表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

708/825

660・竜材を求めて

皆さん、こんばんは。


なんと『少年マールの転生冒険記』のコミカライズが正式決定しました!


応援してくれた皆さん、本当にありがとうございます♪


公開はコミックファイア様より、10月19日から開始予定です。ちょうど、書籍マール3巻の発売日と同じ日ですね。


作者特権で先に読ませて貰いましたが、とても良かったです……♪


コミカライズが開始されましたら、皆さんもどうか読んでみて下さいね!



それでは本日の更新、第660話です。

どうぞ、よろしくお願いします。

 東の大地から、太陽が顔を出す。


 日の出の時間、そんな早朝の王都ムーリアの空に2体の竜が飛び立った。


 バサッ


 巨大な翼がはためく。


 竜たちは王都の上空を1周したあと、北の空へと飛んでいく。


 …………。


 その光景を、僕は地上から眺めるのではなく、その竜の背中に乗りながら実際に体験していた。


(うひゃああ……)


 うん、凄い景色だ。


 あれだけ広大な王都が、眼下であっという間に小さくなる。


 そして、どこまでも広がるシュムリア王国の国土が地平の果てまで、圧倒的なスケールで360度に展開されていくんだ。


 もう圧巻だ。


 もちろん、僕も空を飛べる。


 でも、自分の力ではなく、巨大な生物の背中でその力に守られながら飛んでいる――それはまた違った体験なんだ。


「さあ、行くっすよ」


 竜の頭部にいるアミューケルさんが、そう言った。


 僕は「うん」と頷く。


 僕とイルティミナさんは今、アミューケルさんの竜の背中に作られた座席に座っていた。


 離れた空には、レイドルさんの竜がいる。


 あちらの赤い竜の背中には、キルトさん、ソルティス、ポーちゃんの3人が乗っていた。


 向こうは3人。


 こっちは2人。


 向こうの人数が多いのは、レイドルさんの竜がアミューケルさんの竜よりも一回り大きかったからだ。


 ちなみに、レイドルさん、アミューケルさんの竜騎士2人は、ゴーグルも兼ねた目元まで覆う兜を被っていて、そこには通信装置も組み込まれているんだ。


 やはり、王国の虎の子の騎士隊。


 装備にも、最新技術とたくさんのお金が使われているんだよね。


 パッ


 遠くの空のレイドルさんが、軽く手を前方に振った。


 アミューケルさんは頷く。


 通信と手合図でやり取りしたらしい――直後、竜たちは巨大な翼をはためかせた。


 ブオッ


(うわっ)


 すぐ真横で持ち上がった翼膜のある翼の迫力に、思わずドキッとした。


 バフッ


 翼が大気をはたき、飛翔速度が上昇する。


「うぷ」


 風圧で息ができない。


 慌てて下を向いて、呼吸を確保した。


 イルティミナさんも同じようにしていて、長い深緑色の髪が後方へと長くたなびいている。


 その時、目が合って、


 クスッ


 お互いに笑ってしまった。


 命綱はあるけれど、落ちたら死んでしまう空の上だ。


 なんとなく、お互いの手を握った。


 ヒュボッ


 眼前で風が弾ける。


 そうして僕らは『養竜院』のあるアルダン高原を目指して、シュムリア王国の空を飛んでいった。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 1時間もすれば、空の旅にも慣れてくる。


 イルティミナさんは魔狩人らしく、恐ろしい竜の背中にいることに緊張していたみたいだけど、今はもう落ち着いたみたいだ。


 ちなみに僕は、最初から普通に楽しんでる。


(えへへ……)


 竜って凄いな。


 手を伸ばして触れた鱗は、1枚が30センチぐらいの大きさだ。


 温度は、とても熱い。


 冬の上空、強い風にも晒されているのに熱いんだ。


 これだけでも、火を吐く竜の体温はとても高いのだとよくわかるよね。


 ちなみに、とても硬いです。


 コン コン


 軽く叩くと金属みたいだ。


 これが竜鱗。


 武器や防具の素材として重宝される物らしく、かなり硬度がありそうだった。


(もし剣で斬るなら……)


 と、実際、自分の剣で斬ることを想像して……うん、凄く苦労しそうだと思った。


 ふと隣を見る。


 そこにいるイルティミナさんは、眼下の景色を見ていた。


 そして、


「あれはトリアス川でしょうか? まだ時間もさほど経っていないのに、もうこのような場所まで移動しているのですね」


 と、感心したように呟いた。


 僕も地上を見る。


 確かに、草原を流れる川があった。 


 僕も王国のあちこちに行ってるけど、あの川って確か王都を出て1日ぐらいかけて辿り着く場所じゃなかったかな……?


 川を渡る大橋があって、そこに宿場町がある。


 僕らも何回か宿泊したから、覚えていた。


 ……王都を出て、まだ1時間。


(そういえば……)


 目的地のアルダン高原までは、普通、馬車や竜車で2週間はかかるって、出発前にキルトさんが言っていたっけ。


 でも、レイドルさんから、移動は今日1日と教えられていた。


 …………。


 竜の移動速度って、本当に凄いね。


 時速150キロぐらい?


