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575・金印の頭脳

第575話になります。

よろしくお願いします。

 それからコロンチュードさんは、僕らを砦の一室へと案内した。


 石造りの室内には、白板や研究器具、様々な文章の書かれた用紙が散乱していて、このハイエルフさんの研究室なのだと一目でわかった。


 そこで、彼女は目の前の机に、いくつかの武具を置いていく。


 ガシャッ ガシャン


 剣、槍、斧、盾、弓などなど、複数の種類で、その全てに魔法球が埋め込まれているのが特徴だった。


「これが……例の獣国軍の武具」


 コロンチュードさんは、そう言った。


(これが……)


 僕らは、照明に照らされるそれらをまじまじと見つめてしまった。


 これまでの戦闘で回収したという武具は、よく見たら、この机の物以外にもあって、それらは別の机の上で分解されていたりした。


 これには、博識なソルティスも興味津々だ。


 目がキラキラしている。


 コロンチュードさんは、そんな獣国軍の剣の1本を手にして、目の前に持ち上げた。


「これを調べて、わかったことがある」


 わかったこと?


 僕らは彼女を見つめ、その続きが語られるのを待った。


 けど、


「それを教える前に、まずタナトス魔法武具の原理についてを説明する、よ」


 …………。


 ちょっと腰砕け。


 でも、ハイエルフのお姉さんは真面目な様子だ。


「タナトス魔法武具というのは、所持者の魔力によって、あらかじめ内蔵されていた魔法を発動する武具なんだ」

「うん」


 知ってる。


 扱いに習熟してくると、より強力な魔法も使えるようになるんだよね。キルトさん、イルティミナさん、そして自分自身の経験で、それはわかっていた。


 そんな僕は、彼女は見る。


「原理は簡単。でも、この武具の最も凄いのは、その少ない魔力で強力な魔法を発動させるほどの『魔力の増幅回路』なんだ」


 魔力の増幅回路。


 それは僕の腕輪やソルティスの杖みたいな、普通の魔法の発動体にも内蔵されている。それによって魔力の消費量が抑えられたり、魔法の威力が大きくなるんだ。


 そうした回路の魔力増幅率は、だいたい数十倍なんだって。


(へ~?)


 そうなんだ。初めて知った。


 そして、


「タナトス魔法武具の増幅回路は、魔力を数万倍まで増幅する」


 とのこと。


 …………。


 数万って。


(ちょっと凄すぎない?)


