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628・竜王を狩る魔狩人

第628話になります。

よろしくお願いします。

 僕は、正面から『闇の竜王オルガード』に襲いかかった。


 左右の手にある『虹色の両刃剣』と『虹色の鉈剣』を振るい、幾筋もの虹色の閃光を空間に輝かせた。


 ガッ ギィン ゴィン


 だが、奴はその全てを『漆黒の槍斧』で弾いていく。


 火花と神気の残光が散っていく。


 連続で繰り返される美しい光の大輪が咲いていく。


(――強い)


 初めての戦い同様、その強さの底は知れない。


 元々、優秀だった竜人の青年が『魔の眷属』としての力を手に入れ、この『究極神体モードの神狗』とも互角以上に戦っていた。


 負の感情が強いほど、より強い魔物になる。


 かつて、とある『魔の眷属』の女性は、そう言った。


 …………。


 それを思えば、『神の子』に比肩するほどの強さを得るぐらい、奴は恐ろしいほどの負の感情を抱えていたのだろう。


 それは、どれほどの魂の傷の深さか……?


「っっ」


 僕は歯を食い縛る。


 それでも、僕は、この竜人を倒さなければならない。


『あぁああああっ!』


 狗の貌を模した兜の奥で、僕は叫んだ。


 その瞬間、それに呼応するように僕の左右からキルトさん、ポーちゃんが『闇の竜王』へと攻撃を重ねていた。


「ぬんっ!」


 青い雷光の散る大剣を振るキルトさん。


 ポーちゃんも『神龍』へと変身して、全身の各所に鱗が生え、お尻からは長い竜の尻尾が、柔らかな金髪からは竜の角が生えていた。


「ポォオオッ!」


 その竜鱗に覆われた拳は、神気に白く輝いている。


 ドパッ パパァン


 光る拳は、連続してオルガードの腹部へと叩き込まれた。


 キルトさんの大剣も、青い放電と共に、竜人の頭部へと凄まじい勢いでぶつかった。


 ……けれど、


(やはり無傷かっ!)


 その攻撃を持ってしても、竜王の肉体には傷1つ存在しなかった。


 奴の黒い全身には、陽炎のように凝縮された魔素――すなわち、悪魔の魔力である『闇のオーラ』がまとわれていた。


 それが全ての攻撃を無効化してしまうのだ。


(それでも……っ!)


 かつての悪魔王ほどの量はない。


 攻撃を受けた場所は、一時的に闇のオーラが減少しているのが視認できた。


 ならば、


『うぉおあああっ!』


 闇のオーラでも防ぎきれないだけの連撃を叩き込めばいいだけだ。


 雄叫びと共に、二刀の攻撃速度をあげる。


 キルトさん、ポーちゃんも気づいたのだろう、威力よりも速度重視で、僕に合わせて攻撃を重ねていく。


『……ぬ、うぅ』


 オルガードの形相に、焦りが見えた。


 ドン


 瞬間、奴はこちらの攻撃を嫌がるように床を蹴り、背中の黒い翼を羽ばたかせて、上空へと飛翔した。


 キルトさん、ポーちゃんは飛べない。


 飛べるのは僕だけだ。


 その冷静な判断は、実に見事だった。


 ただし、


 ドパァン


 その竜王に向かって白い閃光のような攻撃が直撃し、凄まじい魔力爆発が発生した。


『ぐおっ!?』


 無傷のまま、けれど、衝撃でオルガードが落ちてきた。


 その竜の瞳には、僕らの背後から『白翼の槍』による砲撃を行ったシュムリアの『金印の魔狩人』の姿が映っていただろう。


 オルガードは着地する。


 僕とキルトさんとポーちゃんは、そこに殺到した。


『ぬぉあああっ!』


 オルガードは竜の牙を鳴らし、そんな僕らへと大きく口を開いた。


(!?)


