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【書籍化&コミカライズ!】少年マールの転生冒険記 ~優しいお姉さん冒険者が、僕を守ってくれます!~  作者: 月ノ宮マクラ


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066・一息ついて

第66話になります。

よろしくお願いします。

 戦果は、ゴブリン31体、ホブゴブリン1体となった。


 クエストの目的は『ゴブリン15体の討伐』だけど、余剰分にも報奨金がでるらしいので、『討伐の証』である耳を、計32枚、確保する。


「ま、報奨金は安いがな」

「でも、新人には、貴重な収入でしょ? ホブは、もう少し高いしね」


 とのこと。

 3人の予想だと、ホブ耳1枚で30リド、ゴブ耳16枚で160リドの報奨金になるらしいよ。


(つまり、1万9千円ぐらいかな?)


 うん、ちょっと嬉しい。


 そして僕は、32枚の耳を、防水袋に詰め込んで、リュックに収める。少し重たい。


 そうして僕ら4人は、森をあとにした。


 波打つ大海原のような草原と、そこに生える10~30メートルほどの灰色の岩たち、そこに王都に通じる街道が通っている。

 僕ら4人は、その街道脇に到着した。


 迎えの馬車が来るまで、予定では、あと3時間。


(思ったより早く、クエストが終わったね?)


 僕らは、手頃な岩に腰を下ろす。

 大きな岩の日陰になっていて、草原を渡る風もあって、とても涼しい。


 気持ちいいなぁ。


 茶色い髪を揺らしながら、僕は、目を閉じる。


「マール」


 ん?

 キルトさんの声に、目を開ける。


 銀髪の美女は、正面に座っていた。

 その左右には、あの美しい姉妹も座っている。


 3人は、僕を見ていた。


「…………」


 その表情に気づいて、僕は、すぐに姿勢を正す。


 ついに来た。


 ――試験の結果発表だ。


 予想通り、キルトさんは言う。


「まずは労おう。クエストは、無事に終わった。ご苦労じゃったな、マール」

「うん」

「そして、前もって話していた通り、ここでのそなたの成果によって、次のわらわたちのクエストに、そなたを同行させるか決める。このクエストを成功しようが、失敗しようが、その判断は別である。――それを踏まえた上で、試験結果を伝えよう」


 …………。

 つまり、ゴブリン討伐クエストをクリアしても、試験が合格とは限らないってこと?


(そっか)


 こういう言い方をするってことは、僕は、不合格なのかもしれない。


 ショックだった。


 でも、精一杯、がんばったんだ。

 そこは、胸を張ろう。


 3人も、意地悪で言ってるんじゃない。僕の命を心配してくれているからこそ、厳しい判断をしてくれるんだから。


(でも、胸が痛いな)


 その苦しさに、うつむく僕。


 そして金印の魔狩人は、そんな僕へと、はっきりと告げた。


「合格じゃ」


 …………。


(え?)


 思わず、顔を上げる。

 3人は、みんな、笑っていた。


「何、間抜けな顔してんのよ? アンタ、合格よ」

「……ソル、ティス?」


 唖然としている僕に、ソルティスが苦笑する。

 キルトさんは、大きく頷いた。


「クエストの選択、荷物の準備、フィールド探索、戦闘技術、どれも問題ない。マールは充分、冒険者としての資質を備えている」

「……キルトさん」


 心が、ブルッと震えた。


 イルティミナさんが進み出て、僕の前に膝をつき、目線を合わせて、その白い両手で、僕の手を握った。

 そして、優しい微笑みで、


「よくがんばりましたね、マール。これで貴方はもう、私たちの正式な仲間の一員です」

「…………」


 真紅の瞳が、僕を見つめる。

 それを受けて、僕は、ちょっと泣きそうになった。


(こら! 泣くな、僕)


 自分を叱る。

 そんな僕に気づいて、イルティミナさんは慈母のように笑うと、後ろの2人から僕を隠すように、フワリと抱きしめてくれた。


「これからも、どうか、よろしくお願いしますね、マール?」

「うん……うん!」


 その腕の中で、僕は、何度も頷いた。


 草原を渡る風が、そんな僕らを撫でていく。


 ――こうして僕は、ようやく、イルティミナさんたちパーティーの正式な一員になったんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 時刻は、だいたい2時頃だ。


 迎えの馬車が来るまで、まだ時間があるので、僕らは、遅めの昼食を食べることにした。


 パクパク ムシャムシャ


 前世でいうショートブレッドみたいな携帯食料が、物凄い勢いで減っていく。


「…………」

「…………」


 年長の2人の魔狩人が、唖然としている。


 うん、その凄まじい食いっぷりは、あの食いしん坊少女だけじゃない。

 なんと、この僕自身も、であった。


(……なんか、妙にお腹が空くんだよね、最近は)


 特に今日は、動いたからかな?

