061・クエスト受注1
第61話になります。
よろしくお願いします。
翌朝、僕は、イルティミナさんたち姉妹と一緒に、冒険者ギルド『月光の風』へと向かった。
(……ついに、運命の日だ)
青い空を見ながら、そう思う。
家からの道すがら、僕らは、一言も喋らなかった。
やがて、湖に沿った道の先に、白亜の建物が見えてくる。
(よし、がんばろう)
気合を入れて、門を潜り、前庭に入る。
と、
「お、来たの」
玄関の横の白い壁に、キルトさんが寄りかかっていた。
彼女は、ギルドの宿泊施設で生活している。
どうやら、僕らが来るのを、ずっと待っていてくれたみたいだ。
「おはよう、キルトさん」
「うむ、おはようじゃ、マール」
壁から身を起こし、白い手が、僕の頭を撫でてくる。
「おはようございます、キルト」
「おはよー」
美人姉妹も挨拶をして、キルトさんは「おはようじゃ」と白い歯を見せて、2人にも笑いかけた。
そして、黄金の瞳が僕を見る。
「では、行くかの」
「うん」
僕は、大きく頷いた。
そして僕ら4人は、白い塔のような冒険者ギルドの中へと入っていった。
◇◇◇◇◇◇◇
「マール、ここからはそなたに任せる」
建物に入った途端、キルトさんは、そう言った。
(え?)
僕は、振り返る。
キルトさんの左右に、姉妹も並んでいた。
イルティミナさんの真紅の瞳が、僕を見つめる。
「これから受注するクエストは、貴方の好きなものを選びなさい」
「僕の?」
ソルティスが、両手を頭の後ろに組んで、からかうように笑った。
「これは、アンタの実力を見るための試験よ? 簡単すぎるのを選んだら、許さないからね」
「……ソルティス」
銀の髪を揺らして、キルトさんは、大きく頷く。
「そういうことじゃ。今日の我らは、サポート役に徹する。どのクエストを受け、どうクリアをするのか、全て、そなた自身が決めよ」
「…………」
「マール。今日は、そなたがリーダーじゃ」
僕が、リーダー?
驚く僕のことを、3人は、真っ直ぐに見つめている。
(……そっか)
僕の冒険者としての資質、それを彼女たちは、見極めようとしている。
つまり、もう試験は始まってるんだ。
僕は、頷いた。
「うん。じゃあ、クエストを選んでくる」
「うむ」
「お任せします」
「はいよ」
笑う3人に見送られ、僕は1人で、ギルド内にあるクエスト掲示板に向かった。
掲示板の前には、他にも冒険者の人たちが集まっている。
僕は、小さな子供の身体を利用して、その人たちの間を抜けて、スルスルと前に出た。
(ふぅん? アルセンさんの宿で見た掲示板と、だいぶ違うんだね)
まずギルドの掲示板は、とにかく大きい。
僕の身長よりも高く、横幅は7メートルぐらいある。
そして、赤、青、白、銀の4色に色分けされていた。
(依頼の難易度かな?)
金がないのは、受注できるのが、キルトさん1人だからだろう。
そして、赤印の冒険者である僕は、赤色の部分にあるクエストを受けるべきなんだ。
どれどれ?
僕は、赤色の部分に近づいてみる。
(……あんまり、数が多くないね?)
依頼書は、10枚もない。
ちなみに、青のクエストが一番多く50枚ぐらい、白は30枚ぐらい、銀は3枚だけだった。
赤のクエスト内容は、
『薬草集め』
『他都市までの宅配業務』
『荷馬車の護衛』
『ゴブリンの討伐』
『魔熊の討伐』
とある。
そして、『ゴブリン討伐』のクエストだけで6件あった。
(本当に、この地方には、ゴブリンが多いんだね)
前にイルティミナさんの言ったことを、思い出す。
さて、どうするか?
「……やっぱり、ゴブリン討伐かな?」
僕は、呟いた。
これから行うのは、『魔狩人である彼女たち』について行く資格があるかの試験だ。
だから、魔物の討伐以外は、考えられない。
となれば、ゴブリンか魔熊の討伐クエストだ。
魔熊がどんな魔物かは知らない。
もちろん、そっちでもいいんだろうと思う。
でも、
(やっぱり、リベンジしたいよね?)
前回は、何もできなかった。
だからこそ今回は、きっと前回からの自分の成長も計れるはずだ。
「よし」
僕は、『ゴブリン討伐』の6枚の内容を、比較していく。
うん、討伐数は15~25と、どれも前回と大きな差はない。
あとは、場所かな?
