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【書籍化&コミカライズ!】少年マールの転生冒険記 ~優しいお姉さん冒険者が、僕を守ってくれます!~  作者: 月ノ宮マクラ


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684・森の塔での記憶

第684話になります。

よろしくお願いします。

 ストッ


 草原の地面に着地した。


 背中に生えていた『金属の翼』は光の粒子となって、再び『虹色の球体』に戻り、僕はそれをポケットにしまう。


 顔をあげる。


「…………」


 目の前には、懐かしい石造りの古塔があった。


 僕の暮らした家。


 転生したばかりだった僕が見つけて、イルティミナさんと共に数日間を過ごした場所だった。


 ……うん。


(何だか感慨深いな)


 思わず、青い瞳を細めて見つめてしまった。


 そんな僕を、ソルティス、ポーちゃんが見ている。


 ちょっと優しい表情。


 それから、ソルティスが僕の肩をポンと軽く叩いた。


「中、入りましょ?」


「うん」


 僕は頷き、3人で塔の入り口へと向かった。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 正面の金属扉を開けると、そこは礼拝堂だった。


 1番奥に女神像がある。


 その両手からは、絶え間なく光る水――『癒しの霊水』が溢れて、足元の台座となる貝殻にこぼれ落ち、溜まった水は排水口から地下に流れていた。


「…………」


「…………」


「…………」


 僕らは、女神像に手を合わせた。


 この女神は『狩猟の女神』様。


 そう、神狗マール(ぼく)の主神である『女神ヤーコウル』様の像なんだ。


 この塔は、本来、ヤーコウル様の信者たちが暮らすための塔で、『神界の門』から現れる『神狗』を保護するための施設だったんだ。


 ……もう、信者はいないけどね……。


 少し寂しい。


 けど、それも時代の流れだ、仕方ない。


 気を取り直して、女神様に挨拶をした僕らは、早速、流れる『癒しの霊水』を回収することにした。


 ドサッ ドサッ


 ポーちゃんがリュックから、たくさんの水筒の革袋を取り出す。


 1つ5リオンの容量。


 それが20個だ。


 ソルティスは腕まくりして、


「それじゃあ、始めるわよ!」


「うん」  


「承知」


 僕とポーちゃんも頷いて、作業を開始した。


 僕は靴を脱ぎ、ズボンの裾をまくって、裸足で貝殻の台座に入ると、女神像の両手から流れる光る水を持っている革袋の口へと注ぎ入れた。


 コポコポ


 たまに光る水滴が跳ねながら、革袋が膨らむ。


(ん……)


 だんだん重くなってくる。


 すると、ソルティスが横から革袋を抱えて、その重さを一緒に支えてくれた。


 うん、さすが『魔血の民』。


 その優れた筋力のおかげで、革袋はとても軽くなった。


 僕は笑って、


「ありがと」


「どーいたしまして」


 ソルティスも澄まして答えた。


 コポコポ 


 しばらくして、革袋が満杯になる。


 ソルティスがそれを台座から降ろして、ポーちゃんがすぐにギュッ、ギュッ……と、蓋を填めた。


 そして、新しい空の革袋を僕に渡してくれた。


(うん)


 感謝の会釈。


 ポーちゃんも頷く。


 そして、僕とソルティスはまた水筒に満杯になるまで『癒しの霊水』を集めた。


 作業は、しばらく続く。


 数が増えると、ポーちゃんは3つずつ、革袋をロープでまとめた。


 それをリュックに固定する。


 左右に1組ずつ、計30リオンだ。


 これを1人で背負って、持って帰る計算だ。


 ……うん、重そう。


 ちなみにソルティスのリュックには、8つの革袋、計40リオンが固定されていた。


 まぁ、3人の中で、彼女が1番の力持ちだからね?


