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【書籍化&コミカライズ!】少年マールの転生冒険記 ~優しいお姉さん冒険者が、僕を守ってくれます!~  作者: 月ノ宮マクラ


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75/825

075・キルトさんの部屋!

第75話になります。

よろしくお願いします。

 深夜の王都ムーリアに、帰ってきた。


 さすがにこの時間だと、王都名物の渋滞も緩和され、門前で30分ほど待っただけで入都することができた。うん、今更、何時間も待ちたくなかったから、本当に良かったよ。


 馬車の中では、イルティミナさんの膝を借りて、仮眠した。


(……膝枕って、凄いよね)


 ごめんね、葉っぱ布団。

 僕はもう、君に戻れなくなってしまった気がするよ。あんなに柔らかくて、幸せな枕がこの世にあったんだね。


 前世も含めて、世界一の枕です。


 さて、そうこうしながら、僕らは無事に、冒険者ギルド『月光の風』へと帰還した。


 ギルドは24時間、やっている。


(でも、さすがに、人は少ないかな?)


 昼に比べて、数人しかいない。


 その数人の中から1人、僕らを見つけて、ぎこちない走り方で、慌てて駆け寄ってくるギルド職員の女の人がいた。


「マール君、無事だったんだね!?」


 赤毛のポニーテールに、赤毛の犬耳――クオリナ・ファッセさんだ。

 穴の開いたスカートから出た、丸まった尻尾を左右に激しく振りながら、僕を抱きしめてくる。


(わっぷ)


「あぁ、よかったよ。話を聞いて心配してたんだ。他の冒険者を助けるために、ディオル遺跡に潜ったんでしょ?」

「う、うん」

「偉かったね、がんばったね。ほんと、無事でよかった~」


 ワシャワシャ


 頭を撫でられる。

 キルトさんは苦笑し、イルティミナさんは、ちょっと羨ましそうな顔だ。ちなみにソルティスは、キルトさんの背中で、幸せそうな寝顔を披露している。


「クオリナさん、もしかして、僕らが帰るの、ずっと待っててくれたの?」


 この時間まで?


「当たり前だよ。だって、マール君の登録、私が担当したんだもん。気にするに決まってるよ」

「…………」

「よかった、生きててくれて」


 彼女は、本当に安心した顔だ。

 それからハッとして、

 

「あ、ごめん。マール君、疲れてるよね? じゃあ、ささっとクエスト完了手続き、しちゃおうね」

「あ、はい」


 そう言って、クオリナさんは、受付カウンターの方へと歩きだす。


 ぎこちない右足の動き。

 …………。


(そっか)


 彼女は、冒険の怖さを、誰よりも知っているんだった。


「あの……ありがと、クオリナさん」

「ん?」

「えっと、心配してくれて」

「……えへへ、君は本当に、素直でいい子だね~!」


 クシャクシャ


 嬉しそうなクオリナさんに、僕は、また頭を撫でられてしまった。


 ――さて、手続きだ。


 といっても、大したことはない。

 出発前に登録した魔法球に、冒険者紋を光らせた右手を向けて、


「赤印の冒険者、マール。パーティーメンバー、イルティミナ・ウォン、キルト・アマンデス、ソルティス・ウォンの計4名。ゴブリン討伐をクリアして、無事、帰還しました」

「はい、照合の確認をしました。お疲れ様」


 印の魔力紋と音声を確認したら、おしまいだ。


 あとは、言われるままに、書類に名前を記入していくんだけど、


(うぅ、手首が痛いなぁ)


 ダメージが残っているのか、指先が震えてしまう。

 1枚目から手間取っていると、


「私が代わりましょう」


 イルティミナさんが、さりげなくやって来て、代わりにペンを取ってくれた。


「じゃあ、代筆証明書にも記入してね」

「はい」


 2人は、さくさくとやってくれる。

 ありがたい。


(でも……最後まで、自分でやりたかったなぁ)


 ちょっと残念。

 だけど、この手じゃ、どれだけ時間がかかるか、わからない。


「ソルが回復したら、すぐに治療してもらえるからの」

「うん」


 僕の表情に気づいて、キルトさんが声をかけてくる。


(うん、そうだよ)


