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【書籍化&コミカライズ!】少年マールの転生冒険記 ~優しいお姉さん冒険者が、僕を守ってくれます!~  作者: 月ノ宮マクラ


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662・7体の幼竜

書籍マール3巻発売&コミカライズ記念、25日連続更新の3日目です!(※発売開始まであと4日)


第662話になります。

よろしくお願いします。

 朝食のあと、レイドルさん、アミューケルさんと別れて、僕ら5人は宿舎を出発した。


 建物を出ると、太陽の光が降り注ぐ。


 目の前には、奇岩の生えた緑の草原が広がり、頭上にはどこまでも続く青い空があった。


 遠くには、水色に霞む山脈。


 まさに、雄大な大自然の景色だ。


 そして、


「……うわぁ!」


 その草原に、7体の竜たちが歩いている姿があった。


 竜騎隊の竜と同種らしく、4つ足に、背中に翼を生やしていて姿形はそっくりだ。


 でも、雰囲気は違う。


 竜としての威厳、迫力はあるけれど、戦士のような張り詰めた空気はなくて、みんな、どことなく牧歌的な空気をまとっていた。


 あと、サイズも小さい……?


(いや、違う)


 すぐに気づいた。


 多分、筋肉量が違うんだ。


 要するに、『竜騎隊の竜』たちが鍛えあげられた肉体であるのに対して、この『養竜院の竜』たちは、まだそこまでの肉体じゃないんだ。


 なるほど。


 精鋭騎士と見習い騎士……そんな感じだね。


 でも、


 ズゥン ズゥン


 歩くたびに重い足音があり、巨大生物の迫力は充分にあった。


 しかも、これだけの群れだ。


 それだけでも、他では決して見られない光景だろう。


(あ……)


 竜同士でじゃれ合うように咬み合ったり、草の地面に寝転んだり、長い尻尾で翼についた泥を払い落とすなど、竜たちがそんな珍しい行動を起こしていた。


 何あれ、可愛い……。


 あんなの、野生の竜では見たこともないよ。


 イルティミナさん、キルトさん、ソルティスの3人も目を丸くしていた。


 ポーちゃんだけ無反応。 


 僕の奥さんは言う。


「何と言いますか……私たちの知る竜とは、だいぶ違いますね」


「うん」


 僕は頷く。


「なんか、ペットみたいだ」


「はい……」


「野生っぽくない……って言うのかな? 環境によって、ここまで変わっちゃうものなんだね」


「本当に……驚きましたね」


 イルティミナさんの声は、どこか放心した感じだ。


 キルトさんも呟く。


「あの竜たちならば、簡単に狩れてしまいそうじゃな……」


 こっちの声には、少し呆れがあった。


 僕は苦笑する。


 でも、確かに、あの平和ボケしたような姿を見ていると、それは事実のように思えた。


 もちろん、相手は竜だ。


 そこまで簡単じゃないだろうけど、ね。


 ソルティスも7体の竜を眺めて、


「なんか、1体1体に性格の違いもありそうね。行動を見てると、活動的なのもいれば、のんびりした性格の竜もいるみたいだわ」


 と言った。


 なるほど、確かに。


 じゃれ合っているのは元気っぽくて、群れから離れて1人……いや、1竜で静かに過ごしているのもいる。


 それぞれ、特徴があるみたいだ。


 ソルティス曰く、


「種類によっても違うけど、この竜種の寿命は150年ぐらいなのよね。それで、確か20年ごとの発情期が2~3回あって、出産するんじゃなかったかしら」


「へぇ、そうなんだ?」


「だから多分、この竜たちは1番若いまだ20歳以下の竜なんだわ」


「そっか」


 つまり、まだ子供。


 だから警戒心がなかったり、珍しい行動もするのか。


 僕は言う。


「なんか可愛いね」


「……そうね」


 ソルティスは複雑そうだ。


 イルティミナさんも「私の中の竜のイメージが壊された気はしますが……」と困ったように呟き、キルトさんは苦笑した。


 ポーちゃんは、どうでも良さそうだ。


 …………。


 そんな風に、僕らは竜たちの景色を眺めていた。


 その時、


「――あ、あの、すみません」


 と、後ろから声をかけられた。


(ん?)


 僕らは振り返る。


 すると、そこには『養竜院』の制服を着た職員らしい女の人がいた。


 20歳ぐらいのまだ若い職員さんだ。 


 少し癖のある若草色の髪はポニーテールにまとめられていて、その蒼い瞳には黒縁の眼鏡がかけられていた。


 ただ、表情は気弱そう……。


 僕らを見る眼差しには、少し怯えがあった。


(えっと……?)


