071・第3階層、突破
第71話になります。
よろしくお願いします。
金印の魔狩人さえも頭痛で悩ませる僕の頑固さは、もちろんアスベルさんとガリオンさんの反論を受けつけず、やがて、彼らに諦めを受け入れさせた。
「……はぁ、わかったよ」
「ったく。なんなんだ、このガキは……?」
折れた2人に、リュタさんは目を丸くし、ソルティスはケラケラと笑ってた。
そんなわけで、出発だ。
バリケードを外し、書室を出た僕らは、第3階層をめざす。
先頭は、アスベルさんとガリオンさん。
次がソルティス。
最後尾に、僕とリュタさん。
そういう並びで、進んでいく。
「……ねぇ、マール君?」
「ん?」
ふとリュタさんに声をかけられた。
「貴方の左腕にある装備、もしかして、『大地の精霊』が宿ってる?」
「あ、うん」
僕は、『白銀の手甲』を彼女に向け、
「前に知り合ったエルフのお姉さんに、もらったんだ。でも、僕は精霊と交信できないから、使い方がわからないんだけど」
「そう。人間だものね」
頷いたリュタさんは、褐色の指を、白銀の金属へと触れさせる。
ん?
「――、――――、――」
その白い唇が、不思議な音を刻む。
まるで口笛を失敗しているような、でも、とても美しい風のような音色だ。正直、どうやって発音しているのか、まるでわからない。
(もしかして、これがエルフ語?)
前に、イルティミナさんに言われたことを思い出す。
やがて、その不思議な音色は止まり、『白銀の手甲』から褐色の指が離れる。リュタさんは、大きく息を吐いた。
「えっと、リュタさん?」
「勝手なことをして、ごめんね。もしもの時は、マール君を守ってくれるように頼んでおいたから」
おぉ?
「も、もしかして、精霊と交信したの?」
「うん」
「凄い! ど、どうやって?」
「どうって言われても……普通に、繋がって、話しかけただけよ?」
…………。
やっぱり、説明できないらしい。うぅ、いつか自分で気づくまで、駄目なのかな?
僕の表情に、リュタさんは苦笑する。
「貴方にわからなくても、ここに精霊は存在するわ。大事にしてあげて」
「あ、うん」
もちろんだ。
僕は、白銀の表面を、優しく撫でる。
(頼むね、これからも)
ナデナデ
もちろん、『白銀の手甲』に変化はない。
でも、リュタさんは、穏やかに微笑んで、頷いてくれた。
(ん?)
ふと気づくと、ソルティスがこっちを見ていた。
「…………」
ちょっと不機嫌そう?
声をかける前に、彼女は視線が合うと、紫色の髪をひるがえして、慌てて前を向いてしまう。
(???)
変なソルティスだ。
――しばらくすると、地下への階段が現れる。
なんだろう?
下の階層に進めば、進むほど、淀んだ何かが濃くなっていくようだ。
「行くぞ」
アスベルさんの声に頷いて、僕らは、第3階層へと向かった。
◇◇◇◇◇◇◇
第3階層は、今までと違って、通路が広くなった。
火の灯っていない燭台が、左右に幾つも並んでいる。まるで、どこかに誘っているかのようだ。
「……礼拝堂は、この先だ」
潜めた声で、アスベルさんが言う。
僕は頷き、『マールの牙』を腰ベルトの鞘から、ゆっくりと引き抜いた。
通路の先に、大きな入口がある。
かつては豪奢だっただろう赤い布が、今はボロボロになって、その先の光景を隠している。アスベルさんの手が、それをずらして、中を覗く。
「……いるな。……スケルトンが18体だ」
「やるか、アス?」
ガリオンさんが、手にした戦斧に力を込める。
太い腕の筋肉が、メキッと膨らんだ。
青い髪の少年は、僕らを見る。
「戦うには、礼拝堂は広すぎる。囲まれないよう、まずは、こっちの通路におびき寄せよう」
「うん」
カンカン
アスベルさんは、長剣の柄で壁を叩く。……でも、スケルトンたちは、反応しない。
「馬鹿ね」
ソルティスが呆れる。
「アイツらは、生者の気配に反応するの。姿を見せてやらなきゃ、駄目よ」
「そうなのか?」
アスベルさんは、どうやら知らなかったようだ。
(ふぅん)
それじゃあ、と僕は、布の向こう側に顔を出して、
「おーい、スケルト~ン?」
ガシャシャ
恐ろしい骸骨たちが、一斉に反応し、こちらを向いた。
(わ!?)
