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【書籍化&コミカライズ!】少年マールの転生冒険記 ~優しいお姉さん冒険者が、僕を守ってくれます!~  作者: 月ノ宮マクラ


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591・行軍

本日24時から、W杯の決勝戦があるのを忘れておりました。


更新時間が重なってしまうので、皆さんがゆっくりサッカー観戦できるように(もちろん作者もですが)、今回に限り、1時間ほど前倒しで更新させて頂きました。


4年に1度の祭典のクライマックス、ぜひ、みんなで楽しみましょうね♪



それでは本日の更新、第591話になります。

よろしくお願いします。

 3万人のシュムリア王国騎士が獣国アルファンダルの草原を踏みしめ、進軍していった。


 その足音は地響きとなり、大地を震わせる。


 舞い上がる土煙。


 その集団の中には、僕、イルティミナさん、キルトさん、ソルティス、ポーちゃんの5人も含まれていた。


「…………」


 ふと周囲を見る。


 国境を越えても、突然、自然の植生が変わる訳でもなく、見える景色は、エルフの国の風景とそう変わることもなかった。


 瞳を細め、頭上を見る。


 そこには青い空を背景にして、シュムリア竜騎隊の竜たちが、3つの黒い影となって飛んでいるのも確認できた。


 レイドルさん、アミューケルさん、シュナイダルさんだ。


 彼らは空の目となって、王国軍の進軍をサポートしてくれることになっていた。


 …………。


 今の所、平和だ。


 国境を越えた途端、グノーバリス竜国軍の攻撃があるかとも考えていたけど、そういった事態もない。


 もちろん、油断はできないけど、


(……少し拍子抜けかな?)


 僕らの進軍で、何かしら竜国が反応すると思っていたから。


 そうして、3万人の行軍は続く。


 山間の平野を進み、途中、山林に生息する魔物と戦闘もあったけど、王国騎士たちはそれをあっさり撃退した。


 僕らの出番はなかった。


 というか、武器も抜かなかった。


 さすが、武の国シュムリアの騎士さんたちだ。みんな、強い。


 その戦闘のあと、キルトさんから、


「今回は出番がなかったが、この先、もしも大規模な戦闘が起きた時には、わらわたちは遊撃隊となる。その際、無理に王国騎士たちと連携して戦おうとしてはならぬ。これは絶対に、じゃ」


 と、かなり強い口調で指示された。


 理由を聞くと、


「そなたは、3万人の王国騎士がどう動き、どう連携し、どう戦うかを知っておるのか?」


 と、逆に聞かれてしまった。


 もちろん、騎士でもない僕は、それを知らない。


「だからじゃ」


 キルトさんは頷いた。


「集団戦においては、その連携こそが重要じゃ。それを知らぬわらわたちは、ただの足手まといになる。ゆえにわらわたちは、共に戦ってはならぬのじゃ」


 共に戦うことは、逆に騎士団を危険に晒す行為。


 それゆえの指示だった。


 そして、僕らは冒険者。


 少人数での独立した戦いの方が、より力を発揮できる。


 だからこその遊撃隊だ。


 キルトさんは、


「戦う時は『魔狩人』としての知識と経験を生かして、『魔狩人』らしく敵を狩ろうではないか?」


 そう獰猛な笑みを浮かべた。


 騎士ではなく、魔狩人としての自信と自負に満ちた声だ。


(うん)


 その誇りを胸に、僕らも笑った。


 やがて、西の山脈に太陽がかかり、その日の行軍はそこまでとなった。


 山脈の間の平野で、僕らは野営を行った。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 無数の篝火が、まるで昼間のように周囲を明るく照らしている。


 3万の人間が集まった野営だ。


 とても賑やかで、まるで夜になっても人の集まる王都ムーリアの大通りみたいだった。


 そんな篝火の1つ。


 それに照らされる幕舎の近くで、僕ら5人は集まって、配給された夕食を食べながら話をしていた。


「今日は何もなかったね」


 モグモグ


 千切ったパンをスープに浸して、僕はそれを口に運ぶ。


 僕の言葉に、イルティミナさんは頷いた。


「そうですね。竜国軍が何かしらの行動を起こすかとも思ったのですが、思った以上に平和でしたね」

「何よ、いいことじゃない」


 彼女の妹は、そう肩を竦める。


「別に、無理に戦いたい訳じゃないんだから。何もないなら、それが一番よ」


 アグ ムグモグ ゴックン


 そう言って、ソルティスは焼いた肉のスライスを3枚まとめて咀嚼し、嚥下した。


 隣でポーちゃんは、さりげなくお茶を用意してあげている。


 キルトさんも、


「まぁの」


 と頷いた。


「目標とした街には、明後日には到着の予定じゃ。何事もなく着けるのならば、それに越したこともあるまい」


 そう木製コップを煽る。


 ちなみに、中身はただのお茶だ。


 お酒好きの彼女には、少々、物足りない飲み物かもしれない。


(まぁ、確かにね)


