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【書籍化&コミカライズ!】少年マールの転生冒険記 ~優しいお姉さん冒険者が、僕を守ってくれます!~  作者: 月ノ宮マクラ


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685・銀印3人組

メリークリスマス♪


本日の更新、第685話です。

どうぞ、よろしくお願いします。

「――ありがとうございました」


 僕は、女神像へと深く一礼した。


 僕の左右では、ソルティスとポーちゃんが同じように頭を下げていた。


 すでに旅立ちの準備は終わっていた。


 そうして安全な一夜と霊水の分けてもらったことへの感謝を祈ったあと、僕ら3人は女神像に背を向け、この塔を出発することにしたんだ。


 正面扉を抜け、外に出る。


 早朝の空は、快晴だ。


(今日も暑くなりそう……)


 手でひさしを作りながら、そう青い空を眺めた。


 そして、歩きだす。


 ズシッ


 30リオン分の水筒がついたリュックは、やはり重かった。


 でも、歩けないほどじゃない。


 ま、僕も鍛えてる。


 大変だけど、ペースを守って急がなければ、ちゃんと歩いていられそうだ。


 ソルティスも平気そうだね。


 というか『魔血の民』だけあって、僕より10キロ以上重いはずなのに余裕がありそうだった。


 でも、ポーちゃんは、


 グラッ


「…………」


 筋力というよりも、単純に体重が軽いため、バランスが悪くて歩くのが大変そうだった。


 特に、森は足場も悪い。


 凹凸があるので、余計に大変なんだ。


 グラッ


 また左右に揺れる。


 でも、やはり体幹が強いのか、転ぶことはなかった。


 それでも、見かねたソルティスが背後に回って、そのリュックを支えるようにしながら押してあげていた。


「感謝」


 短いお礼の言葉。


 そんな相棒の幼女に、ソルティスは「どういたしまして」と微笑んだ。


(……うん)


 その様子を、僕も優しく見守ってしまったよ。


 …………。


 やがて、1時間ほど歩いて『トグルの断崖』の麓へと辿り着いた。


 高さ100メードの崖。


 手をかけると、


 ボロッ


 その崖の岩肌が剥がれて、砂と小石がパラパラと落ちた。


「…………」


 相変わらず、脆い崖だ。


 これが、実はかなりの罠になっている。


 崖上から降りる際、通常はロープを使ったりするんだけど、もしこのロープが外れたり切れたりした場合、2度と上に戻れなくなるんだ。


 それほど、崖が脆い。


 まるで、天然のアリ地獄だ。


 6年前、僕とイルティミナさんが脱出した時は、崖崩れで辛うじて距離が短くなっていたから登れたんだ。


(……怖いよなぁ)


 これも、生還率が低い要因の1つかもしれない。 


 トグルの断崖。


 これが、アルドリア大森林・深層部の探索における最大の難所とも言えるのだろう。


(まぁ、一般的には、ね?)


 僕ら3人は、そびえる崖を見上げた。 


 そして、


「じゃあ、マール。頼むわね?」


「うん」


 ソルティスの笑顔に、僕は笑った。


 降下時と同様、僕は『神武具の翼』を背中に生やすと、それを輝かせながらシャラランと広げて、空中へと飛びあがった。


 …………。


 うん、空を飛べるって、便利。


 ま、目立つので、人前ではあまり飛べないけどね。


 2人+100リオン分の重さは、さすがに1度では運べなかったので、結果、3往復することになったけど、無事に崖上への輸送は完了した。


(ふぅ……)


