702・海辺の古代遺跡
第702話になります。
よろしくお願いします。
「――ここかぁ」
渓谷の頂上に着いた僕は、そんな呟きをこぼした。
目の前には、石造りの古代遺跡の建物が100軒ほど、広い範囲に点在していた。
セントルーズの古代遺跡群。
それは今から400年前、古代タナトス魔法王朝末期から崩壊後の世界に造られた建築物の集まりなのだとか。
(なるほど)
確かに古い建物らしく風化している。
遺跡群の大半は、天井と外壁が崩壊していて、残っているのは土台と柱だけといった状態の物も多かった。
でも、これまでいくつかの遺跡を目にして来たけれど、ここまで風化が進んでいる遺跡は、僕の経験上でも初めてだった。
(何で、こんなに損傷してるんだろう……?)
そう首をかしげる。
すると博識少女のソルティスが、
「ここって崖の上でしょ? しかも海だから、遮るものがなくて風が強いのよ。しかも塩害で腐食も進むしね」
「そうなんだ……」
「あとは王国も保護しなかった、ってのもあるかしら」
「保護しなかった?」
「そ」
彼女は肩を竦め、頷いた。
遺跡の柱の1つに手を触れて、
「今の私たちみたいに誰でも触れる状態でしょ? だから、自然とね」
「…………」
「この年代の遺跡って、実は数が多いのよ。だから、調査が終わったあとは特別な規制もされなくて、より風化が早まった感じかしらね」
「……そっかぁ」
つまり、人災の面もあるんだね。
古代遺跡。
それはロマン溢れる感じだけど、全てを保護、保存はできないもんね。
理解はできるけど、少しだけ寂しかった。
イルティミナさん、キルトさん、ポーちゃんの3人もどこか切なそうに、青空の下の古代遺跡の建物たちを見つめていた。
僕もその1つに近づく。
(……えっと)
ここが玄関、かな?
この廊下を進むと、この辺がリビングで、こっちが寝室。
これは、トイレ?
よく見たら、ちゃんと上下水道が通じるパイプの穴があって、高度な文明の名残りみたいなものも感じられた。
それはそうだ。
前世と違って、この世界は400年前の方が発展していたんだから。
(ふむふむ……)
古の時代に思いを馳せながら、僕は土台の上を歩く。
そんな僕の後ろを、イルティミナさん、キルトさん、ソルティス、ポーちゃんの順番で4人はついて来ていた。
あ、これ椅子とテーブルかな?
素人なので詳しくわからないけど、石と木と金属の複合された家具っぽい。
多分、ここで食事してたんだろうね。
ポフッ
椅子の1つに座る。
拍子に、少しだけ砂埃が散った。
そんな僕を見て、イルティミナさんが微笑みながら、隣の椅子へと腰を下ろした。
他の3人も座る。
僕の奥さんは、
「さて、マール? 今日のお昼は何が食べたいですか?」
なんて聞いてきた。
(あはは……)
僕もつい笑ってしまった。
うん……きっと400年前の人たちも、ここでこうして食事をしてたんだろうね。
キルトさんも穏やかに笑っている。
ソルティスは『やれやれ』といった表情で、おままごとを始めた僕ら夫婦に肩を竦め、苦笑を浮かべていた。
真似っ子のポーちゃんも、相棒と同じように肩を竦める。
僕は視線をあげる。
遺跡群の向こうには、渓谷の斜面に沿って造られたセントルーズの街並が見え、その向こうには青く輝く大海原が広がっていた。
凄くいい景色だ。
暑さの中、吹き寄せる海風も心地好い。
僕は青い瞳を細めて、
「……400年前の人たちも、ここの海で魚を取って食べてたのかな?」
と呟いた。
他の4人も、眼下の海を見る。
紫色の髪の博識少女が頷いた。
「えぇ、そうでしょうね。実は400年の間に大地が隆起したけれど、元々、この遺跡群はもっと海に近い場所にあったのよ」
「そうなの?」
その事実に、僕は驚いた。
ここはかなりの高台だ。
でも、昔は海面に近い高さにあったという。
何だかイメージが湧かなかった。
ソルティスの人差し指が目前の海を示して、
「昔の調査でわかったんだけど、ここの遺跡はね、本来、あの海の辺りまで続いていたの。だから、海の底にはここと同じような古代遺跡群があるはずなのよ」
「へぇ……」
僕らも青い海原を見てしまう。
あの下に、400年前の建物たちが沈んでいるのか。
海中の古代都市。
うん、なんかロマンだね。
「見てみたいな」
僕は、正直に願望を口にした。
キルトさんが頷く。
「漁業ギルドに頼めば、その遺跡の海上まで船を出してくれるかもの」
「本当?」
「ま、2つの素材を探すためとして、船をチャーターすればよかろう。難題を押しつけたのはコロンじゃ。必要経費として、少しばかり搾り取ってやろうかの」
クククッ
ちょっと悪い顔で笑う鬼姫様だ。
それには、僕ら4人も何とも言えない顔になってしまう。
でも、見学したいのも本音。
…………。
そんな訳で、僕らはもう1度、漁業ギルドの建物へと戻ることになったんだ。
◇◇◇◇◇◇◇
先程、別れたばかりなのに、僕らはもう1度、漁業ギルド長さんに面会を申し込んだ。
なんだか申し訳ない。
でも、ギルド長さんは時間があるからと快く面会に応じてくれた。
(よかった……)
そうして僕らは、ギルド長さんと再び応接室で会うことになった。
僕らの代表となるキルトさんから、この近海に古代遺跡があるかどうか、そこまで船を出してもらえるかどうかを確認した。
すると、
「あぁ、あったな、そういや。海の遺跡だろ?」
と、彼はあっさり存在を認めた。
場所も把握しているらしく、セントルーズの港から船で10分ほどの海域にあるそうだ。
意外と近いかも……?
