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書籍マール3巻発売&コミカライズ記念SS・その13

書籍マール3巻発売&コミカライズ記念、25日連続更新の24日目です!


本日は、記念の特別ショートストーリー・その13、です。


また今話にて、記念の特別ショートストーリーも最終話となります。


どうぞ、よろしくお願いします。

「そなたら2人で終わらせてしまったか」


 合流したキルトさんは、現場の惨状を見ながら、唸るようにそう言った。


 周囲には、犯人の死体が8つ、岩石竜の死骸が1つ、そして、その戦闘の際の血痕や地面の破壊跡があった。


 それらを見回すキルトさん。


 その後ろでは、生き残った4人の犯人を、ソルティスとポーちゃんが頑丈な縄で縛ってくれていた。


 キルトさんの視線が僕を見る。


「力を使ったな?」

「うん」


 隠すことでもないので、僕は頷いた。


 僕の肉体が神の眷属『神狗』であることは、シュムリア王国では極秘扱いだった。本来は、人前で使っちゃいけない力である。


 だけど、


「相手は犯罪者ですから」


 イルティミナさんが僕の考えを代弁するように、口にした。


 普通の人々がいる所では、さすがに使わなかった。


 でも、犯罪者ならば、その言葉に信用はない。


 仮に彼らが何かを言ったとしても、金印の魔狩人イルティミナ・ウォンが逆の証言すれば、人々はそちらの方を信じるだろう。


 秘密が広がる可能性は低かった。


 何より、僕が力を揮った相手は、『岩石竜』というこの世界でも最強の種族である竜種の1匹である。


 人間相手には使っていないのだ。


「だから、何も問題はありませんよ」


 イルティミナさんは澄まして言った。


 キルトさんは嘆息する。


「まぁよい」


 そう言って、僕の頭に手を伸ばして、クシャクシャと乱暴に混ぜた。


「今回は、そなたにも思う所があったのじゃろう。たまには、そうした心情を思いきり発露させることも大事じゃろうしの」


 と笑った。


 うん。そりゃ、大事な絵を盗まれたんだから。


(僕だって怒らない訳がないんだ)


 まぁ、岩石竜には罪はないけど、襲ってきたのは向こうだし正当防衛だよね?


 そんな会話をしていると、ソルティス、ポーちゃんが戻ってくる。


「やれやれ、やっと拘束し終わったわ~」

「…………(コクッ)」


 そんな2人の後ろでは、後ろ手で縄に縛られ、それぞれの身体を縄で繋がれた犯人たちの姿があった。


「お疲れ」


 僕は労う。


 ソルティスは「そっちもね」と笑った。


 確かに犯人たちを見つけ、捕まえる仕事は、僕らがやったのだった。


 少女は、紫色の柔らかそうな長い髪を手でかきながら、


「んで? 次は盗品の確認かしらね」

「うん」


 僕は頷いた。


 犯人たちの背負っていたリュックを回収し、1箇所に集めるのは、すでにポーちゃんがやってくれていた。


 僕らは、その中身を確認していく。


 7つのリュックには、旅の道具などが詰まっていた。


 そして、残りの5つのリュックからは、


(あ……)


 梱包された絵画たちが見つかった。


 丁寧に緩衝材と梱包を剥がしていくと、間違いなく、ディアール美術画展示会で展示されていた名画たちだった。


 その数、19枚。


 絵画を見つめる僕の横顔を見ながら、イルティミナさんが聞いてくる。


「マール?」

「うん、展示会にあった絵だ」


 僕は自信をもって答えた。


 総額1500万リド(15億円)の名画たちだ。


 ソルティスは『ひぇぇ……』という顔で、わざとらしく自分の身体を抱きしめる。ポーちゃんも無表情で、相棒の仕草を真似していた。


 キルトさんは「うむ」と頷く。


 僕らを見回して、


「皆、よくやった。これで盗難事件は解決じゃ」


 白い歯をこぼして、そう笑ったんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 王国からのクエストを達成したキルトさんは、その日の内に、回収した絵画と犯人たちを王国警備隊へと引き渡した。


