586・増援と帰国
第586話になります。
よろしくお願いします。
僕らとの話が終わると、ティターニアリス女王は長い眠りについた。
彼女の座していた満開の花は、ゆっくりと花弁を閉じていき、その中心にエルフの女王様を包みながら淡い桃色の蕾となったのだ。
広間に静寂が満ちる。
コロンチュードさんとアービタニアさん、2人の大長老は、頭を下げてそれを見届けた。
その後ろで、僕らもその様子を見守っていた。
「…………」
僕は手の中の『王配の錫杖』を見つめる。
ギュッ
ティターニアリス様の信頼の眼差しを思い出して、それを強く握り締めた。
と、
「……ふん。まさか、人間と交わり生きる神の子の手に、それが渡されようとはな」
そんな僕を見て、アービタニアさんが皮肉そうに言った。
僕は彼を見る。
人間嫌いの大長老は、静かに僕を見つめ返し、
「ティターニアリス様の下知だ。今後はお前の言葉に従おう。……だが、もしもエルフに害となる言霊を吐こうものなら、ワシは掟に背こうともその口を引き裂いてやるぞ」
そう脅すように言った。
僕は笑った。
「うん、その時はそうして」
「…………」
そんなの当り前だ。
むしろ、もし僕がエルフさんたちを傷つけるようなことをしようとしたのなら、遠慮なく全力で止めて欲しい。
そんな僕の笑顔に、アービタニアさんは虚を突かれた顔だ。
それから、「ちっ」と舌打ちする。
視線を外し、
「……これだから、貴様ような子供と話すのは嫌なのだっ」
そう吐き捨てるように言って、彼は謁見の間を出て行ってしまった。
……はて?
僕は、ポカンとその背を見送ってしまう。
キルトさんは肩を竦め、ソルティス、ポーちゃんは顔を見合わせている。
イルティミナさんは、
「私のマールにあのような暴言を吐くなんて……。マール、早速、その錫杖の権力を使って、あの者を処刑しませんか?」
なんて言う。
(あはは……)
イルティミナさんったら過激な冗談だなぁ。
僕はちょっと苦笑いしてしまった。
「マルマル」
そんな僕へと、コロンチュードさんが声をかけてきた。
ん?
「マルマルなら大丈夫って、私は信じてる。……だから、これからもエルフのために……申し訳ないけれど、その心を砕いてやってね」
そう言って、柔らかく微笑む。
…………。
信頼の目だ。
ティターニアリス様と同じ、大事な物に託すような眼差しを向けられて、
「うん、がんばる」
僕は大きく頷いた。
何ができるかはわからないけれど、できることだけでもがんばろうと思うんだ。
その返事に、コロンチュードさんは頷いた。
それから、チラッともう1人の大長老の去っていった方向を見て、
「……本当はアービタも、マルマルのこと、認めてると思うけどね。……でも、アイツは素直じゃないから」
と呟いた。
思わず、僕らもそちらを見てしまう。
(……そっか)
エルフ好きな僕の気持ちが、少しでも届いていたのだとしたら嬉しいな。
僕は、つい笑ってしまった。
そんな僕に、コロンチュードさんも優しく笑って、その細い手で僕の頭を撫でてくれたんだ。
◇◇◇◇◇◇◇
2日も経つと、エルフ軍、シュムリア王国軍の被害状況も明らかになった。
その日の夕食時、
「シュムリア王国軍の戦死者は、およそ3千人。エルフたちの戦死者は、7千人を越えたそうじゃ」
「…………」
個室で5人でいる時に、そうキルトさんに教えられた。
みんな、食事の手が止まってしまう。
合計1万人。
前世の日本とは違って『回復魔法』もあるこの世界では、手足を失うような大怪我でも一瞬で治せてしまう。それほど医療レベルが違うんだ。
その上での、この数字。
それは、この戦争がどれだけ激しかったかを物語っていた。
スープの入っている器に、木製のスプーンを置いて、僕は呟く。
「これから、どうなるんだろう?」
戦争は終わった。
でも、黒幕であるグノーバリス竜国の脅威は消えていないんだ。
皆の視線が、キルトさんに集まる。
「ふむ」
キルトさんは唸る。
