絶対に無理だ。
(なるほど)
ギルド長さんの言っていた意味がようやくわかった。
これじゃあ、漁師さんたちだって来る訳ない。
でも、だからこそ、ここになら手つかずのまま、『光の昆布』と『蒼白の花苔』が残っている可能性もあった。
(う~ん?)
どうしよう?
魔物の少ない場所を探して、なんとか近づいてみるかな?
そう考えていると、
ツンツン
(ん?)
ソルティスに腕をつつかれた。
彼女は形の良い顎を動かして、白い『竜骨杖』の先端を街の奥へと向けた。
そこに視線を送る。
街の中央らしい場所に、塔があった。
街の行政施設だったのかな?
他の建物よりも頑丈そうな造りで、海中落下の衝撃で倒壊した様子もなく、400年間、この海の中にそびえていたみたいだ。
そして、不思議と魔物の姿がない。
(ふむ……?)
意外と魔物は、海底側に集まるのかもしれない。
あるいは、あの塔自体に何らかの作用があって、魔物を遠ざけているのだろうか?
彼女の目が訴える。
『あそこに行ってみましょう?』
『うん』
僕も頷いた。
他の3人にも意思は伝わったみたいで、彼女たちも頷いた。
僕らは、あの塔へと向かった。
しばらく泳ぎ、到着する。
近づいてみると、塔は少し傾斜しているとわかった。
それでも高さは20メード以上。
窓などは何もなく、外から中の様子はまるでわからない。
そして、不思議なことに、やっぱりこの塔の周辺だけ魔物の姿が1体も見当たらなかったんだ。
(何なんだろう?)
好奇心と不安、両方がくすぐられる。
クイッ
イルティミナさんが僕の腕を軽く引き、その『白翼の槍』の先端で塔の一角を示した。
(あ……)
塔の根元付近の外壁に、亀裂があった。
見たところ、他に出入り口らしい場所は見当たらない。
5人で顔を見合わせる。
(うん)
僕は頷いた。
『中に入ってみよう!』
そう意思を込めて、他の4人を見返した。
4人も頷く。
全員、同じ気持ちだったみたいだ。
通じている心が嬉しくて、僕らは、こんな危険な海の中だというのに、みんなで笑い合ってしまった。
…………。
そして僕らは水を蹴り、5人で1つになって謎の塔の亀裂へと泳いでいったんだ。
ご覧いただき、ありがとうございました。
※次回更新は、来週の月曜日を予定しています。どうぞ、よろしくお願いします。
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