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【書籍化&コミカライズ!】少年マールの転生冒険記 ~優しいお姉さん冒険者が、僕を守ってくれます!~  作者: 月ノ宮マクラ


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610・黒き死波

第610話になります。

よろしくお願いします。

 西の山脈に太陽が沈む。


 夜を迎えても、僕らは足を止めることなく撤退を続けていた。


(…………)


 振り返れば、闇に染まった草原に、竜国軍の灯したいくつもの光源が輝いている。


 綺麗だった。


 でも、それは、追いつかれれば終わりの『死の光』だった。


 美しいからこそ恐ろしい。


 それから逃れるために、僕は、約2万5千の王国兵と共に急ぎ足で歩き続けた。


 …………。


 時刻は深夜、日付が変わる頃だ。


 グォオオン


 上空を飛んでいたシュムリア竜騎隊の2体の竜が吠え、夜の闇を払うように僕らの後方へと炎を噴いた。


 灼熱の火が周囲を照らす。


「!」


 その炎に焼かれて、倒れていく竜国兵の姿が見えた。


(こんな近くまで!?)


 距離にして、300メードもなかった。


 竜国軍の本隊は、まだ後方だ。


 黒い鎧に身を包んだその竜国の部隊は、夜の闇に紛れて先行し、僕らを襲おうとしていたみたいだった。


「っっ」


 ソルティスの顔色も悪い。


 キルトさんが鉄の声で言う。


「足を止めるな」


 僕らは頷き、前を向いて足を急がせる。


 グォオッ グォオオン


 上空から、2体の竜たちの咆哮が聞こえる。


 そのたびに、夜空を焦がすような火炎が吐き出されて、僕らの後方の空間を赤く染めていった。


 竜騎隊の活躍で、迫った敵は焼かれていく。


 でも、それは王国軍のすぐ後ろまで、竜国軍が追いついてきたことの証明だった。


(…………)


 直接戦闘が始まるのは、もう時間の問題だった。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 夜明け間近のことだった。


 東の空が白み、やがて太陽が昇るだろうという時に、


「皆、武器を用意しろ」


 突然、キルトさんが言った。


 え?


 僕らは、鬼姫と呼ばれる銀髪の美女の横顔を見上げた。


 その表情は険しい。


 …………。


「うん、わかった」


 僕は頷いた。


 足を進めながら、左右の腰に提げていた『大地の剣』と『妖精の剣』を鞘から抜く。


 イルティミナさんも『白翼の槍』の翼飾りをカシャンと解放し、内側に隠されていた紅い魔法石と美しい刃を露にした。


 ソルティスも思い詰めた顔で、白い『竜骨杖』を握り締める。


 無手で戦うポーちゃんは、小さな2つの手をプラプラと軽く揺らし、そして握り締めた。


 そんな僕らを、周囲の王国兵は見ていた。


 カシャッ シャリン


 彼らも自分たちの武装を用意して、いつでも戦える態勢を整えていく。


 …………。


 程なく、後方からの地響きが唐突に強くなった。


 ズドドドォッ


 膨れ上がる圧力。


 上空の竜たちは咆哮し、夜間と同じく火炎を地上へと吐きかけていく。


 けど今度は、それでも後方から感じる圧力は変わらずに、むしろ、より強大になってこちらに迫ってきていた。


(っっ)


 その近づく殺意の圧に、僕は振り返る。


 ――黒い津波だ。


 そこにあったのは、10万の竜国軍が地面を埋め尽くす勢いで、僕らへと殺到してくる狂気の姿だった。


 本能で感じる恐怖。


 それを、理性で必死に抑え込む。


 竜国軍は、夜が明け、視界が開けるのを見計らって、ついに王国軍の最後尾である僕らに噛みつこうと本気の追撃を開始していたのだ。


 竜の炎も無視している。


 数の暴力で、焼かれた仲間を捨て、ただただこちらに駆けてくる。


 彼我の距離は、約200メード。


 それがグングンと縮まる。


 150メード……120メード……90メード……。 


 そして、50メードを切った瞬間、


「――総員反転! 奴らを蹴散らせい!」


 キルトさんが吠えた。


 ドンッ


 彼女の右足が地面を蹴り、黒い大剣を構えた姿が後方へと弾けるように跳んだ。


「鬼剣・雷光斬!」


 バヂッ バヂィン


 声と共に青い雷光が空間へと広がり、先頭を走っていた四足竜に騎乗する竜国兵を吹き飛ばした。


 四足竜の巨体が落下し、続く竜国の部隊の足が鈍る。


「オォオオッ!」


 キルトさんは吠えながら、そこにいる竜国兵たちを次々となぎ倒していく。


 強い!


 その強さには、思わず見惚れてしまうほど。


 けど、そんな彼女の周囲には、すぐに竜国兵の包囲の輪が何重にも広がり、数の暴力で銀髪の美女を制圧しようとする意志が見えた。


(させるかっ!)


