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580・禁忌の装置

第580話になります。

よろしくお願いします。

 雲の中から飛び出して急降下していく。


 僕の視界に、ジウニの丘にある白い建物がグングンと迫ってくる。


 降下目標は、建物の屋上だ。


 外壁を破って一気に屋内へと侵入し、その中にある『魔力発生装置』を破壊する――そのつもりだった。


 でも、


「いかん、気づかれたぞ!」


 キルトさんの警告が飛ぶ。


 施設の周囲に展開していた獣国軍は、予想以上に早く僕らに気づき、『獣国軍の武具』による魔法などを撃ってきたんだ。


(くっ……!)


 駄目だ、屋上には降りれない。


 僕は、夜の闇に輝く魔法の対空砲火を必死にかわし、それによって進路が外れていく。


 ヒュゴッ ボッ


 顔のすぐ近くを魔法が通り抜けていく。


 ソルティスは目を閉じて、自分を包む翼にしがみついていた。


 キルトさんが言う。


「構わぬ! このまま施設近くの陣地に落ちよ!」

「えっ!?」

「2度の奇襲を許すほど、獣国軍は甘くない。強引に道を切り開く!」

「わかった!」


 僕は答え、必死に地上を目指す。


 魔法の対空砲火は激しさを増し、射程に入ったのか弓矢による攻撃も行われるようになってきた。


(っっ)


 その中を必死に通り抜け、


 ドパァン


 地上にぶつかるスレスレで翼を広げて空気を叩き、急制動をかけて着地した。


 その衝撃波で、周囲にいた獣国兵が吹き飛ばされる。


 目標としていた建物からは、100メードほどズレてしまい、僕らはあっという間に1000人の獣国軍に包囲されてしまった。


 抱えていた翼の中から、4人が飛び出す。


 同時に、キルトさんは手にしていた『雷の大剣』を大きく振り被っていた。


 リィン


 その剣先に青い放電が集束し、小さな光点となっていく。


(――あれは)


 気づいた僕が驚くのと同時に、鬼姫と呼ばれる英雄の美女は、その奥義を解き放った。


「鬼神剣・絶斬!」


 同時に振り抜かれる大剣。


 そこから三日月に輝く青い光波が撃ち出され、僕らから建物までの間にいた獣国軍の兵士たちを吹き飛ばしていった。


 ボバァアン


 大地も吹き飛ぶ。


「建物へ走れ!」


 キルトさんの叫び。


 それに押し出されるようにして、僕らは妨害者のいなくなった建物までの道を走った。


 その途中で気づく。


(建物に傷がない)


 その白い外壁は、キルトさんの奥義を受けても無傷だった。


 ソルティスも気づいたのか、舌打ちして呟く。


「ちっ……さすが、膨大な魔力を生み出しているだけあるわね。魔法結界も有り得ないレベルの強度だわ」 


 そうなのか。


 じゃあ、外壁を破壊して内部に入るのは、最初から難しかったのかもしれない。


 獣国軍にとっても、戦場での生命線となる重要な施設だ。


 それだけの備えはしてあったんだろう。


 走る僕らへと、獣国兵が殺到してくる。


 けど、それはキルトさんの大剣、イルティミナさんの槍、ポーちゃんの拳が打ち払っていく。


 僕も剣を振る。


「はっ!」


 ガキィン


 迫る剣を弾き、相手の態勢を崩させる。


 倒している時間はない。


 攻撃を払いながら、まずは建物へと辿り着くんだ。


 幸い、周囲を獣国兵に囲まれているので、同士討ちを恐れて魔法が飛んでくることはなかった。


 そして、僕らは外壁に辿り着く。


「あそこに扉!」


 気づいた僕は、壁の右側を指差した。


 皆で走る。


 外壁を背にしたので、敵の攻撃も来る方向が限定されて防ぎ易くなった。


 扉にやって来ると、


「ソル!」

「任せて!」


 キルトさんの声に応えて、ソルティスが扉に張りついた。


 扉の表面に、魔法陣が展開されている。


 物理的な鍵ではなく、魔法的な鍵によって扉は封じられているようだった。


 けど、


「見つけた、これね!」


 ものの10秒ほどでソルティスは喜びの声をあげ、手にした『竜骨杖』を魔法陣に押し当てた。


 ヒィィン


 杖の魔法石が光る。


 すると、魔法陣に描かれた文字や模様が変化し、そのまま魔法陣そのものが薄れるように消えてしまった。


 ガシャン


 ソルティスが押し込むと、扉が開いた。


「開いたわ!」

「よくやった!」


 ガギィン


 迫る獣国軍の剣を弾きながら、キルトさんは笑った。


「中へ!」


(うん)


 僕らは扉から建物内に入っていく。


 天井が高く、照明に照らされた白い壁の通路が左右に伸びていた。


 どっちだろう?