 冒険者をやっていれば、また機会は何度でもある。次こそ、自分でやればいいんだ。


 気を取り直す。

 そして、『討伐の証』の提出も終わり、手続きはあっさり終わった。


「じゃあ、これ報酬ね」

「はい」


 赤いカードを4枚、渡される。


 クエスト報酬が、1000リド。

 あとその他ゴブ、ホブの討伐報奨金で、190リドあったので、それも込みで、1190リドだ。

 半端なので、3人は300リド、僕だけ290リドにしてもらった。


「それと、ディオル遺跡での救助活動には、確認次第、ちゃんと報酬でるから。ちょっと待っててね?」

「あ、はい」


 遅くても1週間後には、用意できるとか。


(……別に、いらないんだけどな)


 お金が欲しくて、がんばったわけじゃない。

 でも、僕が断ると、ソルティスまで受け取れなくなっちゃうので、我慢して受け取ることにした。


「それにしても、スケルトン100体かぁ。よく無事だったよ、マール君」


 クオリナさんは、しみじみと言った。


(ん?)


 あ、そうか。

 まだ、彼女は知らないんだ。


「えっと……他に、スケルトン1000体と、骸骨王もいたよ」

「……え?」


 クオリナさんは、ポカンとする。


 彼女は、2人のベテラン魔狩人を見た。神妙な顔で、頷く2人。

 数秒の間があって、


「えぇええっ!?」


 クオリナさん、耳をピンと立たせ、尻尾も膨らませて、驚いていた。

 周囲の人が、こっちを見てる。


「嘘でしょ? あれ? キルトさんたち、一緒にいたの? でも、報告じゃ……」

「おらぬ」

「いません」

「…………。でもでも、それじゃあ、なんでマール君、生きてるの!? マール君、5日前に登録した赤印だよ? というか、スケルトン1000体に骸骨王って……普通は全滅してても、おかしくないよ!?」


 僕は、言う。


「みんなで、がんばったから」

「…………」

「あ、ちゃんとスケルトンも骸骨王も、倒してきたからね? まだ少しスケルトン残ってるけど、もう遺跡は、大丈夫だと思うよ」

「そ、そっか……倒したんだ?」


 クオリナさん、ちょっと遠い目だ。


 イルティミナさんが、僕の両肩に手を置いて、


「マールは、天才なんです」


 ちょっと誇らしげに笑った。

 キルトさんが「親バカめ……」と苦笑している。


 放心していたクオリナさんは、


「天才かぁ……あはは」

「…………」

「よ、よぉ~し! マール君、そんなにがんばったんなら、私もがんばって上にかけ合って、報酬は多めに用意してもらうからね!? 期待してて!」


 最後は、もう吹っ切ったように、鼻息荒く言っていた。


(いや、別にいいんだけど……)


 僕は、困ったように笑うしかなかった。 


 そんな感じで、手続きは終了。


(さて、これから家に帰って、明日はまた、別のクエストに出発だね)


 いや、日付的には、もう今日かな?

 準備とか考えたら、あと2時間も眠れないかもしれない。


「ふぁ~あ」


 おっと、欠伸が出てしまった。


 ふと気づいたら、キルトさんとイルティミナさんが、そんな僕の様子を見ていた。わ、見られてた? 恥ずかしい……。

 縮こまる僕に、2人は笑って、


「ふむ、そうじゃな」


 キルトさんが頷いた。


「今日は、そなたら全員、ギルドのわらわの部屋に泊まるが良い」

「え?」

「よろしいのですか?」

「構わぬ。これから、そなたの家まで帰るのも、また朝に戻ってくるのも大変であろう?」


 その視線は、僕に向く。

 イルティミナさんも僕を見て、頷いた。


「そうですね。――マールもよろしいですか?」

「う、うん」


 キルトさんの部屋!

 特別待遇で、ずっとギルドの宿泊施設で暮らしている彼女の部屋に、入れるなんて。


(わぁ、ちょっと楽しみかも)


 僕の表情に、キルトさんは苦笑する。


「あまり期待するな? 大したものではないぞ」

「うん」


 頷いておくけど、期待してます。


(なんか、眠気が飛んでしまったよ)


 ワクワク


「では、行くか」

「うん」

「はい」


 キルトさんに先導され、僕は、イルティミナさんと手を繋ぎながら、その銀髪の揺れる背中を、足取り軽く追いかけた――。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 ギルド3階の宿泊施設、その一番奥にある部屋が、キルトさんの部屋だった。


(うわぁ)


 うん、一流ホテルのスイートルームだ。


 寝室、リビング、キッチン、応接室、客間、バスルーム……いったい、いくつ部屋があるの?