 思わぬ数値に、ちょっと冷や汗が流れた。


「この異常な増幅値を示す『魔力の増幅回路』、これこそがタナトス魔法武具の中核であり、現在の私たちの技術では再現できない究極の魔法技術なんだ」

「…………」


 ゴクッ


 思わず唾を飲み、自分の腰にある『大地の剣』を見てしまう。


 イルティミナさん、キルトさんも、自分たちのタナトス魔法武具へと視線を向けてしまっていた。


 ソルティスは知っていたのか、頷いている。


 ポーちゃんは知らなかったと思うんだけど、ソルティスを真似て『うんうん』と頷いていた。


「でね?」


 ガシャ


 コロンチュードさんは、手にした獣国軍の剣を机に置いて、コンコンと指で軽く叩いた。


「この剣には、その回路がない」

「え?」


 ないって……。


「ううん、剣だけじゃなくて回収した獣国軍の武具全てに、その『魔力の増幅回路』は存在しなかった」

「…………」


 僕らはポカンとなった。


 え……だって今、タナトス魔法武具で最も重要なのがその回路だって言ったばかりじゃないか。


 混乱する。


 そして気づいた。


「もしかして……これらは『タナトス魔法武具』じゃない?」


 そう呟く。


 みんなが僕を見て、コロンチュードさんは生徒を誉める先生のような顔で微笑んだ。


「そう」

「…………」

「獣国軍の武具は、タナトス魔法武具じゃなかった。似た性能だけど、原理が違っているんだよ」


 彼女は、別の机へと移動する。


 その上には、分解された獣国軍の剣があって、そこにある小さな宝石みたいな石のついた部品を白い指が摘まんだ。


「これ」


 それを僕らに見せて、


「この魔法回路は、タナトス魔法武具にはない部品。そして、この回路には魔力波を共振させる機能があった」

「共振……?」


 その意味が、僕にはわからなかった。


 でも、天才少女ソルティスは、ハッとした。


「まさか、魔力の遠隔供給!?」


 驚いたようにそう叫ぶ。


 コロンチュードさんは理解されたことが嬉しいのか、笑みを深くして少女に頷いた。


「その通り」

「…………」

「つまり獣国軍の武具は、所持者の魔力じゃなくて、どこか遠くから膨大な魔力が送られて、それによって内蔵された魔法が発動していたんだよ」


 …………。


 それって、


「つまり、所持者は魔力がなくてもいいってこと?」

「そう」


 まぁ、魔力を受け取る回路を起動するための最低限の魔力は必要だけど……と、コロンチュードさんは付け加えた。


 そう……なんだ。


(要するに、これはタナトス魔法武具じゃなくて、獣国軍の独自の技術で造られてた武具ってことだね)


 そう理解する。


 コロンチュードさんはその剣を見ながら、


「この新技術を、よく見つけたと思う。これなら現代の技術でもギリギリ再現可能な魔法技術だから。……多分、歴史に残るような大発見」


 と感心したように言った。


 ……その瞳の輝きは、研究者のそれだった。


 獣国アルファンダルの技術に、素直に感心している。


 キルトさんは表情をしかめた。


「獣国軍の武具の原理はわかった。じゃが、これがタナトス魔法武具ではないとしても、その力は本物と遜色なく、脅威であるのは変わらぬのであろう?」

「うん」


 ハイエルフさんは長い金髪を揺らして頷き、認めた。


 そして、続ける。


「でも、だから付け入る隙がある」


 付け入る隙?


(それって、どんな?)


 僕は期待を込めて、シュムリア王国の誇る『金印の魔学者』を見つめた。


「獣国軍の武具は、遠隔からの膨大な魔力が注がれることによって魔法を発動している。逆に言えば、その魔力の流れを遮断できれば、何の力も発揮できなくなるんだよ」


 あ……。


(そっか)


 それは単純な理屈だった。でも、それができれば獣国軍の武具は、ただの武具になり下がる。


 そうすれば、


(この劣勢の戦局もひっくり返せるかもしれない!)


 その希望に胸が熱くなった。


 みんなも気づいたのか、その目には力強い光が灯っていた。


 コロンチュードさんの説明によれば、それだけの膨大な魔力を発生させる装置はかなり巨大で、どこかに施設があるだろうとのことだ。


「場所も特定できるよ」


 獣国軍の武具の部品、魔力の共振回路から逆探知できるんだって。


 …………。


 この人は、本当に凄いや。


 転移魔法陣の再現、獣国軍の武具の原理の解明と弱点の発見、魔力供給源の逆探知、エルフの国を救うために必要なそれらをたった1人で見つけてしまっていた。


 これが、コロンチュード・レスタ。


 1000年以上を生きたハイエルフで、シュムリア王国でも伝説となっている『金印の魔学者』なんだ。


(…………)


 その凄さを改めて思い知って、ちょっと鳥肌が立ってしまったよ。 


 カチャ


 コロンチュードさんは、その小さな回路を机に置く。


 そして、僕ら全員を見回した。


「恐らく『魔力発生装置』の重要性は、獣国軍も理解してる。だから施設の防御も堅い。戦力的にも、きっと正面からその守りは突破できないと思ってる」


(うん)


 僕らは頷いた。


「つまり、少人数・・・での潜入しか方法はない」


 コロンチュードさんの翡翠色に輝く瞳は、ずっと僕らのことを見つめ続けていた。


 そこにある意思、感情……それらが伝わってくる。


 みんなもわかったろう。


 それでも、誰1人表情は変わらなかった。


 僕は言った。


「大丈夫。必ず僕らがやってみせます」


 その後ろで、イルティミナさん、キルトさん、ソルティス、ポーちゃんも大きく頷いた。 


 そして、みんなで笑った。


 それを受けて、コロンチュードさんは瞳を伏せる。


「……お願い」


 故国の同胞のため、彼女は長い金髪を床にこぼれさせながら、僕らに深々と頭を下げたんだ。

ご覧いただき、ありがとうございました。


※次回更新は、今週の金曜日を予定しています。どうぞ、よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様ですヽ(´▽`)/ 短期間で武器の特性を把握、そのキモとなる遠隔装置の場所さえ特定するとは流石はコロンチュード。 ……エルフ王国は優秀な彼女のシュムリア王国への移住を認めたもの…
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