 …………。


 やがて、作業も終わった。


「ふいぃ……」


「終わったわぁ……」


「…………」


 僕らは座り込んで、大きく吐息をこぼしていた。


 思ったより重労働。


 でも、何事もなく無事に集めることできて、本当によかったよ。


 3人で顔を見合わせ、そして、笑い合った。


 最後に、また女神像にも手を合わせる。


 …………。


 閉じていた目を開けて、手を離しても、僕はしばらく女神像を見つめた。


 それから、振り返る。


 そこは礼拝堂。


 3年前、綺麗に掃除をしたけれど、やはり時間の経過もあって、砂や埃、どこかから舞い込んだ木の葉や小枝などが落ちていた。


 それを見つめる。


 それから、2人の方を振り返った。


「あのさ、ソルティス」


「ん?」


「帰る前に、この塔の掃除をしたいんだけど……駄目かな?」


「…………」


 2人は僕を見た。


 すぐにソルティスは笑って、


「いいんじゃない? 日数には余裕もあるし、今夜はここに泊まるつもりでしっかりやっちゃいましょ?」


「うん、ありがと。でも、いいの?」


「いいわよ」


 紫色の長い髪を揺らして、少女は頷いた。


 女神像を見て、


「霊水、いっぱいもらっちゃったしね。そのお礼と恩返しってことで……ポーもいいでしょ?」


 と、相棒を振り返った。


 コクン


 ポーちゃんも頷いてくれた。


 ……2人とも優しい。


 僕は微笑んで「ありがとう、ソルティス、ポーちゃん」とお礼を言った。


 少女は微笑み、幼女は頷く。


 そして、僕らは外から葉っぱのついた枝を持って来て、それを箒やハタキ代わりにして、塔の中を掃除していった。


 バサバサ ポフポフ


 埃が舞う。


 鼻と口を布で覆いながら、3人でがんばる。


 疲れたら、


 ゴクゴク


 と『癒しの霊水』を飲んで回復して、また掃除を続けた。


 やがて、


「……よしっ」


「終わったわぁ」


「…………」


 塔の中を、今の僕らのできる範囲で綺麗にすることができた。


 疲労はある。


 けど、満足感もあった。


 ソルティス、ポーちゃんとパシン、パシンと手を合わせる。


(えへへ……)


 僕とソルティスは笑顔。


 ポーちゃんは無表情だけど、充実した様子だった。


 服の埃は外で払い、手や顔などの汚れは貝殻の台座に溜まった光る水で洗い落とした。


 ふと見れば、窓の外が赤い。


 もう夕暮れだ。


(うん)


 先程、ソルティスが言っていたように、僕らは、今夜はこのままこの塔に1泊することにした。



 ◇◇◇◇◇◇◇



「うへぇ……いっぱいいるわねぇ」


 塔の頂上、見張り台のような場所から森を眺めて、ソルティスは呆れたような声を漏らした。


 時刻は夜。


 空には紅白の月が輝き、けれど、地上の森は真っ暗だ。


 その黒い森に、紫色に輝く『何か』が、何百、何千という規模で蠢いていた。


(……うん)


 恐ろしい光景だ。


 あの輝きの1つ1つが『骸骨王』と呼ばれる高位の死霊体なんだ。


 骸骨王。


 それは、3~4メードの上半身だけの骸骨の魔物だ。


 その肉体は無数の人骨が集まって形成されていて、空中に浮遊しながら、骨の剣を振り回したり、魔法を使ったりしてくる。


 討伐の基準は、白印5人が必要。


 それほどの強敵だ。


 しかも、この森には悪魔の魔力が残っている影響で、骸骨王たちは『闇のオーラ』をまとって通常より強化されているんだ。


 それが数千……もしかしたら、数万。


 うん、夜の森にいたら絶対に生き残れない。


 僕自身、何も知らずに夜の森に入って、実際に殺されてしまった経験があるからね?


 本当、『命の輝石』で生き返れてよかったよ……。


 …………。


 ともあれ、骸骨王たちも、この塔には不思議と近寄ってこないんだ。


 ヤーコウル様の加護かな?


 おかげで僕らは今、森の景色と綺麗な月夜を眺めながら、保存肉や野草、乾燥パンなどを調理した夕食を食べている所だった。


 ちなみに調理したのは、僕。


 モグモグ


 うん、悪くない味だ。


 ソルティスも肉と野菜のスープにパンを浸して、それを口に運ぶ。


 ムグムグ


「ふ~ん? これもイルナ姉の味に似てるわね。やるじゃない、マールのくせに」


「あはは、ありがと」


 僕は笑った。


 イルティミナさんの料理を、いつも手伝ってるからね。


 僕も、少しは上達してるんだ。


「でも、イルナ姉の味には及ばないわね」


「いやぁ、それはね。だって、イルティミナさんだし……」


「そうね、イルナ姉だもんね」


「うん」


 そりゃ、そうだよ。


 何でもできるあの人と比べられたら、誰だって凡人なのだ、うん。


 その妹と僕は笑い合う。


 ポーちゃんだけは、小動物のように1人で黙々と食事を続けていた。


 …………。


 そんな風に、アルドリア大森林・深層部での時間を過ごしながら、僕とソルティスは他愛もない話で会話を弾ませた。


 やがて、こんな話題になった。


「最近、イルナ姉とはどう?」


「ん?」


「ちゃんと仲良くやってる? 愛想尽かされたりしてない?」


「あはは、うん、大丈夫だよ」


 心配する彼女に、僕は苦笑した。


 食後のお茶を飲みながら、


「イルティミナさんとはずっと仲良しだよ。というか、むしろ、一緒にいるとどんどん魅力的に見えて、ますます好きになってる感じ」


「…………」


「そんな僕を、イルティミナさんも大事にしてくれてるよ」


「そっか」


 ソルティスは安心したように笑った。


 息を吐いて、


「そうよねぇ。どちらかというと、マールより、イルナ姉の方がマールにぞっこんだもんね? 愛想尽かすとかないか」


「…………」


「マールも浮気するタイプじゃないしね」


「当たり前だよ」


 浮気なんてする訳ないじゃないか。


 ソルティスは、そんな僕の顔を見て「ま……無自覚だけど」と呟いた。


(んん?)


 何、無自覚って?