 一面ガラスの壁からは、夜の静かな湖、星と月の煌めく夜空、光輝く神聖シュムリア王城という絵画のような風景が見えていた。


「適当に座れ」


 キルトさんは、眠っているソルティスを、大きなベッドに下ろしながら、ポカンとしている僕に言う。

 イルティミナさんが苦笑する。 


「相変わらず、凄い部屋ですね」

「そうか?」


 勝ち組の美女は、不思議そうだ。


(一泊で、幾らぐらいなんだろう?)


 想像したら、ちょっと震える。

 前世でも、こんな部屋、テレビやネット、雑誌の中でしか見たことないよ。


「キルトさん、ここにずっと泊まってるの?」

「うむ」


 指折り数えて、


「もう9年になるかの」


 9年……。


「……あのさ? もしかして、普通に家とか買った方が、ずっと安いんじゃないの?」

「で、あろうの」


 あっさり認めた。

 彼女は、黒い鎧を脱ぎながら、


「前は、家も持っておった。しかし、すぐ手放したのじゃ」

「なんで?」

「訳の分からぬ連中が、押し寄せてくるのじゃよ。『金を貸せ』、『依頼を受けろ』、『魔血は出ていけ』、『結婚しろ』……それはもう色々な連中が、毎日、家までやって来るのじゃ」


 …………。

 そ、それは、確かに困るね。


「ま、有名税という奴じゃな。勉強になったわ」

「金印も大変なんだ?」

「まあの」


 僕の同情の声に、キルトさんは苦笑する。

 そして彼女は、ソファーに腰かけて、大きく息を吐いた。


「ここなら、その連中も来ぬ。頼めば、掃除も洗濯も、ギルドスタッフがやってくれる。――もうここが我が家で良かろう?」

「うん」

「ですね」


 僕とイルティミナさんは、しみじみと頷いた。

 キルトさんは笑う。


 そして、イルティミナさんは視線を巡らせて、 


「時にキルト、少々、お風呂を借りてもよろしいか?」


 と言った。


(そういえば、僕らは全員、泥だらけだったね?)


 自分の姿を見下ろして、それを思い出す。

 キルトさんは、鷹揚に頷いた。


「うむ、よいぞ。好きに使え」

「ありがとうございます。――では、マール、行きましょう?」


 え?


「なんじゃ、そなたら、一緒に入るのか?」

「当たり前でしょう?」


 驚くキルトさんに、逆に驚くイルティミナさん。

 いやいや、


「あ、あの、僕1人で入れるよ?」

「駄目ですよ? 文字も書けない手で、どうやって髪や身体を洗うのです? 我が侭を言わないでください」


 わ、我が侭かなぁ?

 イルティミナさんの白い指が、服の上から、僕の傷を突っついた。


(い、痛いっ)


 硬直する僕に、彼女は言う。


「スケルトンの剣は、古く汚い物です。その傷口もしっかり洗わねば、剣の毒にやられてしまいます。だから、私が一緒に入る必要があるのですよ。えぇ、絶対に」

「……うぅ」

「わかりましたね、マール?」


 真剣な表情のイルティミナさん。

 僕は、


「……はい」


 と頷くしかなかった。

 そんな僕らに、キルトさんは呆れた顔をして、それから声を出さずに大笑いしている。


「では、行きましょう」

「…………」


 そうして、お風呂場に連行されました。


 ジャブジャブ


 傷口が腫れるというので、湯船には入らず、ぬるま湯だけで身体を洗われる。


(うわ、床が泥だらけ)


 僕らは、よっぽど汚れていたようだ。


「……マールの肌は、とても綺麗ですね? 食べてしまいたいぐらい」

「あはは……」


 冗談、だよね?

