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【書籍化&コミカライズ!】少年マールの転生冒険記 ~優しいお姉さん冒険者が、僕を守ってくれます!~  作者: 月ノ宮マクラ


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670・竜の飛ぶ空

書籍マール3巻発売&コミカライズ記念、25日連続更新の11日目です!


第670話になります。

よろしくお願いします。

 その後、アルダン高原には2日滞在した。


 1日目――ケツァルコアトルを討伐した翌日は、みんなでホースドレイクを狩りに行った。


「ぬん!」


「はっ!」


「くらえっ!」


「ポオッ!」


 キルトさん、イルティミナさん、ソルティス、ポーちゃんも参加して、昨日、何もできなかったうっ憤を晴らすように魔物たちを狩っていた。


 山林の中、馬みたいな竜が、木々と共に次々と吹き飛んでいく。


 ホースドレイク。


 体長は2~3メードほどで、全身に鱗がある。


 長いたてがみの中からは、東洋の竜みたいな、あるいは鹿みたいな角が長く生えていた。


 顔は、うん、そのまま竜だ。


 肉食なので牙もある。


 足先も蹄じゃなくて、五指に鋭い爪が生えていた。


 馬の竜たちは、それこそ木々の中を群れで走っていて、僕らが武器を振るえば必ず当たるようなほどの数だった。


「やっ!」


 僕も2本の剣を振る。


 ホースドレイクたちも反撃してきたけれど、それほどの脅威じゃなかった。


 もっと強い魔物とも戦ってきたしね?


 ヒュコン


 魔物の首を切断し、胴体を斬り裂く。


 鮮血が噴いて、周囲には強い血の臭いが満ちていた。


『プギィ!』


 ドドド……ッ


 そんな僕ら5人から、ホースドレイクの群れは逃げようと動く。


 けれど、その瞬間、


 ボバァアアン


 上空から輝く炎が落ちてきて、その進路を塞ぐように魔物の群れを焼いていった。


 見れば、空に赤い飛竜がいた。


 レイドルさんだ。


 同じように、アミューケルさんの紅い竜も飛んでいて、僕らを中心に円を描くように飛びながら炎を吐いていた。


 おかげで、魔物がここに集まってくる。


 キルトさんは、


「こき使いおって」


 と愚痴をこぼす。


 その隣で、白い槍でホースドレイクの心臓を貫いたイルティミナさんは、


「良いではありませんか」


「む?」


「昨日はマールだけを働かせたのです。今日は、私たちが良い所を見せる番でしょう?」


 ヒュボッ


 言いながら、また1体、ホースドレイクを倒した。


 キルトさんは苦笑する。


「ふむ、よかろう」


「はい」


「ならば、どちらが多く狩れるか、勝負と行こうかの?」


「望むところです」


「よし」


 2人の美女は笑い合い、更に魔物を狩っていく。


 一方でソルティスは、


「……私は、ちょっとした休暇と竜見学に来ただけのつもりだったんだけどなぁ」


 とぼやく。


 ぼやきながらも、杖の魔法石を輝かせ、魔法の風でホースドレイクたちを斬り裂いているのはさすがだ。


 その後ろでは、


「ポオッ」


 ドパァン


 金髪の幼女が光る拳を振るって、魔物を破裂させていた。


(……みんな、凄いな)


 4人の活躍に、僕は心の中で笑ってしまった。


 5人で戦う安心感。


 久しぶりのことだけど、連携に問題もなくて、余裕を持って戦えたんだ。


 …………。


 やがて、5時間後。


 3000体ほどのホースドレイクの群れは、半数以上が駆除された。


 これで人里に被害も出ないだろう。


(うん、よかった)


 ホースドレイクたちには申し訳ないけれど、でも、その繁栄のために人の犠牲は許容できなかったからね。


 何はともあれ、一段落だ。


 養竜院に戻って報告すれば、アドム院長や養竜師さんたちも安心した顔だった。


 その笑顔に、僕もホッとする。


 そんな感じで、ケツァルコアトル戦後の1日目は過ぎていったんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 2日目は、帰還の日だ。


 宿舎近くでは、レイドルさん、アミューケルさんの2体の竜たちが準備を終えて待機していた。


 僕ら5人も荷物をまとめ、帰り支度は万全だ。


(……あ)


