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【書籍化&コミカライズ!】少年マールの転生冒険記 ~優しいお姉さん冒険者が、僕を守ってくれます!~  作者: 月ノ宮マクラ


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652・保護区の森

第652話になります。

よろしくお願いします。

 王都を発って約2週間、僕とイルティミナさんは目的としていた樹海に到着した。


 この森に『古老の青鹿』がいるんだ。


 でも、その森の手前、街道から続いている草原の一角に、石造りの大きな建物があった。建物には、高さ20メードはある見張り台もある。


「森の監視所ですよ」


 と、イルティミナさん。


 竜車の中でも聞いたけど、この森全体が王国の保護区だ。


 ここには『古老の青鹿』を始めとした希少な魔物、動植物が生息していて、その管理、保護のために王国から人員が配置されているんだ。


 基本的には、生体数の把握。


 絶滅危惧種もいるので、その数字の変動を記録しているそうだ。


 他には、密漁の監視、および防止。


 希少な素材となる生体がいるので、やはり密猟者が現れるらしい。定期的に森の中を巡回して、そうした密猟を防止しようとしているんだって。


 あとは、やはり研究。


 希少な魔物などは、まだ詳しい生態などが把握されていない。


 魔物の行動や食事などを調べ、時には死体などを解剖して、そうした魔物学に関する研究も行っているそうだ。


 その知識は、巡り巡って、魔物と戦う僕ら『魔狩人』を助けることにもなるという。


(そうなんだ?)


 それは、本当にありがたいことだね。


 美人のイルティミナ先生からそんな情報を教えてもらってから、僕らはその監視所の中へと入っていった。



 ◇◇◇◇◇◇◇



「ようこそ、ウォン夫妻」


 監視所の所長さんと、僕らは握手を交わした。


 所長さんは、ポリウスさんという名前で、50代ぐらいの少し太った男の人だった。


 彼は王国の役人。


 そして、王国兵でもあるそうだ。


 王国兵の服装は基本、赤色なんだけど、この監視所の王国兵は森で活動しているからか、緑色を主とした迷彩柄の服装をしていた。


「依頼については、すでに連絡が届いています」


 とのこと。


 貴族関連の依頼だからか、動きが早いね?


 クエスト依頼書を提示すると、所長さんはすぐに手続きをしてくれて、僕らが森に入る許可を出してもらえた。


 ちなみに『古老の青鹿』の生体数は、昨年、7頭ほど増加しており、それゆえに今回の素材目的での討伐許可が下りたのだとも教えてもらえた。


 …………。


 今年はまだ始まったばかり。


 その情報も出たばかりだろうに、貴族のご婦人方はそれを知ってすぐに僕の奥さんに頼んだのかな?


 彼女たちの『美の追求』は、本当に凄いよ……。


 ポリウスさんは王国の役人だから命令には何も言わずに従うけれど、何となく、僕と同じことを考えているような雰囲気だった。


 あ……。


 視線が合ったら、心を見透かされたのか、小さく苦笑された。


(やっぱり……)


 僕もつい、苦笑を返しちゃった。 


 それから、ポリウス所長からは樹海の地図を提供されて、『古老の青鹿』がよく出没する場所を何ヶ所か教えてもらえた。


「案内を何人か、つけますか?」


 そう聞かれる。


 でも、イルティミナさんは「いえ、大丈夫です」と断った。


 彼女も『魔狩人』として、森の歩き方や魔物への対処法については知っていた。それこそ、もしかしたら、この監視所にいる王国兵の誰よりも、だ。


 だって、彼女は『金印の魔狩人』なのだから。


 王国トップの冒険者。


 だからこそ、所長のポリウスさんも無理強いはせずに「わかりました」と頷いた。


 ……うん。


(つまりは、いつも通り、2人でだね)


 僕は、自分の奥さんを見る。


 視線に気づいて、彼女もこちらを見ると微笑んだ。


 僕も笑った。


 その日は、もう夕方近かったので、監視所の宿舎で1泊させてもらった。


 明日からは森の中。


 柔らかなベッドはしばらくお預けになるので、いつものようにイルティミナさんの抱き枕になりながら、その快適さをしっかり堪能した。


 そして、翌朝。


 東の空に朝日が顔を出した時刻、まだ朝靄の残る監視所前に、準備を整えた僕とイルティミナさんはいた。


 見送りには、ポリウス所長と監視所の人たちが立っている。


 僕らは、そちらに会釈する。


 そして、


「では、参りましょうか」

「うん」


 僕とイルティミナさんは頷き合い、『古老の青鹿』の生息する樹海へと足を踏み入れたのだった。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 地図に示された場所を目指して、森を進む。


 樹海というだけあって、森の中は樹々が多く、似たような景色ばかりで迷い易そうな地形ではあった。


(でも、綺麗だな……)


