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【書籍化&コミカライズ!】少年マールの転生冒険記 ~優しいお姉さん冒険者が、僕を守ってくれます!~  作者: 月ノ宮マクラ


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書籍マール3巻発売&コミカライズ記念SS・その12

書籍マール3巻発売&コミカライズ記念、25日連続更新の23日目です!


本日は、記念の特別ショートストーリー・その12、です。


よろしくお願いします。

 絵画を盗んだ犯人たちも、追手の警戒はしていただろう。


 けれど、それがまさか自分たちの上空からやって来るとは、さすがに予想していなかったみたいだ。


 彼らの頭上を黒い影が通り過ぎ、


「!?」


 その異変に気づいた瞬間、犯人たちの前方の地面に、僕とイルティミナさんは虹色の粒子を散らしながら着地した。


 ズザァン


 土煙が舞い、その中で、僕の背中にある美しい金属翼が大きく広げられていた。


 犯人たちは「なっ!?」と驚愕の表情で足を止める。


 そんな彼らの目の前で、イルティミナさんは白い槍をおろしたまま、ゆっくりと歩きだした。


 その真紅の瞳には、冷たい殺意の光が灯っていた。


「なんだ、テメエら!?」


 犯人の1人が叫んだ。


 それは混乱し、恐怖している自分の心を奮い立たせるためだったかもしれない。


 ヒュン


 その首筋に、白い光が一閃した。


 叫んだ男の頭が首からポロッと外れて、岩場の地面に転がる。


 遅れて、切断された首から鮮血が噴き出し、首無しの男の身体は、ガシャっと膝から地面に崩れ落ちると、そのままうつ伏せに倒れてしまった。


 ドクドク


 血だまりが広がっていく。


 唐突に、そしてあまりに呆気なく仲間が死んで、11人となった犯人たちは茫然となった。


 その目の前で。


 イルティミナさんの手にする『白翼の槍』は真横に振り抜かれた状態で静止し、その刃は鮮血に濡れていた。


 その美貌が、美しく微笑む。


「私たちが何者かは、貴方たちの方が良くわかっているのではありませんか?」


 告げる声はとても優しかった。


 だからこそ、恐ろしい。


 また彼女の槍を握った右手の甲には、黄金に輝く魔法の紋章が光を放っていた。


 犯人たちは蒼白になる。


 自分たちの目の前にいる美女が、シュムリア王国が誇る最強の冒険者、金印の魔狩人イルティミナ・ウォンであると悟ったのだ。


「う、うぉおおっ!?」

「に、逃げろ!」

「ひぃ……っ!」


 男たちは、イルティミナさんの反対方向へと逃げだした。


 けど、遅い。


 イルティミナさんは、その場でトンッと軽く跳ねる。


 まるで柔らかな羽毛のように、その白い武装に包まれた身体は空を舞い、逃げる男たちの前方へと着地した。


 シュオン


 着地と同時に、白い槍が振られて光が走る。


「ぎゃっ!?」

「ふぐっ!?」


 先頭にいた2人の足が、膝の上あたりで切断されていた。


 足を失った身体が地面に倒れる。


 トス トス


 その後頭部を、槍の美しい刃は無造作に2回、突いた。


 一瞬、痙攣し、そして2人とも動かなくなる。


 残された犯人たちは固まっていた。


 あまりに現実離れした彼女の強さに、脳の処理が追いついていないみたいだった。


(……ご愁傷様)


 心の中で、そう告げる。


 残酷に思えるかもしれないけれど、この世界での命の価値は、前世の日本ほど大事にはされていないんだ。


 それが犯罪者であれば、尚更に。


 せめて、痛みなく、終わらせてあげよう。


 シュラン シュラン


 そう思いながら、僕も左右の手で『大地の剣』と『妖精の剣』を鞘から抜き放った。


 美しい刃たちが陽光を反射する。


「う、く……っ」


 再び、イルティミナさんの反対側に逃げようとした何人かが、僕に気づいて表情を強張らせていた。


 犯人たちを挟んで、彼女が言う。


「背負っている盗品の絵画を傷つけないよう、気をつけて、マール。それと尋問のため、2~3人は生かして捕らえましょう。何、手足の1~2本は切っても構いませんよ」


 いつもの優しい口調だ。


 生死のかかったこの空間で交わすには、あまりに普通すぎて、僕はちょっと苦笑しちゃった。


「うん、わかった」


 僕は頷く。


 そして、手にする2本の剣を犯人たちへと構えたんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



「く、うぉおおおっ!」


 犯人たちは武器を構え、雄叫びを上げて、こちらに襲いかかってきた。


 僕の見た目は、まだ未成年の子供みたいに見える。


 だからこそ、犯人たちに、あの金印の魔狩人イルティミナ・ウォンを相手にするよりも勝ち目があると思われたのかもしれない。


(まぁ、間違ってはないけど……)


