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600・竜国の誤算

本日の更新にて、ついに600話目となりました!


皆さん、これまで読んで下さって本当にありがとうございます! どうか、これからもマール達の物語を楽しんで頂けましたら幸いです♪


それでは、第600話です。

よろしくお願いします。

 ベイルナアドの街を出発してから、1ヶ月が経った。


 あれから僕らは、3つの街を経由して北上し、現在、4つ目の街――『第5の拠点都市』に辿り着いていた。


 すでに第1~3の拠点都市は放棄。


 今後、この街で『転移魔法陣』と『対竜国用の魔法装置』が完成すれば、『第4の拠点都市』も放棄する予定となっている。


 理由は、防衛戦力が足りないから。


 5つの都市全てを防衛できるだけの兵員は、さすがに遠征軍だけで用意はできない。


 なので、重要拠点のみの防衛に注力しているのだ。


 まぁ、物資の輸送や退路は『転移魔法陣』があれば大丈夫だからこその戦略だよね。


 そんな訳で、現在、転移してきたコロンチュードさんが急ピッチで『転移魔法陣』と『対竜国用の魔法装置』の作成に取り掛かってくれているんだ。


 …………。


 それにしても、


「ずいぶん順調に来ちゃったね」


 この街の宿屋の客室――その窓から外を眺めて、僕は呟いた。


 部屋の中で思い思いに休んでいたみんなが、その声に気づいて、僕のことを見る。


 ソルティスが頷いた。


「そうね~。正直、途中で竜国軍の襲撃があると思ってたけど、結局、1回もなかったわね」

「うん」


 ちょっと肩透かしだ。


 ここまでの道中、本当に何もなかった。


 これまで訪れた4つの都市も、ベイルナアドの街と同じく無人で、生存者も竜国軍も発見できなかったんだ。


 僕らは、ただ移動を続けただけだった。


 イルティミナさんは、みんなの分の紅茶を淹れながら、キルトさんを見る。


「どういうことでしょうね?」

「ふむ」


 話を振られて、銀髪の美女は考え込む。


 そして、こう答えた。


「いくつか理由があるとは思うが、1番の理由は、竜国軍にとって最も良い状況で戦いたいという戦略的なものではないかの」


(……竜国軍にとって最も良い状況?)


 キルトさんは、イルティミナさんに渡された紅茶のカップを「ありがとうの」と受け取る。


 それを一口。


 それから吐息をこぼして、


「ここは獣国アルファンダルの領土じゃ。少なくとも、ついこの間までの。つまり、グノーバリス竜国にとっては慣れぬ土地なのじゃ」

「…………」


 なるほど。


 戦場を知るというのは、とても大事なことだ。


 魔狩人として魔物と戦う時も、そこがどんな場所で、どういった地形になっているかは調べるし、それが生死を分けることもある。


 それを考えると、今の状況は……?


「それって……王国軍が、竜国軍にとって有利な場所まで誘い込まれてるってこと?」

「じゃの」


 キルトさんはあっさり認めた。


 僕らは沈黙する。


 例えそれがわかっても『行かない』なんて選択肢もなかった。


 キルトさんは言う。


「本来なら戦争とは、他国の領土を求めて行うものじゃ。しかし、グノーバリス竜国の目的は違った。その目的は、破壊と混乱をもたらすこと。ゆえに侵略し、占領した獣国アルファンダルの領土にも固執しておらぬ」

「…………」


 普通なら、奪った領土を守るために戦う。


 でも、グノーバリス竜国の……あの竜王の目的は、世界に戦火を広げ、破滅を広げることだ。


 それは竜国の支配下にあった獣国軍が、エルフの国を蹂躙しても、その統治は行わず、ただただ戦争をし続けたことからも明白だった。


 そして、その獣国軍さえ使い捨ての駒だったのだ。


 今回も、手に入れた獣国の領土を捨てても、僕らを確実に倒そうとしているのだろう。


(…………)