 瞬間、そこから本物の竜のように炎が吐かれる。


 キルトさん、ポーちゃんも驚いた顔だ。


 僕は、背中に生えた金属の翼で全身を包み込み、姿勢を低くした。


 ボバァアン


 直後、僕の全身を炎が包み込んだ。


 灼熱。


 熱湯の風呂に入れられたように肌が焼け、けれど、その痛みはすぐに『神武具』が痛覚を麻痺させ、感じなくさせてくれた。


「鬼剣・雷光連斬!」


 キルトさんは『雷の大剣』から凄まじい放電を放ち、それを連続で振ることで炎を散らしていく。


 ポーちゃんは大きく息を吸い、


「ポォオオオッ!」


 雄叫びと共に、自分の周囲に『衝撃波の障壁』を張って、その炎を防いでいた。


 僕ら3人の視界は、炎が塞いでいた。


 そして、それを突き抜けて、竜王オルガードの黒い巨体が『漆黒の槍斧』を大上段から振り下ろしながら飛び出してきた。


「!?」


 僕らは驚愕する。


 同時に、狙われたポーちゃんは障壁を叩き割られ、その肉体に肩口から槍斧の刃を叩き込まれていた。


「がっ!?」


 反射的に両腕を交差して、それ以上、槍斧が喰い込まないように止めている。


 けれど、肺まで届く深手。


 もし頑丈な鱗に覆われた『神龍』でなければ、ポーちゃんは即死していたかもしれない。


 そして、このオルガードという竜人の青年は、神々の眷属である『神龍』を殺しかけるほどの強さを見せたのだ。


「くはっ」


 奴は笑った。


 歓喜の笑みだ。


 自分が憎む世界――その具現の1つを倒せたと思ったから。


 ……でも、それは違う。


 僕とキルトさんは、すぐにオルガードを攻撃し、それ以上の追撃を許さなかった。


 オルガードは後方に下がった。


 同時に、ポーちゃんは血を吐きながら、倒れていく。


 その姿が床へとぶつかる寸前、神速で駆けこんだイルティミナさんが彼女を受け止め、同じ速度で後方へと下がった。


「ソル!」


 彼女は叫ぶ。


 その時にはもう、ソルティスは『竜骨杖』の魔法石を緑色に輝かせていた。


 その先端が、幼女に触れる。


 パァアアッ


 あれほどの深手があっという間に塞がっていき、ポーちゃんは自分の足で立ち上がった。


 グイッ


 口元の血を腕で拭う。


 前を向いたまま、拳を後ろへ。


 ソルティスは不敵に笑い、そこに自分の握り締めた拳をコツッと当てた。


 そして、イルティミナさんとポーちゃんは、再びこちらへと凄まじい速度で駆けてくる。


 2人とも戦線復帰だ。


 オルガードは驚愕の表情で、ようやく仕留めたと思った幼女の復活を見ていた。


 でも、僕は驚かない。


 これが、僕ら5人の戦い方だ。


 後ろにソルティスがいてくれれば、どんな負傷もすぐに治してくれる。


 イルティミナさんは常に戦況を俯瞰して眺め、必要な時に、必要な支援をして戦闘を有利に導いてくれる。


 だから、僕、キルトさん、ポーちゃんの3人は全力で前線に立てるのだ。


 ……竜王は強い。


 究極神体モードの僕を上回る力と速さを持ち、そして、圧倒的な闇のオーラの防御力、そして、凄まじい威力の攻撃力、全てを兼ね備えていた。


 1つの個体として、完成されていた。


 けれど、


(僕らは5人だ!)


 1人1人では劣っていても、力を合わせることで上回る。


 竜王は強い。


 けれど、僕らの方がもっと強い!