僕は、慌てて引っ込んだ。
「は、反応したよ」
「よし――俺とガリオンが前衛だ。リュタは、マールとソルを頼む」
おや?
「僕も、前で戦うよ」
「動きのわからないガキがいると、やり辛ぇんだよ! 大人しく下がってろ!」
…………。
そっか、連携の問題か。
(パーティー戦って、奥が深いな)
ソルティスは、笑う。
「ま、お手並み拝見、と行きましょ?」
「ん」
そうして、通路で待ち受ける僕らの前に、遮る布を引き千切って、スケルトンたちが押し寄せてくる。今回のスケルトンの群れには、槍や盾を持っている奴もいた。
ガシャ ガシャガシャ
「行くぞ、ガリオン!」
「おう!」
迫るスケルトンに、2人の青印冒険者が挑む。
通路の幅は、3人並べる。
スケルトン3体に対して、アスベルさん、ガリオンさんの2人が立ち向かう形だ。
「どりゃああ!」
突進したガリオンさんは、獣のような咆哮と共に、大きな戦斧を振り回す。
ガシャアアン
それは、受け止めようとした剣をへし折り、2体のスケルトンを吹き飛ばした。スケルトンは、激しく壁にぶつかり、バラバラになる。
とんでもないパワーだ。
(でも、雑っ!)
その動きに、僕は唖然だ。
物凄い大振りで、振り終わったあとも隙だらけ――そこを狙われて、ガリオンさんは、スケルトンの攻撃に傷ついていく。だけど、それに構わず、彼はまた大振りの戦斧で、スケルトンを破壊していく。
……なんか、あのホブゴブリンと一緒だね。
でも、そのパワーと攻撃速度は、やっぱり、とんでもなかった。
(防御を考えず、ただ攻撃で全力!)
って感じ?
そのおかげで、すでに、スケルトン5体を倒している。
(しかも、笑ってるよ)
きっと彼は、戦闘ジャンキーだ、うん。
一方のアスベルさんは、攻守のバランスが、とても優れていた。
キンッ ガンッ バキン
(うん、綺麗だ)
突き出された槍を、丁寧に防ぎながら、生まれた隙を見逃さずに、しっかりと攻撃してる。
堅実だ。
ガリオンさんに比べて、殲滅速度は遅いけれど、無傷のまま、ちゃんと1体のスケルトンを倒している。
(ふむふむ。……ああいう剣もあるんだね?)
アスベルさんの戦い方は、勉強になる。
キルトさんに教わった『撫でる剣』と違って、まさに剣士らしい動きだったんだ。
しっかりと、目に焼きつけておこう。
ガリオンさんの戦い方は、短期決戦にはいいけど、『パワー』と『頑丈さ』のない僕には、ちょっと真似できないかな?