 思わず、一息だ。


 ソルティスは「お疲れ」と僕の肩を叩いた。


 ポム


 ポーちゃんも反対の肩を小さな手で叩く。


 あはは……うん。


 僕も笑いながら、背中の翼を光の粒子に戻して、神武具の球体をポケットにしまった。


 それから、顔をあげる。


「…………」


 眼前には、トグルの断崖上から見渡せるアルドリア大森林・深層部の雄大な風景が広がっていた。


 どこまでも広がる大樹海。


 大自然の景色だ。


 その森の上空を渡ってきた風が、僕らの髪を揺らしていく。


 ソルティスが片手で髪を押さえて、


「……綺麗ね」


 と、呟いた。


 僕は「うん」と頷く。


 最大の難所を越えた今、それはただただ美しい景色として、僕らの目には映っていた。 


 やがて、ふと思い出したように少女が口を開く。


「そう言えば……昔、この深層部の森に埋もれた古代都市を見つけたことがあったわね」


「え……?」


「5年前だっけ。あれから、結局、調査できなかったけど……」


「あぁ……そうだったね」


 僕も思い出した。


 あの時は、暗黒大陸に出かける前だったかな?


 狩猟の女神ヤーコウル様の導きに従って、古代タナトス魔法王朝時代の都市遺跡と神殿を見つけて、イルティミナさんが女神の祝福を授かったんだ。


(懐かしいな……)


 でも、古代都市があったのは、僕が空を飛んで、ようやく行けるほどの距離。


 徒歩では、半日で往復できない。


 夜になれば死んでしまうこの森では、調査隊も出せないんだ。


 あれから5年。


 結局、その古代遺跡は手つかずのまま、今も森の奥地でひっそりと眠ったままなんだ。


 僕は言う。


「また来ようよ」


「ん?」


「さすがに3人では危険で行けないけどさ。でも、いつかキルトさん、イルティミナさんも一緒に、皆で時間を作って調査に行ってみようよ」


「……そうね」


 ソルティスは頷いた。


 嬉しそうに、夢見るように、微笑んで。


 そんな彼女に、僕も微笑み、ポーちゃんと一緒に頷いてみせた。


 3人で、また眼下の森を眺める。


 その風景を目に焼きつけて、それから僕らは深層部の森に背を向けると、上層の森の中へと入っていったんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 ボパァン


 森を北上している途中、また魔物に遭遇した。


 出会ったのは、3体の魔熊。


 体長4~5メードほどの巨体で、頭部から背中に赤毛を生やした熊に似た魔物だ。 


 特徴的なのは、2本の角だろうか。


 爪や牙と並んでその脅威は大きく、突進して突き刺されば大木などもへし折る威力だった。


 だけど、


「ポオッ!」 


 ボパァン


 その魔物は、地面から生えた魔法の蔦で全身を絡めとられ、身動きができなくなった状態でポーちゃんに殴られ、その角ごと頭部を四散させていた。


(うはぁ……)


 心の中で、思わず合掌だ。


 僕の後ろでは、ソルティスが魔法石を輝かせた杖を地面に押し当てていた。


 2人の連携攻撃。


 そのコンビネーションに、僕はほぼ何もすることがない。


 2体目の魔熊が倒され、残された1体は慌てた様子で僕らの前から逃げ出し、森の奥に消えていった。


「ふぅ……」


 ソルティスが息を吐く。


 疲れた……というより、面倒だった、といった吐息だ。


 うん、さすが。


 僕は思わず、その横顔を見つめてしまった。


 その視線に、彼女も気づく。


「? 何よ?」


「ううん」


 僕は首を振って、


「何か久しぶりに一緒に戦って、ソルティスの魔法の凄さを思い出した感じ……本当、凄いよね」


「あら? 尊敬していいのよ?」


「うん、尊敬するよ」


 懐かしいやり取りに、本心で答える。


 ソルティスは「そ」と機嫌良さそうに笑っていた。


 …………。


 でも、本気で思う。


 魔法で、攻撃も、回復も、今みたいなサポートもできる。


 挙句に、接近戦も可能。


 今の彼女は、もはや究極のオールラウンダーだ。


 その点に関しては、もうキルトさんやイルティミナさんを上回っているかもしれない。


 というか、


(ソルティスの弱点って、どこにあるんだろう?)


