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【書籍化&コミカライズ!】少年マールの転生冒険記 ~優しいお姉さん冒険者が、僕を守ってくれます!~  作者: 月ノ宮マクラ


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647・神狗の少年

第647話になります。

よろしくお願いします。

「元に戻っちゃったなぁ……」


 自分の小さな手のひらを、冬の青空に向けながら僕は呟いた。


 呪いを解いて5日。


 僕は13歳の少年の姿に戻ってしまい、そして、再び日常の穏やかな時間が流れていた。


(はぁ……)


 僕は小さく吐息をこぼす。


 ここは、僕とイルティミナさんの家の庭に面した縁側だ。


 今日は冬にしては暖かく、日差しもポカポカしていたので、縁側に座って日向ぼっこをしていたのだ。


 体調も、すでに回復した。


 …………。


 柔らかな風に茶色い髪を揺らしながら、僕は青い目を閉じる。


 心の中で、この5日間を反芻した。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 ジュウウ……


 倒された『魔界生物』の肉体は、黒い煙となって消えていく。


 最後、地面に残されたのは、祭壇に飾られていたあの巨大な3つ目の頭蓋骨だけだった。


(…………)


 その頭頂部には『大地の剣』が根元まで刺さっていた。


 グイッ


 イルティミナさんがそれを引き抜くと、


 パキッ バキィン


 その地点を中心にひび割れが広がって、頭蓋骨は粉々に砕けてしまった。


 ……うん。


 これでもう『邪教の信者』たちに悪用されることもなくなっただろう。


 ホッと一安心だ。


 ソルティスが言うには、


「これで呪いの大元が消えたから、生命力を吸われて体調崩していた人も回復するんじゃないかしら?」


 とのことだ。


 それは、よかった。


 また『頭蓋骨の破片』を調べれば、詳しい呪法もわかり、もしかしたら指輪を破壊してしまった人たちを助ける方法も発見できるかもしれないということだった。


 もちろん、僕らは『頭蓋骨の破片』をできる限り回収した。


 …………。


 そのあと、僕はイルティミナさんに背負われて、5人で洞窟を出た。


 外にいた王国兵さんたちに、事の顛末を報告。


 彼らも安心した様子だった。


 王国兵さんたちは今回の事件の捜査のために、もう少しクラダ渓谷に残って調査を続けるそうだ。


 なんだか、頭が下がる思いだよ。


 キルトさんは、


「では、わらわたちは帰るかの」


 と、銀髪をなびかせ、僕らを振り返った。


 僕らは頷いた。


 そうして僕ら5人は竜車に乗り込み、冬景色のクラダ渓谷をあとにしたんだ。




 2日かけて王都に戻った。


 戻ったその日に、僕とイルティミナさんは、まずレクリア王女に会いに行った。


 もちろん、お礼を言うためだ。


 王女様が王国兵を動員し、王立魔法院に声掛けしてくれなければ、僕は呪いを解くのが間に合わずに死んでいたかもしれないんだ。


 面会を申し込むと、すぐに受けてもらえた。


 夫婦で登城し、いつもの空中庭園で美しい我が国の姫君と対面する。


 …………。


 18歳のレクリア王女。


 青と金のオッドアイを持ち、水色の髪は長く腰まで伸ばされて、とてもたおやかな雰囲気だ。


 初めて会った時は、13歳の時。


 それに比べて、本当に大人っぽく、そしてより美人になった。


 対する僕は、あまり変わらない姿のまま。


 そして、僕は「ありがとうございました、レクリア王女」と、イルティミナさんと一緒に夫婦で頭を下げたんだ。


 レクリア王女は微笑んで、


「マール様を助けられて、本当に良かったですわ」


 と、胸に手を当て、おっしゃった。


 僕を見る2色の瞳は、とても優しい眼差しだった。


 その瞳を伏せ、


「わたくしも、この世界も……いつもマール様に助けられてきましたもの。その恩返しができたのならば、それ以上の喜びはありませんわ」 


 なんて言うんだ。


 レクリア王女……。


 確かに世界の危機に戦ったことはあったけど、でも、それは僕1人じゃない。


 多くの人が戦って、僕はその内の1人だっただけだ。


 決して、僕だけで助けたんじゃない。


 みんなで助けたんだ。


 だから、そう言ってもらえたことは嬉しいけど、どこか申し訳なかった。


 そんな僕の感情がわかったのか、


「ふふっ……マール様は本当に変わりませんわね?」


 と、王女様は苦笑した。


 …………。


 外見のこと……じゃないよね?


