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【書籍化&コミカライズ!】少年マールの転生冒険記 ~優しいお姉さん冒険者が、僕を守ってくれます!~  作者: 月ノ宮マクラ


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書籍マール3巻発売&コミカライズ記念SS・その6

書籍マール3巻発売&コミカライズ記念、25日連続更新の17日目です!


本日は、記念の特別ショートストーリー・その6、です。


よろしくお願いします。



※総合評価がこっそり1万8000ポイントを超えておりました。皆さん、本当にありがとうございます♪

 今回のクエストも無事に終わった。


 結局、王都に戻ってきたのは、出発してから22日目のことだった。うん、予定通りといった日数だね。


 コンテスト用の絵を描くための日数は、あと6日間だ。


(よし、がんばるぞ!)


 自宅に戻った僕は、そう気合を入れたんだ。


 …………。


 ちなみに、今回のクエスト中は、イルティミナさんのことをできる限りずっと見つめていた。


 途中で飽きるかなぁ……なんて思ったりもしたけど、そんなことは全くなかった。


 見ている間、ずっと発見があった。


 肌の肌理の細かさ。


 そこに当たる光の反射具合と、その輝きの美しさ。


 吸い込まれそうな紅玉の瞳。


 柔らかく、複雑に、色っぽく、精緻に揺れて動く、艶やかな深緑色に煌めく髪。


 たおやかな指。


 その滑らかな動きと整えられた爪の美しさ。


 綺麗なまつ毛の細さと長さ。


 艶めかしい唇の閉じられた時の静謐さと、言葉を発する時に動くその美味しそうな弾力。


 他にも色々……。


 普段、知っているようで、まだまだわかっていなかったイルティミナ・ウォンという女性の美しさを幾つも思い知らされたんだ。


(……本当、素敵だよなぁ、イルティミナさんって)


 つまりは、その一言です。


 竜車での移動中に見ていた横顔も、穏やかな様子で綺麗だった。


 クエスト依頼主である領地の貴族様――正確には依頼主はシュムリア王国で、担当責任者が領地の貴族様になるんだけど――との対面での凛とした美貌も格好良かった。


 魔物と戦う時の表情は、恐ろしくて、そして美しくて、心が震えてしまうほどだった。


 たまに僕の視線に気づいて、恥ずかしがる様子も可愛かった。


 眠っている寝顔は、無垢な幼子のようで愛おしかった。


 色んなイルティミナさんを見れて、今回の件で、僕は改めて、自分の奥さんに惚れ直してしまったんだ……。


 …………。


 あ、も、もちろん僕もクエスト中はちゃんと集中して、魔物討伐のために戦ったよ? それが僕の仕事でもあるからね。イルティミナさんを見ていただけじゃないんだよ。


 何はともあれ、冒険者としての仕事は終わった。


 ここからは、絵を描く時間。


 より深く心に刻みつけたイルティミナさんを、僕はこれからキャンバスの上に生み出すためにがんばるのだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 イルティミナさんとの夫婦の家に帰ってから、僕は、彼女のスケッチを始めた。