 もしかしたら、もっと速いのかもしれない。


 バヒュッ


 巨大な翼が時折、大きく羽ばたく。


(……うん)


 思わず、笑みがこぼれる。


 この『竜』という生き物の偉大さを感じて、僕はますます竜が大好きになった。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 お昼頃、地上に降りて、昼食を取ることになった。


 草原の丘だ。


 緑の大地の上に2体の竜が佇んでいて、僕らはその足元に座って、お弁当のサンドイッチを食べていた。


 モグモグ


 うん、美味しい。


 イルティミナさんお手製のサンドイッチは最高です。


 レイドルさん、アミューケルさんもその美味しさに驚いた感じで、パクパクと食べていた。


(あはっ)


 夫として鼻が高いや。 


 ちなみに竜騎士は基本、空を飛びながら食事も食べるんだって。


 今回は、空の旅に慣れていない僕らのために地上に降りて、食事の時間を作ってくれたんだね。


 パクパク モグモグ


 キルトさん、ソルティス、ポーちゃんも美味しそうにサンドイッチを頬張っている。


 ソルティスは両手に2個持ちだ。


 さすが、食いしん坊少女。


 呆れと感心の気持ちで眺めていると、


「あら、マール」


「え?」


「ふふっ、頬にパン屑がついていますよ? ほら……」


 ヒョイ


 イルティミナさんに頬を触られ、見ればその指に小さなパンの欠片が摘ままれていた。


(あ、あらら)


 ちょっと恥ずかしい。


 赤面する僕の前で、僕の奥さんはクスクスと笑うと、


 パクッ


(あ)


 それを嬉しそうに食べてしまった。


 ペロッ


 舌で小さく唇を舐め、


「ふふっ、マールの味が沁み込んでいるみたいで、とっても美味しいです」


「…………」


 うわぁ、凄く色っぽい。


 その艶めかしい眼差しに、なんだか顔が熱くなってしまったよ。


 そんな僕らを、皆が見ていた。


 ソルティスは肩を竦め、隣のポーちゃんもその仕草を真似していた。


 レイドルさんは「仲良しだね」と笑い、アミューケルさんはなぜか頬を赤らめ、唇を引き結んでいた。


 キルトさんは苦笑する。


 それから、


「ところで、レイドル?」


 と、声をかけた。


 黒髪の竜騎士さんは「ん?」と彼女を振り返る。


 キルトさんは、


「昨日から慌ただしくて聞きそびれてしまったのじゃが、そなたら、『養竜院』にどんな用事があるのじゃ?」


「ああ……言ってなかったっけ?」


「うむ、聞いておらぬ」


 そう言えば、僕も聞いていなかった。


 彼に、皆の視線が集まる。


 レイドルさんは「そうか」と頷いて、手に持っていたサンドイッチを食べ切った。


 ゴクン


 と喉が動き、嚥下する。


 それから僕らを見て、


「シュムリア竜騎隊に欠員が出てから5年、そろそろ次の竜騎士を選定する必要があるかと思ってね。まずは、そのための竜が育っているか確認するための視察だよ」


 と微笑んだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



(次の竜騎士!?)


 僕は驚いた。


 同時に、記憶が蘇る。


 今は7人の竜騎士と7体の竜だけど、元々、シュムリア竜騎隊は8人の竜騎士と8体の竜で構成された部隊だったんだ。


 だけど、5年前。


 派遣された開拓団の75%が死亡したあの暗黒大陸の探索で、1人の竜騎士と1体の竜も亡くなっていた。


 竜騎士の名は、ボブさん。


 黒髪に褐色の肌をした大柄な男の人で、でも、目が小さくて、朴訥な雰囲気の優しげな人だった。


 彼は『蛇神人』との戦いで、仲間の逃げる時間を稼ぐため、最後まで戦い犠牲になったんだ……。


 彼と彼の竜のその雄姿は、今でも忘れてない。


 そしてその悲しみから、もう5年も月日が経っていたんだね。


 見れば、アミューケルさんも寂しげな表情だ。


 レイドルさんは言う。


「実は『竜騎士』よりも『竜』を選ぶ方が大変でね。それに見合った人材……いや、竜材かな? は、なかなか育たないんだ。竜の育成、調教は難しいからね」


「ふむ」


「だから5年も欠員が出たままだった。けど、そろそろ良い竜が育ってきたかと思ってね」


「それを確かめに行くということか」


「そういうこと」


 キルトさんの言葉に、彼は頷いた。


 竜の育成と調教、か。


 確かに、種族も違えば、本能も異なり、意思疎通も難しい巨大生物が相手だ。


 それは一筋縄ではいかないだろう。


 アミューケルさんも、


「竜を育てるのには、何年も時間がかかるっす。下手したら、10年単位っすよ」


「そんなに?」


「っす。だから、今回、いい竜がいるとも限らないっす。ただ将来性のありそうな候補の竜がいたらな……って感じっすね」


「はぁ……そうなんだ」


「そうっす。欠員が補充できるのも、あと数年後かもしれないっすね」


 とのことだ。


 なんとまぁ……竜騎士になるには、ずいぶんと時間が必要みたいだ。


 いや、時間というか、運も……なのかな?