 すでに今日のクエスト分は食べ終え、予備として用意した携帯食料にも、手を付けている僕である。


 バクバク モグモグ


 ふと、隣で同じように食べている少女と、目が合う。


「ふふん、マールのくせにやるじゃない? でも、私は、誰にも負けないわ」

「む……僕だって!」


 意味もなく、早食い大会になった。


 イルティミナさんが、困ったように笑う。


「2人とも、お腹を壊さないように、どうか、ほどほどにしてくださいね?」

「うん、大丈夫」

「心配無用よ、イルナ姉!」


 揃って答え、僕らは、また食べる。


 優しいお姉さんのイルティミナさんは、頬に手を当てて、嘆息する。

 キルトさんが、苦笑する。


「ま、仕方あるまい」

「……キルト」

「ソルはともかくとして、今日のマールは、働きすぎじゃ。エネルギーを欲するのも、当り前であろう」


 イルティミナさんは、少し考え、


「そうですね」


 と頷いた。


 僕らを眺めながら、キルトさんは言う。


「正直、ここまでマールがやるとは、思っておらなんだ。クエストを受け、ゴブリンの痕跡を見つけ、斥候をし、ゴブリンたちを倒し、巣を見つけ、見事な策であぶり出して全滅させ、最後は、ホブゴブリンも倒してみせた。……わらわたちは、何をした?」


 イルティミナさんも、苦笑する。


「ゴブリンを数体、倒しただけですね。それも、マールの考えたロープの罠で、転んだゴブリンを」

「ソルなど、魔法も使っておらんぞ?」

「ですね」

「……まさか、初心者の子供に、ここまでさせる気は、なかったんじゃがなぁ」


 キルトさん、ちょっと遠い目だ。


 イルティミナさんが、僕を見ながら、ちょっと楽しそうに笑う。 


「もしも私がマールと同じ子供で、しかも初心者の冒険者であったなら、マールのようなリーダーとパーティーを組みたかったでしょうね」

「ふむ、そうじゃな」


 キルトさんも笑う。


(…………)

 

 ちょっと想像してみた。


 もし2人が同い年で、初心者の冒険者だったら……?


 キルトさん。

 銀髪をポニーテールにして、笑うと八重歯が特徴的な、元気少女かな?


 大きな剣を振り回して、特攻するタイプ。

 すぐ怪我して、擦り傷、斬り傷だらけで、ホッペや腕に、いつも絆創膏を貼っていそうだ。


 でも、その元気で、いつも、みんなに活力を与えてくれそうだね。


 次は、イルティミナさん。

 深緑色の美しい髪は、肩ぐらいの長さかな?

 でも、辛い過去があって、ちょっと根暗な感じ……。


 だけど、とっても真面目で、長い槍を使って、前線の仲間を援護するために一生懸命がんばってくれるタイプだ。


 褒められ慣れてなくて、すぐ照れる。

 でも、本当に仲間思いの、とっても、とっても優しい少女なんだ。


 …………。

 う~ん、そんな2人と、本当に冒険してみたいなぁ。


 割と本気で、そう思う。


 ムグムグ


「…………」


 そんな少女たちが、成長して、今、目の前にいる2人の姿と重なっていく。

 成長した少女の1人が、こちらを見た。


「ですが、そんなマールと、今の私たちは、これから一緒にいられますからね」

「まぁの」


 もう1人も頷いて、


「しかし、次のクエストは、今回のようにはいかぬ。今度は、わらわたちが、しっかりせねばの」

「はい」


 年長の2人の魔狩人は、互いに頷き合った。


(……次のクエスト、か)


 僕は、食事の手を止めた。


「そういえば、みんな、次のクエストはどこに行くの?」

「ケラ砂漠じゃ」


 ケラ砂漠?

