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書籍マール3巻発売&コミカライズ記念SS・その3

書籍マール3巻発売&コミカライズ記念、25日連続更新の14日目です!


本日は、記念の特別ショートストーリー・その3、です。


よろしくお願いします。

 展示場の出入り口付近には、休憩スペースが作られていた。


 僕ら5人は、そこのソファーに座る。


「ふぅぅ」


 座った僕は、大きく息を吐いてしまった。


 何だろう?


 ただ絵を見ていただけのはずなのに、感情が凄く揺さぶられて、まるで激しい戦闘をしたあとみたいに疲れてしまった。


 でも、悪くない心地。


 そんな僕の様子に、イルティミナさんは優しく微笑み、キルトさんたちは苦笑する。


「やはり、マールは感受性が強いの」


 キルトさんはそう言う。


 イルティミナさんは「はい」と答えて、ポーちゃんもコクコクと頷いていた。


(そ、そうかな?)


 自分じゃよくわからない。


 ただ、泣いてしまったことが、今はちょっと恥ずかしい。


「みんなは、何も感じなかったの?」


 そう聞いてみた。


 4人は顔を見合わせ、


「どれも、良い絵だとは思いました。ただ私は、マールの絵の方が好きですね」


 とイルティミナさん。


 キルトさんは少し考えながら、


「どれも技法に優れておったし、その研鑽の凄さは伝わったぞ。ゆえに、同じように剣の道に研鑽する者として感じるものは、確かにあった」

「…………」

「しかしわらわは、芸術方面には疎くてのぅ。マールほどに感じれなかったかもしれぬ」


 と続けた。


 ポーちゃんは小さな手で胸を押さえて、


「見ていて、ポーの心が熱くなったり、穏やかになったりした」


 と無表情に言う。


(そっか)


 3人も、それぞれの感じ方をしていたみたいだ。


 そしてソルティスは、


「私は即物的だからね。ただ、この時代のこの画家の絵ならきっとお値段高そうだわ~、みたいな目で見ちゃったわ」


 そう言った。


 そんな少女は、自分の柔らかそうな髪の毛先を指でクルクルと触っている。


 僕は、その姿をまじまじと見てしまった。


(なるほど、ソルティスらしいや)


 僕は苦笑して、


「ちなみに、どれくらいの値段だったの?」


 と興味本位で聞いてみた。


 イルティミナさん、キルトさん、ポーちゃんも少女を見る。


 ソルティスは「ん?」と思わぬ注目を集めたことに驚きつつ、少し思い出しながら教えてくれた。


「そうね、一番高いのは1000万ぐらいかしら」

「…………」


 1000万。


 もちろん、単位はこの世界の通貨単位の『リド』だ。


 前世の『円』に換算すると、約100倍。


 つまり、


(え、10億円!?)


 僕は硬直し、イルティミナさんたちも驚いた。


 キルトさんが問う。


「そんなにか?」

「そうよ。神魔戦争直後の時代の絵なんて、現存してるのなんて、世界でも片手の指で数えるほどでしょ?」


 ソルティスは肩を竦め、続ける。


「ちなみに、1000万って通常の取引価格。もしオークションとかなら、その何倍か……もっと高くなってもおかしくないわ」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」


 僕らは言葉がなかった。


(そ、そうなんだ?)


 また博識少女の言によれば、ここに展示されてる絵は全て、普通に家が建つぐらいの価値がある絵画ばかりだとか。


 もしかして、この展示会、相当に凄いものだったのかもしれない。


 見れば、会場のあちこちに警備員も立っている。


 …………。


 そっかぁ。


 もしかしたら合計100億円以上の価値のある絵画たちが集まっているんだ。そうした警備も当然だよね。


 キルトさんが呟く。


「今更じゃが、そうした値段を聞いてから見ていたら、また違った印象だったかもしれぬの」


 あはは……。


 確かにそうかもしれない。


 僕らはみんなで、つい苦笑しちゃったよ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 休憩しながら、ふと展示場を眺める。


 当たり前だけど、場内には僕ら以外の招待客もいて、絵画を眺めているのは、服装や雰囲気からかなり上流階級の人ばかりに思えた。


(う~ん)


 やっぱり高価な絵画ばかりだから、選ばれた人しか入れないのかな?


 ちなみにこの展示会、会場に入れるのは100人までと入場制限があるみたいなんだ。


 絵画をゆっくり見てもらうため。


 そして、警備のため。


 そんな風な説明を、入場する時に受付のお姉さんに教えられたんだよね。


 でも、


(そういうのって、ちょっと残念だなぁ)


 と、僕は思ってしまう。


 もちろん、制限をするのは仕方ない。


 だけど、これだけ素晴らしい絵たちなら、もっとたくさんの人に見て欲しいと思ったんだ。


 上流階級の人だけじゃなく。


 普段、芸術に触れていないような、でも興味がある人たちにこそ、この人の生み出す輝きを見て、知って欲しいなって思うんだ。


「マール?」


 難しい顔をしていたからかな、イルティミナさんに気づかれてしまった。


 僕は、今、思ったことを言ってみた。


 みんな『なるほど』といった感じで聞いてくれて、


「それなら大丈夫ですよ」


 って、最後にイルティミナさんが微笑んだ。


(え?)


 彼女は入り口付近にある展示会の案内板を振り返って、


「ディアール美術画展示会は、今は招待券を持った客のみですが、展示の最終週は一般開放されると、あそこに書いてありましたよ」


 と教えてくれた。


 あ、そうなの?