 そう思いながら、僕は前に踏み込んだ。


 ヒュッ ヒュコン


 襲いかかってくる犯人の剣をかい潜り、すれ違いざまにその手首と喉を、2つの刃で撫でてやった。


 切れ味の良い刃は、皮膚の奥の重要な血管を切断する。


 ブシュウ


 2つの切断面から鮮血が噴いた。


「……あ」


 男は驚いた顔をする。


 すぐに大量の失血によって意識を失い、地面に倒れた。恐らく、すぐに出血死するだろう。


 ヒュッ ヒュオ ヒュオン 


 次々と襲ってくる男たちを同じ目に遭わせる。


 3人があっという間に失血で意識を失い、大量の血液を撒き散らした地面に倒れていった。


 残った男たちは、動きを止めた。


 その中で、


「お見事」


 イルティミナさんだけは嬉しそうに頷いて、白い槍を肩に預けながら、パチパチと拍手をしてくれた。


 僕は苦笑し、「ありがと」と返しておく。


 犯人たちの半数が、あっという間にやられてしまった。


 一応、彼らの名誉のために……というのも変だけど、言っておくと、犯人たちもそんなに弱い訳じゃなかった。


 正規の剣術ではないけど、実戦で鍛えられたような、それなりの技量もあった。


 あと、僕が斬った1人は『魔血の民』だったしね。


 手加減すれば、こちらがやられる。


 だから僕は、全力で彼らを殺そうとしたし、そのために初手から急所を狙ったんだ。


 それで決着が早かっただけ。


 結果は圧勝に見えても、そこまで大きな実力差はなかったんだよ。


 あ、イルティミナさんの方は、もちろん本当に圧倒的な実力差があっての結果だけどね。


「う、あ……」

「く、くそ」

「な、何なんだ、コイツらよぅ……」


 犯人たちは、僕とイルティミナさんに前後を挟まれ、逃げ場をなくしていた。


 その表情には、絶望感が漂っている。


 僕は言う。


「絵を返せ」


 ジャキッ


 手にした『大地の剣』の美しい刃を向けながら、そう威圧した。


 無駄に命を散らせる必要はない。


 王国警備隊に捕まったあと、どのような刑罰が下されるのかわからないけれど、少なくともこの場で死ぬことはないだろう。


(さぁ、武器を捨てて投稿しろ)


 そう思いながら、黙って剣を向け続けた。


 イルティミナさんは、何も言わなかった。


 甘いと思われているかもしれないけれど、でも、僕の意思を尊重してくれて、手出しをしないで見守ってくれている。


 さて、どうなるか?


 もしもの時にも動けるように備えながら、返事を待った。


 時間にして、30秒ほどだろうか。


 その時、顔を青ざめさせた犯人の1人が、懐から『何か』を取り出し、僕の方へと投げつけてきた。


「!」


 反射的に、それを斬る。


 それは真っ赤なボールだった。


 パンッ


 斬られたボールは2つに弾け、その中から大量の赤い粉が飛び散った。


(!?)


 まさか、毒!?


