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656・その美しさの源は

第656話です。

よろしくお願いします。

 あれから20日、僕とイルティミナさんは王都ムーリアに帰還していた。


 もちろん、クエストは無事に達成だ。


 手に入れた『古老の青鹿』の『青水晶の角』は納品され、王家御用達の専門店で『青水晶の美容液』と呼ばれる希少な『美容霊薬』が生成されることになった。


 報告に行ったイルティミナさんによれば、ウォーガン夫人を始め、貴族のご婦人方は大層お喜びになってくれたそうだ。


(うん、まぁ、よかったかな?)


 いつもの人を守る仕事と違ったけれど、今回のクエストも誰かの役に立ったのは確かなのだ。


 それは、やっぱり嬉しいことだ。


 捕縛した9人の密猟者たちについては、監視所の所長のポラリスさんに任せてきた。


 後日、王都まで護送されて、正式な罪に問われるらしい。


 王家の管理下にある保護区を荒らした罪は重く、やはり重大な処罰が下されるそうだ。


 しかも現役の『魔狩人』の犯行ということで、彼らの所属する冒険者ギルドにも監督不行き届きとして何らかの処分が行われることになったんだって。


 ちなみに『月光の風』の所属者はいなかったよ。


 でも、密猟者たちの所属していた冒険者ギルドの人たちには、本当にとばっちりだ。きっと、真面目に働いている人たちだって、いっぱいいるだろうに……。


 ただ、イルティミナさん曰く、


「王家の権威に関わる問題ですからね。取り潰しにならない分、それなりに配慮された甘い裁定だと思いますよ」


 だって。


 王家や貴族に関わるのって、本当に怖いや……。


 それと、もう1つ。


 今回、『古老の青鹿』を殺すことなく、その貴重な角を入手したことについては、実は初めての事例だったそうだ。


 王国の役人から『詳細なレポートが欲しい』と何度も聞き取りをされ、報告書も書かされた。


 地味に大変だったなぁ……。


 でも、魔物との意思疎通ができる可能性について、今後、更なる研究が重ねられることになったそうだ。


(うん、できるようになったらいいな)


 そうしたら、無駄な殺生も減るかもしれない。


 あの小鹿の無垢な眼差しを思い出す。


 あの子が成体になった頃には、こちらから何かを差し出す代わりに角の一部をもらう、みたいな取引ができるような関係になってて欲しいな……なんて、強く思った。


 今回の件で、角が手に入った。


 次にクエストが出されるのは、魔物の個体数の増減を監視しながら、恐らく5年後ぐらいになるとのこと。


 5年後か……。


 もしその時も、僕が『魔狩人』だったなら、


「その時は、そのクエストの担当に僕を指名してもらえますか? それで殺さずに角を分けてもらえないか、『古老の青鹿』に頼んでみたいんです」


 と、お願いしておいた。


 王国の役人さんとギルド職員さんは、凄く驚いた顔をしていた。


 イルティミナさんはクスクスと笑い、『金印の魔狩人』の権限も使って、王家と冒険者ギルド側に承諾させてくれた。


 うん、頼もしい僕の奥さんだ。


 そんなこんなで、クエストを達成してから日は過ぎていく。


 そして、とある冬晴れのある日、我が家へと宅配があり、完成した『青水晶の美容液』の1瓶が届けられたんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



「へぇ……これが?」


 その瓶は、まるで宝石みたいなカットがされた高級な容器だった。


 中に入っているのは、透明な青い液体だ。


 でも、魔力がこもっているのか、内部でキラキラと小さな光が煌めいていて、とても美しかった。


 日の光にかざすと、より輝きが増す。


 イルティミナさんの話によると、これ1瓶で1万5000リド――つまり150万円もするんだって。


(え……こんな小さい容器なのに?)


 僕は愕然だ。


 そして、そんな大金を支払ってでも欲しがる人は大勢いるというのだから、女性の『美』に対する思いは凄いんだなと改めて思ったよ。


 何にしても、珍しい品だ。


 せっかくなので、キルトさん、ソルティス、ポーちゃんにも見せたいと思った。


 幸い、ソルティスたちも今は王都にいるとのこと。


 なので、翌日、僕ら5人は恒例の『キルトさんの部屋』に集まることにしたんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



「おぉ……これが『青水晶の美容液』か!」


 瓶を持ち上げ、キルトさんは珍しく目を輝かせていた。


 モグモグ


 そんな彼女の様子を、僕はルームサービスで届けられた料理を食べながら眺めた。


 先月、35歳になったキルトさん。


 見た目は、まだ20代半ばから後半ぐらいに見えるけれど、本人的には色々と気になってきたお年頃なのかもしれない。


 でも、肌、綺麗なんだけどなぁ?


