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659・ピザを食べながら

第659話になります。

よろしくお願いします。

 王城をあとにした僕らは、冒険者ギルドに向かった。


 明日、行くことになった『養竜院』は、当たり前だけど王都の外にある。


 そして僕の奥さんは王国が誇る『金印の魔狩人』であって、例え10日間の休暇が与えられていても、王都外に行く場合には許可が必要な立場なんだ。


 なので、冒険者ギルド『月光の風』を訪れた。


 急な来訪だったけど、ギルド長のムンパさんは、すぐに面会してくれた。


 事情を説明すると、


「そう、レイドル隊長のお誘いなのね? 相手の身元も確かだし、何か危険なことをする訳じゃないのだから大丈夫じゃないかしら。いいわ、ギルドから申請おくわね」


 とのこと。


 すぐに王国に連絡して、夜には許可が下りるだろうとの話だった。


(よかった)


 お手数おかけします。


 お礼を言う僕らに、ムンパさんは「いいのよ、これが私の仕事なんだから」と笑ってくれた。


 さて、何事もなければ、無事に許可は下りそうである。


 あとは、夜を待つだけだ。


 とはいえ、電話もない世界で、家で連絡を待つのもギルド職員さんの手間だよね?


 そして、ここは冒険者ギルドだ。


 となると、うん。


 僕とイルティミナさんは同じ考えを共有して、頷き合った。


 …………。


 …………。


 …………。


「――で、わらわの所に来た訳か?」


「うん」


「はい」


 冒険者ギルド3階の宿泊施設――その最奥にある『キルトさんの部屋』の前で、僕ら夫婦はその部屋主と対面した。


 キルトさんは嘆息する。


 豊かな銀髪を手でかいて、


「まぁよい。大したもてなしもできぬが、夜までここで時間を潰すが良いぞ」


 と苦笑した。


 ありがとう、キルトさん。


 優しい鬼姫様に甘えて、そして僕らは、彼女の部屋にあがらせてもらったんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



「あれ、イルナ姉にマール?」


(え……?)


 部屋に入ると、驚いたことにリビングのソファーにソルティスがいた。


 目の前のテーブルには、ギルド職員さんがルームサービスで手配してくれたのだろうピザと炭酸果実水、フライドポテトなど、食べかけの料理が並んでいる。


 食いしん坊少女は、


 ムシャムシャ


 ピザを片手で食べながら、やってきた僕らに目を丸くしていた。


 うん……手、止めないんだね?


(さすが、ソルティス)


 感心していると、奥のキッチンから新鮮なサラダのお皿を持ってくる金髪の幼女――ポーちゃんの姿も発見した。


 多分、相棒の健康を心配しての野菜かな……。


 それはともかく、2人には僕らも驚いた。


 キルトさん曰く、


「ソルたちも一昨日、クエストから帰ってきての。たまたま今日、会う約束をしていたのじゃ」


「そうなんだ?」


「うむ。……しかし、やはり姉妹よの」


 と、銀髪の美女は笑う。


 確かに……。


 示し合わせた訳じゃないのに、2人ともキルトさんに会いに来るんだもんね。


 姉妹だから、考え方の波長が合うのかなぁ?


 イルティミナさんとソルティスは、思わず顔を見合わせて、苦笑していたけどね。


 それから気を取り直したように、


「ま、いいじゃない。それより、2人もよかったら食べたら? このピザ、なかなかいけるわよ」


「あ、うん」


「では、ご相伴に預かりましょう」


「そうして、そうして」


 笑顔で手招きするソルティス。


 うん、まるで彼女が部屋主みたいだ。


 本物の部屋主であるキルトさんは鷹揚に笑っていて、よく見たら、彼女が座っていただろう場所のテーブルには、酒瓶とグラスが置いてあった。


(やれやれ)