 少し戸惑ってしまう。


 そんな僕の反応に、レクリア王女はおかしそうに笑った。


 それから、


「それにしても、大人になられたマール様の御姿をわたくしも見てみたかったですわ。それだけが残念でなりません」


 なんて頬に手を当て、吐息をこぼすんだ。


 あはは……。


 僕は何と言っていいのか、わからない。


 代わりに僕の奥さんが、


「とても凛々しく、男を感じさせて、でも可愛らしくて……本当に素敵でしたよ?」


 と言った。


 イ、イルティミナさん?


 僕は驚き、レクリア王女様は「まぁ」と感心した顔をした。


 …………。


 イルティミナさんの後ろ盾は、レクリア王女だ。


 その関係で、僕の奥さんは時々、1人で登城してレクリア王女と面会することがあるんだ。


 どんな話をしてるかは、僕も知らない。


 でも、その中で、これぐらいの軽口は利けるだけの仲になっていたみたいだ。 


 1国の王女様に、軽口。


 ……うん、イルティミナさんって、本当に偉くなったよね?


 それを改めて実感しちゃったよ。


 …………。


 僕の目の前で、レクリア王女とイルティミナさんは他愛もない会話に花を咲かせていた。


 美しい庭園で語らう2人の美女。


(……ん)


 僕は微笑みながら、自分1人だけがそれを眺められる特権をもう少しだけ享受したんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



「かんぱ~い!」


 僕の音頭に合わせて、みんながグラスをぶつけ合った。


 レクリア王女に謁見した日の夜、僕とイルティミナさん、キルトさん、ソルティスとポーちゃんの5人は、キルトさんの部屋に集まって食事会を開いたんだ。


 会の名目は、僕の快気祝いだ。


 いや、こうして5人で集まれるなら、名目は何でもいいんだけどね?


 その席で僕は、


「今回はご迷惑をおかけしました」


 と、皆に謝った。


 僕が指輪を買ったために、呪いなんかにかかってしまったんだ。


 それで、みんなに心配と迷惑をかけてしまった。


 キルトさんとイルティミナさんは「気にするな」「マールのせいではありませんよ」と言ってくれた。


 けど、ソルティスはテーブルの料理を食べながら、


「全く本当よね。チビを解消するために、命まで賭けてんじゃないわよ、この馬鹿マール」


 なんて、フォークで僕を指しながら言う。


 ……うぐぐ。


 は、反論できない。


 そんな僕を見下ろして、彼女はムッチャムッチャと料理を咀嚼して得意げな顔だ。


 助けられた恩があるので、僕は何も言えない。


 と、そんな少女の隣で、


「ソルの言葉は、マールを心配したがゆえの物だとポーは告げ口する。呪いの逆探知のため、何日も徹夜していたのをポーは知っている」


 と、金髪の幼女が言った。


 僕はポカンだ。


 ソルティスも唖然として、すぐに真っ赤になる。


「な、何言ってんの、ポー!」


 ドタドタ


 お皿を持って食事をしながら逃げ出すポーちゃんを、ソルティスが必死に追いかけていた。


 その光景に、僕とイルティミナさんとキルトさんは、顔を見合わせる。


 すぐに吹き出してしまった。


 …………。


 そんな一幕もありながら、食事会は続いた。




「それにしても……邪教かぁ」


 料理もたくさん食べて、今は食後の紅茶を嗜みながら僕はポツリと呟いた。


 他の4人も僕を見る。


 正直、王都の中で買い物をしただけで、呪いにかかるとは思わなかった。


 しかも、邪教の信者の仕業で。


 邪教……。


 そうした恐ろしい信仰をしている人は、他にもいるのかな?


「いるであろうの」


 その疑問に、キルトさんはそう答えた。


 …………。


 そうなの?


 僕らは、彼女を見る。


 キルトさんはお茶ではなくお酒のグラスを傾けながら、


「王国は聖シュリアン教の教えが広がっているが、しかし、マイナーな宗教も数多く信仰されておる。無論、その多くは善良なものじゃがの」


 と言った。


 そうなんだ?


 信仰は、人の心の支えだ。


 神々が常に見守っていると思えばこそ、人は安心でき、そして正しくあろうと襟を正す。


 神の実在を感じ易いこの世界では、その考えは前世よりも顕著だろう。


 その輝きは強い。


 でも、だからこそ、反動で生まれる闇もより濃くなるのかもしれない。


 その1つが『邪教』なのだろうか?