 僕は、キョトンと首をかしげた。


 ソルティスは「何でもないわ」と笑い、そんな少女の横顔をポーちゃんはジッと見つめていた。


 変なソルティスだ。


 僕も彼女を見つめ、


「そういうソルティスはどうなの? 恋人とか、作らないの?」


 と聞いた。


 彼女は「ん?」と僕を見る。


 僕は言う。


「ソルティス、美人なんだからさ。その気になったら、いくらでも恋人とか作れると思うんだけど、そういうこと、考えたりしてないの?」


「……そうねぇ」


 しばし僕を見つめ、彼女は頭上を見上げた。


 淡い月光が、少女を照らしている。


 彼女は紅白の月を見ながら、


「考えない訳じゃないんだけど……あんまり興味が湧かないのよね」


「そうなの?」


「うん。ほら……私って、前にストーカー被害に遭ったじゃない?」


「あぁ……」


 何年か前に、確かにあったね。


 僕とイルティミナさんも協力して、何とか犯人を捕まえたっけ。


 確か、王立魔法院の若い魔学者だった。


 ソルティスのことが好きで、でも、告白もできず、ただ想いだけを募らせた結果、誤った方法でそれを発散させてしまったんだ。


 美しい少女は、言う。


「だからさ、こう、恋愛とか誰を好きとか、あまり興味が湧かなくなっちゃったのよ」


「う~ん……そっかぁ」


「それに今は、恋愛より、ポーと一緒に冒険してる方が楽しいしね」


「…………」


 ソルティスは、金髪の幼女を見た。


 ポーちゃんも名前を出されたからか、食事の手を止めて、相棒の少女を見返した。


 ソルティスは笑った。


「だから恋人とか、いらないわ」


「…………」


「今後どうなるかわからないけどさ。でも、キルトだって独身だし、私も焦る必要ないでしょ。少なくとも興味が出てくるまでは、そういう話は考えられないわね」


「そっか、うん」


 僕は頷いた。


 確かに、恋愛が人生の全てじゃないもんね。


 キルトさんだって、独り身の時間を楽しんでるみたいだし……まぁ、彼女は将来、ヴェガ国王妃になる可能性もあるみたいだけど。


 でも、ソルティスはまだ19歳。


 キルトさんと同じ30代になるまでにも、まだたっぷり時間はあるんだ。


 ゆっくり彼女のペースでいいのかもしれない。


 でも、


「キルトさんの場合は、美人で立場も偉いし、周りの男の人の方が怖気づいちゃうかもしれないしなぁ。自分から動かないと駄目かもしれないよね」


「あぁ、そうねぇ」


「ソルティスも美人だし、そこは気をつけてね?」


「はいはい、気をつけるわ」


 彼女は苦笑した。


 それから、


 グッ


 相方の金髪の幼女の肩に腕を回して、 


「ま、今の私の恋人は、このポーってことで」


 と、白い歯を見せた。


 ポーちゃんは無言、無表情のまま、相棒の少女の横顔を見る。


 でも、反論しない。


 ソルティスの愛情と友情を受け入れているみたいだ。


(……うん)


 2人は、本当に仲良しだね。


 と、そんな風に優しく眺める僕を、ふとソルティスは生真面目な表情で見つめた。


 ん……?


 気づいた僕に、言う。


「アンタとポーはさ、私らより寿命が長いんだから……いつか、もし私がいなくなったら、ポーのことよろしくね」


「え……?」


「マールなら許してあげるわ。その時は、きっとイルナ姉も許してくれるわよ」


「…………」


「私らがいなくなったあとも、ちゃんと2人で生きてね」


 そう告げるソルティスの表情は、とても優しかった。


 咄嗟に何も言えない。


 というか、ソルティスやイルティミナさんがいなくなった時の話なんてやめて欲しい。


 その表情に気づいて、


「やだ、なんて顔してんのよ?」


「…………」


「遠い未来の話よ。言っとくけど、私、長生きするつもりだからね? そう簡単にポーをマールに渡さないんだから、覚悟しておきなさいよ」


 と、笑った。


 ギュッ


 言いながら、ポーちゃんを強く抱きしめる。


 ポーちゃんは何も言わない。


 でも、そんな自分を抱きしめる少女の手に、自分の手を重ねて、静かに水色の瞳を伏せていた。


(…………)


 ソルティスも色々と考えている。


 成長して。


 大人になって。


 未来のことを思って、そして、僕も思わぬことを考えたりしているんだ。


 思わず、ソルティスの美貌を見つめた。


 大人の女性へ。


 少女から少しずつ変わっていく、そんな今の彼女。


 その笑顔が眩しい。


 …………。


 遠い未来で、いつか、こんな話をしたこの夜の時間を懐かしく思い出す日も来るのかな?


 彼女の笑顔を見ながら、ふと、僕はそんなことを思ったんだ。

ご覧いただき、ありがとうございました。


※次回更新は、来週の月曜日を予定しています。どうぞ、よろしくお願いします。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様ですヽ(´▽`)/ <「マールも浮気するタイプじゃないしね」 ソルティスの言う通り意図的にはせずに無自覚ならばやりますね。 間違いなく(笑) しかも何方かというと誘惑する感じで…
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