 何だか平和で笑っちゃった。


 それから僕らも一緒にソファーに座って、料理を分けてもらった。


 モグモグ


 ん、美味しい。


 レクリア王女との面会や竜騎隊の訓練の見学などでお昼抜きだったから、余計に満足感があった。


 イルティミナさんも、ちょっと幸せそうだ。


 それから5人で談笑だ。


 ソルティスたちにも事情を話したら、


「へぇ、『養竜院』に行くの?」


 と驚かれた。


 僕はピザを1切れ食べながら、「うん」と頷いた。


 咥えたチーズが、ピロ~ンと伸びる。


 キルトさんは「ふむ」と呟いた。


「確か北部のアルダン高原近くであったかの? 行ったことはないが、益竜の産地として有名な地方じゃの」


「そうなの?」


「うむ。高原の奥にあるアルダニア山地には、野生の竜も多い。その影響かもしれぬ」


「へぇ……」


 ちなみに益竜とは、『人の役に立つ竜』のこと。


 例を挙げるなら、よく僕らもお世話になる『竜車の車両を引く竜』たちなんかもそうだ。


 あれは野生の竜ではなくて、人の手で育てられ、調教された竜なんだ。


 そうした養竜専用の業者もいるし、王国の許可を得て、安全な竜として馬車ギルドなどに販売されているんだ。


 他にも、重い荷を運ぶ竜。


 重機のように、鉱山などで働く竜。


 郵便などを運ぶ、翼竜便用の小型の飛竜など、色々な益竜がいて、僕らの生活に関わっているんだ。


 その産地として、アルダン高原は有名らしい。


 そして、王立の『養竜院』という施設もその土地にあるみたいだね。


(ふ~ん?)


 モグモグ


 伸びたチーズを食べながら、僕は、そんな説明を聞いた。


 ソルティスは、


「養竜院かぁ……私も1度は行ってみたいわね」


 なんて呟いた。


 ん……?


 好奇心旺盛なソルティスらしい発言だ。


 僕は首をかしげて、


「じゃあ、一緒に行く?」


「え?」


「ただの見学だし、人数増えても大丈夫じゃないかな。だから、一緒に行くなら行こうよ」


「…………」


 ソルティスは目を丸くしていた。


 僕の奥さんも頷く。


 妹へと微笑んで、


「ソルたちもクエストが終わったばかりで、しばらくは休みなのでしょう?」


「う、うん」


「レイドルも竜に興味を持ってもらえるのは嬉しそうでしたし、急に人数が増えても問題ないでしょう。同行したいのなら、私からも口添えしますし……いかがです?」


 美しい姉の言葉に、妹はしばらく考え込む。


 チラッ


 相棒の金髪幼女を見た。


 幼女は無表情のまま、頷いた。


『――好きなようにすればいい。お前の相棒のポーは、いつでも、どんなことでも付き合うぞ』


 そんな感じ。


 その無音の声を、当然、ソルティスも聞いたようだ。


 嬉しそうに笑って、頷き返す。


 それから姉を見て、


「わかった、私とポーも同行するわ」


「はい」


「ふふっ、久しぶりに5人(・・)での旅ができるわね。楽しみだわ」


「えぇ、そうですね」


 妹の言葉に、イルティミナさんも優しく微笑む。


 うんうん。


 姉妹の様子に、ポーちゃんと顔を見合わせ、僕も笑った。


 すると、そんな僕らを見つめて、キルトさんが「ん?」と何かに気づいた顔をする。


「ちょっと待て」


「?」


 何だろう?


 僕ら4人は、銀髪の美女を振り返った。


 彼女は怪訝そうに、


「今、5人と言ったか?」


「え?」


「うん、言ったわよ」


「それが何か?」


「…………」


「いや……もしやと思うが、わらわも含まれているのか?」


 えっ!?


 僕は驚いた。


「まさか、キルトさん、行かないの?」


 青い目を瞠ってしまう。


 イルティミナさんとソルティスも驚いた顔で、ポーちゃんだけが無表情のままだ。


 僕の奥さんは、


「もしや、何か用事が?」


「いや、ないが……」


「何よ、なら大丈夫じゃない。驚かせないでよね?」


「…………」


 キルトさんは何か言いたげだった。


 でも、何度か口を開いては、何も言わずに閉じることを繰り返した。


 結局、嘆息して、


「……わかった。一応、わらわも王都の外に行くには申請が必要な立場での。ムンパに会ってくるわ」


 と苦笑し、席を立った。


 あ、そうなんだ?


 そうキルトさんを見上げていると、


 クシャクシャ


(わっ?)


 彼女の手が伸びてきて、僕の茶色い髪が少し乱暴にかき混ぜられた。


 そして、


「全く、困った奴らじゃ」


 と、どこか嬉しそうに呟いた。


(???)


 キョトンとする僕らの前を歩いて、「行ってくる」と彼女は部屋を出ていった。


 残された僕ら4人は、顔を見合わせる。


 ……変なキルトさん。


 やがて、20分ほどで彼女は戻った。


 そして日も暮れた夜、イルティミナさん、キルトさんの外出許可は無事に下りて、明日、僕らは5人で『養竜院』に行けることになったんだ。

ご覧いただき、ありがとうございました。



活動報告、更新しております。先行公開のイラストなど、もしよかったらご覧下さいね。



※次回更新は、今週の金曜日を予定しています。どうぞ、よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様ですヽ(´▽`)/ ソルティスほどファンタジーな世界観てジャンクフードが似合う女の子もレアな気がする。 …寧ろソルティスの場合は合わない食事の方が少ないのか(笑) しかしなし…
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