 僕は首をかしげる。


 なぜ声をかけられたのか、会話の続きを待った。


 ジッ


 5人の視線が集まる。


 彼女は「あ……う……」と言葉に詰まった。


 …………。


 僕は少し考え、


「こんにちは、お姉さん」


 と笑いかけた。


 それから、


「僕は、マール。お姉さんは?」


 と聞いた。


 彼女は「あ、え、えと」と慌てて、


「リ、リアです。リア・マートン。この養竜院の『養竜師』をやっています」


「そうなんだ?」


「は、はい」


「凄いんだね、リアさん。それで、えっと、僕らに声をかけたってことは、どうかしたの?」


「あ……」


 彼女はハッとして、


「そ、そうなんです。実はこれから、この竜たちに食事を与える時間なので、もう少し離れて見学しないと危険かと思いまして……」


 と、早口に続けた。


 なるほど。


(僕らのことを心配してくれたんだね)


 僕は頷いた。


 仲間の4人を見ると、彼女たちも頷く。


 僕は、またリアさんを見た。


「教えてくれてありがとう、リアさん。それじゃあ、どのくらい離れてたらいいかな?」


「あ、は、はい。じゃあ、こっちへ」


 パタパタ


 両手を上下させ、彼女は僕らを100メードほど後方へと案内してくれた。


 僕らは素直に従う。


 それからリアさんは、


「す、すみません。ありがとうございます。そ、それじゃあ、私、竜たちの食事を運んできますので……」


 ペコペコ


 と、頭を下げて行ってしまった。


 何となく見送る。


 やがて3分ほどして、5人ぐらいの職員さんが生肉が山盛りにされた台車を押して現れた。


 血の臭いが凄い。


 草原の7体の竜たちもピクッと反応し、顔をあげた。


 竜の瞳に、強い食欲の光が灯る。


 その勢いのまま、竜たちが殺到しそうな気配がした。


 …………。


 大丈夫かな、職員さんたち?


 もしもの時には助けに行けるように、少しだけ姿勢を整える――それは僕だけでなく、他の4人も同様だった。


 だけど、


(あ……)


 見たら、先頭を歩くリアさんが竜笛を咥えていた。


 竜たちは動かない。


 ……正直に言う。


 いくら竜が従うとしても、7体もの竜の集まる場所に生肉を持って接近するなんて、あまりに恐ろしいことだった。


 竜は好きだ。


 でも、そこまで信頼できない。


 やはり不安が勝ってしまう。


 でも、リアさんは、僕らに見せていた怯えは見せず、むしろ竜たちを信頼した眼差しで歩いていた。


「…………」


 凄いな。


 素直に尊敬だ。


 他の職員さんたちも凄い。


 やがて、彼女たちは竜たちの中心となる地面に、台車から大量の生肉をドサドサとひっくり返した。


 ズシン


 竜が待ちきれないというように、足を踏み鳴らす。


(!)


 竜笛で命令しても、本能がそれを上回れば、指示には従わない。


 僕はドキリとした。


 でも、リアさんは毅然とした表情で竜笛を吹きながら、竜に手のひらを向けて『待て』の合図を出し続けた。


 格好いい。


 竜もそれ以上は動かない。


 やがて、小山のような生肉が草原に積まれて、リアさんたちは下がった。


 リアさんは、竜笛を吹く。


 音は出ない。


 でも、それは僕らに聞こえないだけで、竜たちには聞こえていた。 


 だから、


 ドドン


 竜たちは地響きをあげて、生肉に殺到した。


(う、わっ!?)


 大迫力だ。


 草原の大地が抉れ、生肉を我先にと奪い合い、血飛沫が空中に舞い散っていく。


 竜たちの唸り声が響く。


 ズシン ドズゥン


 激しい食事だ。


 なるほど、確かにさっきまでの距離だと万が一の場合、巻き込まれてしまってたかもしれない。


 5人の職員さんは、空の台車を引いて下がる。


 リアさんだけが残って、7体の竜たちの食事を見守っていた。


(…………)


 優しい表情だ。


 まるで我が子を見守る母の顔だった。


 ……うん。


 彼女も、本当に竜が好きなんだな――その表情を見るだけで、そうわかった。


 やがて、5分後。


 あれだけあった生肉は、全て、竜たちの胃袋に収まってしまった。


 大した食欲だね。


 ソルティスにも負けない大食いだ。


 そんな竜たちに、リアさんも微笑んでいて、


「……あ」


 そこで、ようやく僕らの視線に気づく。


 ボッ


 顔が真っ赤になった。


 恥ずかしそうな様子で、慌ててうつむく。


 人見知りなのかな? 


 でも、せっかくなので僕は、彼女から色々と話を聞いてみたいと思った。


 竜好きの先輩として。


 なので、


(うん)


 僕はニコニコ笑って、うつむくリアさんの方へと近づいていったんだ。

ご覧いただき、ありがとうございました。


※次回更新は、明日19時頃を予定しています。どうぞ、よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様ですヽ(´▽`)/ 竜のステーキを食べた後に竜の食事風景を眺めるマール。 現実でいえば馬刺しを食べた後に馬が美味しそうに飼い葉やらニンジンを食べている処を眺める様なモノか。 う…
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