 どこにもない気がする。


 ポーちゃんという接近戦のエキスパートが一緒にいて、常に学んでいて。


 更に彼女の養母が、王国で最も優れた魔法使いのコロンチュードさんで親交もあって、そこでも学ぶことができて。


 ……うん。


 彼女の才能がどこまで行くのか、末恐ろしいや。


 そう思っていると、


「私も、マールの頼もしさを思い出してたわ」


「え?」


 僕の頼もしさ?


「……僕、ほとんど何もしてないけど?」


「そうね。でもさ、昔は接近戦のできない私の護衛で、いつもそばで守ってくれてたでしょ? だから、今、そこにいるマールの背中が懐かしくてさ」


「…………」


「なんか、安心感があるのよ」


 彼女は、そう笑った。


 ……そっか。


 お互い、ずっと一緒に戦ってきたんだ。


 だから、久しぶりにこうして一緒にいれて、お互いに当時の気持ちを思い出してしまったのかもしれない。


 でも、悪い気持ちじゃない。


 むしろ、温かくて優しい気持ちだ。


 僕は言う。


「また一緒に冒険したいね」


「そうね。……でも、今してる最中でしょ?」


「あ……」


 そうでした。


 間抜けな自分に、少し赤面してしまう。


 そんな僕に、ソルティスはおかしそうに笑って、


「マールは本当に変わらないわねぇ」


 ペシン


 と、僕の背中を軽く叩いたんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 途中、森小屋で1泊し、僕らは2日かけてメディスの街へと戻って来た。


 宿屋のアルセンさんに「おかえりなさい」と出迎えられて、5日ぶりの柔らかなベッドと贅沢な料理を堪能して、疲れを癒した。


「ふい~、気持ちよかったわぁ」


 ゴシゴシ


 久しぶりのお風呂を頂いて、ソルティスはベッドに座り、濡れ髪をタオルで擦っていた。


 僕も笑った。


 僕とポーちゃんも、すでに風呂上がりだ。


 ちなみに言っておくけど、客室は同室だけど、お風呂は一緒に入っていないからね?


 イルティミナさんじゃないから、別なのだ。


 とはいえ、風呂上がりの彼女は、石鹸のいい香りがした。


 濡れ髪も色っぽい。


 暑いのかもしれないけど、シャツのボタンも上2つが外されていて、胸の谷間が見えてしまっていた。


(う、う~ん)


 恋愛に興味ないみたいだけど、男の視線は気にして欲しい。


 さすがに無防備すぎる。


 いや……それとも、僕だからか?


 僕は家族みたいなものだから、異性として意識してないからこその格好なのかな?