「ロベルト将軍は、しばらくエルフの国にシュムリア王国軍を駐留させるつもりのようじゃ」
「そうなの?」
聞き返した僕に、彼女は「うむ」と頷いた。
話によれば、エルフの国と隣接している獣国アルファンダルは、すでにグノーバリス竜国の占領下にあるという。
次は、竜国軍が攻めてこないとも限らない。
そして、それに備えるためにもシュムリア王国軍は、このエルフ国に滞在し、それは2人の大長老も許可してくれているのだそうだ。
それから、
「獣国アルファンダルへと、偵察のため、シュムリア竜騎隊を派遣することも考えているらしいの」
とのこと。
竜国に占領されているのは本当なのか? 現地はどうなっているのか? それらを確認したいんだって。
(なるほどね)
確かに、その確認は必要かもしれない。
特に、獣国の民間人が、竜国軍の人質になっているって話もあったし……それが本当なら、なんとかしなきゃ。
イルティミナさんが呟く。
「しかし、いかに竜騎隊といえど、かなり危険な任務ではありませんか?」
言われて、ハッとした。
敵地への潜入。
いくら攻撃されにくい上空からの偵察とはいえ、相手はこちらの知らない魔法技術も持っているし、迎撃されないとは限らないんだ。
キルトさんは苦笑した。
「危険だからこそ、軍人が動くのであろうが」
国のため、民のため、自らの命を危険に晒しても任務を果たす――それが軍人のあるべき姿なのだと彼女は言う。
…………。
理屈はわかる。
でも、感情は素直に納得はしてくれない。
(アミューケルさんやラーナさんが危険な目に遭うなんて、やっぱり考えたくないよ)
ちょっと気分が沈む。
気づいたイルティミナさんが、
「……マール」
と心配そうに呟き、その心を温めようとするかのように僕の肩を抱きしめてくれた。
ソルティスは、そんな僕らを横目にして、
「んで? 私らは、今後どうしたらいいわけ?」
と、キルトさんに聞いた。
その間にポーちゃんは、ソルティスのお皿におかわりのスープをよそってあげたりしている。
キルトさんは肩を竦めた。
「どうもせぬ」
「え?」
「命令あるまで待機じゃ。とりあえずは、他のシュムリア兵と同じじゃな」
「…………」
そうなんだ?
(つまり、状況がわかるまで、あるいは変化があるまで、こちらからは動けないってことなんだね)
キルトさんの黄金の瞳が、僕らを見回す。
「恐らく今、シュムリア王国の上層部が会議を開いているじゃろう。その結果が出るまでは、わらわたちは何もできぬと思え」
「…………」
(それしかない、か)
色々な思いはあるけれど、僕らは頷いた。
それから僕らは、気分を変えるように、あえて明るく雑談をしたりしながら夕食を終えたんだ。
◇◇◇◇◇◇◇
戦争が終わって3日が経った。
砦前に広がっていた大地を埋め尽くすほどの戦死者の遺体は、今はどこにもなくなっていた。
エルフさんたちが大地の精霊の力で、地中深くに沈めたんだ。
(凄いよね)
20万人以上の遺体を沈めたのだから。
その凄まじい力を見て、シュムリア王国兵たちも驚いていたよ。
アービタニアさん曰く、
「死者は土に帰り、新たな生命の息吹として大地より甦る。それが、我らエルフの森における生命の輪廻だ」
と言っていた。
植物の精霊の力も作用したらしくて、焼け野原だった戦場跡には、なんともう緑の若葉が生え始めていたりする。
…………。
獣国軍の兵士たちは、故国の民を人質に戦わさせられていた。
そのために命を懸け、なのに彼らは愛する故国の土ではなく、遠い異国の土で眠りにつくことになってしまった。
それが、なんだか悲しい。
だけど、彼らは、罪なきエルフさんたちをたくさん殺してしまった――その罰なのかもしれないとも思えた。
「…………」
砦の屋上から、その景色を見つめる。
ポロッ
僕の青い瞳から、1粒だけ涙がこぼれた。
(どうか、安らかに……)
心の中で、そう祈る。
そばにいたイルティミナさんが、僕のそばに寄り添い、ソッと手を握ってくれた。
僕は、青い空を見上げる。