 ソルティスが、ムグムグしながら、食べかけの携帯食料で西を示す。


「アルン神皇国との国境付近にある、砂漠地帯よ」

「へぇ?」


 次は、砂漠かぁ。

 ピラミッドやスフィンクスなど、前世のエジプトみたいなイメージが、頭に浮かぶ。


 キルトさんが、言う。


「そこに出る砂大口虫サンドウォームの討伐が、わらわたちの次のクエスト依頼じゃ」

「……サンドウォーム?」

「体長10~30メードの肉食ミミズじゃな」


 …………。

 イメージの砂漠の海に、巨大な蛇みたいな怪物が泳ぎだした……。


(ゴ、ゴブリンなんて、目じゃない魔物だね?)


 固まる僕に、イルティミナさんが優しく言う。


「これは、『金印のクエスト』ですからね。次は、マールはどうか、生き延びることを優先してください」

「う、うん」


 キルトさんは、笑う。


「次からは、わらわがリーダーじゃ。指示には、絶対に従うのじゃぞ?」

「わ、わかったよ」


 リーダー返上だ。


「フフッ、短い天下だったわね、ボロ雑巾?」

「…………」


 そんなつもり、なかったけどね。

 でも、なんか嬉しそうなソルティスを見てると、悔しくなる……うぅ。


 キルトさんは、自分の携帯食料をかじり、


「ま、こう見えても、わらわは『金印の魔狩人』じゃ。依頼人から指名されることも多いし、わらわにしかできぬクエストもあって、その予約も立て込んでおる。そのせいで、休暇もなかなか取れぬ」

「…………」


 その休みを、僕のために使わせちゃったんだ。


「なんか……ごめんなさい、キルトさん」

「いや、構わぬ。今回の休みは、いつもと違い、なかなかに楽しいものであった」


 白い歯を見せて笑う。

 そこに、嘘は感じられなかった。


(キルトさんにとったら、ゴブリン討伐も休みの内なのかな……?)


 と、彼女は、表情を改める。


「しかし、明日からは、またクエストの日々じゃ」

「うん」

「しばらく、王都ムーリアに帰れぬ日々も続く。マールも、そこは覚悟しておれよ?」


 うん、大丈夫。


「みんなと一緒にいられるなら、僕は平気だよ」

「そうか」


 キルトさんは、ちょっと安心したように笑った。


 イルティミナさんが「マール」と嬉しそうに抱きついてきて、僕に頬ずりする。ソルティスは苦笑しながら、「へ~いへい」と、小さな肩を竦めてみせる。


 明日は、ケラ砂漠。

 その先も、また違うクエストが待っている。


(これから、どんな日々が始まるのかなぁ?)


 僕はワクワクしながら、空を見上げた。


 ――その時だ。


 その空に向かって、地上から一筋の光が走った。


 パァアアアン


(……え?)


 凄まじい音と共に、青い空にもう1つの太陽が生まれた――そう錯覚させるほどの魔法の光だ。


 その光を、僕は、忘れるはずもない。


「あれは……発光信号弾!?」


 思わず、3人を振り返る。

 3人の驚く美貌も、その魔法の輝きに照らされている。


「かなり近いですね」

「ふむ。あちらの方角には、確か……」

「ディオル遺跡があるはずよ」


 ディオル遺跡!?


「じゃあ、あれは、アスベルさんたちが……?」


 僕らは、顔を見合わせる。

 すぐに全員の意志が、1つになった。


「ふむ。皆、行くぞ」

「うん!」

「はい」

「わかってるわ」


 広げていた荷物をかき集め、僕らは、空に輝く光の真下を目指して、一斉に走りだした――。

ご覧いただき、ありがとうございました。


※次回からは、ディオル遺跡を舞台とした物語が始まります。アスベルたちの身に何が起こったのか……乞うご期待、です!


※次回更新は、明後日の水曜日0時以降になります。よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] ここで何事もなく帰ってたら予想外だった。 流石にここまでフラグ建てておいて、遺跡行かないなんて選択肢は無かったかぁ。 行かなかったら逆に新しかったのにw
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