 事情説明を終えれば、僕らもすぐに解放された。


 その夜は、みんなでお祝いの食事会を開いた。


 久しぶりに僕とイルティミナさんもお酒を飲んだりして、とっても楽しかったよ。


「それじゃあね」

「…………(ペコッ)」


 翌日、ソルティスとポーちゃんは次のクエストで、王都を旅立っていった。


 僕らはそれを見送る。


 それから2日間は、僕とイルティミナさんは、のんびりと休暇を楽しんだ。


「……あぁ、マール」


 その……若いものですから、夜も色々と、ね。


 そうした時のイルティミナさんは、本当に魅惑的で、僕は夢中になってその快楽を味わった。


 もちろん、それ以上のものを彼女にも返したつもり。


 そんな夜は、2人とも裸のまま抱き合って、そのまま朝を迎えたりしたんだ。


 で、3日目には、僕らも次のクエストで王都ムーリアを発つことになった。


「気をつけての」


 冒険者ギルド前で、キルトさんに見送られて出発する。


 僕らも笑顔で、手を振り返した。 


 いつものように竜車に揺られながらの旅が始まる。


 窓の外には、遠ざかる王都ムーリアの景色と、その周辺の自然豊かな風景が広がっていた。


「…………」


 僕は、窓枠に頬杖を突きながら、それを眺めた。


 隣のイルティミナさんは、そんな僕に寄り添って、僕の肩に体重を預けている。


 コツン


 傾けられた彼女の頭が、僕の頭に触れる。


 柔らくて綺麗な深緑色の長い髪が、サラサラとこぼれて、僕の耳や頬をくすぐった。


 彼女は瞳を閉じたまま、


「次に帰ってくる頃には、今度こそ、コンテストの結果がわかりますね」 


 そう呟いた。


 僕は微笑み、頷いた。


 出発前、ディアール・レムネウスから新聞各紙に連絡があって、遅れていたコンテストの結果発表は来週に行われる、と発表されたんだ。


 無事、絵画たちは彼の元に戻ったみたいだね。


(どうなるかな?)


 あまり期待はしていないけど、でも楽しみだ。


 イルティミナさんは笑った。


「きっと受賞しますよ」


 自信ありげな声音。


 それは、彼女自身が僕の絵を認めてくれているという証で、それだけで僕は幸せだった。


 受賞しなくても、それで充分。


 それだけで満足。


「ありがとう、イルティミナさん」


 そんな自分の奥さんに感謝を込めて、そのおでこに軽くキスをする。


 彼女は驚いた顔をする。


 すぐにその頬がほんのりを赤くなって、いつも大人びた美貌が甘く蕩けた。


「もう、マールったら」


 恥ずかしそうな、でも嬉しそうな笑顔で僕の頭を抱きしめ、お返しのキスを額、鼻、頬、そして最後に唇に落としてくる。


(……ん)


 プルンとした心地好い弾力。


 目を閉じてそれを味わう。


 やがて、唇を離し、ゆっくりとまぶたを開いた。


 …………。


 イルティミナさんも同じようにまぶたを開いて、お互いの視線が合う。


 僕らは笑い合った。


 そうして、またじゃれ合うように身を寄せる。


 そんな僕らを乗せて、竜車は、夏空の下の街道をゆっくりゆっくりと進んでいった。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 20日後、クエストを終えた僕らは、無事に王都ムーリアに帰ってきた。


 その翌日、


「お、来たの?」

「遅いわよ、マール! イルナ姉も早く早く~」

「…………」


 王立芸術館の前で、僕とイルティミナさんは、キルトさん、ソルティス、ポーちゃんの3人と合流した。


 みんな、普段着だ。


 そうした服装をしていると、普段、魔物を殺すような仕事をしていることが信じられない、普通の女の子や女の人に見える。


 ちなみに僕とイルティミナさんも、武装をしてない普段着だ。


 ただ、余所行きのちょっといい服。


 王立芸術館は、それなりに格式のある建物だからね。少し服装にも気を使ったんだ。


 イルティミナさんは、長い髪をお団子に結い上げ、ノースリーブの夏用のシャツとロングスカートで、上品な若奥様といった印象だ。


「やぁ、みんな」

「お待たせしました」


 3人に、僕らは笑いかける。


 そしてイルティミナさんは、その美貌を僕へと向けて、


「なんだかドキドキしますね」


 と、はにかむように微笑んだ。


(うん)


 今日は、ついにコンテストの結果がわかるんだ。


 この王立芸術館では、披露される芸術は毎回、時期ごとに変わり、現在は演劇の公演などが行われている。


 だけど、そのエントランスホールでは『ディアールの若葉・絵画コンテスト』の受賞作品が展示され、一般公開されているんだ。


 つまり、僕らはそれを見に来たのである。


 ドキドキ


 期待しないつもりでも、どうしても鼓動が速くなってしまう。


 もしかしたら?


