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【書籍化&コミカライズ!】少年マールの転生冒険記 ~優しいお姉さん冒険者が、僕を守ってくれます!~  作者: 月ノ宮マクラ


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676・聖職者との旅路

第676話になります。

よろしくお願いします。

 目的の『太陽の墓所』までは、竜車で2日の距離だ。


 車内には、僕とイルティミナさん、それと神殿騎士団長のアーゼさんの3人が乗っていて、他の4人の神殿騎士は徒歩で竜車と並走をしていた。


(だ、大丈夫なのかな?)


 窓の外の4人を見て、僕は心配になる。


 けれど、


「問題ありません。これで疲れるような、やわな鍛え方はしておりませぬゆえ」


「そ、そう」


 笑うアーゼさんに、僕は曖昧に頷いた。


 そして、そんな僕と語らう銀色の鎧に身を包んだ女騎士を、イルティミナさんは軽く睨んでいた。


 ……うん。


 多分、彼女がいなければ僕と2人っきりだったのに、ってことだろう。


(いや、わかるよ)


 僕だって、実はそう思っちゃったりしたからさ。


 夫婦水いらず。


 その時間が今回のクエストではなさそうだった。


 でも、仕方ない。


 アーゼさんだって別に僕らの仲を邪魔したい訳じゃないし、仕事として、役目として同行しているんだ。


 それで逆恨みされたら、可哀相だもんね。


 ギュッ


 だから、僕はイルティミナさんの手を握った。


 彼女はハッとする。


 こちらを見るので、ニコッと笑ってみた。


「……マール」


 僕の奥さんは憑き物が落ちたような顔をして、僕のことを見つめた。


 それから微笑む。


 キュッ


 繋いだ指に力を込めて、


「そうですね」


「うん」


 僕らは、僕らだけにわかる心でお互いに頷き合ったんだ。


 そんな僕ら夫婦の姿を、対面の席に座るアーゼさんは、ただ静かに無言のまま見つめていた。


(……ん)


 その時、ふと匂いがした。


 アーゼさんかな?


 どこか生々しい人の匂いだ。


 つい鼻を鳴らして、


「どうしましたか、神狗様?」


「あ……」


 気づいたら、アーゼさんに顔を近づけていて、彼女に怪訝な顔をされてしまった。


 僕は慌てて身体を離した。


「ご、ごめんなさい。なんか、アーゼさんの匂いがしたから」


「私の……?」


「う、うん」


 僕は頷いた。


 イルティミナさんは「むぅ」と唸り、少しだけ頬を膨らませていた。


(ご、ごめんね?)


 奥さんの前で何をしてるんだろう、僕。


 本当の犬みたいだ……。


 アーゼさんも自分の腕の匂いを嗅いで、


「申し訳ありません。身だしなみには気をつけていたつもりなのですが、やはり、沁みついた血の臭いは抜けませんでしたか……」


「……血の臭い?」


「未熟ゆえ、修練の中でどうしても負傷を」


「…………」


「また多くの魔物や不信心者を処罰してきましたので。その血と念が我が身には沁みついているのです」


 そう語る声は、淡々としていた。


 後悔はない。


 けれど、その血塗られた我が身を穢れているとも感じているみたいだ。


 その手を穢しても。


 人々と神のために生きる――彼女はそう人生を選んだのだ。


 そんな意思が伝わってきた。


(…………)


 きっと、外を歩く4人も同じなのかもしれない。


 でも、血の臭い……かな?


 クンクン


 僕はまた鼻を鳴らした。


「……うん」


 やっぱり違う。


 僕は言った。


「違うよ。なんか、強い人の匂いだ」


「…………」


「よくわからないけれど、懸命に生きている人の匂いだと思った。アーゼさんの匂い、僕は好きだよ」


「神狗……様」


 僕の言葉に、彼女は呆けた様子だった。


 僕は笑った。


 アーゼさんは、小さく唇を噛む。


 そして、絞り出すように「ありがとうございます」と口にした。


 何だろう……?


 溢れる感情を、無理矢理、内側に抑え込んだ感じ……? そう思えた。


 ペシッ


(あいたっ?)


 気づけば、イルティミナさんが僕の太ももを叩いていた。


 え、何?


 驚く僕を軽く睨んで、


「マール、軽々しく、そのような言葉を口にしてはいけません」


「え?」


「いけません」


「……う、うん。ごめんなさい?」


「はい。――アーゼも、どうか、我が夫をお許しください」


「いや……」


 彼女は首を左右に振った。


 苦笑して、


「神狗様の素直さは、やはり美徳だ。心惑わされる私が未熟なのだろう。気を遣わせてすまないな、イルティミナ・ウォン」


「いえ」


「神狗様も、お騒がせをしました」


「う、ううん」


 アーゼさんは、僕ら2人に頭を下げた。


 正直、僕にはわからないけれど、大人な美女2人の間だけでは、きちんと伝わるものがあったみたいだ。


(う、う~ん?)


 僕は、心の中で首をかしげた。


 ……そういえば、同じ神殿勤めのアルゼリアさんは、花の香りがしていたっけ。


 でも、あれは香水の匂い。


 もしアーゼさんが気にするなら、それで自身の匂いを隠せるかも……と思ってしまった。 


(…………)


 ま、今は無理だけどね。


 だって、これから行くのは戦場だ。 


 強い香水の匂いで、自分の存在が敵や魔物にばれてしまったら本末転倒だもの。


 だから、非番の時?


 そういう時なら、香水とか使えばいいんじゃないかな。


 …………。


 でも、余計なお節介かも?