そして、竜国に潜む『魔の存在』を見つけたなら、必ず仇を討つとこの大地に誓ったんだ。
◇◇◇◇◇◇◇
その日の夜、エルフの国の大長老の1人、ベルエラさんが転移魔法陣を使って、エルフの国に戻ってきた。
もちろん、避難していた300人のエルフさんたちも一緒だ。
アービタニアさんやこの地の同胞たちと再会して、彼は涙ぐんでいた。
自分だけ安全な地にいたことが辛く、けれど、大長老としてエルフの血を絶やすわけにはいかないと、その責任感から逃れることもできず、本当に苦しかったのだろう。
その心境は、アービタニアさんもわかるみたいで、僕らへとは違って優しい態度でベルエラさんを迎えていた。
やがて、彼は僕らにも気づいた。
すぐにやって来て、
「エルフのために尽力してくださり、感謝します、神なる子よ」
ベルエラさんは僕の手を握り、深く頭を下げてきた。
(ううん)
僕は微笑みながら、彼の手を強く握り返した。
もう大丈夫。
この先だって、みんなと力を合わせて乗り越えていきましょう。
そんな気持ちを込めて。
イルティミナさんたちも優しく微笑み、ポーちゃんは一番年下に見えるのに、励ますようにベルエラさんの背中を小さな手でポンポンと叩いていた。
…………。
さて、ベルエラさんの帰還と同時に、実はシュムリア王家からの使者もやって来た。
王家の決定を伝えに来たんだ。
それによれば、やはりシュムリア王国軍4万7千人は、竜国の脅威に対するため、エルフ国に駐留しているようにとの命令が下された。
また増援として、3万のシュムリア兵も送られるそうだ。
そして、シュムリア竜騎隊の偵察も命令されていて、こちらももう2騎が追加で送られてくることが決まった。
(うわぁ……)
それを聞いて、王家の本気度が窺えた。
現在、シュムリア竜騎隊は7騎しかいないんだ。
その内の4騎が、エルフの国にやって来る。つまり、シュムリア王国の方が数が少ない状況だ。
(それだけ、竜国を警戒してるんだね)
正確には、その裏にいる『魔の存在』をかもしれない。
この決定には、キルトさん、イルティミナさんもシュムリア王国の本気度を感じて、かなり驚いていたよ。
そして、命令には続きがあって、
「2騎の竜騎隊、増援のシュムリア王国軍の到着と入れ替わりで、マール殿たちには一旦、シュムリア王国へと帰還してもらうことになった」
ロベルト将軍は、そう僕らに告げた。
って、
(えぇ、僕らだけ帰るの!?)
あまりに予想外だったので、僕は愕然としちゃったよ。
「シュムリア竜騎隊は、王国にとって虎の子の兵力だ。だが、それ以上に『神の子』であるマール殿、ポー殿の存在は、王国にとって、いや、世界にとって重要なのだ」
だから、安全な王国へと一時帰還させるとのこと。
今後、グノーバリス竜国の情報が集まり、また必要があれば動いて欲しい……というのが、シュムリア王家の意向らしい。
…………。
僕らはお互いの顔を見合わせた。
やがて、キルトさんがため息をこぼし、
「仕方あるまい」
そう了承の意を示した。
彼女が従うのであれば、僕らもそうするべきなんだろう。複雑な気持ちはあるけれど、それはグッと飲み込んだ。
きっと王国の人たちを信じるのも大切なことだ。
それから7日後、そんな僕らの眼前に、
ズズゥン
転移魔法陣を抜けて、2頭のシュムリア竜騎隊の竜たちが光の中から現れたんだ。
◇◇◇◇◇◇◇
「やぁ、マール君」
竜の背から飛び降りて、僕らの眼前に着地したのは黒髪の竜騎士だった。
兜を外した下に現れたのは、整った美貌。
キリリとした黄金の瞳に、僕の姿が映っている。
僕は笑った。
「お久しぶりです、レイドルさん」
その言葉に、彼も微笑みを返して、白い手袋に包まれた手で僕の手をギュッと握った。
彼の名前は、レイドル・クウォッカ。
王国最強のシュムリア竜騎隊を率いる若き隊長竜騎士だった。
(まさか、隊長自ら来るなんて……)
ちょっと驚いたよ。
彼はキルトさん、イルティミナさん、ソルティス、ポーちゃんとも握手をして挨拶を交わしていく。