 それが、グノーバリス竜国のやり方だ。


 僕は吐息をこぼす。


 この先には、確実に恐ろしい困難が待ち受けている――それを思うだけで憂鬱だった。


「マール」

「……あ」


 その時、僕の前に紅茶のカップを差し出された。


 見上げれば、そこに優しく微笑むイルティミナさんの美貌があった。


「あ、ありがと」


 お礼を言って、カップを受け取る。


 それを一口。


(……ん、美味しい)


 その香りと渋み、かすかな甘さに少し心が落ち着いた。


 イルティミナさんは、ソルティス、ポーちゃんにも紅茶のカップを渡していて、それを飲んだ2人も表情が少し和らいでいた。


 キルトさんも微笑む。


 彼女も、自分の紅茶を口に運び、


「……まぁ、そうじゃな。1つ前向きな考え方をするならば、わらわたちは、竜国にそういう手段を取らせるまで追い込んだ――とも言えるの」


 と口にした。



 ◇◇◇◇◇◇◇



「……どういうこと?」


 僕はキョトンと彼女を見つめた。


 キルトさんは言う。


「恐らくじゃが、竜国は、自分たちの始めた軍事行動に対して、ここまで早く対応されると思っておらなかったのじゃろう」

「…………」


 えっと……?


 より詳しい説明を求めると、彼女は教えてくれた。


 そもそもグノーバリス竜国は、自分たちが戦争を始めたことを隠そうとしていたのではないか、というのだ。


 獣国アルファンダルが、エルフの国を攻めた。


 僕らにとっては、これが始まりだった。


 そして、もし僕らが竜国に『魔の気配』があるという情報を知らなければ、僕らがこの戦争の裏に竜国の存在があると気づかなかった可能性が高いのだ。


(あ……)


 言われて気づいた。


 つまり、グノーバリス竜国は、獣国アルファンダルを隠れ蓑にしてたんだ。


 全ては獣国アルファンダルが勝手に始めたこと。


 自分たちの存在は気づかせずに、獣国に全ての責任を押しつけ、裏で操りながら、ドル大陸中に戦火を広げようとしていたんだ。


 皆の対応は、獣国のみに集中する。


 その間に、グノーバリス竜国は更なる手を積み重ね、より状況を悪化させることもできたかもしれない。


「じゃが、奴らには誤算があった」


 キルトさんは、僕を見る。


「それは、マールの存在じゃ」

「…………」

「ラプトとレクトアリスの警告に気づき、マールは、グノーバリス竜国の脅威を世界中の誰よりも早く察知したのじゃ」


 その事実を、僕は皆に伝えた。


 それによって、シュムリア、アルン両国は事前に備えることができたのだという。


 結果、エルフの国が亡びる前に、シュムリア王国は援軍を送れた。


 グノーバリス竜国の尖兵として、ドル大陸中を蹂躙するはずだった20万の獣国軍は、1国も亡ぼせずに全滅してしまったのだ。


 これは、竜国にとっても驚きの結果だろう。


 なにせ竜国は、獣国軍に『獣国の武具』という奥の手の『魔法技術』まで提供していたのだから。


 キルトさんは笑った。


「竜国の思惑通りに進んでいれば、状況はもっと悪化していたじゃろう。それを打ち砕いたのは、そなたなのじゃぞ、マール?」

「…………」


 気づけば、みんな、僕を見ていた。


 ……な、なんか、むず痒い。


 イルティミナさんが「ふふっ」と笑い、僕の髪を白い指で撫でてくる。


「さすが、私のマールですね」


 なんて言う。


 ソルティスは肩を竦め、ポーちゃんは『うんうん』と頷いている。


 キルトさんも頷いて、


「竜国にとっても、これほど早く自分たちの存在が知られ、逆に攻め込まれる状況は想定外じゃったはずじゃ。ゆえに奴らも、こうした戦法を取るしかなかったと言える」


(……そっか)


 僕らにとって、未知の魔法技術を持った竜国軍は脅威だ。


 だけど、グノーバリス竜国にとっても、自分たちの想定を超えてくる僕らの存在は脅威だったんだ。


 そう考えたら、少しだけ心が晴れた気がする。


 ポンポン


 キルトさんの手が、僕の頭を何度か軽く叩いた。


「ま、そういうことじゃ。不安はあろうが、わらわたちは、わらわたちの成すべきことを成していくぞ」

「うん」


 僕は大きく頷いた。


 どんな状況でも、僕らにはそれしかできない。


 そして、きっとそれが最善なのだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 3日後には『対竜国用の魔法装置』も完成して、その翌日、僕らは『第5の拠点都市』を出発した。


