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【書籍化&コミカライズ!】少年マールの転生冒険記 ~優しいお姉さん冒険者が、僕を守ってくれます!~  作者: 月ノ宮マクラ


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067・ディオル遺跡

第67話になります。

よろしくお願いします。

 街道からディオル遺跡までは、1000メード(1キロ)ほどの距離だった。


 辿り着いた頃には、空にあった光も消えている。


(ここが、ディオル遺跡……)


 それは、草原の斜面にある古い建造物だった。


 見た目は、東南アジアの寺院かな?


 その石造りの建造物は、半分以上が土に埋もれている。外壁にも草が生え、遠目には周囲の岩と混ざって、きっと注意しなければ気づかれない。


(かなり古いね?)


 もしかしたら、僕が暮らしたアルドリア大森林の塔より、古い時代の物かもしれない。


 ゴツッ


 足に、何かがぶつかった。

 見ると、手足の欠けた仏像のような物が、草の中に何体も倒れていた。


 見つめる僕の耳に、


「信号弾を撃った者が、近くにいるはずじゃ。手分けして探すぞ」

「あ、うん」

「はい」

「わかったわ」


 キルトさんの言葉で、僕らは散開する。


 キルトさんは、遺跡の中へ。

 イルティミナさんは、建物の左側から回り込み、ソルティスは、右側から回り込んでいく。


 僕は、少し考え、遺跡近くの草の中を調べた。


(遺跡を出たとして、助けを求めるなら……街道の方かな?)


 ここから、遠くに街道が見える。

 そちら側に、草の中をゆっくりと進んだ。


(ん?)


 20メートルほど進んだ時、緑色の絨毯の中に、黒い影を見つけた。

 人だ。


「見つけた! こっち!」


 3人の方に呼びかけ、僕は、人影に走り寄る。


 そこにいたのは、全身に切り傷を負った、白い髪と褐色の肌をしたダークエルフの少女だった。

 流した血が、衣服を赤く染めている。


 右手には、トリガーのある金属の筒が握られていた。


(この人……リュタさん?)


 アスベルさんと一緒にいた人だ。


「大丈夫ですか、しっかり!?」

「……う」


 僕の呼びかけに、彼女は、薄っすら目を開ける。

 水色の瞳が、僕を見た。


「……『血なし者』の子供……来てくれたのね?」

「はい」


 僕は、頷く。


「すぐ治療します。待ってて」

「私のことはいいのっ……それより、アスベルとガリオンが……っ。お願い、早く2人を……っ!」


 血塗れの手が、僕の腕を掴む。


(イタタッ……!?)


 物凄い力だ。

 それを堪えながら、僕は聞く。


「2人がどうしたんですか? いったい、何が?」

「それ、は……うぐっ」


 口にしようとした瞬間、リュタさんは痛みに呻く。


(……まだ喋らせない方がいいかな?)


 悩んでいると、ちょうどイルティミナさんたち3人が、僕らの元へと到着した。


 ソルティスは、すぐに回復魔法を使おうとしてくれる。


 でも、ダークエルフの少女の目には、3人の姿は映っていないようだった。 

 彼女は、必死に僕に言う。


「第4階層に……100体以上の、スケルトンがいたの……。……私たちは、自分たちには無理だと判断して……逃げたわ。……でも」

「でも?」

「でも……第1階層から地上に通じる道が、急に崩落して……っ!」


 ……は?


 その意味がわかって、僕らは4人とも青ざめる。

 リュタさんは、泣いていた。


「私は、瓦礫の隙間を通れた! でも、でも2人は、まだ……あのディオル遺跡に閉じ込められてるの!」


 悲痛な叫びが、空へと響く。


 僕らのいる草原には、太古のディオル遺跡から絶望の風が吹いているようだった。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 ソルティスの魔法で、リュタさんは治療された。


 そして僕ら5人は、リュタさんに案内されて、ディオル遺跡の内部へと入っていく。


(……これが、遺跡の中?)


 古びた寺院の内部は、とても暗い。

 そして、湿気が強くて、息を吸うと、少しカビ臭いような空気だった。


 壊れた柱。

 倒れている仏像たち。


 崩れた天井からは、日の光が差し込んでいる。


「ここです」


 リュタさんが示したのは、寺院広間の一番奥――祭壇の裏側にある階段だ。


 10段ほど降りると、もう真っ暗だ。

 僕らは、ランタンを灯す。


 でも、すぐに行き止まりになった。


 巨大な石の瓦礫が、幾つも重なって、階段を塞いでいたんだ。


(……本当に、崩落してる)


 崩落した部分は、何トンもありそうだ。

 とても、どかせそうにない。


 キルトさんは、黄金の瞳を細める。


「ふむ。……そなたは、どこを通ってきた?」

「は、はい。ここを」


 リュタさんは、『金印の魔狩人』の質問に、緊張しながら答えた。


 指差されたのは、地面近くの瓦礫の隙間だ。


(え……? ここ!?)


 そこには30センチほどの黒い穴が、確かに開いている。

 でも、こんな狭い場所を、よく通れたね?