 シャッ シャシャッ


 スケッチブックに、彼女の姿を描き殴っていく。


 何枚も、何枚も。


 これは構図を決めるためだ。


 イルティミナさんを描くことは決まってるけど、彼女のどんな姿勢のどんな表情のどんな様子をどのような角度から描くかを決めなければならない。


 様々な構図のどれがいいかを選ぶため、何枚も描いて確かめるんだ。


 ちなみに、イルティミナさんには普段通りに過ごしてもらった。


 ソファーに座っている姿。


 窓を開け、部屋の換気をしている姿。


 お風呂に入ろうと服を脱いでいる姿。


 階段を登っている姿。


 こちらの視線を気にして、でも気にしないようにしてくれている姿。


 色んなイルティミナさんを、何枚も描いた。


 ちなみに今は、夕食の準備で台所に立ってくれている後ろ姿をスケッチ中だ。


 いつもなら僕も手伝うんだけど、


「今は、マールは絵を描くことに集中してくださいね。その方が私も、妻として貴方に協力できているみたいで嬉しいですから」


 って、優しく言ってもらえたんだ。


 ……うぅ、本当に素敵な奥さんをもらえて、僕は幸せ者です。


 そんな感じで、スケッチをがんばる。


 と、料理が終わったのか、イルティミナさんがこちらを振り向いた。


 視線が合う。


 彼女は柔らかく微笑んで、


「はい、御夕飯ができましたよ、マール」


 と声をかけてくれた。


 その笑顔が眩しい。


 同時に、自分の鼓動がドクンと大きく跳ねた気がした。


 僕は、


「うん、ありがと」


 スケッチを終えて、立ち上がる。


 それから、イルティミナさんが作ってくれた美味しい料理を一緒に食べた。


 彼女は、色々と話しかけてくる。


 僕の話を聞いてくれる。


 甲斐甲斐しくお世話をしてくれて、僕の頬についたソースを指で拭って、ペロッと舐めた。


「ふふっ」


 少し頬を赤らめて、悪戯っぽく笑う。


 大人びたイルティミナさんのちょっとチャーミングな笑顔は、僕の胸に深く突き刺さるような感じだった。


 夕食後の後片付け。


 少し談笑して、またスケッチさせてもらって、就寝時間が来た。


 2人で寝室へ。


 寝る前に、綺麗な長い髪へ、丁寧に櫛を通すイルティミナさん。


 その姿もスケッチする。


 彼女は苦笑して、


「こんな姿までスケッチするのですか? なんだか恥ずかしいです」


 と、鏡越しに言った。


(そう?)


 でも、誰にも見せないよ?


 だから大丈夫、安心して……と伝えると、彼女は「もう」と拗ねたように笑った。


「当たり前です。これは、マールだから見せる姿ですからね?」

「うん」


 わかってる。


 このスケッチは何となく描きたかったから描いてるだけで、コンテストで大勢に見せるつもりはなかった。


 彼女は頷いて、


「それならよかった」


 そう言いながら、ベッドに腰かけていた僕の手から、ソッとスケッチブックを取り上げた。


 あ。


 驚く僕の肩に両手を乗せて、ゆっくりとベッドに押し倒される。


 上からのしかかり、見つめてくるイルティミナさんから、深緑色の美しい髪が滝のようにこぼれてきて、僕の頬や首をくすぐった。


 甘やかな匂い。


 見つめる真紅の瞳には、甘い蜜のような輝きが妖しく灯っていた。


 そのふっくらした唇が開く。


「これから見せる姿も……マールだけに見せるものですからね」


 甘やかな囁き声。


 パジャマの胸元は大きく開いていて、白く輝く双丘が内側からはちきれそうだった。


 ゴクッ


 思わず、僕の喉が鳴る。


 それに女の顔をしたイルティミナさんは、嬉しそうな笑みをこぼして、その美貌をゆっくりと近づけてくる。


 唇が重なった。


 そのあとのイルティミナさんの姿は、僕の記憶の中だけに残しておく。


 ……うん、大好きだよ、イルティミナさん。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 帰ってから2日目、僕はキャンバスに向かって、ようやく筆を走らせることにした。


 構図は決まった。


 僕らの暮らしている家には、ちょっとした広めの庭があって、そこには白いテーブルと椅子があるんだ。


 緑の芝生に、その白い椅子を置く。


 そばには、1本の木が生えていて、ちょうど木陰になる場所だ。


 そこにイルティミナさんには座ってもらった。


「これでいいですか?」

「うん」


 確かめてくる彼女に、僕は頷いた。


 彼女の着ている服装は、真っ白なワンピースで、ちょっと冒険者としての格好の彼女を思い起こさせた。


 その白さは、背景になる青空にとてもよく映えている。


(ん、イメージ通り)


 僕はもう1度、頷いて、


「無理に動きを止めないでいいからね、普通にリラックスしててくれれば大丈夫。ゆっくりしててね」


 と笑いかけた。


 すでにイルティミナさんの姿は僕の心の中にしっかりと焼きつけてあるから、多少、動いたってどうってことないんだ。そのために、ずっと見てたんだしね。


 イルティミナさんも微笑み、「はい」と頷く。


 うん、いい笑顔。


「ありがとう。それじゃあ、いい絵にするからね」


 そして僕は、筆をキャンバスに走らせた。


 シャッ シャッ


 最初は、薄く細い灰色の線で、当たりを付けていく。


 大体の形と構図が整ったら、そこから清書するように、少し濃い輪郭線を描いていく。


 やがて、全体のバランスが整ったら、色付け開始。


 薄い色から、濃い色へ。


 水彩なので、水の滲みで色を混ぜ、馴染ませるのも技法の1つだ。


(……ん)