 声が妖しくて、ちょっとドキッとしちゃったよ。


 ちなみに、僕はタオルを腰に巻いている。


 イルティミナさんも、胸と腰に2枚、巻いている。

 でも、彼女の場合、そのせいで余計に、胸やお尻の大きさが強調されてしまっていた。しかも濡れたタオルは、ちょっと透けていて、かすかに見えちゃう背徳感が、逆に増している。


(うぅ……目のやり場に困るよ)


 濡れ髪も、白い肌に張りついて、色っぽい。


 僕は紳士だ、紳士だ、紳士……。


 そうやって、必死に、理性のための呪文を唱えていた時だ。


「邪魔するぞー」


 え?


「おや、キルト」


 突然、全裸のキルトさんまで、浴室に乱入してきた。しかも、


(ソ、ソルティス!?)


 その腕に、眠ったままの裸の少女を抱えて。


「ソルも、洗ってやらねばならんしの。声をかけても起きぬので、そのまま連れてきた」

「あら、まぁ」


 硬直する僕の前で、キルトさんは、床にあぐらをかいて座る――タオルもないのに。


(…………)


 丸見えでした。


「僕、出る」


 紳士な僕は、脱出しようとがんばった。

 でも、


「こら、いけません、マール。まだ洗い終わってませんよ?」

「は、離して~!」


 手首を掴まれて、どうやっても逃がしてくれない。


 キルトさんは、笑った。

 笑うたびに、弾力のある胸が躍っている。


(……め、目が、吸い寄せられるぅ)


 必死に、顔を逸らす僕。


 キルトさんは、笑いながら、ソルティスを洗う。

 眠っている少女に、ぬるま湯を丁寧に駆けながら、髪や肌から泥を落としていく。


(…………)


 いかん。

 人形みたいな美しい少女の裸体に、ちょっと魅入っちゃった。


(ご、ごめんよ、ソルティス)


 心の中で謝る。

 と、2人は、そんな僕を見つめて、


「うむ。幼くとも、やはり男の子じゃの」

「……マール、どうしても我慢できなかったら、すぐに私に相談してくださいね?」


 キルトさんは、からかうように笑って頷き、イルティミナさんは、恥ずかしそうに頬を染めて、生真面目に言う。


(…………)


 口から、魂が出そうだ……。


 天国のような地獄のお風呂タイムは、それからも、しばらく僕を苛み続けたのであった――。



 ◇◇◇◇◇◇◇



「いい湯であったわ」

「はい」


 風呂上がりのお姉さんたちは、すっかり上機嫌である。


 一方の僕は、色んな意味でのぼせて、ベッドに倒れて込んでいた。あふぅ……。

 そんな僕に、2人は苦笑する。


 2人とも、ナイトガウンを羽織っただけの格好で、しかもキルトさんは前を留めず、ほぼ丸見え状態……そしてキルトさん用のガウンを借りた長身のイルティミナさんは、サイズが合っていなくて、白い太ももが見えて、豊かに実った双丘がこぼれ落ちそうだ。


(……2人とも、恥じらいは、どこ行ったの?)


 というか、僕をからかってるみたい。

 ちくしょー。

 ありがとうございます。


 ……うぅ。


 理性と正直さに葛藤する僕。


 その時、


(あ、そうだ)


 大事なことを思い出して、僕は、ベッドから起き上がった。


「ねぇ、キルトさん、イルティミナさん?」

「ん?」

「なんですか?」


 振り返る2人。

 ……なるべく、顔だけを見るようにしよう。


 僕は、赤いカードを取り出した。

 報酬引換券だ。


「せっかくお金が手に入ったから、借金を、少しでも返したいんだけど……」

「借金?」

「……あぁ」


 2人は驚き、それから、呆れた顔をする。


「そなた、まだ気にしておったのか?」

「別にいいんですよ?」

「いやいや、駄目だよ。こういうのは、きっちりしないと。……それで僕、今、どのくらいの借金してるのかな?」


 ちょっとドキドキしながら、聞く。

 2人は顔を見合わせる。


 キルトさんが嘆息して、


「そうじゃな。まず、メディスの宿泊費が、一泊250リド。そなたは格安だったので、200リドじゃ」

「ふむふむ」

「マールの『旅服』は、全て込みで1200リドです」

「ほほう」

「それと王都までの道中、竜車代、村々での宿泊費も含め、800リドじゃ」

「う~ん」

「私の家での生活費は、私の望みでもあるので、必要ありません」

「いいの?」

「はい」

「あとの細かい費用については、まぁ、よかろう。つまり、そなたの借金は、2200リドじゃ」


 なるほど。


(あ、そうだ)