 キルトさんは、


「邪教と一括りにしておるが、その実態は、人に害をなす信仰をする者たちの総称じゃ。犯罪に宗教を関連付け、自らの悪事を正当化しようとしておる愚か者共じゃよ」

「…………」

「信仰という行為そのものは、決して悪いものではない」


 そう語った。


 ……つまり、悪いのは信仰を悪用する人間だ。


 自覚、無自覚の差はあるかもしれないけれど、それで人を傷つけることは決して許されない。


 神の眷属として、僕はそう思う。


 …………。


 だから、例え神々以外を信仰していても、それが善良な物なら構わないのだ。


 どれほど、マイナーな信仰でも。


 それで、人の心が救われ、幸せになれるなら。


 でも、それは自分1人ではなく、世界の人々全ての幸せに通じるものであって欲しいと願う。


 きっと、そこが大事なんだ。


「その通りじゃな」


 キルトさんは笑った。


 イルティミナさん、ソルティスの姉妹、そして、同じ神の眷属であるポーちゃんも頷いた。


 と、ソルティスが、


「そう言えば、マールの主神の『狩猟の女神ヤーコウル』様もマイナーって言えばマイナーよね?」


 と、思い出したように言った。


 …………。


 た、確かに王都では神殿も信仰してる人も見かけないけどさ。


 でも、いい女神様だよ!


 優しいし、格好いいし、素敵だもん!


 僕は、つい涙目になって、言ってはいけない真実を口にした少女を睨んだ。


 3人は顔を見合わせる。


 それから、おかしそうに笑いだした。


(な、何だよう?)


 そんな中、ポーちゃんだけは笑わずに、


 ポムポム


 僕の肩を、慰めるように軽く叩いた。


 ポーちゃん……。


 と、彼女は僕を見つめて、


「ちなみに、ポーの主神である『水の神アバモス』様は、場所によっては、とても信仰されているようだ」


 と呟いた。


 …………。


 う、うわぁ~ん!




 その日は、全員、キルトさんの家に泊まることになった。


 イルティミナさんは寝室の準備をしに客室へ行き、キルトさんは、まだ酒盛りを楽しんでいた。


 そして、ソルティスは、


「くひぃ……」


 お酒が回ったのか、そんな寝言をこぼしながらソファーに突っ伏していた。


 口から、一筋の涎が垂れている。


 とても気持ちが良さそうだ。


(……全く、この子は)


 19歳になっても、こういう所は変わらないね?


 と、相棒の幼女が、


「すまない、マール。ポーは、ソルを寝室に運ぶための助力を請いたい」


 と頼んできた。


 僕は笑って「うん、いいよ」と頷いた。


 僕は13歳の体格で、けれど、ポーちゃんは更に幼い10歳ぐらいの体格なんだ。


(よいっしょ)


 僕より大きなソルティスを、僕が背負う。


 ポーちゃんは、彼女のお尻を両手で押して、支えてくれた。


 おいっちに、おいっちに。


 リズムを合わせて、ソルティス、ポーちゃんが泊まる予定の客室へと向かった。


 ムニッ プニッ


 歩くたび、背中に弾力が当たって潰れる。


 昔はぺったんこだったのに、今では、こんなに大きく育っちゃって……なんだか気恥ずかしいような、むず痒いような気持ちです。


 一応、僕は紳士だ、紳士だ……と、自分に言い聞かせる。


 やがて、客室に辿り着いた。


 ドサッ


 ベッドの上に下ろしてやると、


「ふんが~」


 手足を大の字に広げて、彼女は大きないびきを響かせていた。


(やれやれ)


 僕は苦笑する。


 ポーちゃんは「感謝する」と僕に頭を下げる。


 僕は「ううん」と笑った。


 それからポーちゃんは、同じベッドに座ると、シーツに広がった少女の紫色の長い髪を慈しむように小さな指で撫でた。


 まるで母親のような、姉のような眼差しだ。


(…………)


 ポーちゃんは『神龍』だ。


 見た目は幼女でも、実際の年齢は、恐らく僕らの誰よりも高く、長く生きていた。


 そして、彼女も僕と同じ。


 人間と同じ肉体に劣化して、けれど、その寿命と成長は人間より遥かに長く、遅い。


 …………。


 僕は思う。


 イルティミナさん、キルトさん、ソルティスが成長していく中、僕らは同じ速度で歩けない。


 彼女たちが年老いて。


 でも、僕らはまだ若くて。


 きっと3人は、僕らよりも先に天寿を全うして、亡くなってしまうのだろう。


 それを看取らなければならない。


 そして、3人のいなくなった世界を生きていかなくてはいけない。


(あぁ……)


 僕は、それが怖かった。


 ……なぜ、僕は『神狗』に転生してしまったのだろう?