そんなレイドルさんと一緒に来たのは、緑色の瞳と長髪をした青年だった。
こちらは初めて見る竜騎士さん。
「どうも、初めまして、神狗さん。ボクは、シュナイダル・ホーワインと言います。どうぞ、お見知りおきを」
柔らかく微笑む、シュナイダルさん。
チリッ
うなじの毛が逆立つ。
見た目は、柔らかく人当たりの良い青年だけれど、その内側に歴戦の猛者らしい『圧』があったんだ。
見た目に反して、凄い武人だ。
そう僕の感覚が訴える。
(さすが、王国最強部隊の竜騎士……伊達じゃないね)
そんな僕の反応に気づいたのか、シュナイダルさんは「ふふっ」と穏やかに微笑んだ。
それからレイドルさん、シュナイダルさんは、先行してきていたアミューケルさん、ラーナさんとも再会して、親しげな会話を交わしていた。
王国最強の7人の騎士。
その内の4人がここにいる。
(う~ん、凄い光景だ)
なんだか、思わず見入ってしまったよ。
ふと、僕ら5人とあの4人が戦ったら、どっちが勝つんだろう? なんて思って、つい想像してしまった。
「…………」
負ける気もしないけど、勝てる気もしない。
勝てるビジョンが見えてこない。
少なくとも、あの4人の竜騎士には、更に4体の竜も味方にいるのだから。
(……なるほど)
エルフの国に僕らがいなくても、あの竜騎士4人がいれば大丈夫って、シュムリア王国の上層部も判断する訳だよ。
僕は、ちょっと遠い目だ。
「? どうしました、マール?」
隣のイルティミナさんが聞いてくる。
僕は「ううん」と首を振って、
「何でもないんだ。……ただ世界は広いなぁって思ってさ」
そう苦笑した。
イルティミナさんは綺麗な長い髪を揺らして首をかしげ、少し不思議そうだったけれど、
「そうですか」
と優しく微笑んでくれた。
それから、ロベルト将軍、コロンチュードさん、アービタニアさん、ベルエラさんも合流して、彼らによって作戦会議室での話し合いが行われた。
僕ら5人の中からは、キルトさんだけが参加した。
その間、僕らは帰還の準備を行っていた。
「…………」
準備が終わり、転移魔法陣の近くの廊下で4人で待機する。
待っている間、僕らの前の廊下を、何人ものエルフさん、シュムリア王国兵が通り過ぎていった。
(……うん)
その様子を見ていて、思った。
ちょっと打ち解けている。
共に戦場で戦ったからか、エルフさんとシュムリア王国兵の間でやり取りが行われたりする時に、意外と距離感の近い人たちもいたんだ。
全員がそうじゃないけど、でも、それなりの人数がそうだった。
エルフ側には、人間を許していない人も多そうだ。
だけど、シュムリア王国側にはエルフに悪感情を持っている人は少なそうで、それを受けた年上のエルフさんたちが大人の対応をしている感じでもあった。
最初はこれでもいい。
(でも、ここから少しずつ仲良くなっていってくれればいいな)
そう願ってしまう。
やがて、キルトさんが戻ってきた。
「待たせたの」
そう言った銀髪の美女の後ろには、会議に参加した人たち全員が集まっていた。
今後について、最初の話し合いは終わったらしい。
詳しい話はこれから詰めるそうで、今は、シュムリア王国へと帰還する僕らの見送りに、みんなでやって来てくれたみたいなんだ。
(なんか嬉しいな)
そんな僕の様子に、アービタニアさんは「ふん」と鼻を鳴らしてそっぽを向き、ベルエラさんが苦笑しながら彼を窘めていた。
そんな2人を置いて、コロンチュードさんが前に出る。
「……マルマル、みんな、今回はエルフのために色々とありがとね」
と微笑んだ。
僕らは『ううん』と首を振って笑う。
すると、ポーちゃんが義母に近づいて、ギュッと抱きついた。
「義母のために拳を振るうのは、何の問題もない。だから、必要な時はいつでも呼んで欲しい、とポーは言う」
(……ポーちゃん)
僕はそんな幼女の背中を驚きながら見つめ、ソルティスは「そうですよ、コロンチュード様! いつでも呼んでくださいね!」と意気込んで言っていた。