 描きながら、イルティミナさんを見る。


 こちらを信頼して、ジッとしながらモデルとなってくれている姿が目に入る。


 うん、姿勢がいいよね。


 鍛えられているからか、体幹もしっかりしていて、動いてもいいって言ったけど、全然、動かない。……凄いなぁ。


 視線が合う。


 すると、嬉しそうにニコッと笑ってくれるんだ。


 うん、僕も嬉しい。


 そんな気持ちも絵になるように、筆に心を込めて、目の前の紙に色を置いていく。


 シャッ シャッ


 段々と無心になって、気がつけば、あっという間に2時間が経っていた。


 僕は「ふぅ」と息を吐く。


「ありがとう、イルティミナさん。ちょっと休憩にしようか」

「はい」


 彼女は、疲れた様子も見せずに頷いた。


 夏の日差しの中にいたから、2人でしっかり水分補給。


 しっかり者のお姉さん女房であるイルティミナさんは、冷たい果実水を用意してくれていて、とても美味しかった。


 それから、


「絵はどんな感じですか?」


 と聞かれた。


 僕は笑って、


「うん、イルティミナさんのおかげでいい感じだよ。まだ3割ぐらいだけど、凄く良く描けてるよ」

「そうですか」


 僕の答えに、彼女は嬉しそうだった。


 それから、まだ途中の絵だけど、イルティミナさんが見たそうだったので見てもらった。


「…………」


 イルティミナさんは何も言わなかった。


 ただ驚いた顔をしていた。


 その真紅の瞳を見開いて、まだ描き途中の、自分の姿が描かれた絵を見つめている。


 やがて、ポツリと言った。


「私は……マールにこのように見られているのですね」


 少し震えた声。


 僕は「うん」と頷いた。


 イルティミナさんは、少しだけ泣きそうな顔をして、僕を抱きしめてきた。


(ほえ?)


 僕は驚いた。


 そんな僕の耳に、


「……私は幸せ者ですね。……貴方に、こんなに愛されているのですから」


 そんな呟きが聞こえた。


 …………。


 まだ描き途中だけど、お気に召してもらえたのかな?


 僕は何となく、


 ポンポン


 確かに愛している自分の奥さんの背中を、優しく愛情を伝えるように軽く叩いたんだ。


 やがて休憩も終わり。


 イルティミナさんには、また椅子に座ってもらって、僕は絵を描き始めた。


 シャッ シャシャッ


 キャンバスに筆が踊る。


 自分の頭と心にあるものをこの世界に具現させるように、絵として存在を生み出していく。


 やがて、日が暮れ始めた。


「よし、今日はこれで終わり」


 そう言って、僕は筆を収めた。


 イルティミナさんもさすがに緊張していたのか、ゆっくりと長い吐息をこぼしていた。


 それから目が合って、


「お疲れ様、ありがとう、イルティミナさん。おかげで、イメージ通りによく描けたよ」

「ふふっ、それはよかった。マールもお疲れ様でしたね」


 2人でお互いを労い、笑い合った。


 僕は「ん~」と大きく伸びをする。


 それから数歩下がって、キャンバスを見つめた。


(……うん)


 今のところ、満足いく出来だ。


 イルティミナさんも僕の隣に寄り添って、一緒に完成途中の絵を見てくれている。


 彼女のモデルは、ここまでだ。


 ここから先は、部屋に戻って、心に刻まれた光景を思い出しながら、丁寧に色付けと仕上げの作業をしていくのみだ。


(あと、もう一息)


 2~3日で完成すると思う。


 うん、がんばるぞ!


 疲労感のある自分に、そう気合を入れる。


 そうして絵を見ていると、


 キュッ


 イルティミナさんが僕の両肩に手を添えると、大きな胸を押しつけるように背中側から身を寄せてきた。


(わっ?)