 もし人間だったなら、共に生きて、共に死ねたのに……。


 その運命を恨んではいない。


 でも、ただただ、そうした未来が悲しかった。


 泣きたいぐらいに。


 叫びたいぐらいに。


「…………」


 ふと気づいたら、薄い暗闇の中、ポーちゃんが僕を見ていた。


 綺麗な水色の瞳だ。


(…………)


 しばらく、見つめ合った。


 きっと、この悲しみは僕らにしか共有できないものだろう。


 …………。


 ……いいや。


 この世界には、時の流れの違う生命が数多く、共に暮らしていた。


 エルフ、ハーフエルフ、ドワーフなどの種族も、人間とは違った時間の流れの中で生きていて、けど、確かに共に日々を歩んでいた。


 きっと、僕らもその一部なのだ。


 不完全な人間の魂の混じった僕より、『神龍』のポーちゃんは、より正しくそれを理解している気がした。


 その瞳が、そう伝えている気がした。


 …………。


 僕は顔をあげて、


「おやすみ、ポーちゃん」


 と言った。


 ポーちゃんは頷いた。


 柔らかく、癖のある金髪が揺れて、


「おやすみ、マール」


 いつもの淡々とした彼女の声が、けれど、とても安心感を与えてくれた。


 神の眷属。


 それが僕らの正体であり、運命だ。


 そして、僕は身を翻す。


 部屋を出ようとして、その時、ふと後ろから声がした。


「大丈夫だ。ポーは、ずっと共にいる」

「…………」


 僕は足を止めた。


(……ん)


 小さく微笑み、頷く。


 そしてまた足を踏み出して、今度こそ部屋を出たんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



(……あの夜は楽しかったなぁ)


 5日間を思い返していた僕の意識は、今の自分へと戻ってきた。


 ポーちゃんと別れたあとは、いつものようにイルティミナさんの抱き枕となって、一緒に眠りについたんだ。


 その匂いと温もりを、まだ覚えている。


 …………。


 顔をあげる。


 見上げた空は高く、雲もなく、青色に澄んでいた。


 冬の太陽の与えてくれる暖かさは、寒いからこそ、なんだかとても優しく感じられた。


 するとその時、


「ここにいたのですか、マール」


 と、綺麗な声が聞こえた。


 振り返ると、縁側に面した部屋に、大好きなイルティミナさんが立っていた。


 僕を見つけて、彼女は微笑む。


 僕も笑った。


 彼女も縁側へと出てきて、僕の隣に座った。


 ピトッ


 肩が触れ合う。


 彼女も青い空を見上げて、


「なるほど……今日は、とても暖かい日差しですね。マールが日向ぼっこをしていた気持ちがわかりました」


 と呟いた。


 僕も「うん」と頷いた。


 深緑色の艶やかな長い髪が、柔らかな風に揺れていた。


 その姿が凄く絵になる。


 そして、やっぱり彼女は大人な美女なんだな……と、改めて思ったんだ。


(…………)


 僕は自分の手を見る。


 少年に戻ってしまった自分の手だ。


 僕は彼女を見て、


「あの……子供になった僕のこと、イルティミナさんはどう思ってる?」


 と聞いてみた。


 もしかしたら、僕みたいに残念に思ってたりするのかな?


 それが知りたかった。


 聞くのは少し怖かったけど……それでも、知りたかったんだ。


 僕の質問に、彼女は驚いた顔をした。


 でも、僕の不安と真剣な眼差しに気づいたのか、すぐに真面目な表情になった。


 それから、


「そうですね……正直に言えば、安心しました」


 と答えた。


(え……?)


 安心?


