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669・選定結果

書籍マール3巻発売&コミカライズ記念、25日連続更新の10日目です!


第669話になります。

よろしくお願いします。

「あぁ、マール! 無事でよかった!」


 ギュッ


 養竜院に帰ってきた僕は、シャルラから降りた途端、イルティミナさんにきつく抱きしめられた。


 うわわ……?


 ちょっと驚く。


 同時に、そんなに心配かけたのかと申し訳なくなった。


 ポン ポン


 その背中を軽く叩いて、


「ごめんね? ただいま、イルティミナさん」


「はい、マール……っ」


 僕ら夫婦は、そう抱擁する。


 その様子を、シャルラの紅い瞳は静かに眺めていた。


 すると、僕の奥さんはその視線に気づく。


 彼女は僕を抱きしめたまま、眼前にそびえる白い竜を見据えて、


「私の夫をよく支えてくれました。この手の中に、この子を無事に戻してくれたこと、イルティミナ・ウォンは深く感謝いたします」


 そう告げたんだ。


 ちょっと、びっくり。


 あれだけ竜を苦手としていたのに、こんな感謝と労いの言葉をかけるなんて……。


 シャルラは、彼女を見返した。


 …………。


 相手は『金印の魔狩人』であり、自分より格上の相手だと気づいたのかもしれない。


 紅い目を伏せて、


『クルル……』


 と、小さく鳴いた。


 んと……とんでもない、恐縮です……みたいな感じかな?


(うん)


 彼女達の間に、明確な上下関係が生まれたみたいだ。


 …………。


 そんなことをしている間に、他の竜たちは、アドム院長やリアさん、他の養竜師さんたちに労われていた。


 逃げた2体の竜も戻っている。


 黒い竜オルフェは、どこか誇らしげだ。


 強敵から逃げずに戦い抜いたこと、先達の竜たちの戦いを見届けたこと、それらが彼の成長に繋がったように思えた。


(うん、あの子もいい竜だ)


 僕は、そう思う。


 と、そばにいたシャルラが、僕の方へと大きな頭を近づけてきた。


 ん……?


 振り向くと、目が合った。


(…………) 


 あぁ、そうか。


 僕は笑って、


「うん、今日はがんばってくれて、ありがとね。本当に偉かったよ、シャルラ」


 ギュッ


 その顔に抱きついて、褒めてあげた。


 彼女は、目を細めて嬉しそうだ。


 オルフェたち同様、自分のことも、僕に労って欲しかったみたいだね。


(よしよし)


 意外と甘えん坊なのかな?


 でも、可愛いや。


 綺麗な白い鱗を撫でてやると、シャルラも気持ち良さそうだった。


 …………。


 その後、シャルラもオルフェたちと一緒に、自分たちの竜舎へと帰っていった。


 それを見送る。


 すると、


「んで? ケツァルコアトル、無事に討伐できたのね?」


「あ、うん」


 ソルティスに聞かれて、僕は頷いた。


 そう言えば、報告まだだった。


 まぁ、こうして僕らが無事に帰ったんだから、みんな、結果はわかってるんだろうけどね。


 それでも、ちゃんと伝えた。


 ケツァルコアトルは地上に落ちたあと、反撃の届かない上空から竜騎隊の竜たちに一方的に攻撃されて絶命することになった。


 焼け焦げた死体が、今も山には残っているだろう。


 そう教えて、


「だから、討伐は成功したよ」


 と、僕は続けた。


 ソルティスは「そう」と安心したように息を吐き、イルティミナさん、キルトさん、ポーちゃんも頷いた。


 あ、そうそう。


 当初の目的だったホースドレイクの狩りは、延期となった。


 ま、仕方ないよね。


 明日、レイドルさん、アミューケルさんが改めて自分たちの竜で狩ってくれるそうだ。


 選定自体は、すでに終わり。


 そう、あのケツァルコアトル戦での評価で選定を行うみたいなんだ。


 結果はあとで教えてくれるって。


(どうなるのかな?)


 ちょっと楽しみだ。


 シャルラは本来、候補じゃなかったけど、実は、僕は少しだけ期待しているんだ。


 少し贔屓目もあるけどね?


 何はともあれ、


「今日は、マールもお疲れ様でしたね。あとはもう客室に戻って、ゆっくりと休みましょう」


「あ、うん。そうだね」


「ベッドで、マッサージしてあげますからね?」


「あはは、ありがとう」


 イルティミナさんに背中を押されて、僕らは宿舎へと向かった。


 キルトさんは苦笑。


 ソルティスは肩を竦め、ポーちゃんは無表情にあとに続く。


 ……ん?