 反射的に息を止め、目に入らないように顔を逸らす。


 すぐに後ろに飛びのいたけれど、僕の身体には、砂粒のような赤い粉が降りかかってしまっていた。


「マール!」


 慌てた様子のイルティミナさん。


 何かを投げつけた犯人は『へっ、やってやったぜ』と言わんばかりに笑っていた。


 ドスッ


 その心臓に、背中から槍が突き刺さり、先端が胸へと抜ける。


 男はうつ伏せに倒れた。


 イルティミナさんは冷たい怒りに満ちた無表情で、絶命した男を見下ろしていた。


 僕は戸惑いながら、自分を見る。


(……どうやら、毒じゃなさそう)


 ただ、妙な臭いがした。


 生臭いような、香ばしいような……何て言うか、美味しそうな匂いが粉のかかった僕の全身からしていたんだ。


「今のは、何ですか?」


 生き残った男たちに、イルティミナさんは問う。


 彼らは答えなかった。


 ガシュッ


 その1人の手の甲に、槍の刃が突き刺さり、地面に縫い付けた。


「ぎゃっ!?」


 男は悲鳴をあげた。


 それを無視して、僕の奥さんは問う。


「答えなさい。答えなければ、生きていることを後悔するような地獄の痛みを与えましょう」


 氷点下の声。


 その声に秘められた本気さに、彼らは震えた。


 震えながら、1人が言う。


「魔寄せの粉、だ」


 魔寄せ?


 僕は首をかしげ、イルティミナさんは眉をひそめる。


 その犯人の男は続けた。


「その粉には、特殊な効果がある。……それは、周囲一帯の魔物たちを興奮させ、その臭いの元へとおびき寄せるのさ!」


 言った瞬間だった。


 ズズン


 大地が大きく揺れた。


 地震じゃない。


(今のは、何か重くて大きな物が動いた振動だ)


 そう気づく。


 気づきながら、自分に向けられた強い感情を感じた。


 首筋の後れ毛がチリチリと焼ける感覚。


 その感覚に従って、背後を振り返れば、渓谷の広い谷底にあった巨岩の1つが動いていた。


 ズズ……ズゥン


 岩ではない。


 それは、岩に擬態した魔物だった。


 体長は12メードほどだろうか?


 岩のようなゴツゴツした灰色の皮膚に4足歩行の細長い巨体、その太い首の先にある頭部には、石柱のような角が何本も生えている。


 ――竜だ。


 この世界でも最強とされる種族の1体が、こちらへと向かって来ていた。


「……岩石竜」


 イルティミナさんが、その竜の名を呟いた。


 岩石竜の頭部にある4つの黄色い眼球――僕を見つめるそれには、強い食欲の光が灯っていた。


『お前を喰いたい!』


 その凄まじい感情が伝わってくる。


(さっき感じたのは、これか)


 僕は、自分の身体にかかった赤い粉を見る。


 どうやらこれに惹かれて、岩石竜は僕を食べようとしているみたいだった。


「は、ははっ、ざまあみろ!」


 犯人の1人が、そう叫びながら笑った。


 壊れたような笑みだ。


 あの竜をけしかけることで、僕らを倒せると思っているのか、あるいは、そのどさくさで逃げられると思っているのか。


(……いや、違うかな)


 あの竜が暴れれば、ここにいる彼らの命も危ない。


 むしろ自分たちと共に、僕らも道連れに死なせようという自暴自棄なのかもしれない。


 彼らの目には、そんな破滅的な光があった。


 …………。


 でも、そんな思惑に、僕らが素直に従う謂れはない。


 当然、イルティミナさんも同じように考えている訳で、『金印の魔狩人』である彼女は、1人、岩石竜の方へと歩きだそうとした。


 その動きを、僕は手を挙げて止める。


「マール?」


 イルティミナさんは驚いた顔だ。


 僕は言った。


「ここは、僕にやらせて」


 そう伝える声には、抑え込まれた怒りの感情が滲んでいた。


 それに彼女の足も止まる。


 そう……僕は怒っていた。


 自分の描いた大切な絵を盗まれたことに、それを実行した犯人たちに、そして今なお、こうして無駄な足掻きで面倒をかけられたことに。


 それらに強く怒っていたんだ。


(少しだけ……本気を出そう)


 そう決めた。


 僕の表情とこの青い瞳に浮かんだ強い怒りに、イルティミナさんも気づいて、


「わかりました」


 と頷いた。


「どうか、マールの気の済むようになさってください。あとのことは、私がいかようにでも致しましょう」


 そう微笑み、背中を押してくれる。


(ありがと、イルティミナさん)