驚きつつ、でも、それなら見学のための船も出してもらえそうだな、と思った。
だけど、
「船は出せるが、見学は無理だと思うぜ」
と、ギルド長さんは首を振る。
(え……?)
なんで?
僕らが唖然となっていると、彼は教えてくれた。
海中遺跡は水深30メードほどの海底にあるそうなんだけど、そこは海の魔物がたくさん回遊している危険地帯なんだそうだ。
だから、地元の漁師も潜らない。
過去には、死者も出たんだって。
(そ、そっかぁ)
思った以上に危険な場所みたいだ。
海中遺跡の建物自体はしっかり残っているそうなんだけど、そこまで危険を冒していく価値があるかは、ギルド長さんも疑問なのだそうだ。
話を聞いた僕らは、顔を見合わせる。
「どうする?」
ソルティスが嫌そうに言う。
目的は、ただの観光。
そこまでして見たいとは思わない、そんな感じだ。
キルトさんも「ふむ」と腕組みして考え込んでいるけれど、ソルティスと同じ方向の考えをしている気がする。
ポーちゃんも腕組みするけど……うん、彼女はただの真似っ子だ。
何も考えてないね?
そして、僕の奥さんは、
「マールはどうしたいですか?」
と、優しい表情で訊ねてきた。
(う~ん)
正直、僕もそこまで危険を冒して見に行きたい訳じゃないんだ。
だから、やめてもいいと思う。
思うんだけど、
「…………」
何だろう、何かが引っ掛かって、断る言葉が出てこない。
何で……?
海中の遺跡。
水深30メード。
危険で、ここ数年、誰も潜っていない。
(!)
僕はハッと気づいた。
その思いつきを口にする。
「誰もその海中遺跡に入っていないなら、もしかして、その遺跡の中なら『光の昆布』と『蒼白の花苔』がまだ生えているかも?」
「え?」
「む?」
「は?」
「…………」
3人は驚いた顔で、1人は無表情で僕を見た。
すぐソルティスが「そっか」と呟く。
「あり得るわ。遺跡の中なら、異常気象による水温の変化も少ないかもしれない。それなら、2種類とも生き残っている可能性も高いかもしれないわ!」
その瞳が輝いている。
敬愛するコロンチュード様からの依頼が果たせる、その希望が見えた光だ。
キルトさんも「なるほどの」と頷いた。
イルティミナさんは僕の髪を撫でて、柔らかく微笑んだ。
「さすが、マール。素晴らしい着眼点ですね」
「えへへ……」
褒められて、僕も嬉しい。
ポーちゃんも腕組みしたまま、偉い人みたいに『うんうん』と頷いていた。
パン
キルトさんが膝を打ち、
「よし、せっかくじゃ、行ってみるかの」
と宣言した。
漁業ギルド長さんは『正気か?』と驚いた顔だ。
けれど、こちらが『金印の魔狩人』と『銀印の魔狩人』、そして『英雄の鬼姫様』の集団だと思い出して、自分の常識を無視することにしたみたいだ。
彼は両手をあげて、
「わかった。なら、船は用意しておくぜ?」
「うむ、頼もう」
銀髪の美女も力強く頷いた。
海の魔物は、種類にもよるけれど、夜明けの時間が1番活動が低下するという。
なので、船を出すのは、翌日の早朝と決まった。
早速、船を借りる手続きを行う。
ギルド長さんの秘書が書類を用意してくれて、キルトさんが代表として、署名などをしてくれる。
その間に、僕はイルティミナさんに言う。
「2つの素材、見つかるといいね」
「きっと見つかりますよ。だって、マールが気づいたんですから。私はそう信じています」
彼女は、そう笑った。
凄くいい笑顔。
うん、本当にそう信じてくれているみたいだ。
僕自身は、そこまで信じていないんだけど、でも、彼女のその信頼が嬉しくて、こちらも笑ってしまった。
夫婦で笑顔を交わして、
キュッ
お互いの手を握り合う。
やがて手続きも終わり、僕ら5人は明日、その海中遺跡に潜ることが正式に決まったんだ。
ご覧いただき、ありがとうございました。
次回更新は、今週の金曜日を予定しています。どうぞ、よろしくお願いします。
こっそり新作も連載中。
『異世界に転生した僕は、チートな魔法の杖で楽しい冒険者ライフを始めました!』
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