 僕も、ソルティス、キルトさんの発言を認める。


 でも、このまま黙って、拠点とする街まで行くことをグノーバリス竜国は許してくれるのかな?


 そこが不安だった。


 もっと言うと、


「竜国が『魔法兵器』を使ってきたり、しないかな?」


 僕は心の内を呟いた。


 獣国民を石化させた古代の兵器、模倣品らしいとはいえ、その脅威は変わらない。


 一瞬、場に沈黙が落ちた。


 パチパチ


 篝火の火の粉が舞い、王国騎士たちの喧騒だけが聞こえてくる。


 やがて、ソルティスが言った。


「何よ、そのためにコロンチュード様が対抗装置を作ってくれたんでしょ? それを信じてないの?」


 いや、信じてるよ。


 信じてるけど、


「でも、完全には防げないんだよね?」

「……そりゃあね」


 ソルティスは渋々同意した。


 僕は呟く。


「その場合、どれくらいの被害になるんだろうって思ってさ。そうして王国軍がダメージを受けた時に、竜国軍が襲ってくる可能性もあるんだし」


 その辺が不安だった。


 そんな僕を、ソルティスは唇を尖らせながら睨む。


「何よ? 言っとくけど、完全じゃなくても防げるだけで凄いのよ?」


 と言った。


 いや、それはわかってるつもりだけど……。


「い~や、わかってないわ」


 ズイッ


 ソルティスがこちらに身を乗り出した。


 据わった目で僕を見ながら、


「いい? コロンチュード様の対抗装置って、本当に凄い技術で作られてんのよ?」


 と語りだした。


 そも『魔法』というものは、魔の法則をこの世界の法則に割り込ませ、有り得ぬ現象を生み出させる行為だ。


 そこには、世界の歪みが生まれる。


 普通はわからない、その歪み。


「それを、コロンチュード様は、本当に微細な初期の初期に起きる歪みさえ計測して、その対抗魔素をぶつける装置を作ったの」


 火の魔法を、水の魔法で消すように。


 風の魔法を、土の魔法で防ぐように。


 魔力だけの魔法を、魔力だけの魔法で弾くように。


 対抗する属性で、魔法の威力は大きく減衰する。


 それは、個人であれ、兵器であれ、規模は違っても、魔法の原理としては同じことだった。


「問題は、その速さよ」


 歪みの計測、対抗属性の把握、その魔素の発動。


 コロンチュード・レスタの作った対抗装置は、その全てを1秒以内に行えてしまう代物なのだそうだ。


(……1秒以内?)


 それを聞いて、僕は呆けた。


 イルティミナさん、キルトさんも驚いた顔だ。


 だって、魔法を使うには、必ず溜め(・・)がいるんだ。


 最低でも10秒以上。


 発動の速い『タナトス魔法武具』でも、数秒が必要だ。


 でも、コロンチュードさんの装置は、歪みから予測される魔法の発動地点を、1秒以内に対抗魔素で埋め尽くして、威力を大きく減衰させられるのだ。


 たったの1秒。


「これがどれだけ凄いか、わかる?」


 ソルティスは、そう睨む。


 詳しい原理はわからないけど、時間と転移の魔法も使った超技術の結果らしい。


 世界初の魔法理論の実現なのだとか。


 ……うん。


 僕は、ちょっと高望みをし過ぎてしまったのかもしれない。


「ごめん。僕が馬鹿だった」


 素直に謝った。


 ソルティスは「フン」と鼻息荒く、腕組みする。


「ま、わかればいいのよ、わかれば」


 そう許してくれた。


 義母の発明を理解し、それを賞賛してくれた相棒の肩を、ポーちゃんの手が『ありがとう』というように優しく触れた。


 逆に僕の奥さんは、慰めるように僕の髪を撫でてくれる。


 ……うぅ、その優しさが沁みる。


 そんな僕ら4人を、キルトさんは苦笑しながら眺めた。


 そして、


「まぁ、マールの懸念は間違っておらぬと思うがの」


 と言った。


 ソルティスが「むっ?」とキルトさんを睨む。


(キルトさん?)