 そんな自分の奥さんに、僕は、その時だけは怒りを忘れて微笑みかけた。


 彼女もはにかむ。


 それを見つめ、それから僕は、岩石竜に向き直った。


 犯人たちは、戸惑った顔だ。


 僕の強さは見せたけれど、それでも、竜種に単独で勝てるとは思えなかったのだろう。


 うん、それは間違ってない。


 ただしそれは、今の状態の僕ならば……だ。


 僕は告げる。


「――神気開放」


 静かな言霊に応じて、体内の力の蛇口が開き、神なる力が全身を駆け巡る。


 その作用によって、


 ピョコッ


 僕の茶色い髪の中から、ピンと立った獣耳が生えた。


 同時にお尻からは、


 フワサァ


 長くフサフサした尻尾が伸びてくる。


 全身が軽くなり、手にした左右の剣は、まるで細長い串みたいな重さしか感じなくなった。


 パシュッ パシュン


 僕の周囲では、溢れた神気が放散し、白い火花となっている。


 犯人たちは呆けていた。


 イルティミナさんは、神なる眷属である『神狗』となった僕の姿を愛おしそうに見つめていた。


 でも、まだだ。


 僕は続けた。


「――究極神体モード」


 重ねた言霊。


 それに応じて『神武具』は光の粒子となって僕の全身にまとわりつく。


 そして形成されたのは、全身を虹色の外骨格に包まれた、人型の狗の姿をした全身鎧の戦士だった。


 どこにも隙間はなく、内側にいる僕の姿はまるで見えない。


 けれど、内部にいる僕には、神武具から送られてくる外部の映像や音声、感触が、視覚、聴覚、触覚などの五感で感じることができる。


 キリリィン


 筋肉のように、重ねられた金属部分が捻じれ、回転して、澄んだ音色を響かせる。


「……マール」


 これには、イルティミナさんも驚いていた。


 さすがに僕が、この『究極神体モード』まで発動するとは思っていなかったみたい。


 犯人たちは、僕の突然の変身に目を剥いていた。


「…………」


 カシッ カシン


 僕は、持っていた左右の手の剣を鞘へとしまう。


 そして、虹色の外骨格に包まれた両手をプラプラと軽く上下に揺らして、岩石竜の方へと歩きだした。


 カシャン カシャン


 岩場の大地に、硬い足音が響く。


 近づいてくる虹色の獲物に、巨大な岩石竜は口から涎を垂らしながら歓喜した。


『グボォオオッ!』


 太い喉を逸らせて咆哮する。


 大気が震える。


 その恐ろしい竜の咆哮に、犯人の男たちは怯えたように身を震わせていた。


 ドズン ドズン


 次の瞬間、岩石竜は走り出した。


 目指す先にいるのは、虹色の全身鎧に身を包んだ僕の姿だ。


 一気に押し潰し、噛み砕いて食べるつもりだろう。


 生身の人間なら、避けるしかない。


 けど僕は、その突進を避けなかった。


 両腕を前方に伸ばして、虹色の輝きに包まれた五指を大きく開く。


(――来い)


