書籍マール3巻発売&コミカライズ記念SS・その5
書籍マール3巻発売&コミカライズ記念、25日連続更新の16日目です!
本日は、記念の特別ショートストーリー・その5、です。
よろしくお願いします。
休暇も終わり、今日から冒険者としての仕事も再開だ。
「がんばろうね、イルティミナさん」
「はい、マール」
荷物と装備を整えた僕らは、いつものように王都正門付近にある馬車・竜車の乗降場でチャーターした竜車に乗り、王都ムーリアを出発した。
目的地までは、およそ10日。
現地で魔物を発見して、討伐するのに最大3日と目算。もちろん、1日で終わる可能性もあるよ。
で、帰還に10日間。
予定としては21~23日かかる予定だ。
(…………)
窓の外を見れば、天気は快晴だ。
夏らしい日差しの強さで、広がる青空と地平に見える山脈の向こうには、真っ白な入道雲が大きく育っている。
イルティミナさんが微笑んだ。
「このまま天気が崩れず、道中が順調ならば、移動にかかる日数はもう少し減るかもしれませんね」
「うん、そうだね」
僕は頷いた。
それはつまり、絵を描く日数が増えるってことだ。
僕のコンテストの作業を、イルティミナさんも気にしてくれてるみたいで、その気持ちがちょっと嬉しかった。
「ありがと、イルティミナさん」
僕のお礼に、彼女は「いいえ」とはにかむ。
(……うん)
その微笑みは本当に綺麗だった。
ジーッ
僕はそのまま、自分の奥さんの美貌を見つめ続けた。
「???」
イルティミナさんは微笑みつつも、不思議そうな顔だ。
「…………」
「…………」
「…………」
「……あの、マール?」
いつまでも僕が見つめているので、何だか不安そうにイルティミナさんが口を開いた。
白い頬に手を当て、
「その、私の顔に何かついていますか?」
「ううん」
僕は首を振る。
そして答えた。
「今回、イルティミナさんの絵を描くって決めたからさ。だから、その顔をしっかりと心に刻んでおきたくって」
「え……」
彼女は驚いた顔だ。
もちろん、これまでに僕はイルティミナさんの絵を何枚も描いたことがある。
その……服の下の身体だって、何度も見てきた。
正直、目を閉じれば、彼女の美貌も全身も全て思い描くことができる。
きっと本人を見なくても、絵に描けるだろう。
それぐらい、僕の中のイルティミナさんの存在は大きくて、心に刻まれているんだ。
(……でもね)
それは、これまでのイルティミナさんで、今のイルティミナさんはまた少し違うかもしれないんだ。
彼女は美人だ。
それも、物すっごい美人だ。
出会った頃も綺麗だったけど、今はもっと綺麗になって、僕は毎日毎日、彼女の美しさに魅了されている。
昨日より今日。
今日より明日。
イルティミナさんはますます魅力的になっていくんだ。
その魅力を余すことなく絵に描くためにも、僕は、これまで以上にイルティミナさんをずっと見つめて、その美しさを再認識していく必要があると思うんだよね。
そんなことを力説する。
「…………」
それを聞いたイルティミナさんは、少し呆けた。
そして、
ポッ
その頬が赤く染まる。
なんだか落ち着かない様子で、艶やかな深緑色の髪を指で触りながら、「あ……その……」と視線を逸らした。
「?」
なんだか顔を隠そうとしているみたい。
僕は手を伸ばして、そのあごに触れ、こちら側を向かせた。
ビクッ
なぜか、彼女は背筋を伸ばす。
「駄目だよ、ちゃんとその顔を見せて」
「は、はい」
僕の言葉に、ぎこちなく頷く。
……???