 僕とイルティミナさんも驚いて彼女を見つめた。


 銀髪の美女は、木製カップの水面を見つめる。


「コロンには感謝をしておる。しかし、その装置を使っても尚、わらわたちは圧倒的に不利なのじゃ」


 淡々とした声。


 けど、それは真実を語る静けさであった。


「仮に、竜国の魔法兵器を完全に防いだとしても、こちらは3万、しかし、竜国軍は数十万の軍勢を持っておるじゃろう。戦闘になれば、勝てる兵数差ではない」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」


 その内容の重さに、鼓動が早くなる。


 確かに、僕らは遠征軍。


 精神的負担も大きいし、逆にグノーバリス竜国は、自国の近くであり、その全軍を動員できる状況だ。


 向こうがその気なら、


(僕らは、簡単に壊滅させられる……?)


 そう気づいた。


 ソルティスも青い顔だ。


 イルティミナさんもその美貌を曇らせて、


「その現状を、ロベルト将軍もわかっているのですか?」

「当然であろう」


 キルトさんは頷いた。


 それから、その黄金の瞳は、野営で食事をしている王国騎士たちを眺めた。


 そして、僕らを再び見て、


「要するに、わらわたちは斥候なのじゃ」


 と言った。


 斥候……?


「わらわたちは、竜国と戦うために進軍しているのではない。彼の国の力と目的を知るため、情報を得るために、死を覚悟して竜国に近づき、反応を窺っておるのじゃ」


 僕は目を丸くする。


 そのために、3万人も動員するの?


 キルトさんは頷いた。


「そうじゃ。それだけの規模となる……それが国同士の戦争なのじゃ」

「…………」


 僕は、言葉もなかった。


 ソルティスも呆然としていた。


 ポーちゃんは、そんな少女の背中に手を当てている。


 イルティミナさんは少し考え、


「もしや最終的には、ヴェガ国に駐留させる20万のアルン神皇国軍も動員して、ドル大陸の他国も巻き込み、連合軍としてグノーバリス竜国と対峙するつもりですか?」


 と言った。


(えっ?)


 僕は驚いた。


 けど、キルトさんは頷いた。


「うむ。竜国に関して、シュムリア、アルン上層部は、転移魔法陣を使って話し合いを続けての。確定ではないが、そういう筋立てをしているという話じゃ」

「…………」


 まさか、そんな話が……。


 つまり、この3万の王国軍の進軍は、その最終的な形を作るための前準備なんだ。


 ゾクゾク


 いったい、いつからその形を見越して両国は動いていたのか。


 背筋が震えるよ。


(きっと、レクリア王女も1枚、噛んでいるんだろうな……)


 国を動かす人たちは、本当に先を見ながら行動をしているんだと恐ろしくなった。


 そんな僕らを、キルトさんは見回す。


「だからの。コロンの装置に感謝はしておるが、それでも、この進軍は危険なものなのじゃ。そのことを、そなたらも肝に銘じておけ」


(……うん)


 僕は頷く。


 他のみんなもキルトさんを見て、頷いた。


 ロベルト将軍も、王国騎士たちも、きっと多くの覚悟を持って、この行軍に参加していたのだろう。


 銀髪を揺らし、キルトさんは夜空を見る。


「この先、何があるかはわからぬ。――しかし、何があっても、皆で生き延びるぞ」


 重く、静かにそう告げた。


 パチッ パチチ……ッ


 篝火の薪が弾ける。


 生まれた火の粉は、僕らの見上げる夜空へと舞い、そのまま儚く消えていった。

ご覧いただき、ありがとうございました。



※次回更新は、今週の金曜日を予定しています。また次回(23日)の更新が、本年最後の更新となります。どうぞ、よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 1時間、更新を前倒しして頂いてありがとうございました。 ワールドカップ決勝の前にマールを楽しめました♪ [一言] 物語を読んで少し緊張した楽しい気持ちが終わると、緊迫感満載の試合が始まって…
2022/12/19 17:34 退会済み
管理
[良い点] 更新お疲れ様ですヽ(´▽`)/ 平和な道中に野営。 消耗しないに越した事はないので上々ですね。 それに竜国の『魔法兵器』に関しては、それこそ気にしても何も出来ないので心構えをしておく程度で…
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