 人間の全盛期は短い。


 それこそ誰かが竜騎士になりたくて己を鍛え、それに相応しい人材になっていたとしても、その時、パートナーとなる竜が存在するとは限らないんだ。


 その場合は『竜騎士』になれない。


 竜騎隊の訓練を見たけど、それこそ、あの竜たちは『選ばれた竜』だった。


 それだけの実力。


 それを伴わなければ、竜騎隊の竜にはなれないし、そんな竜は早々育てられないだろうこともよくわかった。


 竜騎士と竜。


 双方に相応しい人材、竜材が揃った時に、初めて竜騎隊の新しい『竜騎士と竜』が生まれるんだ。


 …………。


 た、大変だなぁ。


 そして改めて、シュムリア竜騎隊の竜騎士たちが選ばれた王国最高の騎士だと言われる理由がわかった気がしたよ。


 チラッ


 僕は、灰色の髪をした女竜騎士さんを見た。


 今、最も新しい竜騎士。


 僕は言う。


「アミューケルさんって本当に凄い人だったんだね。きっと竜騎士になるための強い運命があったんだ」


「な、何すか、急に?」


 突然の僕の言葉に、彼女はギョッとする。


 だって、ね。


 竜騎士は、王国の騎士たちの憧れで、なりたい人は多かったと思うんだ。


 そんな中、17歳の最年少で選ばれた。


 そのための彼女の努力は、きっと並大抵ではなくて、その才能も恐ろしいほどで……。


 しかも、彼女のための『竜』も育っていた。


 その運の強さ。


 それも含めて、彼女は本当の意味での『選ばれた竜騎士』なのだと思ったんだ。


(凄いなぁ……)


 まじまじと見つめてしまう。


 僕の憧憬と尊敬のこもった視線に、けれど、アミューケルさんはなぜか居心地が悪そうだ。


 コホン


 イルティミナさんが咳払いする。


(ん?)


 アミューケルさんはハッとして、僕がキョトンと振り返ると、僕の奥さんはニコリと美しく微笑んでいた。


 ……?


 よくわからないけど、これ以上、アミューケルさんを見ない方が良さそうだ。


 何となく、そう感じた。


 うん、マールの勘です。


 キルトさん、レイドルさんは苦笑して、ソルティスは『アンタはまたか』と僕に呆れた顔だった。


 ポーちゃんだけは、


 モキュモキュ


 1人我関せずに、小動物みたいにサンドイッチを食べ続けていたけれど。


 …………。


 そんな感じで、昼食を食べ終えた。


「よし、じゃあ行こうか」


 シュムリア竜騎隊の中で最も選ばれた隊長騎士がそう号令をかけて、僕らも頷いた。


 それぞれに騎竜する。


 バサッ バサッ


 巨大な翼をはためかせ、2体の巨大な竜が空へと舞い上がった。


(…………)


 この子たちも、選ばれた竜なんだ。


 そう思うと、その背に乗れることが本当に栄誉なことだと思えてきた。


 ポン ポン


 軽く鱗を叩く。


(どうか、もう少しよろしくね?)


 そう心の中で呼びかけ、僕は微笑んだ。


 バヒュッ


 その翼が大きく動く。


 強烈な風圧が発生して、また竜たちは空を飛び始めた。


 素晴らしい速度。


 そして、その艶やかな鱗が陽光を反射して、空に輝きを散らしていく。


 …………。


 やがて、その日の夕方、僕らはアルダン高原にある『養竜院』へと到着したんだ。

ご覧いただき、ありがとうございました。



書籍3巻の発売とコミカライズ開始の10月19日も、ついに来週となりました。


そこで、そのお祝いと宣伝、そして何より皆さんへの感謝を込めて、本日より『少年マールの転生冒険記』は25日間、毎日更新したいと思います♪


どうか気軽に読んで、楽しんでもらえたら嬉しいです。


次回更新は、明日(14日)となります。


ただ更新時間は少し変更して、19時頃を予定しています。いつもとは違う時間ですので、どうかお気をつけ下さいね。


それでは、次回のマールの物語もどうぞよろしくお願いします。



※本日、活動報告も更新しています。もしよかったら、こちらもぜひ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コミックファイア様よりコミック1~2巻が発売中です!
i000000

i000000

ご購入して下さった皆さんは、本当にありがとうございます♪

もし興味を持たれた方がいらっしゃいましたら、ぜひご検討をよろしくお願いします。どうかその手に取って楽しんで下さいね♪

HJノベルス様より小説の書籍1~3巻、発売中です!
i000000

i000000

i000000

こちらも楽しんで頂けたら幸いです♪

『小説家になろう 勝手にランキング』に参加しています。もしよかったら、クリックして下さいね~。
『小説家になろう 勝手にランキング』
― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です&コミカライズおめでとうございますヽ(´▽`)/ 小説化の次はコミカライズですか。 そうなると〝その次〟も期待したくなるってモノです。 例えばドラマCDとかアニメ化とか。 …
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