 こうして戦いながら、僕は、そのことを強く実感していた。


『ぐ、がぁああっ!』


 僕らの猛攻を受けながら、オルガードも悟ってきただろう。


 奴は強く、キルトさん、ポーちゃんは何回か負傷した。


 けれど、そのたびにソルティスが傷を治し、その間はイルティミナさんが前線に加わったり、あるいはサポートに回って時間を稼いだ。


 オルガードは無傷。


 けれど、その表情には焦りがあった。


 もしかしたら、いつまでも『闇のオーラ』は維持できないのかもしれない。


 そして奴は、


『どけっ!』


 そう叫んで、前線の僕ら3人を弾き飛ばした。


(ぐっ!?)


 奴はそのまま、ソルティスへと一直線に向かっていた。


 先に、回復役を潰す。


 戦略として、正しい選択だ。


 僕、キルトさん、ポーちゃんは奴を追う。


 でも、追いつけない。


 イルティミナさんが立ち塞がったけれど、力で強引にいなされてしまった。


「ソル!」


 弾かれながら、妹に叫ぶ。


 そして、ソルティスの前に黒き竜人が仁王立ちして、手にした『漆黒の槍斧』を振り下ろした。


『死ね』


 奴は言った。


 けれど、ソルティスに慌てた様子はない。


 姉が時間を稼いだ間に、彼女の右手には『幅広の黒い直剣』が握られていた。


 ガギィン


 彼女はあっさりと、無造作に振り下ろされた槍斧を受け流す。


『何っ!?』


 竜王の竜眼が驚きに見開かれた。


 瞬間、彼女の左手にあった白い『竜骨杖』の先端は、その腹部に当てられて、


「貫け。――エルダ・レイヴィン」


 そこから、凝縮された魔力の刃が生み出された。


 バシュッ


 凄まじい魔力の密度がぶつかり『闇のオーラ』が剥がれて、白い光の剣は、その奥にある黒い鎧を貫通した。


『ぐふっ!?』


 オルガードは、慌てて後方に跳躍する。


 その腹部からは血が流れ、口からは血が溢れていた。


 内臓が焼かれ、貫かれた。


 驚いたことに、竜王オルガードに最初に傷を与えたのは、紫髪の美しい少女ソルティスだった。


 オルガードは間違えた。


 彼女を『魔法使い』だと勘違いしていたのだ。


 けれど、実際は違う。


 彼女は『魔法使い』ではなく『魔法剣士』であったのだ。


 それは致命的な間違いとなり、オルガードの肉体に初めての傷を負わせることになっていた。


『おのれ……っ』


 口から血をこぼし、竜王は呟く。


 本来ならば、致命傷……けれど、オルガードは『魔の眷属』であり、その肉体は腹部を抉られた程度では絶命しない。


 すぐに再生を開始する。


 だが、負傷は負傷だ。


 このチャンスを逃さず、僕とキルトさんとポーちゃんの3人は、即座に追撃をしかけた。


 虹色の2つの刃が舞う。


 大剣が青い雷を放つ。


 神気の拳が白い光と共に撃ち出される。


 ガヒュッ ガシュン バヂィン パパァアン


 それらの猛攻に重ねて、イルティミナさんも射程距離の長い槍の特性を生かして、『白翼の槍』による刺突を繰り出した。


 キュボン


 奴の全身を包む闇のオーラが薄れ、傷が負わされる。


 少しずつ、少しずつ。


 それは積み重なり、奴は防戦一方となった。


 その時、


 フ……ッ


 僕ら4人は突然、攻撃をやめて、後方へと下がった。


『……っ?』


 オルガードは、その意味がわからなかった。


 そして、すぐに気づく。


 僕らの後方にただ1人いたソルティスの構えた魔法の杖から、『神炎の巨鳥』が自分へと向かって飛来しているのを。


 神炎とは、太陽の光。


 それは、唯一、闇のオーラを消し去る力。


 防戦へと追い込み、ようやく回復の必要がなくなった彼女は、その大魔法を行使できたのだ。


 竜王の目が限界まで開かれる。