 イルティミナさんとソルティスの姉妹も『何だか珍しいものを見た』って顔をしていた。


 見た目10歳のポーちゃんは、我関せずだ。


 僕と一緒に食事中。


 ソルティスは疑わしそうに、


「それって、そんなに効果があるの?」


 なんて言う。


 キルトさんは「あるに決まっておろう」と振り向いた。


「この美容液はの、先代の王妃も今代の王妃も使っている由緒正しき美の霊薬なのじゃ。王家に献上される以上、市場にあるような品とは比べ物にならぬ効能じゃぞ?」


 なんて力説する。


 その物言いだと、キルトさん、使ったことがあるみたいだ。


 彼女は「あるぞ」と頷いた。


 昔、大貴族の依頼を受けた時、褒美に1瓶もらったことがあるんだって。


「まだ22ぐらいの時であったからの。あまり興味はなかったが、効果は実感できた。……今ならば、より、そのありがたさがわかるわ」

「…………」

「…………」

「…………」


 なんか、凄いしみじみと言われてしまった。


 説得力はあった。


 でも、どうも僕にはピンと来ない。


 ソルティスも「そうなんだ?」と実感のない声だった。


 キルトさんは苦笑する。


「そなたは若いからの。今のわらわと同じ年になれば、きっとこの気持ちもわかるじゃろう」


 なんて言った。


 ソルティスは「ふぅん?」と頷く。


 キルトさんは、その姉を見た。


「イルナも今、26であったの。今からでもしっかり手入れをしておくのじゃぞ? 気になってから始めては手遅れじゃ」

「はぁ」


 僕の奥さんは、曖昧に頷いた。


 イルティミナさんも、そこまで美容に意識があるタイプじゃないみたいだ。


 それを見て、キルトさんは言う。


「年下の夫であるマールのためにも、いつまでも若々しい美しさを保っていたいとは思わぬか?」

「!」


 ピクッ


 僕の名前が出た途端、彼女は大きく反応した。


 え?


 イルティミナさんは僕を見つめ、それからキルトさんの方を向いて「そうですね、気をつけましょう」と生真面目な表情で頷いた。


 キルトさんも銀髪を揺らし、「うむうむ」と頷いている。


 え、えっと……。


 ま、まぁ、確かに僕も、イルティミナさんには美人でいてもらいたいな……とは思う。


 思うけど、


「僕は、イルティミナさんがおばさんになっても、おばあさんになっても、ずっと大好きだよ?」


 と言っておいた。


 2人の美女が、こちらを見る。


「だって、その時のイルティミナさんはきっと、その年齢だから出せる魅力に溢れてると思うし、僕もその美しさに魅了されてると思うから」


 イルティミナさんは驚いた顔だ。


 瞳を潤ませ、「マ、マール」と嬉しそうな、困ったような様子だった。


 キルトさんは、少し複雑そうな顔だ。


 すると、ソルティスが頬杖を突きながら、


「アンタ、イルナ姉の顔に興味ないの?」


 なんて聞いてきた。


 まさか。


 僕だって、イルティミナさんの綺麗な顔は大好きだ。


 化粧をしている顔も素敵だし、すっぴんでも凄く綺麗だから、どちらのイルティミナさんも好きだった。


 僕は、彼女に一目惚れだ。


 初めて会った時、その美しすぎる顔に魅了されて、好きになったのは確かだと思う。


 でも、それはきっかけ。


 それから僕は、彼女から向けられる優しさに心を掴まれ、そして、ますます好きになっていったんだ。


 森で出会った子供。


 彼女にとっての当時の僕は、それだ。


 それなのに、彼女は親身になって僕を助けてくれて、一緒にいてくれて、今に至るまでずっと守ってくれたのだ。


 それは、何という優しさか。


「イルティミナさんの1番の魅力は、その優しさなんだ。そんな彼女の生き方、あり方が僕にとっては何よりも美しいと思えるんだ。だから、ずっと一緒にいたいんだよ」


 顔が美人だからじゃない。


 心が美人なんだ。


 相手が貴族でも、王族でも、例え神様でも、イルティミナさんは僕を守ろうとする――その強く優しい心に、僕は惚れてしまったんだ。


 どんな化粧品でも、その心の美しさは作れない。


「だから、イルティミナさんがイルティミナさんのままならば、僕はどんな姿でもずっと魅了されてるよ」


 そう自分の奥さんを見つめた。


 イルティミナさんは頬を赤くし、口元を両手で押さえていた。


 何かを言いたそうで、でも、上手く言葉にできないのか、もどかしそうに何度も唇を閉じていた。


 キルトさんは、


「…………」


 何だか寂しそうに、瓶をチャポンと揺らす。


 ソルティスは「ふぅん?」と、今度は感心したような表情で僕を見つめていた。


 モグモグ


 ポーちゃんだけは1人、食事を続行中だ。


 やがて、イルティミナさんは自身の豊満な胸を両手で押さえて、大きく息を吐く。


 それはとても熱そうで、


「……何と言いますか、私にとって1番の美容成分は『マールからの愛』なのかもしれませんね?」


 と、くすぐったそうにはにかんだ。


 そうなの?


 僕は笑った。


「じゃあ、これからもいっぱい愛をあげるからね」

「はい」


 恥ずかしそうに、でも嬉しそうに頷くイルティミナさん。


 ソルティスは「ご馳走様」と肩を竦めた。


 ポーちゃんも、口を動かしながら相棒の動きを真似っ子した。


 そしてキルトさんは、


「やれやれ……どんな希少な美容品も、結局は、人の愛で得られる美しさには勝てぬということかの」


 コトッ


 そう苦笑しながら、小瓶をテーブル上に置いた。


 青い液体が揺れる。


 日の光に照らされるそれは、キラキラと輝き、その光を周囲へと散らしたのだった。

ご覧いただき、ありがとうございました。



次回からは、また新しいお話です。

よかったら、どうかまた読みに来てやって下さいね。



※次回更新は、来週の月曜日を予定しています。どうぞ、よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様ですヽ(´▽`)/ 酒でなく美容液に顔を輝かせるキルト。 ……長年一緒に過ごした姉妹が驚く辺り、余程レアな光景だったようですねf^_^ しかしまぁ、それも無自覚マールとチョロい…
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