なんとなく困ったような顔だ。
でも、いつも落ち着いて大人びた彼女のそんな様子は、ちょっと可愛かった。
ジーッ
「…………」
イルティミナさんの紅い宝石みたいな瞳が左右に揺れる。
その美貌を、僕は見つめ続ける。
いつも白い頬は真っ赤で、長く真っ直ぐな髪の間から見える耳も赤く染まっていた。
「…………」
「…………」
「…………」
「……イルティミナさんって、本当に綺麗だよね」
「!?」
僕の言葉に、彼女はギョッとした顔をした。
改めて見ていて思ったけど、本当に美人なんだ。
目、眉、鼻、唇、輪郭などなど、それぞれのパーツが完成されていて、その配置も完璧に整っている。
長く伸びた髪も艶やかで、とっても綺麗。
もしかして、神様が手ずから創ったんじゃないか、そう思えるほどの美貌だ。
(本当に生身の人間なんだよね?)
ピトッ
思わず、その頬に指で触れてしまう。
途端、イルティミナさんは電流を流されたように、一瞬、身体を跳ねさせた。
顔は真っ赤だ。
(……ん、温かい)
当たり前だけど、やっぱり人間だ。
こんなに美人で、優しくて、性格も良くて、誰よりも強くて……イルティミナさんって、本当に凄い女性だ。
その魅力を、しっかり絵で表現しなければ。
できるかな?
いやいや、絶対に描くんだ。
だから、僕は、まだまだジーッとイルティミナさんのことを見つめ続けた。
「マ、マール?」
「ん?」
「その、いつまで私を見ているつもりなのですか?」
え?
「絵が完成するまでは、毎日、そのつもりだけど」
「…………」
イルティミナさんは微笑んだまま、カチンと固まった。
え……あれ?
「あ……もしかして、迷惑?」
今更ながらにハッと気づいて、僕は慌ててしまった。
いけない、いけない。
自分のことばかりで、イルティミナさんの気持ちを蔑ろにしてしまう所だった。
慌てて身体を離して、
「ご、ごめんね」
と謝った。
それに今度はイルティミナさんの方が驚いて、すぐに慌てて、首を左右に振った。
「い、いえ、迷惑などということはありませんよ」
そう言ってくれる。
(……本当に?)
僕は窺うように、彼女を見つめた。
イルティミナさんは目を閉じて深呼吸すると、改めて、目を開いて僕を見つめた。
トン
自分の胸を手で軽く押さえて、
「大丈夫です。私の顔でよろしければ、どうかマールの気が済むまで自由に見つめてください」
そう微笑んでくれた。
……イルティミナさん。
その気持ちが嬉しくて、僕は笑顔でお礼を言った。
「ありがとう、イルティミナさん!」
「ふふっ、いいえ」
彼女ははにかむ。
お言葉に甘えて、それからも僕はイルティミナさんの美貌を見つめ続けた。
彼女は真っ赤だった。
もしかしたら、恥ずかしかったのかもしれない。
でも、見つめることを許してくれて、いろんな角度から彼女の美貌を堪能させてもらった。
(うん、本当に綺麗……)
いつまで見てても飽きない。
むしろ、ますます魅了されてしまう。
「……僕、ますますイルティミナさんのことを好きになってるよ」
つい声に正直な気持ちがこぼれてしまった。
イルティミナさんは「~~~~」となんだか声にならない声を飲み込み、きつく目を閉じて何かを我慢するような顔をしていた。
…………。
…………。
…………。
そんなこんなで今回の道中、僕は車内でずっと、大好きなイルティミナさんを見つめ続けたんだ。
ご覧いただき、ありがとうございました。
小説の次回更新は、明日19時頃を予定しています。どうぞ、よろしくお願いします。
ここから、いつもの宣伝です。
書籍マール3巻、ただ今、発売しております。
ご購入して下さった皆さん、本当にありがとうございます♪
ここで、ちょっぴり面白情報。
実は、書籍の2巻と3巻に掲載されているアルバック大陸の地図は……なんと、作者の手描きです(マウス使って、WINDOWSアクセサリのペイントで描きました)。
編集さんに地図が欲しいと言われて描いたのですが、まさかそのまま掲載されるとは知らなかった……という裏話があるのでした。
気になった方は、ぜひ見てみて下さいね♪
漫画家あわや様によるマールのコミカライズも公開中です。
URLはこちら
https://firecross.jp/comic/series/525
実は、まだ読んでいない……という方は、無料ですので、どうぞお気軽に読んでみて下さいね♪