 それを飲み込み、白く神々しい炎が奴の全身を焼いた。


 ボジュウウウッ


『っっっ』


 奴の悲鳴も、情念も、全てが焼かれ、消えていく。


 ガシャッ


 僕は左右の手にある『虹色の両刃剣』と『虹色の鉈剣』を輝かせ、大きく上下に構えた。


 噛みつくあぎとのように。


 その2つの刃を振るった。


 カォオン


 そこから放たれた2つの虹色の光は、神炎に焼かれる竜王オルガードの黒い影へと直撃した。


 それは玉座の間の奥の壁を破壊し、空へと消えていく。


 ジジ……ッ


 空間に、虹色の粒子が舞っていた。 

 

 それも消えていく。


 僕らは5人とも、動きを止めていた。


 その視線の先で、竜王オルガードは立ったまま、黒い消し炭と化していた。


 生きているとは、思えなかった。


 その姿を見て、僕らの後方に控えていたマリアーヌさん、護衛の3人は驚愕の表情を浮かべていた。


 オルガードが死んだ。


 その事実を信じ切れず、ただ、その瞳を大きく見開いていた。


 …………。


 彼女たちの足が、こちらに動こうとする。


 バッ


 僕は、そちらに手のひらを向けた。


 マリアーヌさんたちは、驚きの表情で足を止めた。


 僕の視線は、オルガードに向いたままだ。


 キルトさん、イルティミナさん、ポーちゃん、ソルティスも、人型の消し炭となった竜王の姿を見つめていた。


 …………。


 …………。


 …………。


 不意に、その黒い全身に青い刺青の光が走り抜けた。


 パリッ


 焦げた表面がひび割れる。


 マリアーヌさんと護衛の3人は、ギョッとした。


 その目の前で、竜王オルガードの黒い全身には、刺青の青い光だけが輝き続け、やがて、その黒焦げの表面を押しのけるように膨張していった。


 メキメキ バキィン


 そこから現れたのは、黒い竜巨人だ。


 体長12メード。


 竜人のようでありながら、全身の筋肉は本物の竜のように太く膨らみ、肘や膝、肩などに長く武骨な突起が生えていた。


 何より、その巨体。


 そこから感じる圧力は、これまでの竜人の姿とは一線を画していた。


 ――僕らは知っていた。


 奴は『魔の眷属』。


 すなわち、人から魔物へと変じることができる存在なのだ。


 これこそが、奴の正体。


 奴の本物の姿だ。


 僕らは、ようやくそこまで追い込んだのだ。


(…………)


 5人の誰1人、驚いている者はいなかった。


 ここからが本番。


 その事実を確かめるように、僕は、剣の柄を握る自分の両手に力を込める。


 グギュッ


 まだ戦える。


 力は、充分に残っている。


 それでも、ここまでに140秒近くはかかっていた。


 残り40秒。


 僕が『神狗』として顕現できる時間は、それだけだ。


 そして、それまでに目の前にいる『闇の竜巨人』を滅ぼさなければいけなかった。


「…………」


 僕は顔をあげた。


 狗の兜にある青い眼球を輝かせ、奴を見据えた。


 イルティミナさんも、キルトさんも、ポーちゃんも、ソルティスも、各々の武器を構えて、1歩も引く姿勢を見せなかった。


 ズシン


 闇の竜巨人が足を踏み出す。


 石床が砕け、その形相は悪鬼のように歪んでいた。


 ビリビリ


 放たれる殺意の圧は、まるで突風だ。


 それでも引かない。


 引く訳にはいかない。


 恐怖を飲み込み、仲間への信頼で心を埋め尽くして、


 ガシャン


 僕も、そちらへと1歩を踏み出した。


 さぁ――決着をつけよう、オルガード!

ご覧いただき、ありがとうございました。


※次回更新は、来週の月曜日を予定しています。どうぞ、よろしくお願いします。

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