 そう思った時、何だか嫌な感覚が右の通路の先から感じられた。


 そちらを見つめる。


 気づいたイルティミナさんは、頷いた。


「そちらに行きましょう」

「え?」

「マール、貴方は勘の鋭い子です。その直感を信じなさい」


 そう微笑む。


 ソルティス、ポーちゃんも頷いた。


「うん」


 元々、どちらが正解かわからないんだ。なら、自分の勘と彼女の言葉を信じて、まずは右に行ってみよう。


 僕らは、そちらに走ろうとする。


 ところが、キルトさんは扉の前に立ったまま、中に入ってこなかった。


(キルトさん!?)


 ガギィン


 外から迫る獣国兵たちを、その場で斬り捨てている。


 返り血が、その頬に飛んだ。


「そなたらは、そのまま先に行け! わらわはここで追手が中に入らぬよう食い止める!」


 な……っ!


 僕は愕然とした。


 無茶だ。


 いくらキルトさんが強くたって、相手は1000人以上の獣国兵、それも100人近くが『獣国軍の武具』という恐ろしい武具も持っている。 


 けれど、キルトさんは不敵に笑った。


「いくら数がいようと、扉の前では同時に2~3人しか相手がおらぬ。それならば、この鬼姫は遅れを取らぬよ」


 …………。


 理屈はわかる。


 でも、1000人も相手にするなんて、体力と集中力が持つかわからない。


 見れば、ソルティスも迷った顔だ。


 と、それを見たポーちゃんは、キルトさんの横に並んだ。


 ゴカァン


 その光る小さな拳が、獣国兵の1人を鎧ごと破壊しながら吹き飛ばした。


 みんな驚き、金髪の幼女を見る。


 彼女は無表情に、


「ポーも残る。だから、ソルは安心して先へ行け」


 そう告げた。


 ソルティスは「ポー……」とその背中を見つめた。


 けれど、すぐに覚悟を決めた顔で、


「うん、わかったわ!」


 そう答えた。


 僕とイルティミナさんは顔を見合わせ、そして頷く。


「わかった! ここは任せたよ、キルトさん、ポーちゃん!」

「うむ」

「承知した」


 ガキン ドカァ


 2人は敵を倒しながら、そう答えた。


「内部にも敵がいるかもしれぬ。油断はするな。そちらは任せたぞ、マール、イルナ、ソル!」

「うん!」

「はい」

「任せて!」


 キルトさんに答えると、僕ら3人は通路を走りだした。


 ガィン ドパァン ズズン


 後方から、激しい戦闘音が響く。


 振り返りそうになる心を必死に押さえつけ、僕らは建物の奥へと向かった。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 通路を走っていくと、途中で警備兵らしい獣国兵たちと何回か戦闘になった。


「やっ!」


 ヒュコン


 僕の2つの剣は、その獣人たちを斬り裂いていく。


 イルティミナさんの白い槍も次々と獣国の兵士たちを貫き、倒していった。


(……っ)


 人を殺している。


 自分たちの信じるもののため、お互いに殺し合っている。


 その嫌悪が強い。


 それに心が潰されないように、必死に剣を振った。


(今は考えるな!)


 そうしなければ、大事な人たちを失ってしまうんだ。


 僕とイルティミナさんが戦っている間に、ソルティスは通路を塞いでいた扉の魔法陣に杖を押し当て、その魔法を開錠していた。


 パァン


 魔法陣が消えていく。


「開いたわ!」


 ソルティスの言葉と同時に、イルティミナさんの槍が最後の獣国兵を倒す。


 返り血が、白い美貌にも散っている。


「行きましょう」


 凛とした揺るがぬ声で彼女は言った。


 僕とソルティスは頷く。


 そうして、また通路の奥へと走っていった。


 …………。


 そうしたことを何回か繰り返して、やがて僕らは、建物の中心部へと近づいた。


 パァアン


 一際大きな扉の魔法陣が消えて、僕らはその扉を押し開けた。


 中央部分は、広い空間になっていた。


 そこに巨大な竜のような装置が大きくそびえている。


(これが、魔力発生装置……?)