 それは、僕の予想外の答えだった。


 イルティミナさんは、僕の茶色い髪を白い手でゆっくりと撫でながら、


「大人の貴方は、確かに魅力的でした。ですが、私にとっては、今の子供の姿をしたマールの方が、最も安心して接することができるようです」


 と、僕を見つめた。


 ……その瞳に、嘘は見えない。


 それを伝えるために、彼女も僕を見つめていた。


 イルティミナさんははにかむ。


「私は、臆病なのです」

「…………」

「だから、大人の男性は少し怖くて……でも、だからこそ、子供の姿をしたマールには安心して自分を晒して、こうして素直に抱きしめられるのです」


 ギュッ


 言葉の終わりと共に、強く抱きしめられた。


 ……わっ。


 少し驚いてしまう。


 イルティミナさんは子犬を愛でるように、顔を擦りつけてきた。


「ふふっ」

「…………」


 凄く幸せそうだ。


 大人の男性が怖いなんて……初めて聞いた気がする。


 正確には、心が身構えたり、緊張したりするってことなのかな……?


 子供は弱いから。


 だから、自分を傷つけるように思えなくて、安心する?


 無邪気に見えるから。


 だから、自分も心を偽らなくて済む?


 …………。


 よくわからない。


 少し困惑していると、そんな僕に気づいたのか、


「そうですね……私は貴方を守りたいのです」


 と付け加えた。


 え……?


 イルティミナさんは僕を自分の腕の中に抱いたまま、


「私は、マールを守れる自分に存在価値を見出しているのです。貴方を守れる自分が誇らしく、それで初めて自分を愛せるのです。だから、マールを守りたいのです」


 そう言った。


 僕は、彼女を見つめ返してしまった。


 彼女は微笑む。


「だから、貴方が子供の姿のままで、私は嬉しいのですよ?」


 …………。


 そっか。


 その告白は、僕の中にストンと落ちた。


 ずっと守ってもらってきたから、その姿を見てきたから、素直に納得してしまった。


 彼女は言う。


「マールが大人になりたがっているのは、知っています」

「…………」

「でも、焦らないで」


 僕の頬を、指で撫でて、


「自覚がなくても、貴方は日々成長しているのです。ずっとマールと共にいる私には、それがわかるのですよ」


 と伝えてくれた。


 僕を抱いたまま、僕の頭の上に手のひらを置く。


 そして微笑む。


「ん……去年より、また少し身長も伸びましたね」


(えっ!?)


 僕は目を瞬いた。


 本当に?


 嘘じゃなくて?


 僕の表情に、彼女は微笑みを深くして「はい、本当ですよ」と言ってくれた。


 …………。


 そっか。


 そっかぁ……そうなんだ。


 言われてみれば、その通りだ。


 僕は成長が止まっているんじゃなくて、遅くなっているだけだから、確かに少しずつでも背も伸びているんだ。


 たったそれだけ。


 でも、それでも凄く嬉しかった。


 そんな僕を、慈母の眼差しで見つめて、


「望もうとも望まなくとも、マールはいつか大人になるのです。ですから、焦る必要はないのですよ?」


 そう繰り返してくれた。


(うん)


 今度こそ、僕も頷いた。


 それにイルティミナさんも安心した様子だった。


 そして、再び僕を抱きしめ、


 チュッ チュッ


 僕の髪に、耳に、頬に、キスを落としてくる。


 はわわっ?


 恥ずかしくて、くすぐったい。


 大人だった僕には、こんな強引で悪戯なキスをしてくることなんてなかったのに……。


 僕は真っ赤だ。


 見れば、イルティミナさんも頬を赤く染めていた。


「マール」


 僕の奥さんは、僕を見つめた。


 潤んだ真紅の瞳。


 そこに、反射した僕の顔が映っている。


 その美貌が落ちてきて、


(……ん)


 最後に、唇が塞がれた。


 舌が入ってくる。


 目を閉じて、それを受け入れる。


 子供の僕を弄ぶように、その舌は僕の口の中で自由に遊んでいた。


 …………。


 やがて、顔が離れた。


 イルティミナさんは上気した美貌で、お姉さんっぽく艶やかに笑っていた。


 冬の空が、その向こうに見える。


 そして、優しい声が言う。


「――これからも、私がマールを守ってあげますからね」

ご覧いただき、ありがとうございました。


今話にて、大人マール編も完結となりました。こうして最後まで読んで頂いて本当に感謝です。

次回からは、また新しいお話。

皆さんにまた少しでも楽しんで貰えるよう頑張って参りますので、よかったらどうかまた読みに来てやって下さいね♪

どうぞ、よろしくお願いします。


※次回更新は、今週の金曜日になります。また読んで頂けましたら幸いです~!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様ですヽ(´▽`)/ マールへの告げ口に、マールに対し自らの主神自慢とまさかの活躍(?)のポーちゃん。 人生を謳歌してますね(笑) しかしイルティミナのショタ趣味って過去の『魔血…
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