(明日、イルティミナさんたちは、別のクエストに出発しなきゃいけないんだ)
だから、日帰りできる場所じゃないと。
う~ん?
でも、地名が読めても、距離がわからない。
(ここは素直に、あの3人か、ギルドの職員さんにでも聞こうかな?)
僕は頷き、振り返る。
ドンッ
(わ?)
その瞬間、誰かとぶつかった。
「あっと……すまない、大丈夫か?」
慌てたような声。
尻餅をついたまま、僕はぶつかった鼻を押さえて、謝る。
「だ、大丈夫です。こっちこそ、ごめんなさい」
「あれ? お前は……」
「え?」
顔を上げると、そこにいるのは、見たことのある長身の少年だった。
青い髪に、茶色い瞳。
15~6歳ほどの年齢で、背中にある長剣。
(あ)
記憶の顔と名前が一致する。
「アスベルさん?」
「……お前、イルティミナさんと一緒にいた……確か、マールだったか?」
「はい」
伸ばされた彼の手を借りて、立ち上がる。
(……手、繋いでくれた)
それに驚いた。
前に会った時に、『血なし者』として嫌悪されていたから、僕に触るのも嫌なのかと思ってた。
でも、助け起こしてくれた。
(やっぱり、いい人なんだね)
前に感じた印象は、間違ってなかったみたい。
と、彼の後ろから、知らない2人の男女が声をかけてくる。
「どうしたの、アス?」
「おう、何やってんだよ、アス? そのガキ、お前の知り合いか?」
アスベルさんの冒険者仲間かな?
女の人は、エルフさんだった。
外見は、14~5歳ぐらいで、白い髪を三つ編みにして、水色の目をしている。
そして、肌は、チョコレートみたいな綺麗な褐色だ。
(ダークエルフさん!)
つい、エルフ好きの血が騒ぐ。
彼女の腰ベルトには、魔法石のついた杖とレイピアが左右に装備されている。もしかしたら、魔法と剣、両方使える人なのかな?
もう1人の男の人は、人間だ。
年齢は、アスベルさんと同じぐらいだと思う。
背の高さは、長身のアスベルさんより低いけど、横幅は、倍ぐらいあった。
(凄い筋肉だね……)
顔と首の太さが一緒だし、彼の太ももは、僕の腰と同じサイズだった。
髪と瞳の色は、緑。
顔は怖くて、ちょっと不良みたいな感じかな?
その背中には、大型の戦斧が負われている。
アスベルさんは、そんな2人を見返して、少し硬い声で言う。
「あぁ、前にちょっとな」
「ふぅん。私はリュタ、よろしくね」
「ガリオンだ」
リュタさんとガリオンさんが、僕に声をかけてくる。
僕は、ペコッと頭を下げた。
「マールです」
「マール君か、男の子なのに可愛い名前だね。……ん?」
「……おい、コイツ?」
不意に、2人の表情が変わった。
(え? 何?)
戸惑う僕の耳に、あの単語が響いた。
「この子……まさか、『血なし者』?」
「……マジかよ」
不快、嫌悪、拒絶の感情が、声に宿っている。
(…………)
友好から敵意に変わった視線が、僕の心に突き刺さる。
「ちょっと、アス……」
「お前、何考えてんだ? いつから『血なし者』とつるむようになった? あぁ!?」
2人は、アスベルさんを非難する。
ガリオンさんの声の大きさに、周囲の冒険者の人たちも、騒ぎに気づき始めた。
アスベルさんは、短い息を吐く。
「2人とも、やめろ」
「でも」
「何が、やめろ、だ? ふざけんな、俺は『血なし者』に容赦する気はねえぞ!?」
「この子は、キルトさんの知り合いだ」
瞬間、2人の動きが止まった。
その表情に驚きを貼りつけて、ゆっくりと僕を見る。
「この子が……?」
「あの、鬼姫キルトの知り合い……だと?」
アスベルさんは、「あぁ」と頷いた。
彼の答えに、2人は、苦虫を噛んだような顔をする。
(金印のご利益……かな?)