 ちょっと、わからない。


 何となく、今の2人の反応を見て、思ったことを簡単に口に出せなくなった僕なのでした……。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 初日の夜は、街道の宿場町にある宿屋で1泊した。


 僕とイルティミナさんは、一緒の部屋。


 アーゼさんは1人部屋。


 他4人の神殿騎士は、2人部屋に2人ずつ泊った。


 けど、イルティミナさん曰く、


「それぞれの部屋から、交代で私どもの部屋の様子を窺っていますね。どうやらマールを守るために、一晩中、見張りに徹するつもりのようです」


「…………」


 その思いはありがたいけど、なんか怖いよ……。


 あと、ようやくイルティミナさんと2人きりになれて、イチャイチャできると思っていたので、とても残念です。


 さすがに監視されながらは、無理。


 イルティミナさんも「全くもう……」と不機嫌そうだった。


 まぁ、あまり声を出さずに、手を繋いで過ごしたよ。


 …………。


 そんなこんなで、翌朝だ。


 朝食の席では、宿の食堂で、やはり僕ら夫婦とアーゼさんの3人が同じテーブルを囲んだ。


 他4人の神殿騎士は、また別のテーブルだ。


(…………)


 食事中も、アーゼさんたちは兜と鎧を着用していた。


 おかげで、やっぱり顔が見えない。


 他の宿泊客たちは、さすがに奇異の目で彼女たちを見ていたけど、それも仕方ないだろう。


 そうして食事をしながら、


「――今回のリッチの出現は、神殿騎士の目から見て、どう思われますか?」


 と、僕の奥さんが聞いた。


 モグモグ


(神殿騎士の目……?)


 少し焦げ目のあるハムの目玉焼きトーストを食べながら、僕は2人の美女を見た。


 アーゼさんは、ナイフとフォークで美しく食事をする。


 サラダを一切れ、口に運ぶ。


 静かに咀嚼。


 コクリと飲み込んでから、


「そうだな……。元々、『太陽の墓所』の管理は王国の名義だが、実際は、その命を受けた我ら聖シュリアン教会が行っていた」


「…………」


「墓所には、死霊系の魔物が発生し易い。だからこそ、我らとしても定期的に鎮魂の儀を行い、埋葬者たちの安らかな眠りを守ってきた。……だが」


「だが……?」


「だが、今回、リッチが発生した場所は『貴族霊廟』だ」


 彼女の声は、少し険しい。


 食事の手を止めて、言葉を続ける。


「民間の墓所に関しては、我らが鎮魂を行う。しかし、貴族霊廟に関しては体面もあり、その霊廟の貴族家が独自に行うしきたりとなっていた」


「…………」


 それはつまり、民間と同じ待遇での鎮魂では、貴族の面子は保てないから……ってことか。


 だから、貴族たちは、自分たちで神殿に依頼。


 そして、鎮魂の儀を行うんだ。


 と、イルティミナさんが「なるほど、そういうことですか」と頷いた。


(え……何が、なるほど?)


 僕はキョトンとする。


 それに気づいて、


「太陽の墓所は、共同墓所です。ですが大貴族は、独自の墓所を別に所持しています。つまり、共同墓所の貴族霊廟に眠るのは、あまり力とお金のない貴族家なのですよ」


「そう、なの?」


「はい。そして、その場合、鎮魂の儀を定期的に行える財力がない貴族もいる……ということです」


「…………」


 そこまで言われて、僕もわかった。


 アーゼさんを見る。


 彼女は頷いた。


「そうです。正しき鎮魂が行われなかった結果、今回の死霊、そして、リッチの発生が起きたのだと思われます」


 ……うわぁ。


 なんて言うか、酷い話だ。


 貴族の面子だけを守った結果、最悪の事態が起きたんだ……。


 僕は、唖然である。


 イルティミナさんはため息をつく。


「貴族の愚かさで、民間の埋葬者たちの安らかな眠りまで妨げられた……これが遺族に知られれば、世間でも大きな問題になったでしょう。なるほど、キルトも動く訳です」


「……うん」


 だからキルトさん、僕らに頼んだんだね。


 そして、王家もすぐ動いたんだ。


 アーゼさんも頷いた。


「聖シュリアン教会としての落ち度はない。だが、墓所の管理者として責任がある。世間の目もそう見るだろう。だからこそ、私たちも同行を求めたのだ」


「そっか……」


 その理由に、僕も納得だ。


 貴族、王家、教会……全てが関係して、総意で解決を望んだんだ。


(うん……)


『金印の魔狩人』と『神殿騎士団の団長』を動かす訳だよ。


 今回の件は、それぐらい大きな問題だったんだね。


 僕はため息。


「原因はともかく、何よりも今は、巻き込まれた墓所の魂たちが可哀相だよ。早く助けてあげないと」


「えぇ、そうですね」


「はっ、その通りです」


 僕の言葉に、2人のお姉さんたちも頷いた。


 …………。


 食事も終わり、やがて宿場町を出発する。


 それから竜車に揺られて数時間、僕らは日暮れ間近の赤い夕焼けの時刻に、目的地の『太陽の墓所』に到着した。

ご覧いただき、ありがとうございました。


※次回更新は、来週の月曜日を予定しています。どうぞ、よろしくお願いします。



マールのコミカライズも連載中です。


URLはこちら

https://firecross.jp/comic/series/525


こちらもよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様ですヽ(´▽`)/ イルティミナが側に居るのに女性の匂いを嗅ぐ犬マール…。 最低限のTPOは弁えないとダメでしょうに……(苦笑) 今回は色々な意味でイルティミナのストレスがヤバそ…
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