 頭上からは木漏れ日が差し込み、神秘的だ。


 巡回する人間の姿に慣れているからか、小動物の姿も時々、目にすることができた。


 僕も、これまで何度も森を歩いてきた。


 でも、こうしたか弱い動物たちが、ここまで警戒も薄く人前に姿を見せるのは珍しかった。


 イルティミナさんも、


「呆れるほど警戒心がないですね」


 と、驚いた様子だった。


 森の中には、監視所の人たちが巡回する時に目印としている木札が、所々、枝からぶら下がっていた。


 その文字と数字から、地図上の現在地がわかる。


 それを確かめながら、樹海に迷わないように注意して、僕とイルティミナさんは歩を進めていった。


 清流の川と滝。


 冬なのに蔦の茂った崖。


 時には、大型の象のような動物の群れが樹々の中を歩いているのを目撃した。


(……生命に溢れてる感じだね)


 僕は、そう思った。


 保護区だからかわからない。


 けれど、他の森よりも、この森にはたくさんの生命が満ちている気がしたんだ。


 そこに『古老の青鹿』も含まれているのだろう。


 …………。


 …………。


 …………。


 やがて、『古老の青鹿』が目撃されたという場所にやって来た。


 樹々の中に、小さな池がある。


 水場だ。


 魔物だって生きている以上、水分補給は必要で、『古老の青鹿』もこの池の水をよく飲んでいるそうなんだ。


「ここで待ち伏せましょう」


 イルティミナさんは、そう言った。


 僕は頷く。


 近くの大樹の枝に登り、その茂った葉の中に身を隠して、眼下の池を監視した。


 僕らの匂いは、身体を覆う葉の香りが消してくれる。


 2人で気配を殺して、ジッと待った。


 1時間、2時間、3時間……やがて、半日が経ち、日が暮れ始めてしまった。


(…………)


 今日は駄目かな?


 そんな気がした。


 イルティミナさんを見ると、彼女も残念そうな表情で頷いた。


 大樹を降りる。


 そのあとは『古老の青鹿』の出現ポイントであるこの場所から少し離れた場所で焚き火を起こして、野営の準備をした。


 季節は冬。


 頭上が樹々に覆われ、日の当たらない地上はとても寒くなる。


 防寒ローブを着込む。


 携帯食料で食事をしつつ、水筒の水を鍋で焚き火にかけてお湯にして、コップでそれをすすった。


(あったか~い)


 身体が内側から温まる。


 思わずこぼした吐息は、白く染まって大気に溶けていった。


 やがて、大樹の陰で身を寄せ合い、常に武器を携帯したまま、2時間交代で座ったまま眠った。


 森の闇は深い。


 僕はどちらかというと、耳と鼻、特に匂いで見張りをした。


 …………。


 魔物や動植物の気配は、凄くした。


 でも、僕らを窺うような気配はあったけれど、実際に近づいてくる気配は何もなくて、無事に朝を迎えることができたんだ。


 朝食後、昨日の池に戻った。


 やはり『古老の青鹿』はいない。


 イルティミナさんはしゃがみ込み、周辺の地面も確かめていたけれど、


「足跡はありませんね」


 と、長い髪を揺らして首を横に振った。


(そっか)


 今日もここで粘るか、別の場所に行くか迷って、結局、次のポイントへと行くことにした。


 決めた理由は、ただの勘だ。


 森の中を、半日ほど移動。


 早朝には霜柱もできていたようで、昼になるとそれが溶けて、地面にはぬかるみができていた。


 少し滑って、歩き辛い。


 でも、足跡などの痕跡は把握し易くなった。


 残念ながら『古老の青鹿』らしい足跡はなかったけれど、今後には期待が持てた。


 もう少しで、次のポイントだ。


(今度はいたらいいな……)


 そう思いながら、足を進めていった――その時だ。


 フワッ


 森の中を風が吹き抜けた。


「!?」


 それに含まれた臭いに驚いて、僕は思わず足を止めてしまった。


 これは……。


 僕に気づいて、イルティミナさんが「マール?」と振り返った。


 僕は言った。


「血の臭いだ」

「え?」

「この先から、たくさんの血の臭いがする」

「…………」


 僕は睨むように、森の奥の空間を見つめた。


 僕の奥さんもそちらを見ながら、手にした『白翼の槍』をいつでも振るえるように構え直した。


「行きましょう」


 彼女は言い、前へと進んだ。


 僕も剣の柄に手をかけて、あとに続く。


 ザッ ザッ


 5分ほど、森の中を進む。


 血の臭いはますます広がり、僕だけでなくイルティミナさんも感じているみたいだった。


 ガサッ


 背の高い茂みを抜けた。


(――――)


 僕らは足を止めた。


 茂みの先、僕らの目の前の地面には、たくさんの魔物の死体が転がっていたんだ。


 皆、損傷が激しい。


 その傷口から大量の血液が流れて、大地は赤く染まっていた。


「…………」


 あまりの惨状に、声が出ない。


 イルティミナさんもその光景を、真紅の瞳を見開いて驚いたように見つめていた。


(いったい、何が……?)


 その理由を調べるため、僕らは意を決して、魔物の死体が散乱する現場へと近づいていった。

ご覧いただき、ありがとうございました。


※次回更新は、来週の月曜日を予定しています。どうぞ、よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様ですヽ(´▽`)/ 所長のポリウスにウォン夫妻と言ってもらった時が今回イルティミナの機嫌が最高潮に達した瞬間だった事でしょう(笑) しかし森の中で一夜明けての大惨事。 問題は…
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