 いやいや、そんなことないって。


 でも、万が一の可能性も……。


 それで落選してたら、心が辛いぞ?


 そんな風に、自分1人で問答を繰り広げたりして、ちょっと落ち着かない。


 パン


 そんな僕の背中が叩かれた。


「ほれ。そんな顔をしておらんで、胸を張れ。そなたが全力でがんばったことに変わりにはないのじゃ。それを忘れず、心に刻め。――さぁ、結果を見に行くぞ」


 叩いたキルトさんは、そう笑った。


 イルティミナさん、ソルティスも笑顔で、ポーちゃんは無表情で頷いている。


(みんな……)


 うん、そうだ。


 ここで考えてても仕方ない。


 背中の痛みに気合をもらって、僕は勇気を出して、王立芸術館の出入り口へと向かって歩きだしたんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 ディアールの若葉・絵画コンテストには、3つの賞があった。


 最優秀作品に贈られる『若葉賞』。


 優秀作品に贈られる『黄金賞』。


 その次に優秀な作品に贈られる『白銀賞』。  


 ちなみに『黄金』や『白銀』の名称は、冒険者ランクやリド硬貨にも使われる『金』と『銀』の色からきているらしい。


 若葉賞は、1作品。


 黄金賞は、3作品。


 白銀賞は、10作品。


 計14作品が選出されるそうだ。


 ……結果から言おう。


 僕の描いた作品は、そのどれにも選ばれていなかった。


 残念といえば残念だけれど、受賞作品を目にすれば『なるほど、これは仕方ない』と納得させられるだけのレベル差を感じさせられた。


 技量が明らかに違う。


 最優秀作品なんて、展示会にあった名画と並んでも遜色ないほどの出来だった。


(うわぁ……)


 見た瞬間、電気が走ったようで、思わず、ずっと見惚れちゃったよ。


 黄金賞、白銀賞の作品もそうだった。


 みんな、僕よりもずっと上手で、これらの絵が受賞したのも納得だった。


 …………。


 …………。


 …………。


 でもね?


 実は今回のコンテストで、発表の段になって追加された賞があったんだ。


 その名は『希望賞』。


 まだ未熟で粗削りだけど、何かしらの輝きを持った作品に贈られる賞だそうだ。


 ディアールさん曰く、今回のコンテストでは予想以上にレベルの高い作品が集まったため、急遽、その賞を作ることにしたんだって。


 そして、受賞したのは7作品。

  

 他の3賞とは違って、エントランスホールの隅っこで、こっそりと展示されている作品たち。


 その前に、僕ら5人は集まっていた。


「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」


 僕らの視線は、その中の1枚の絵画だけに向けられている。


 夏の青い空。


 緑の芝生と1本の若木。


 そこにある椅子に座った白いワンピースを着た女性が、こちらへと左手を伸ばして、見ている僕らに幸せそうに笑いかけてくれていた。


 その女性は、今、僕の隣にいる女性とそっくりで。


「…………」


 僕は、呆然とそれを見ていた。


 キルトさん、ソルティス、ポーちゃんも驚きの表情で絵を見つめ、やがて僕の方を向く。


 そして、絵とそっくりな女性も、こちらを見た。


「やりましたね、マール」


 少し震えた声だった。


 それに引き寄せられるように、彼女を振り返る。


 イルティミナさんは泣き笑いのような顔をして、僕のことを見つめていた。


 真紅の瞳は涙で潤み、頬は紅潮し、片手で口元を押さえながら、嗚咽を堪えるようにして、ただ僕のことを見つめ続けていた。


 僕は無意識に、その頬に手を伸ばした。


 ……温かい。


 触れた肌の滑らかな感触と、その温もりに、これが夢ではないと知らされた。


(あぁ……)