と――、
ガシャン
2人の冒険者の間を抜けて、スケルトンが1体、こちらに走ってきた。
「ちっ!」
「すまない、リュタ! 頼む!」
2人は、前方のスケルトンの相手で、忙しい。
パーティーリーダーに頼まれたリュタさんは、青い顔で、年下の僕らを守ろうと、苦手だと言っていたレイピアを抜いた。
……いやいや、構えからして、もうまずいです。
「僕がやる!」
慌てて、先にスケルトンに襲いかかった。
そんな僕へと、振り下ろされる剣。
僕は、アスベルさんの剣を真似て、『マールの牙』でそれを丁寧に防ぐ。
ギンッ
(おぉ、なるほど)
この防ぎ方だと、次の攻撃に、すぐ動きが繋がるんだ。
ヒュン バキィッ
ホブゴブリンの『柄打ち』で、スケルトンの右膝の関節を砕く。ガクッと崩れたスケルトン。
僕は、短剣を上段に構え――刃を落とす。
ガヒュッ
背骨を切断。
それでも、まだ動くスケルトンの上半身と下半身。
「えい、えい!」
ガシャ ガシャン
何度も思い切り踏んで、首を砕き、肩を砕き、肋骨を砕き、大腿骨を砕いてやった。
――ようやく、停止するスケルトン。
ふぅ、やった。
ふと振り向いたら、リュタさんは、レイピアを構えたまま、驚いた顔だった。
いや、よく見たら、ソルティスも大杖をこちらに向けた姿勢で、唖然としたように僕を見ている。
「……アンタ、なんで1人で、スケルトン、あっさり倒せてるのよ?」
「え?」
「だって……最初は、あんなに苦戦してたじゃない」
あ、そういえば。
「う~ん? なんか、スケルトンとの戦い方が、わかってきたからかな?」
「……マジ?」
「マジ」
呆けたような、ソルティス。
リュタさんが、呟く。
「マール君……もしかして、この短い間に強くなってるの?」
あはは、どうかな?
そうこうしている内に、やがて、18体のスケルトンとの戦いは終わった。
結局、ソルティスは、魔法を使わなかった。
戦果は、
アスベルさん、5体。
ガリオンさん、10体。
僕、3体。
だった。
「マール、お前、なかなかやるんだな?」
アスベルさん、驚いている。
ガリオンさんは、「けっ」と舌打ちした。ちなみに、彼は、浅い傷だらけだ。
「調子に乗るなよ、ガキが」
「うん。……でも、ガリオンさんは、もっと丁寧に戦ったら?」
「あぁ?」
睨まれる。
でも、僕は言う。
「浅い傷でも、積み重なれば、致命傷になるよ? もっと防御もして」
「てめぇ……」
「むかつくことを言ってるのは、わかってるよ。――でも僕は、嫌われてもいいけど、ガリオンさんには死んで欲しくない。アスベルさんやリュタさんを、悲しませたくもないんだ」
「…………」
ガリオンさんは、表情を歪めた。
アスベルさんとリュタさんは、なんとも言えない顔だ。
コンッ
ソルティスが、僕の頭を大杖で叩く。
「アンタ、お人好しすぎ」
そうかな?
首をかしげる僕に、彼女は苦笑した。
そうして、僕ら5人は、邪教の礼拝堂へと入っていく。
室内が、魔法の光鳥に照らされて、
(うわっ!?)
僕は、悲鳴を飲み込んだ。
天井から、鎖で縛られた幾つもの骸骨がぶら下がっていた。柱には、人骨で作られたオブジェのような物があるし、左右の壁にある石の台には、頭蓋骨が並べられ、無数の空虚な目が僕らを見つめている。
正面には、胡坐をかく大きな仏像があった。
でも、
(顔が骸骨だよ……)
まさに邪教……だ。
そんな光景に怯える僕と違って、ソルティスは「へ~」と興味津々の様子で、周囲を眺めている。
アスベルさんたちは、その骸骨の仏像の裏に回った。
「ここだ」
仏像の背中に、大きな亀裂がある。
そこから覗き込んだら、仏像の中に、更に下へと続く螺旋階段があった。
「この先が……第4階層?」
「あぁ」
アスベルさんは頷き、沈黙が落ちる。
僕らは、それぞれ視線を交わし合った。
そして、頷く。
「よし。この先の魔法の祭壇を壊して、全員で生きて帰るぞ」
「うん!」
「あぁ」
「えぇ」
「当たり前でしょ」
覚悟を決めて、みんな、小さく笑った。
そうして僕らは、最奥にある闇へと、1段1段、階段を下っていった――。
ご覧いただき、ありがとうございました。
※次回更新は、3日後の月曜日0時以降になります。よろしくお願いします。