 僕も反転し、剣を手にそこに走る。


 イルティミナさん、ソルティス、ポーちゃんも僕の左右を並んで走っていた。


「鬼姫殿に続けぇい!」


 王国騎士の叫びが響き、殿を務める2000人の王国兵たちも『ウオォオオッ!』と雄叫びを上げながら、僕らに続く。


 四足竜に乗った竜国兵が、こちらを向く。


 目が合う。


 互いの眼光をぶつけ合い、僕と彼は同時に己の武器を振り被った。


「やぁああっ!」


『クワァアッ!』


 僕と竜人の咆哮が重なる。


 ギャリッ ヒュコン


 竜人の振るった槍斧を左手の『妖精の剣』で受け流し、右手の『大地の剣』で四足竜の右前足を固い鱗ごと切断する。


 四足竜は悲鳴をあげ、転倒した。


 ズズゥン


 倒れてくる巨体をかわし、鞍から落下してきた竜国兵へと、僕は回転しながら右手の剣を振り下ろす。


 ヒュコン


 防ごうとした槍斧を2つにし、その奥の頭部を刎ね飛ばした。


 切断面から鮮血が噴く。


(よしっ!)


 絶命を確認し、すぐに僕は動く。


 止まってはいられない。


 周囲では、イルティミナさんの白い槍が、ソルティスの魔法が、ポーちゃんの光る拳が、王国兵たちの武器が、そこにいる竜国の兵士たちの命を奪っていた。


 人と人の殺し合い。


 でも、その嫌悪を感じる暇もない。


 なぜなら今も、ほら、新たな竜国兵が僕を殺そうとこちらに迫っているからだ。


「あ、あぁああっ!」


 僕は吠える。


 感情を忘れ、ただ闘争心だけで心を満たすために。


 そして、2つの剣を振るう。


 覚えた剣技を駆使して。


 必死に。


 懸命に。


 ただただ、目の前の竜人たちの命を奪うために。


 ヒュッ ガッ キィン ガリィイン


 剣戟の音が弾け、無数の火花が散り、それらを覆い尽くすようにたくさんの血が吹き荒れ、僕の身体と大地を染めていった。


 殺して、殺して。


 更に殺し続けて、やがて、それに麻痺していく。


 でも、そばで戦っているイルティミナさん、キルトさん、ソルティス、ポーちゃんのことだけは忘れない。


「たあっ!」


 ヒュコン


 イルティミナさんの背後を狙う竜国兵を、僕の剣が斬り伏せた。


 同時に、別の竜国兵の槍斧が、


 ザシュッ


(っ)


 僕の右足に深手を負わせる。


 すると、すかさず『竜骨杖』を光らせたソルティスの回復魔法がそれを治してくれる。


 そんな彼女を狙う奴らは、キルトさんとポーちゃんが防いだ。


 その間に、僕を傷つけた竜国兵は、イルティミナさんの『白翼の槍』によって四肢をバラバラに切断され、地面にばら撒かれてしまった。


 互いを助け、そして助けられる。


 力を合わせて、竜国の兵士たちを倒していった。


 …………。


 どれくらい殺したのか?


 気がついたら、竜国の兵士たちが近くからいなくなっていた。


 上空にいた2体の竜は、更に北側の大地に向かって炎を吐いている――もしかして、竜国軍が後ろに引いたのか?


「ふぅ、ふぅ」


 血と汗と泥に塗れながら、僕は必死に呼吸を整える。


 キルトさんは豊かな銀髪をひるがえして、後方に下がっていく竜国軍を黄金の瞳を細めて睨みつけた。


 そして、言う。


「波状攻撃か」


(え?)


「簡単にこちらを食い破れぬと知って、次の部隊を用意しておるようじゃ。間を置かず、次が来るぞ」

「…………」


 その言葉が、疲労を感じる心と身体に重く圧し掛かる。


 けど、仕方ない。


 向こうは10万の軍勢なんだ。


 こちらが不利なのは最初からわかっていたこと。


 そして、それを打破するためには、命懸けでやるしかないと覚悟していたことだ。


 キルトさんは周囲に叫ぶ。


「わらわたちも引くぞ! 移動しながら呼吸を整えよ! 仲間を守るシュムリアの誇り高き盾となり、次の竜国の襲撃も必ず弾き返してみせるのじゃ!」


 熱い声だ。


 戦意が鼓舞され、


『おぉおおおおっ!』


 王国兵たちも心を燃やしながら、叫ぶように応えた。


 僕も、


「おおおっ!」


 と叫んだ。


 イルティミナさん、ソルティス、ポーちゃんも叫んでいた。


 …………。


 そうして僕らは、先に行かせた王国軍本隊を追いかけるように、南への移動を開始する。


 身体は重い。


 でも、心は熱いままだ。


 ふと、隣を歩くイルティミナさんの横顔を見た。


 彼女もこちらを見る。


 彼女の白い美貌には、竜人たちの返り血が散っていた。


 でも、美しい。


 竜人の死を呼ぶ恐ろしい魔狩人は、けれど、愛する夫である僕には優しい微笑みを見せてくれていた。


「…………」

「…………」


 僕も微笑んだ。


 こんな時だけど、手を繋ぐ。


 いつものように。


 そうして、周囲の人たちと共に歩き続ける。


 …………。


 …………。


 …………。


 それから程なくして、竜国軍の第2波が王国軍の殿である僕らを襲い、僕らは再び命を賭した激戦に身を投じることになった。

ご覧いただき、ありがとうございました。


※次回更新は、来週の月曜日を予定しています。どうぞ、よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様ですヽ(´▽`)/ 竜国軍は波状攻撃で来ましたか。 悪い作戦では無いのですが、戦力の消耗が前提の逐次投入よりも圧倒的な物量で攻め落とす方が結果的に被害が少ない気もするのですが………
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