 僕も彼女と同じような表情になった。


 そのまま、お互いに縋りつくように抱きしめ合う。


 ギュウッ


 強く、強く。


 湧きあがる歓喜に震えながら、ただ相手のことを求め合った。


 そんな僕ら2人の身体を、キルトさん、ソルティス、ポーちゃんの手が優しく叩いてくる。


「おめでとうじゃ」

「おめでと、イルナ姉、マール」

「おめでとう、とポーは祝福する」


 向けられる笑顔が、ちょっと照れ臭い。


 でも、嬉しかった。


 ありがとう、3人とも。


 そして、ありがとう、イルティミナさん。


 ――今夏に開催された『ディアールの若葉・絵画コンテスト』において、僕が描いた愛する人の絵は『希望賞』を受賞した。



 ◇◇◇◇◇◇◇



(なんだか、夢みたいだ……)


 自分の描いた絵の前で、僕は、ずっと立ち尽くしてしまっていた。


 そばには、イルティミナさんだけがいる。


 キルトさん、ソルティス、ポーちゃんの3人は気を利かせてくれたのか、『ちょっと休憩してくる』と場を外してくれていた。


 なので今は、自分の奥さんと2人きり。


 彼女と手を繋ぎながら、その本人の描かれた絵を眺めていたんだ。


 まぁ、イルティミナさんの方は、どちらかというと絵よりも、それを見て感動し、喜んでいる僕を眺めて、幸せそうに笑っているんだけどね。


 でも、そうした想いも心地好い。


 だから、ここは本当に夢見心地の幸せな空間だった。 


 そんな時だった。


「受賞、おめでとうございます。御2人とも、本当によかったですね」


 ふと横から、そんな声をかけられた。


(え?)


 振り返ると、そこにいたのは品の良い服に身を包んだ60~70代ぐらいの白ヒゲのおじいさんだった。


 白髪の頭には、ベレー帽を斜めに被っている。


 あ。


 僕とイルティミナさんは、同時に気づいた。


 それは、僕らに『ディアール美術画展示会』のチケットをくれた、あのシュムリア湖で会った絵描きのおじいさんだったんだ。


「こんにちは、おじいさん」

「ご無沙汰しております」


 僕ら夫婦は、頭を下げた。


 おじいさんは「どうも、こんにちは」とベレー帽を軽く持ち上げ、会釈する。


 それから、僕らの後ろにある絵を見て、


「良い絵でしたな」


 と瞳を細められた。


「この絵を描いた画家のモデルへの愛がよくわかり、そして何より、このモデルの女性が画家へと向ける信頼と愛情がよく伝わってきています」

「…………」

「…………」

「これは、本当に素敵な表情だ。そして、その心を余すことなく、見事に描いている。……この絵を見た者は皆、この女性への恋に落ちるかもしれませんな」


 おじいさんはそう言って、好々爺のように笑った。


(なんか、べた褒めだ)


 僕とイルティミナさんはお互いの顔を見て、少し恥ずかしくなった。


 ちょっと赤くなってしまう。


 そんな僕らに、おじいさんは少し驚き、それから「ほっほっほっ」と愉快そうに笑った。


 僕は、彼に頭を下げた。


「チケット、ありがとうございました。おかげでコンテストのことも知れて、こうして賞までもらえるなんて……本当に夢みたいです」


 そうはにかむ。


 イルティミナさんも、隣で頭を下げていた。


 おじいさんは「なんのなんの」と手を振り、


「そのような機会を与えるために私はチケットを渡したのですから、御2人の役に立ったのであれば実に良かった。……それに何より、礼を言うのは私の方です」


 と言った。


(え?)


 なんで、おじいさんが僕らに礼を……と思ったんだけど、おじいさんの表情は真剣なものだった。


 ベレー帽を外し、胸に当てる。


 そして、深々とこちらに頭を下げてきた。


「私の大切な絵を、そして、歴史ある名画たちを取り戻してくださり、本当にありがとうございました」


 ……はい?


 思わぬ言葉に、僕らの目が点になる。


 え? あれ?