2人の言葉に、コロンチュードさんは嬉しそうだ。
彼女はシュムリア王国の『金印の冒険者』だけど、エルフの国のため、もう少しこの地に残るようだ。
例の『魔力発生装置』の図面も彼女に渡してあり、その解析と対策もしてくれている。
近い内に、その報告もしてもらえるだろう。
そうしてコロンチュードさんが下がると、今度はロベルト将軍がやって来た。
「君たちには、いつも世話になっているな。今回の戦争でもそうだ。そして、その活躍によって我々はいつも救われている。だから、これからも期待させてもらうぞ?」
そう笑った。
僕らも笑い、キルトさんも笑顔で頷いた。
「それはお互い様じゃな。――また次の戦場で会おうぞ、ロベルト将軍」
「あぁ」
ガシッ
2人の英傑は、互いに握手を交わした。
そうして次は、竜騎隊の面々が僕らの前にやって来て、1人1人挨拶してくれる。
そして、アミューケルさんが僕の前に来た。
「今回もお疲れっしたね、マール殿。ま、しばらくはゆっくり休んでるっす」
そう言いながら、手を差し出してくる。
僕はその手を握った。
「ありがとう、アミューケルさん。どうか偵察任務、気をつけてくださいね。無茶とかしたら駄目ですよ?」
「……マール殿が、それ言うっすか?」
心配する僕に、彼女は呆れ顔だ。
え?
キョトンとなる僕に、イルティミナさんが苦笑する。
白い手が僕の頭を撫でて、
「私たちから見たら、マールの方がよっぽど無茶ばかりしているように思えます」
「っすね」
アミューケルさんも『うんうん』と頷いている。
「…………」
そ、そうかなぁ?
困ってしまう僕に、2人のお姉さんは顔を見合わせ、そして可笑しそうに笑っていた。
それから、レイドルさん、ラーナさん、シュナイダルさんとも挨拶する。
それが終わったら、僕らは転移魔法陣のある部屋へと入っていった。
…………。
美しい魔法の陣が描かれた床に足を踏み入れ、その中央へと向かう。
顔をあげ、振り向く。
そこには、共に戦った人たちがいて、これから戦いに行く人たちがいて、僕ら5人を見送ってくれていた。
「またね!」
思わず、僕は言った。
それに向こうは、笑って大きく頷いてくれた。
ゴゴン
その姿は、閉められた扉の向こうに消えていく。
「さて、帰るとするかの」
キルトさんが言った。
イルティミナさんが「はい」と頷き、ソルティスは長い紫色の髪を手でかいて「はぁ、疲れたわぁ」とぼやき、その肩をポーちゃんがポンポンと軽く叩いている。
僕は目を閉じた。
一時的な帰還、でも、また必ず戻ってくる。
(――その時には、きっと)
見えざる『魔の存在』を見据えるように、青い瞳を開いた。
「マール」
そんな僕の肩に、イルティミナさんの白い手が触れた。
振り返れば、微笑む彼女の美貌がある。
「今は帰りましょう、私たちの王国へ」
「うん」
僕は頷いた。
ソルティスが「じゃ、行くわよ?」と言って、手にした『竜骨杖』で魔力を放ち、『転移魔法陣』を作動させた。
ヴォオオン
足元の魔法陣が光り輝く。
青白い光が、僕らの姿を下から強く照らしている。
(……ん)
次の瞬間、僕ら5人の姿を魔法の光が包み込み、視界の全てが輝く光に染まった。
…………。
エルフの国を襲った災禍。
その獣国アルファンダルとの戦争は終わりを告げて、その夜、僕と僕の大切な仲間たちはシュムリア王国へと帰還を果たしたのだった。
ご覧いただき、ありがとうございました。
更新時点では、まだW杯の日本・スペイン戦の結果が出ておりません。
今は期待と不安でいっぱいです(ドキドキ)。
正直、厳しい戦いになるとは思いますが、日本代表の皆さんは全力で戦ってくれることでしょう。自分も、最後まで全力で応援したいと思います!
がんばれ、ニッポン!
※追記!(AM6:01) ニッポン、やったぁあああああああああああああ!(感涙)
※次回更新は、来週の月曜日を予定しています。どうぞ、よろしくお願いします。