 そう思いながら見上げた。


 装置の先端、まるで竜が口を開けているようなそのあぎとの部分に、小さな黒点が浮かんでいた。


「……?」


 見つめる。


 次の瞬間、言い知れぬ不快感が肌を泡立たせた。


 強い魔の気配。


 あの黒点からそれが感じられ、その強烈な感覚に、思わず倒れそうになってしまった。


「マール!?」


 よろめいた僕を、イルティミナさんが慌てて支えてくれる。


 ソルティスもポカンとしながら、装置を見上げていた。


 やがて、その顔色が青ざめていく。


「嘘でしょ……まさか、そういうことなの?」


 震える声で呟く。


 僕を抱きかかえたまま、イルティミナさんが「どういうことですか?」と妹に問いかけた。


 グッ


 ソルティスは唇を噛み締める。


「ずっと不思議だったのよ。2万もの『獣国軍の武具』を支える膨大な魔力、それだけの魔素をどうやって大気中から集められるのかって。どんな装置なのかって」


 それは、目の前にあるこの竜のような装置。


 だけど、それを見つめる少女の瞳には、未知の技術に触れる研究者の輝きではなく、強い嫌悪があった。


 その唇が開く。


「そんな装置じゃなかった」

「…………」

「ここにあるのは、魔素を集める装置じゃない。それとは違う方法で、魔素を生み出す装置だったんだわ」


 それは……。


 その正体に、僕は気づいている。


 少女は言った。


「これは世界を歪ませる装置。かつて古代タナトス魔法王朝が滅んだのと同じ、この世界と悪魔たちのいる『魔界』とに穴を開ける装置なんだわ」



 ◇◇◇◇◇◇◇



 イルティミナさんは「……まさか」と声をこぼした。


 でも、僕もわかる。


 感じる。


 あの黒点――世界の次元の穴の向こうから、悪魔たちの強い気配がこちらの世界に漏れてくるのを。


 魔素とは、元々魔界の空気の成分の1つだ。


 それが欲しければ、魔界との穴を広げ、その大気を集めることで大量に手に入れることができる――実に単純な答えだ。


 けど、それで古代タナトス魔法王朝は滅びた。


 それほどの禁忌。


 なのに、


(その禁忌の装置が、なんでここにあるんだ!?)


 僕は歯を食い縛る。


「こんなの、絶対に破壊しなきゃ駄目よ……」


 ソルティスも言う。


 僕らの様子に、イルティミナさんもようやく実感したのか、彼女は大きく頷いた。


「わかりました」


 そう言いながら、『白翼の槍』を構える。


 装置を破壊するために、その力を解放しようとして、


 ヒュッ


「!」


 ガィン


 その寸前、顔へと飛来した短刀を、彼女の槍は火花を散らして弾いた。


(!?)


 短刀が飛んできた方を見る。


 すると、装置の陰から、10人の獣国兵が姿を現した。


 ビリッ


 凄まじい圧を感じた。


 全員、凄い武人だ。


 特に中央にいる一際大きな黒豹の獣人は、他の9人よりもずっと強い圧を放っていた。


『ここまで辿り着いたか』


 その黒豹の獣人が呟く。


 口にしたのは、ドル大陸の公用語だ。


 僕自身は、喋るのは片言だけれど、ヒヤリングに関しては完璧にできる。


 彼は、両手に鉤爪を装備していた。


 魔法石が填まっていることから、恐らくあれも『獣国軍の武具』だろう。


 他の9人の武器にも、それぞれ魔法石が填まっているので、やはり同じ『獣国軍の武具』だと思えた。


 ガシャッ


 その9人が武器を構える。


 僕とソルティスも、剣と杖をそれぞれに構えた。


 けれど、その黒豹の獣人とイルティミナさんだけは武器を構えることなく、お互いを見つめていた。


『異国人か……エルフたちも必死だな。まぁ、それも当然か』


 黒豹の口が、そう呟く。


 イルティミナさんは、静かに問いかけた。


『貴方たちは自分たちが何をしているのか、この装置がどのようなものであるのか、それをわかっているのですか?』


 問う言葉は、ドル大陸の公用語。


 実に滑らかな発音だ。


 黒豹の獣人さんは、苦そうに笑った。


『わかっているさ。だが、俺たちにも守らなければならないものがある。そのためには、どのようなそしりを受けようともなさねばならぬことがある。それだけだ』


 その声には覚悟があった。


 冷たく、重い、武人の覚悟。


 罪を知り、それでも、その道を歩んでいく意思が伝わり、それを翻意させるのは不可能だとわかった。


『そうですか』


 だからこそ、イルティミナさんの答えは短かった。


 そして、その手の白い槍が持ち上がる。


 冷たい圧を放ちながら、『白翼の槍』を美しく構えた。


 それを見つめ、そして黒豹の獣人も左右の手にある鉤爪をゆっくりと前方に構えた。それは、無手の戦いをするポーちゃんの構えに、どこか似ていた。


 イルティミナさんが告げる。


『――我が名は、イルティミナ・ウォン。シュムリア王国が金印の魔狩人の1人です』


 黒豹の獣人は、かすかな驚きを瞳に浮かべた。


 すぐにその輝きは消え、決意だけが残る。


 そして彼は頷き、応えた。


『――俺の名は、ガルヴェイガ・ロダン。獣国アルファンダルの十牙将軍が1人、黒い牙のガルヴェイガだ。お前たちに死を与えるこの名を覚えて逝け』


 魔界と通じる次元の穴。


 それが存在するおぞましき空間で、獣国の誇りある将軍の1人が僕らの前に立ちはだかった。

ご覧いただき、ありがとうございました。


※次回更新は、来週の月曜日を予定しています。どうぞ、よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様ですヽ(´▽`)/ 遂に敵陣への突入を敢行! ……キルトとポーちゃんが残ったのはフラグじゃないですよね(*´-`)? しかし魔力発生装置が碌でもない代物だなぁ。 此れって竜国から…
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