(それって、ディアールさんの絵や収集作品が盗まれたことを言ってるの?)


 でも、それって公表されてないよね。


 だから、僕らの活躍だって王国警備隊や関係者以外、誰も知らないはずだ。


 そこで思い出す。


『私の大切な絵』


 彼はそう言った。


 そして、気づく。


 今回の盗難事件と僕らの活躍を、もう1人、その被害に遭った当事者本人も知っているのだと。


 その意味を、僕もイルティミナさんも悟った。


 だから、硬直する。


 そんな僕らに、おじいさんは笑っていた。


 と、その彼へと向かって、


「レムネウス先生、こちらにいらしたんですか!」


 王立芸術館の関係者らしい人が、遠くから声をかけてきた。


 おじいさんは『ありゃ、見つかってしまった』という顔をする。


 関係者さんは、急ぎ足でこちらへとやって来る。


 僕らに気づいて、軽く会釈。


 それから、おじいさんの耳元に顔を寄せて、


「先生、そろそろ次回の展示会についての打ち合わせを行いますので、会議室の方までお越し願えますか?」

「はいはい、すぐに参りますよ」


 おじいさんは頷いた。


 それから僕らを振り返って、


「それでは、私はこれで」

「あ、はい」

「どうも」


 反射的に我に返って、でも、そんな間抜けな返事しかできなかった。


 関係者さんに促され、おじいさんは歩きだす。


 と、思い出したように、


「そうそう、コンテストの審査には、一切の忖度はありませんからな。あの絵が受賞されたのは、間違いなく、貴方の実力ですよ」


 僕を振り返って、そう言ってくれた。


(!)


 はっきり明言されて、驚いた。


 そして、素直に嬉しかった。


 その気持ちのまま、僕は笑った。


「ありがとうございます、ディアール・レムネウスさん」


 彼も笑った。


 悪戯っぽく、でも優しく。


 それは、若い画家に向けての応援の笑顔でもあった。


 そうして元宮廷画家であり、王国に絵画芸術の文化を広めようという偉大なる先輩画家は、僕らの前から去っていった。


 しばらく、その場に立ち尽くす。


 やがて、イルティミナさんが呟いた。


「……驚きましたね」

「……うん」


 僕は頷いた。


 だけど、彼の与えてくれた熱が、僕を内側から燃え上がらせていた。


 僕は、自分の奥さんを振り返る。


 その美貌を見つめて、


「なんだか僕、今、無性に絵が描きたいよ。イルティミナさんのこと、また描かせてもらってもいいかな?」


 そう訴えた。


 僕の真っ直ぐに向けられた青い瞳を、イルティミナさんは少し驚いたように見つめ返してくる。


 けれど、すぐに優しく微笑み、頷いてくれた。


「はい、もちろんです」

「やった」


 嬉しさに、僕は笑顔を弾けさせた。


 繋いだ手を強く握り、素敵なモデルさんとなってくれる彼女を引っ張る。


「じゃあ、早く早く」

「ふふっ、そんなに焦らないで、マール。私はどこにも逃げませんよ?」


 僕の奥さんは、そう笑った。


 その笑顔は眩しかった。


 キラキラと光が散りばめられたように、その愛情と優しさが輝いている。


(あぁ、この笑顔も描きたいな)


 それを見ながら、強く思う。


 そんな僕を愛おしそうに見つめながら、イルティミナさんは一緒について来てくれる。


 去っていく僕ら2人。


 その背中を、エントランスホールに飾られた絵の中の白いワンピースの女性は、同じ愛情に満ちた微笑みで見送ってくれたのだ。

ご覧いただき、ありがとうございました。


書籍マール3巻発売&コミカライズ記念の特別ショートストーリー、最後までお付き合い下さって本当に感謝です♪


明日からは本編の更新に戻ります。


次回の更新は、明日19時頃を予定していますので、どうぞ、よろしくお願いします。



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[良い点] 更新お疲れ様ですヽ(´▽`)/ 連日の投稿ありがとうございました。 堪能させて頂きましたm(_ _)m 明日の通常更新も楽しみにさせて頂きます! しかしマールの絵がメインの賞でなく、急遽追…
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