 …………。


 ま、まぁ、いいや。


 僕が気にしなければいいだけだしね、うん。


 ともあれ、美味しい夕飯も食べたし、あとは寝るばかりの状況だ。


 クエストもやるべきことは終わっているし、あとは無事に帰るだけなので、気持ち的にはリラックスしていた。


 クシクシ


 ポーちゃんは、ソルティスの背後に回って、彼女に代わって濡れ髪を拭いてあげていた。


 ソルティスは「ありがと」と目を閉じて、気持ち良さそうだ。


 うん、仲良しだね。


 その様子を眺め、それから僕は、客室の角に置かれた僕らの荷物を見た。


 3つのリュック。


 そして、そこに括りつけられた20個の水筒――100リオンもの『癒しの霊水』だ。


 これを王都に届ければ、


「……ついに、ポーちゃんも『銀印の冒険者』だね」


 と、僕は呟いた。


 ソルティスは目を開けた。


 ポーちゃんの手は止まらず、彼女自身は特に気にした様子もない。


 代わりに相棒の少女が「そうね」と頷いた。


「ようやくよね」


「うん」


「正直、実力的にはポーの方が私より上なのに、私の方がランクは上なんだから、本当、不思議な感覚だったわ」


「そっか」


 そうだよね。


 ポーちゃんは、あのキルトさんも倒したことのある実力者なんだ。


 本来、『白印』なのがおかしい。


 でも、彼女も成人したことで、ようやく正常なランクになるのだ。


 ソルティスは、自分の髪を拭く幼女へと視線を送り、


「本当はさ、ポーなら『金印の冒険者』でもいいと思うのよ。でも、そこまでの責任を負う気が本人にはないみたいなのよね……」


「…………」


 ポーちゃんは無言、無表情だ。


 まぁ、金印は責任重大だからね。


 自分の奥さんがそうだからわかるけど、その重さが自由を圧迫するぐらいだ。


 きちんとした覚悟がないと厳しい。


 そういう意味では、ポーちゃんはまるで雲みたいな性格だから、『銀印』でちょうどいいんじゃないか、なんて思うんだ。


 それより、むしろ、


「ソルティスは『金印の魔狩人』を目指さないの?」


 と聞いてみた。


 彼女は「私?」と目を丸くする。


 それから、おかしそうに笑って、パタパタと手を左右に振った。


「ないない」


「…………」


「キルトやイルナ姉みたいに私がなれる訳ないでしょ? なろうと思っても、私には無理よ」


「そんなことないと思うけど」


「そう?」


「うん。僕はむしろ、今、王国にいる冒険者の中で誰よりも『金印』に近い位置にいるのは、ソルティスだって思ってるよ」


「…………」


 真面目に言うと、ソルティスは酷く驚いた顔だ。


 僕を見つめる。


 僕も視線を逸らさない。


 やがて彼女は、


「そう……ありがと」


 と、呟いた。


 でも、すぐに苦笑して、


「だけど、無理よ。キルトやイルナ姉を見てきて、つくづく、私には向かないって思うもの。むしろ、マールが目指したら?」


「僕……?」


「そ。私から見たら、マールの方が近いんじゃないって思うわ」


「…………」


「どう?」


「僕も……いいかな」


 確かに、キルトさんやイルティミナさんは憧れで、その『金印』という輝きは素敵だけど。


 そこに自分が、と思うと、何かが違うと思える。


 何だろうね、これ?


 そんな僕に、ソルティスは笑った。


「ふぅん、嫌なんだ?」


「……うん」


「そっか。案外、やっぱ、私とマールって似た者同士なのかしらね」


「……かもね」


 僕も苦笑して認めた。


 それから、2人でポーちゃんを見る。


「…………」


 金髪の幼女は何も言わず、僕らの視線を受け止めた。


 やがて、


「ポーは、義母を知っている」


「…………」


「…………」


「だらしない義母でもできるのだから、2人にもできると考える。ただ、ポー自身は、やはり2人と同じく興味なし」


「そっか」


「ま、そうよね」


 僕とソルティスは苦笑した。


 ま、コロンチュードさんは100年以上、王国の『金印の冒険者』として君臨する特別な人だからね。


 性格はずぼらだけど。


 でも、それを補えるだけの実力があるから。


 やはり、僕らとは違う。


 そしてポーちゃん自身は、やはり名誉や立場に、あまり興味がないみたいだった。


 僕は言う。


「じゃあ、僕らは3人仲良く『銀印』だね?」


「そうね」


「了承」


 僕とソルティスはそう笑って、ポーちゃんは頷いた。


 …………。


 それからも、僕らは他愛もない話をしながら、就寝までの楽しい時間を過ごした。


 やがて消灯し、僕らは眠りにつく。 


 温かな暗闇。


 その中で、2人の気配を感じて、なんだか安心する。


(……ん)


 その微睡みの中、僕はふと、僕とソルティスとポーちゃんの3人が、将来、揃って『金印の冒険者』となっている未来を夢想して、そのまま眠りに落ちていったんだ。

ご覧いただき、ありがとうございました。


次回更新は、今週の金曜日を予定しています。


また次回が年内最後の更新となりますので、よかったら、どうか最後まで読んでやって下さいね。


よろしくお願いします。




漫画マールのURLです。


https://firecross.jp/ebook/series/525


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[良い点] メリークリスマス♪(*^^)o∀*∀o(^^*)♪ 更新お疲れ様ですヽ(´▽`)/ 万能とも思えたマールの飛行能力にも、流石に積載重量に制限はありましたか。 それでも充分な能力ですが(*…
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