 視線を巡らせれば、草原には、7体の幼竜たちがいた。


 寝転んだり、他の竜とじゃれ合ったり、思い思いに過ごしている……微笑ましい光景だ。


 その中で、あの白い竜は相変わらず1体で過ごしていた。


 シャルラ……。


 見ていると、


 ポン


「行ってきなさい、マール」


 と、イルティミナさんに背中を押された。


 びっくりして振り返る。


 彼女は笑って、頷いた。


「――うん!」


 僕も笑顔で頷きを返して、みんなに見送られながら、シャルラの方へと走り出した。


 …………。


 近づく僕に、シャルラも気づいた。


 紅い瞳が僕を見る。


 その巨体のすぐ前で、僕は立ち止まって、


「シャルラ」


 笑いながら両手を伸ばした。


 ググッ


 巨大な頭部が落ちてきて、自分から僕の手に白い鱗を触れさせてきた。


 あぁ、可愛い……。


 それだけで、僕の頬は緩んでしまう。


「よしよし」


『クルル』


 手でいっぱい撫でてやると、シャルラも気持ち良さそうに紅い目を細めていた。


 今日は、凄く優しい。


 僕の行為を受け入れ、そして甘えてくれる。


 ……もしかしたら、今日、僕が帰ることを彼女は理解しているのかもしれない。


 いや、きっとそうだ。


 シャルラは、本当に頭がいい子だから。 


 …………。


 嬉しくて、でも少し寂しい。


 僕は彼女の頭を一生懸命に撫でて、シャルラも甘えるように大きな鼻先を押しつけていた。


「またね」


『…………』


「また会いに来るから、元気でいるんだよ?」


『ガフッ』


「うん」


 最後に強く抱きしめて、僕は身体を離した。


 名残惜しい。


 でも、その感情を押し殺して、僕はシャルラに背を向けて、みんなの待っている所へと向かった。


 そんな僕の背中を、シャルラはずっと見ていた。


 その視線を感じた。


 グスッ


 少しだけ泣きそうだ。


 やがて、みんなの元に戻って、2体の竜に乗り込むことになった。


 その時、


「マ、マールさん」


「ん?」


 養竜師のリアさんに声をかけられた。


 彼女の手には、大きさ10センチぐらいの白い金属板みたいな物が握られていた。


 それを差し出される。


 えっと……?


「これ、シャルラの鱗です」


「……え?」


「生え変わりで落ちた奴なんですけど、よかったら」


「…………」


 受け取った。


 とても綺麗な純白の鱗だ。


 思ったより重い。


 そして、とても滑らかな手触りだった。


 みんなも興味深そうに、僕の手元を覗き込んでいた。


 僕は笑った。


「ありがとう、リアさん! 大事にします!」


「えへっ」


 彼女も恥ずかしそうに笑ってくれた。


 …………。


 やがて、僕らは2体の竜に乗り込み、そして、空へと飛び立った。


 遠ざかる地上の景色。


 養竜院の宿舎、草原、そして、7体の竜たち。


 その中で、白い竜はよく目立つ。


 彼女は、ずっとこちらの方を見ていた。


 ブンブン


 アミューケルさんの竜の背中から、僕は大きく手を振った。


(あ……)


 初めて会った時のように、遠い白い竜が片翼を動かした。


 動かしてくれた。


 …………。


 僕は青い瞳を細めて、口を結ぶ。


 目元が潤む。


 きっと、風が沁みたんだ。


 イルティミナさんに優しく見守られながら、僕は前を向いた。


 青い空はとても綺麗だ。


 そうして僕たちは、アルダン高原をあとにして、王都ムーリアへの空を飛んでいった。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 あれから数日が経った。


 僕らは、それぞれの日常へと戻っていた。


 キルトさんは相変わらず冒険者ギルドに泊まりながら忙しくしているし、ソルティス、ポーちゃんも次のクエストに向かった。


 僕とイルティミナさんも同じくだ。


「では、行きましょうか」


「うん」


 次のクエストに向け、僕らは家を出発した。


 玄関に鍵をかけ、家の前の坂道を2人で歩いていく。


 …………。


 今日は、いい天気だな。


 青い空には雲1つなくて、何だか気持ちがいい。


 イルティミナさんは歩きながら、クエスト依頼書を確認して、討伐する魔物のことを説明をしてくれる。


 うんうん。


 僕は相槌を打ち、時々、疑問点を質問した。


 彼女も、それに答えてくれる。


 これも、僕らの日常の1コマだ。


 イルティミナさんの綺麗な優しい声は、いつまでも聞いていたい心地好さだった。


(…………)


 僕は、彼女の横顔を見る。


 うん、美人。


「? 何か?」


「ううん」


 気づいた僕の奥さんに、僕は笑って横に振った。


 その時だった。


(あ……)


 彼女の後ろの青い空――雲1つないその空間に、湖に建つ神聖シュムリア王城から1体の竜が飛び出したのが見えた。


 シュムリア竜騎隊だ。


 思わず、足が止まる。


 きっと何かの任務だろう。


 遠くに見えた竜は、王城の上空を旋回する。


 そして、僕らの方へと飛翔し、あっという間にそのサイズを大きくすると、僕らの上空を素晴らしい速度で通り抜けていった。


 ヒュオオ……ッ


 風が舞う。


 イルティミナさんの長い深緑色の髪も、柔らかくたなびいていた。


「…………」


「…………」


 通り過ぎた竜は、あっという間に空の彼方へ。


 もう、見えない。


 青い瞳を細めて、僕は、その竜の消えた空をしばらく見つめた。


 それから、目を閉じる。


 ふと、脳裏にあの白い竜のことを思い出した。


 …………。


 僕は、小さく笑った。


 目を開ける。


 イルティミナさんが優しく微笑んで、僕を見ていた。


「行きましょう、マール」


「うん」


 僕は頷いた。


 そして、太陽の光が降り注ぐ道へと、僕はまた足を踏み出していった。

ご覧いただき、ありがとうございました。



これにて、マールと竜に関する物語も一先ず幕となります。


最後まで読んで頂き、本当に感謝です。


次回からは、3巻発売とコミカライズを記念した特別な書き下ろしショートストーリーをお送りします。


もしよかったら、こちらもまた読んでやって下さいね♪




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※小説の次回更新は、明日19時頃を予定しています。どうぞ、よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様ですヽ(´▽`)/ イルティミナが嫉妬心を出さずに寛容さを見せたお陰でキチンと別れを済ませる事が出来たマールとシャルラ(笑) これで別れってのも寂しい気もしますが、流石にシャル…
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