 背に当たる弾力が心地好い。


 驚く僕に、


「マールには絵の才能もあると思っていましたが、まさか、これほどとは思っておりませんでした。モデルとして貴方に描いてもらえたことを、このイルティミナは誇りに思いますよ」


 そんなことを言ってもらえた。


 え?


 振り返る僕に、イルティミナさんは美しく微笑みかけている。


 そして、


「完成が楽しみです」

「……うん」


 彼女の言葉に、僕も頷いた。


 そうして、その日の絵の作成作業は終わりを迎えた。


 翌日からは、部屋にこもって、残りの作成作業に集中することになった。


 食事も、気を利かせたイルティミナさんが部屋まで持ってきてくれて、集中して手が離せない時は、部屋の片隅にソッと置いておいてくれた。


 食事とお風呂、トイレ、睡眠、それ以外の時間は、全て絵のために使った。


 どう描くか?


 どう色を付けるか?


 どう表現するか?


 色々と考え、自分の感覚を何度も確かめながら、紙の上に筆を置いていく。


 前世の世界でのコンピューターグラフィックスみたいに、パソコンで絵を描くのとは違ってアナログ作業だから、間違えたら、やり直しは利かない。


 だから、1筆1筆に集中する。


 たった1筆ミスをしただけで、全てがおじゃんだ。


 その緊張感が怖い。


 でも、それを越えて、思い描いた絵が完成していくのが楽しくて心地好い。


(……うん)


 イルティミナさんへの思いを込めて、絵を描く。


 そんな絵に没頭する僕の日々を、イルティミナさんは何も言わずに、ただ優しく見守ってくれていた。 


 …………。


 …………。


 …………。


 そうして絵を描き始めてから3日目。


「よし、できた」


 ポチャッ


 僕は、筆を水入れの中に置く。


 目の前のキャンバスには、今の僕の全力を出し切った、自分の思い描いたものを描き切った絵があった。


 大きな脱力感。


 ドタッ


 力が抜けて、椅子から落ちた。


 音を聞きつけたのか、部屋のドアが開いて、「マール?」と心配そうな顔をしたイルティミナさんが入ってきた。


 そんな彼女に、僕は笑った。


 それを見て、イルティミナさんも理解してくれたみたいだ。


 小さく息を呑み、それから微笑む。


 僕に寄り添って、背中を支えてくれながら、


「お疲れ様でした。よくがんばりましたね、マール」

「……うん」


 がんばったよ。


 心地好い達成感に包まれながら、僕は頷いた。


 それから、目を閉じる。


 そんな僕の髪を、イルティミナさんの白い手が褒めるように、労うように何度も撫でてくれた。


 王都に戻って5日目の午後。


 ――僕のディアールの若葉・絵画コンテスト用の絵が、ついに完成したのだった。

ご覧いただき、ありがとうございました。



小説の次回更新は、明日19時頃を予定しています。どうぞ、よろしくお願いします。



ここからは、いつもの宣伝です。


書籍マールの3巻、ただ今、発売中です。


電子書籍版には、特典として貴重なイルティミナ視点のショートストーリーも付いてきます。


タイトルは『眠る子犬』。


ある日、寝室で眠るマールを見つめていたイルティミナ。やがて、彼のことが愛おしくなった彼女は……?


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もし気になった方は、ぜひ電子版を購入してみて下さいね♪


もちろん紙の本でも、充分、お値段以上に楽しめる内容になっていますのでご安心下さい。



また、ただ今、コミカライズも第1話が公開中です。


URLはこちら

https://firecross.jp/comic/series/525


あわや様の描く漫画となったマールの物語も、よかったらどうか楽しんで下さいね♪

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ご購入して下さった皆さんは、本当にありがとうございます♪

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こちらも楽しんで頂けたら幸いです♪

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[良い点] 更新お疲れ様ですヽ(´▽`)/ そして何気に総合評価1万8000ポイントおめでとうございます!Σd(^_^o) まさに日々の積み重ね成果! 今日はコンビニスイーツでお祝いしましょう(*´∇…
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