 そう心の中で念じて、


 ドゴォオオン


 次の瞬間、体長12メード、体重10トン以上ある巨体が僕へと激突した。


 ……ぐっ。


 強い衝撃を感じた。


 普通なら、2階建ての住宅ぐらいを一瞬で破壊してしまえるだろう威力の突進だった。


 ガガガッ


 だけど、僕はそれを受け止めながら、両足を踏ん張る。


 足を覆う金属の筋肉が回転する。


 そして、それだけで、僕は足元の岩盤を4メードほど削っただけで、その岩石竜の恐るべき突進を受け止めきってしまっていた。


 ガガァン


 最後に一際大きく、足元が抉れ、ひび割れた。


 でも、それだけだ。


 粉塵が舞う中で、岩石竜も僕も1歩も動かない。


 その事実に、すぐ目の前にある岩石竜の4つの眼球にも、驚愕の色が滲んでいた。


 メキッ


 僕の虹色の五指は、岩石竜の頭部にある石柱みたいな角を掴む。


 指が食い込む。


 そして僕が更に力を込めると、


 グォオン


 12メードもあった超重量の巨体が、強化された『神狗』の腕力によって高々と空中高くに持ち上げられた。


「たあっ!」


 気合一閃。


 僕は力任せに、岩石竜の巨体を地面に叩きつけた。


 ドパァアン


 大地が爆発したみたいに吹き飛び、クレーター上に大きく凹む。同心円状に衝撃波が走って、12メードの巨体は半ばまで地面にめり込んでいた。


『グボォ……!?』


 胃液と血液の交じった液体を、岩石竜の口が吐き出す。


 それを見下ろして、僕は右手を握り締める。


 キリリィン


 金属の筋肉から澄んだ音色を響かせながら、右腕を大きく振り被った。


 虹色の拳が陽光に輝く。


「はぁっ!」


 それを岩石竜の頭部に落とした。


 岩石竜の眼球に、その僕の姿が反射して、そこに拳が炸裂する。


 ゴパァアン


 巨大な頭部が柘榴のように弾け飛んだ。


 肉片と体液が撒き散らされ、衝撃で地面が激しく揺れ、その真下には更に大きな陥没が発生する。


 反動の衝撃波は、直上に抜けた。


 その進路上にあった雲が吹き飛ばされ、そこから青い空が見えている。


「…………」


 拳を撃ち抜いた先の地面は、神気の名残りによって虹色に光り輝いていた。


 周囲にも、光の粒子が舞っている。


 頭部を失った岩石竜の巨体は、もはやピクリとも動かなかった。


(ふぅ)


 僕は拳を引き抜くと、そのまま立ち上がった。


 後ろを振り返る。


 そこにいた犯人の男たちは、皆、腰を抜かしたのか地面の上に座り込んでいた。


 ギィン


 狗を模した兜の青く光る眼球に見つめられると、彼らはブルブルと震えだす。


 逃げる気力は、もうなさそうだった。


 それに苦笑して、僕は、自分の燃え上がっていた心を鎮静化させていく。


 パァアン


 同時に、全身を包み込んでいた外骨格は虹色の粒子に砕け、それは僕の周囲を何回か回ったあと、ポケットの中へと吸い込まれていった。


(ありがと、コロ)


 力を貸してくれた神武具に、心の中でお礼を言う。


 と、神気を使い過ぎたのか、髪から出ていた獣耳と、お尻から伸びていた長い尻尾も、白煙を噴きながら消えてしまった。


 その瞬間、全身が重くなる。


 フラッ


 少しよろけた身体を、イルティミナさんがすぐに受け止めてくれた。


 汗に濡れた髪を、彼女の指が優しく梳いてくれる。


 僕は、彼女を見上げた。


 僕の美しい奥さんは、こちらを見ながら微笑んでいた。


「すっきりしましたか?」


 そう聞いてくる。


 僕は笑った。


「うん」


 岩石竜にはちょっと申し訳なかったけれど、でも、襲ってくるなら、僕だって容赦はしない。


 黙って殺されるほど、お人好しじゃないんだ。


 そして、久しぶりの全力を出して、僕自身は心も身体も満足だった。


 そんな僕の笑顔に、イルティミナさんは瞳を細める。


 それから、僕の頭を胸に抱いて『よしよし』と甘えさせるようにしながら、何度も頭を撫でてくれたんだ。


(……えへへ)


 その心地好さに、目を閉じてしまう。


 しばらく彼女の好きにさせよう。


 そう思っていると、


「おぉ~い!」

「イルナ姉、マール!」


 遠くから、聞き慣れた声が聞こえた。


 ハッとして、2人で顔をあげる。


 見れば、青空を背景にした遠い崖の上に、キルトさん、ソルティス、ポーちゃんの姿があった。


 僕らの痕跡を見つけて、追いついてくれたみたい。


 3人は、手を振ってくる。


 どうやら、こっちが犯人確保したことはわかっているみたいだった。


 僕とイルティミナさんは、顔を見合わせた。


 そして笑い合う。


「お~い!」

「こちらですよ」


 遠くに見える3人の仲間に向かって、僕ら2人も大きく手を振ってやったんだ。

ご覧いただき、ありがとうございました。


記念の特別ショートストーリーは、明日で最終話となります。もしよかったら、どうか最後までご覧になってやって下さいね。


次回更新は、明日19時頃を予定しています。どうぞ、よろしくお願いします。



ここから、恒例の宣伝になります。


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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様ですヽ(´▽`)/ 犯人達では役不足なのは解ってましたが竜種まで出てくるのは予想外。 犯人達からすれば死なば諸共といった所だったのでしょうが、犯人達の背負っていたとおぼしき盗品の…
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