 彼女は微笑み、「もちろん、入場人数の制限はあるみたいですけどね」と付け加えた。


(そっかぁ)


 その事実に僕は嬉しくなった。


 キルトさんは「ふむ」とあごを撫でながら、


「そのディアールという人物は、なかなかの御仁のようじゃの。これほどの高価な絵画を一般開放で公開するとは、そうできることではないぞ」


 と唸った。


 ソルティスも「太っ腹よね」と同意し、ポーちゃんもコクコクと頷いた。


(うん)


 僕もそう思う。


 だけど、ディアールさんも絵を描くのが好きな人なら、きっとこの絵画たちの輝きを、もっと大勢の人に感じて欲しいと思ったのかもしれない。


 だからこそ、この展示会を開いたのかも……。


「凄い人だなぁ、ディアールさん」


 思わず呟く。


 いったい、どんな人なんだろう?


 イルティミナさんも「なんだか興味深い人物ですね」と微笑みながら言っていた。


 うん、いつか会ってみたいなぁ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 そんな感じで展示会を楽しみ、やがて僕らは帰途につくことにした。


 でも、帰りの出入り口で、


「あら?」


 ふとイルティミナさんが呟いた。


 ん?


 どうしたのかと、みんなの足も止まる。


 イルティミナさんの真紅の瞳は、出入り口付近の棚に置かれたパンフレットを見つめていた。


(何のパンフレット?)


 僕らは集まり、彼女の手にしたそれを覗き込む。


「……ディアールの若葉・絵画コンテスト開催のお知らせ?」


 ソルティスがその題字を読む。 


 ふむふむ?


 そのパンフレットに描かれていたのは、画人ディアール・レムネウスが主催する絵画コンテストの作品募集という内容だった。


 参加資格に、プロは除外とある。


 つまり、素人のみのコンテスト。


 キルトさんは頷いた。


「なるほど。要するに、未発掘の才能ある画人を見つけることを主としている、ということかの」


(へぇ……)


 ディアールさんは、本当に絵画文化をより育てたいと思っている人なんだね。


 僕は、改めて感心してしまった。


 そして、イルティミナさんは、手にしたそのパンフレットを思った以上に熱心に見つめている。


(???)


 イルティミナさん?


 その様子に、僕は首をかしげた。


 すると、そんな僕のことを、不意にイルティミナさんは真っ直ぐ見つめてきた。


 そして言う。


「これに、マールも参加してみませんか?」

「え?」


 僕はキョトンとなった。


 他の3人も同じ顔をしている。


 でも、イルティミナさんだけは真剣に、


「私はマールが絵を描くことをどれだけ好きか、どれだけの思いを込めて描いているかを知っています。――それがどのように評価されるか、見てみたくはありませんか?」


 と聞いてきた。


(……いやいや、そんな僕の絵なんて)


 そう思ったんだけど、


「ふむ、それは面白そうじゃな」

「そうね」

「…………(コクコク)」


 なぜか、キルトさん、ソルティス、ポーちゃんの3人は、僕の奥さんの言葉に同意していた。


 え、なんで?


 キルトさんは屈託なく笑う。


「そなたの絵の良さを、わらわたちは知っているからの。ゆえに、少し期待をしてしまうのじゃ」

「…………」


 そんな風に言われても、僕は少し戸惑ってしまう。


 パンッ


 その背中を、ソルティスの手が叩いた。


「いいじゃない。他の参加者も素人なんでしょ? 恥ずかしがらないで、ちょっとやってみなさいよ。落選したって、別に私らは笑わないからさ」


(……ソルティス)


 笑う彼女の後ろで、ポーちゃんは腕組みしながら『うんうん』と頷いている。


 3人の後押しに、少し迷う。


 素敵な絵画たちを見てきたばかりだからかな?


 その熱が僕の胸の中にはまだ残っていて、そのせいか、少しだけ絵を描きたい気持ちは高まっていた。


「マール」


 それを見透かしたように、イルティミナさんが僕の名を呼んだ。


 彼女は微笑む。


「どんな結果になるかはわかりません。ですが私は、私の大好きなマールの絵を、このディアール・レムネウスという人物にも見て欲しいと思ったのです」

「…………」

「いかがですか?」


 向けられる視線が眩しい。


 でも、その言葉に、心が動かされた。


 こんな素敵な展示会を開いて、王国により絵画文化を広めようとしている凄い画人に、審査とはいえ自分の絵を見てもらえる……それは少し怖くて、でも、とても魅力的だった。


 自分の手を見つめる。


 大した絵が描けるわけじゃないけど……でも、


「ちょっと描いてみようかな」


 僕は呟いた。


 それを聞いたイルティミナさんは、嬉しそうに頷いた。


「はい、描いてみましょう、マール!」


 ギュッ


 そう言って僕を抱きしめ、まるでその挑戦を褒めてくれるように頭を撫でてくれた。


(わわっ?)


 人前でちょっと恥ずかしい。


 でも、キルトさん、ソルティス、ポーちゃんも笑っていた。


 ……うん。


 どうなるかわからないけど、精一杯がんばってみよう。


 僕の手で輝きを。


 ここに並ぶ名画ほどにはならなくても、僕の生み出せる輝きを描くんだ。


 そうして僕は、みんなの勧めで『ディアールの若葉・絵画コンテスト』に参加することを決めたんだ。

ご覧いただき、ありがとうございました。



小説の次回更新は、明日19時頃を予定しています。どうぞ、よろしくお願いします。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様ですヽ(´▽`)/ 芸術に疎い自分としては、どんなに素晴らしい絵でも即物的な目で見るソルティスに共感してしまう(笑) それでもソルティスはその絵の付加価値を把握出来ているのは流…
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