 王国軍3万と共に、街道を進む。


「…………」


 周囲には、草原が広がっていた。


 森は遠く、視界は開けていて、竜国軍の姿はやはりどこにも見られない。


 僕らの上空には、シュムリア王国最強の竜騎隊の竜が2体飛んでいて、接近するものがないかも確認してくれていた。


 ヒュウウ……


 草原を渡った風が吹き抜ける。


(……少し冷たいね)


 だいぶ北上したからか、肌に染みるような寒さを感じた。


 口元に手を当て、指先を温めるように息を吐く。


 次の拠点とする都市は、この獣国アルファンダルの首都であった『アル・ファンドリア』という都市の予定なんだ。


 情報によれば、30万人ぐらいの暮らす都市だったという。


 シュムリア王国の王都ムーリアと同規模だ。


 だけど、


(……そこでは、石化した獣国民が発見されているんだよね?)


 その事実が心に痛い。


 何より、そうした人たちの石化を解除しても、助かるであろう人は1パーセントもないと言われているんだ。


 正直、その街に行くのが少し怖い。


 でも、行かない訳にはいかない。


 助けられる命があるなら、少しでも助けたいという気持ちも本当だから。


「マール?」


 表情に出ていたのか、隣を歩くイルティミナさんに声をかけられた。


 僕は「ううん」と笑って誤魔化した。


 僕の奥さんは、少し不思議そうにこちらを見つめたけれど、何も聞かないでくれた。


 代わりに、


「そういえば、アル・ファンドリアは、かなり竜国との国境に近い位置にあるそうですね」


 と口にした。


 うん、実はそうなんだ。


 獣国アルファンダルの首都は、国土の中でかなり北寄りの位置にあって、グノーバリス竜国まで10日ほどの距離だったりする。


 もう目と鼻の先と言っていい。


 キルトさん曰く、


「竜国軍の侵攻によって、獣国アルファンダルがあっという間に陥落し、支配下に落ちたのも、この首都の位置が影響したのかもしれぬな」


 とのこと。


 まぁ、竜国を警戒していても、30万人の暮らす都市を簡単に移転なんてできないからね。


 これは難しい問題だ。


 イルティミナさんは言う。


「アル・ファンドリアを拠点としたら、私たちは、次はそのまま竜国内に侵攻するそうです」

「…………」

「がんばらねばなりませんね」

「うん」


 僕は頷いた。


 決戦の時は近づいている。


 僕らはまだ、グノーバリス竜国軍と直接、戦ったことはない。


 その強さもわからない。


 けど、それを知るのも遠い未来ではないはずだ。


(…………)


 静かに、深く覚悟を決める。


 腰に提げた剣の柄に、軽く手を当てて、空を見ながらゆっくりと息を吐いた。


 ホウ……ッ


 息がかすかに白く煙った。


 空気の冷たさは、静かに増しているようだ。


 キルトさん、ソルティス、ポーちゃん、そしてイルティミナさんも、僕の息を吐いた空を見上げていた。


 僕は、みんなと共に街道を歩いていく。


 …………。


 やがて6日後。


 僕らと王国軍3万は、獣国アルファンダルの首都アル・ファンドリアに到着した。

ご覧いただき、ありがとうございました。


※次回更新は、来週の月曜日を予定しています。どうぞ、よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です& 第600話達成おめでとうございますヽ(´▽`)/ 確かに竜国にとって他国侵攻看破を早い段階で看破されるのは想定外だったのでしょう。 そう考えるとマールとその枕元に立って…
[良い点] 600話おめでとうございます! 1000話まで行きましょう! [一言] 個人的に闇の子編が終わって以来、一番盛り上がっています。 竜王との戦いや、リマはマールたちの養子になるのかなあなどと…
2023/02/03 00:52 退会済み
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