 その時、視界の奥で、草原にいるレイドルさん、アミューケルさんと2体の竜たちが見えた。


 2人とも、自分の竜を労っている。


 アドム院長もいて、何かを話していた。


 その時、ふと、こちらの視線に気づいた。


 2人とも微笑む。


 軽く手を振って、『今日はありがとう』という風に挨拶してくれた。


(うん)


 僕も笑って、手を振り返した。


 シュムリア王国を守る最強の竜騎士たち、その手伝いができて、僕も嬉しかったんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 部屋に戻ってマッサージを受けたら、そのまま眠ってしまった。


 疲れてたのかな?


 夕方までぐっすりだ。


 やがて、夕食の時間が来て、僕らは食堂に集まった。


 メンバーは、僕ら5人とレイドルさん、アミューケルさんの竜騎士2人、それとアドム院長とリアさんだった。


 和気あいあいと夕食タイム。


 料理を食べ終え、お茶を飲む。


 すると、


「竜の選定について、結果を発表するよ」


 と、レイドルさんが言い出した。


(おっ?)


 ちょうど、みんな、いるからかな?


 僕だけでなく、イルティミナさん、キルトさん、ソルティスも興味深そうな様子だった。


 変わらないのは、ポーちゃんだけだ。


 コホン


 ま、それはいいとして。


 僕としても、どの竜が選ばれたのか気になった。


 どうなったのかな?


 耳を澄ます。


 自然とその場が静かになって、


「――今回は残念ながら、保留にしたよ」


 と告げられた。


 えぇ……保留?


 みんな驚き、僕は、彼の言葉通りに残念に思った。


 リアさんも残念そうに、


「だ、駄目でしたか……」


 と呟いた。


 オルフェやシャルラ、他の竜たちを育ててきたのは彼女だもんね。


 その心情は察してしまうよ……。


 でも、レイドルさんは困ったように笑って、


「いや、例年なら何事もなく決まっていたかもしれない。それぐらい、いい竜たちだったよ。でも、今回は特殊な事情が絡んでしまってね」


「特殊な事情……ですか?」


 アドム院長は不思議そうに聞き返した。


 何だろう?


 僕らも皆、竜騎隊の隊長さんを見てしまった。


 すると、


「マール殿っすよ」


 と、アミューケルさんが言った。


 え?


(僕……?)


 突然、名前を呼ばれて、僕は困惑だ。


 みんなも僕を見る。


 レイドルさんは頷いて、


「例年なら、あの黒い竜オルフェで決まりだった。でも、マール君が見せてくれた、あの白い竜シャルラの勇敢さも無視できなくてね」


「…………」


「あれだけ人間を信頼し、戦える個体も珍しいんだ。それは捨てがたい素質であり、資質なんだよ」


「じゃあ……?」


「うん。だけど個体としては、やはり脆弱でね」


「…………」


「正直、迷っているんだ。だからこそ、今は保留にして、今後の2体の成長を見守り、また改めてどちらを選ぶか決めようと思ったんだ」


 な、なるほど。


 オルフェとシャルラ、どちらも選ぶ価値があった。


 でも、だから選べなかった。


(そういうことか……)


 シャルラの評価が高くて嬉しくて、でも、どちらも選ばれないのは少し複雑だった。


 まぁ、理由は納得できるんだけどね。


 すると、


「マールの見る目は、正しかったですね」


「え?」


 見れば、イルティミナさんが誇らしげな顔をしていた。


 彼女は言う。


「他の誰も、養竜院の専門家や竜騎士でも見抜けなかったシャルラの素質を、貴方だけは最初から見抜いていたではありませんか」


「…………」


「やはり、私のマールはさすがです」


 僕の奥さんは嬉しそうに、何度も頷いていた。


 みんなも僕を見る。


 キルトさんも「そういえば、そうじゃったな」と感心していた。


 な、なんか、くすぐったいぞ。


 ソルティスは「たまたまじゃないの~?」とからかうように笑い、ポーちゃんも少女を真似て、僕のことをピシピシと指差していた。


 でも、リアさんは尊敬の眼差しだ。


 アミューケルさんは、


「マール殿は、本当、不思議っすね? 何か人とは違うっすよ」


 と笑って言う。


 部下の言葉に、レイドルさんも「そうだね」と頷いていた。


 それから、


「正直に言うとね? もしマール君が『竜騎士』になるというのなら、あの白い竜シャルラに即決なんだ」


「え……」


「逆に、もし駄目だった場合、シャルラはマール君以外を主人と認めるのか、そこも選定における不安要素になってはいるんだけどね」


「…………」


「竜は、意外と一途だからさ」


 彼は、そう優しく微笑んだ。


 …………。


 シャルラは優しくて、賢くて、だから僕と絆を結んでくれた。


 でも、それが仇になる?


 だから、竜騎士の竜になれない?


 その可能性を知らされて、僕は青ざめてしまった。


 すると、


「何も、シュムリア竜騎隊に選ばれることだけが幸せではないでしょう?」


 と、僕の奥さんが言った。


 え……?