2人が静まったことで、周囲の冒険者の人たちの興味も消えていく。
「ちっ、くそが!」
ガィン
ガリオンさんは、乱暴に床を蹴る。
僕を鋭く睨んでから、
「俺は、向こうにいる。アス、出発する時にゃ、呼びに来いよ」
「あぁ、わかった」
彼は足音荒く、行ってしまった。
リュタさんは、戸惑ったように僕とアスベルさん、そしてガリオンさんの方を見ている。
「すまない、リュタ。ガリオンを頼む」
「……わかったわ」
頷き、彼女も複雑そうな視線で、一度、僕を見てから、ガリオンさんを追いかけていった。
残されたのは、僕とアスベルさん。
そしてアスベルさんは、2人の方を見ながら、僕に言う。
「悪かったな、嫌な思いをさせて」
「ううん」
僕は、首を振る。
「理由はわかるし、なんとなく理解もできる。だから、あの2人に悪い感情はないよ」
「…………」
「でも、ガリオンさんは、ちょっと怖かったかな?」
笑って、そんな冗談を言ってみる。
彼は、苦笑した。
「そうか」
ちょっと空気が緩んだ気がした。
(あ、そうだ)
それに便乗して、僕は、彼にお願いをしてみる。
「アスベルさん、ちょっと頼みがあるんだ」
「頼み?」
「うん。この6つのクエストで、日帰りで行ける場所ってあるかな?」
僕は、赤い掲示板を、小さな指で示す。
「日帰り、か」
アスベルさんは、茶色い目を細め、6つのクエスト依頼書を見てくれる。
(やっぱり、いい人だね)
嬉しくて、つい心の中で笑ってしまった。
やがて彼は、1つの依頼書を、裏拳でコンッと軽く叩いた。
「これだな」
「……ディオル遺跡近くの森?」
彼は頷いた。
「ディオル遺跡は、王都から馬車で3時間だ。これなら日帰りできるだろ?」
「うん」
「しかし、なんで、お前がクエストを?」
アスベルさんは、怪訝そうだ。
あ、そうか。
アスベルさんは、知らないんだっけ。
僕は、右手の甲を、彼に向ける。
(お湯が流れる感覚で……右手に、魔力を集めて……)
ポゥ
赤い魔法の紋章が、輝いた。
やった、成功だ!
アスベルさんは、驚いたように、その赤い光の冒険者印を見つめる。
「お前……冒険者だったのか?」
「なったのは、5日前だけどね」
彼は、納得したように頷いた。
僕は小さく笑い、そして、教えてもらったクエスト依頼書を、掲示板から剥がした。
(……これが、僕の試験)
しばらく、依頼書を見つめた。
アスベルさんは、そんな僕の横顔に何かを感じたのか、少しだけ柔らかな声で言った。
「クエスト、がんばれよ」
「うん」
ちょっと驚き、頷く。
「アスベルさんが、そんなこと言ってくれるなんて、思わなかった」
「そうか?」
「うん」
僕は言った。
「アスベルさん、僕のこと、嫌いでしょ?」
「…………」
彼の視線に、時々、あの2人と同じ種類の光が宿っているのは、さすがに気づいている。
直球をぶつけられて、アスベルさんは、僕を見た。
そして、苦笑した。
「少しな」
「うん」
「だけど、お前は何も悪くない。悪いのは、多分、俺の方だ」
そっか。
少し寂しい。
でも、彼は正直に言ってくれるから、嬉しかった。
(……っと、長話しちゃったな)
リュタさんとガリオンさんが待っているように、僕も3人を待たせている。
「ありがと、アスベルさん。それじゃあね」
「マール」
立ち去ろうとしたら、名前を呼ばれた。ん?
振り返った僕に、彼は、左手を見せる。
そこには、1枚のクエスト依頼書が握られていた。
「これは、さっき、俺たちの受けたクエスト依頼書だ」
「うん?」
「内容は、ディオル遺跡の探索」
…………。
(あれ? ディオル遺跡って……)
僕は、慌てて、自分のクエスト依頼書を見直す。
『ディオル遺跡近くの森』
とある。
僕は、アスベルさんを見た。
彼も僕を見て、皮肉そうに笑っている。
「まったく……世の中には、偶然ってのがあるんだな」
「うん」
「これも何かの縁だ。もし何かあったなら、遺跡まで来て、俺たちに声をかけろ。少しは手を貸してやるよ」
なんと、びっくり。
驚いている僕の顔を見て、彼は、ようやく楽しそうに笑った。
「じゃあな、マール」
パン
肩を、裏拳で軽く叩かれる。
そうして、青い髪の少年は、その場から去っていった。
「…………」
やれやれだ。
このクエストは、僕の試験なんだから、手なんて借りれないんだ。
(でも……)
口元が、勝手に緩んでいく。
そうして、必死に笑ってしまう頬を引き締めながら、僕は、クエスト受注のために、ギルドの受付へと向かった。
ご覧いただき、ありがとうございました。
※次回更新は、明後日の金曜日0時以降になります。よろしくお願いします。