「あの、『マールの牙』の弁償は……?」

「マール」


 イルティミナさん、ちょっと怖い声。

 

「私は、貴方のことを思って、あの短剣を貸したのです。それは損得ではありません」

「…………」

「マールには、その思いさえ、受け入れられませんか?」


 その真紅の瞳は、悲しそうだ。


「ごめんなさい」


 僕は、素直に頭を下げた。

 申し訳ないことを、口にしてしまった。


 しょんぼりする僕に、イルティミナさんの表情は、柔らかくなる。

 その白い手が、頭を撫でてくれて、


「わかっていただけたら、いいのです」

「うん」


(ありがとう、イルティミナさん)


 感謝の視線を向けると、彼女は、にっこりと笑ってくれた。


 でも、そうなると借金は、2200リド。 

 22万円か。


(今あるのが、290リドだから、2万9千円……むむむ?)


 今後のことを考えつつ、返済するとしたら、


「……あの、今回の返済は、100リドでも大丈夫かな?」

「構わぬ」

「無利子、無催促、無期限です。お好きにどうぞ」

「あ、ありがとう」


 よかった~。

 ホッと安心する僕。


 でも、2人は、更に言葉を続けた。


「では、今度は、わらわたちからマールへの支払いについて、じゃな」

「ですね」


 ……え、支払い?


「まずは、赤牙竜ガドの討伐の助力について、1万リドを支払おう」

「……は?」

「そなたは、イルナよりも早く、赤牙竜の接近に気づき、奇襲を防いだ。そして、わらわとソルを、その場所まで案内した。おかげで、イルナは死なずに済み、最後はソルも助けられた」

「…………」

「ガド討伐は、報酬10万リドのクエストじゃ。その1割、妥当であろう?」


 いやいやいや、


(1万リドって、100万円だよ?)


 唖然とする僕に、イルティミナさんも言う。


「ちなみに、その1万リドはすでに、王立銀行のマールの口座に入っています」

「は? 銀行?」

「先日、マール名義で、私が勝手に作っておきました」


 銀行があることも驚きだけど、口座まで……?


(い、いつの間に……)


 キルトさんは、僕の手にある赤いカードを指差して、


「それは、ギルドで換金できるが、提携している王立銀行でも行える。金額が大きい時は、そのまま口座に入れておけ」

「…………」


 イルティミナさんは、形の良いあごに、白い指を当て、考える。


「あとは、私は『命の輝石』で助けられた分も、支払わねばいけませんね。毎年5万リドという金額で、いかがでしょう?」

「うむ、仲間を救われたのじゃ。わらわも払おう。――2人分、毎年10万リドで良いかの、マール?」

「…………」


 僕は、降参した。


「ごめんなさい。許してください」

「フフッ」

「うむ。子供は、素直が一番じゃ」


 土下座する僕に、2人は、とっても楽しそうに笑った。


 そんなわけで、僕は、なぜか1万リド(100万円)を手に入れた。

 これを断ると、毎年1000万円がもらえるという、恐ろしい甘やかしが始まってしまう。ダメ人間、まっしぐらだ。

 なので、1万リドだけは我慢した。


(……いや、ヒモ生活も悪くないよ?)


 正直、そんな気持ちもある。

 だけど、


「…………」


 チラッと、イルティミナさんの顔を見る。


(……いつか、彼女に、ふさわしい人になりたいから)


 ここは、きっと意地を張るべきなのだ。  

 うん、がんばろう。


「じゃあ、借金2200リド払うから、僕の貯金は、7800リドだね?」

「…………」

「…………」


 笑って言う僕の言葉に、2人は顔を見合わせ、


「まぁ、ここが妥協点でしょうか?」

「うむ、仕方あるまい……」


 そう言って、深いため息をこぼしたのだった。


(???)


 はて、なんでだろう?

ご覧いただき、ありがとうございました。


※次回更新は、明後日の水曜日0時以降になります。よろしくお願いします。

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