 イルティミナさんは当たり前のように、


「竜の幸せは、竜それぞれです。竜騎隊に選ばれなくても、マールを思いながら、ただ静かに暮らしていくのも悪くない生き方だと私は思いますよ」


「…………」


 僕は呆けたように、彼女を見つめてしまった。


 キルトさんも「一理ある」と頷いた。


「選ばれるのは名誉でもあるが、戦場に駆り出されるという意味でもあるしの」


「ですね」


 僕の奥さんも頷いた。


 アドム院長とリアさんは、顔を見合わせている。


 ソルティスはお茶を飲み、ポーちゃんはその空になったカップにおかわりのお茶を注いでいた。


 アミューケルさんは複雑そうな顔。


 レイドルさんは苦笑して、


「まぁ、そうだね」


 と認めた。


 それから僕を見て、


「でも、どうだい、マール君。シャルラと一緒に、君も竜騎隊に入ってみないか?」


「…………」


「おい、レイドル」


 黙る僕に代わって、キルトさんが窘めるように声を発した。


 僕の剣の師は、


「マールは『魔狩人』じゃ。あまり勝手なことばかり言って、こやつを困らせるでないわ」


「いや、これでも本気だよ」


「……何?」


「君は見ていないから仕方ない。でも俺は、彼が竜に乗ったまま、剣でケツァルコアトルの翼を切断するのを見てしまったんだ」


「…………」


「わかるだろう、キルト? そんなこと、君でもできやしない」


 レイドルさんの声は、熱い。


 キルトさんも沈黙する。


 竜騎士の隊長さんは、その金色の瞳で僕を見た。


「マール君には、竜騎士の凄まじい素質がある。シャルラだけでなく、正直に白状すれば、俺たちはマール君自身も欲しいんだよ」


「…………」


 その眼差しに嘘はなかった。


 見れば、アミューケルさんも真剣な顔で頷いていた。


(……うん)


 そんな風に思われて、僕も嬉しい。


 でも僕は笑って、


「僕は、冒険者だよ」


 と答えた。


 みんなが僕を見る。


 僕は、2人の竜騎士を見返して、


「ありがとう、レイドルさん、アミューケルさん。僕のこと、そんなに評価してくれて」


「…………」


「…………」


「でも、前にも答えたけど、ごめんなさい。やっぱり僕は冒険者として、『魔狩人』として、ずっと愛する人のそばで生きていたいんだ」


 そう言って、自分の『愛する人』を見た。


 それを受けて、イルティミナさんは「マ、マール……」と真紅の瞳を潤ませた。


 少し恥ずかしい。


 でも、視線は逸らさずに、真っ直ぐに見つめた。


 そんな僕らに、レイドルさんはやがて「はぁ……」とため息をこぼして、苦笑を浮かべた。


「そうか。それじゃあ、仕方がないね」


「…………」


「でも、アミューケルも残念がるよ」


「はっ……?」


 突然、名前を出されて、灰色髪の女竜騎士さんは唖然となった。


 レイドルさんを睨んで、


「ちょっと隊長? なんで、そこで自分を引き合いに出すっすか……?」


「いや、別に」


「隊長?」


「でも、残念だろ?」


「それは……まぁ、そうっすけど。いや、そうじゃなくてっすね?」


「はいはい」


 上司と部下で、何だか賑やかだ。


 その様子に、養竜院の2人は唖然となっている。


 逆に、僕ら5人は顔を見合わせると、ついついおかしくなって笑ってしまった。


 …………。


 そんな風にして、竜の選定結果を聞きながら、僕らは食堂での時間を過ごしていったんだ。

ご覧いただき、ありがとうございました。



3巻が発売して、本日で4日目となりましたね。


実は、商業の世界は『最初の1週間』が勝負だとか……もし今、3巻を買うか迷われている方がいらっしゃるならば、よかったら、どうかお力添え頂けますと嬉しいです。


また、ご購入頂いた方は、本当にありがとうございます!


恩返しとなるかわかりませんが、毎日更新、今後もどうか楽しんで下さいね。また、3巻の事、お知り合いにも宣伝して頂けると助かります♪




コミカライズマールも公開中です。


※URLはこちら

https://firecross.jp/comic/series/525


こちらも、ぜひお楽しみ下さい♪



※小説の次回更新は、明日19時頃を予定しています。どうぞ、よろしくお願いします。

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ご購入して下さった皆さんは、本当にありがとうございます♪

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こちらも楽しんで頂けたら幸いです♪

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様ですヽ(´▽`)/ アミューケルってまだ微妙にマールの事を引きずっていたのか…。 それに気付くレイドルも大概ですが、やはりその原因はシャルラすらも虜にしたマールの女誑しっぷりが…
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