 同じ感想を持ったのか、キルトさんも、イルティミナさんたち姉妹も、僕と同じ表情で、その黒い穴を見つめていた。


「アスベルに、言われたんです」


 リュタさんが、ポツリと呟いた。


「私だけなら、ここを通れる。だから、助けを呼びに行けって」

「…………」

「近くに『血なし者』の子供……あ、いえ、その……マール君がいるからって。それで、発光信号弾を……」


 水色の瞳が、僕を見る。


 ――彼女の話は、こうだった。


 100体ものスケルトンに追われ、ディオル遺跡に閉じ込められたアスベルさんたちは、救助を要請するために、リュタさんだけを隙間から逃した。

 遺跡近くの森に、僕がいることを、アスベルさんは知っていた。


 そして、僕は、『鬼姫キルトの知り合い』だ。


 僕に知らせれば、キルトさんたちが動いてくれる。

 その可能性に、アスベルさんは賭けたのだ。


(……まさか、僕のクエストに、キルトさん本人が同行しているとは、さすがに思ってなかっただろうけどね)


 リュタさんは、声を震わせる。


「お願いします……アスを、ガリオンを助けてください。お願いします……」

「リュタさん……」


 地面に膝をつき、彼女は、『血なし者』の僕にまで頭を下げた。

 白い髪が、埃だらけの床にまで落ちている。


 でも、キルトさんは、無言だった。


「…………」


 険しい表情で、瓦礫の山に触れる。

 そして、言った。


「アスベルたちは、まだ生きているのか?」

「え?」

「100体のスケルトンに追われて、どうやって救助が来るまで待つ? 何か、聞いておらぬのか?」


 鋭く見つめられ、リュタさんは息を飲む。


「ち、地下には、幾つかの部屋があります。多分、そこで籠城していると……」

「ふむ」


 キルトさんは、美しい『銀印の魔狩人』を見た。


「イルナ。どう見る?」

「……5時間かと」

「そうか、優しいの。……わらわは、2時間と見ている」


 ???

 2人以外は、意味がわからないって顔だ。


「あの、何の話?」


 僕は聞いた。 

 イルティミナさんは、少し間を開けて、答えた。


「アスベルたちの、耐え切れる時間です」

「…………」

「遺跡の強度、青印が2人、スケルトンが100体……それが限界でしょう」


 リュタさんは、蒼白だ。

 胸の前で、きつく手を握り合わせている。


(最悪、2時間だけ……?)


 僕らがここに来るまでにも、時間がかかっている。


「じゃあ、急がないと!」


 僕の言葉に、リュタさんは驚いた顔だ。


 でも、2人の凄腕の魔狩人たちは、動かない。

 ソルティスは、黙ったまま、そんな彼女たちの顔を、窺うように見上げている。


 キルトさんが、リュタさんを見た。

 そして、


「――残念じゃが、2人は助けられぬ」


 鉄の声で、冷徹に告げた。


(……え?)


 僕もリュタさんも、同じ顔だ。


「な、なぜですか!?」

「助けに行く道がない。わらわたちでは、この隙間の穴は通れぬ」


 あ……。


 リュタさんは、エルフらしく、とても華奢な少女だった。

 

 キルトさんは、小柄だ。

 でも、リュタさんほどに細くないし、むしろ、胸やお尻など肉づきはいい方だった。


 長身のイルティミナさんは、言うまでもない。


 2人には、助けに行くこと自体が無理なのだ。


「そ、そんな……」


 リュタさんが、よろめく。

 僕は、慌てて、その背中を支えた。


「2人なら、瓦礫を吹き飛ばせないの?」

 

 白い槍と雷の大剣を見て、聞く。

 でも、イルティミナさんは、美しい髪を散らして、辛そうに首を振った。


「それをすれば、恐らく、更に上部が崩落します」

「そうなの?」

「はい。もしかしたら、余波で、下の階層も全て、崩れるかもしれません」


 それは駄目だ。

 キルトさんは、忌々しげに瓦礫を睨んだ。


「どかすには、相当、慎重にやらねばならぬ。丸1日かかっても、おかしくない。――そこまで、アスベルたちが生きていればいいが」

「……スケルトン100体を相手に? 無理でしょ?」


 ソルティスが、表情を曇らせる。

 リュタさんは、唇を噛んだ。


「……じゃあ、アスベルとガリオンを、見殺しにするしかないんですか?」


 声が震えている。

 キルトさんは、険しい表情だった。


「無論、手は尽くす。しかし、覚悟はしておけ」

「…………」


 リュタさんは答えない。

 キルトさんは、イルティミナさんの方を振り返った。


「これから瓦礫をどかす。イルナ、まずは、ここの天井の強度を調べるぞ」

「はい」


 2人は、動きだす。

 でも、リュタさんは、完全に、階段の上に座り込んでしまった。


「…………」

「…………」


 僕とソルティスは、顔を見合わせた。


(どうしよう……?)


 視線で問う。

 ソルティスは、唇を尖らせて、なぜか僕を睨む。


「はぁ……仕方ないわね」


 やがて、大きく嘆息した。

 ん?


「キルト、イルナ姉? あと1つだけ方法があるわ」

「え?」


 2人が立ち止まる。

 リュタさんが、顔を上げた。


 ソルティスの幼い手が、僕の襟をグイッと引いて


「私とマールなら、あの穴を通れる。だから、マールに守ってもらって、私が魔法を使えば、スケルトンなんて100体でも1000体でも、全てぶっ倒してみせるわ」


 白印の魔狩人は、自信満々にそう言い切ってみせた――。

ご覧いただき、ありがとうございました。


※次回更新は、明後日の金曜日0時以降になります。よろしくお願いします。

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