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【書籍化&コミカライズ!】少年マールの転生冒険記 ~優しいお姉さん冒険者が、僕を守ってくれます!~  作者: 月ノ宮マクラ


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549・ビリーラング家の名店

第549話になります。

よろしくお願いします。

 アルゼウス大神殿をあとにした僕らは、そのまま神帝都アスティリオの観光を楽しむことにした。


 神帝都の交通は、かなり整備されている。


 時間貸しの駐車場もあって、僕らはそこに馬車を停めて、徒歩でゆっくりと神帝都アスティリオの街中を歩いていった。


「相変わらず、物価が高いわね」


 商店のウィンドウの向こうの品を眺めて、ソルティスが呟いた。


 うん、そうだね。


 貼られた値札を見て、僕も同じ感想だ。


(シュムリア王国に比べたら、だいたい2~3倍ぐらいかな?)


 嗜好品は、もっと高そう。


 世界一の大国、アルン神皇国の首都にやって来たんだから、お土産に何か買っていこう……と思っても、気軽には手が出せない感じだった。


 僕も収入ある方だと思うけど、さすがに躊躇しちゃうよ。


 い、いや、貧乏性じゃないぞ?


 まぁ、心が小市民なのは認めるけどさ……。


 前にフレデリカさんは、アルン政府としても物価が下がるような施策をしていると言っていたけれど、やはり効果は芳しくないみたいだ。


「都民全体の生活に大きな影響も出る問題だからな。こればかりは、まだ時間が必要のようだ」


 と軍服のお姉さんは、難しい表情で呟く。


 なるほど。


 きっと既得権益などのしがらみもあるだろうし、実現するのも大変なのだろう。


 でも、魔血差別だって乗り越えたんだ。


 いつか、物価も暮らしやすいレベルで安定してくれる日が来ると思う。


 そうすれば、この神帝都アスティリオは、もっと多くの『魔血の民』が暮らせるようになって、その影響はアルン全土に広がるんじゃないかな。


 簡単ではないだろうけど。


 でも、僕は、そんな未来を夢見てしまうんだ。


 …………。


 見回せば、すれ違う神帝都の人々は、みんな、明るい表情をしている。


 ここは、ある種の理想郷だ。


 差別もなく、安全で平和。


 それが当たり前になって、いつか世界中の人々が笑顔で暮らしていければいいなと願ってしまう。


 それを夢見て、僕らは剣を振るってきたから。


 ラプトもレクトアリスも、そのために戦ってくれたから。


 その理想の欠片を眺めて、僕は笑った。


「いい街だよね、アスティリオって」

「あぁ」


 その言葉に、アルン騎士のフレデリカさんは、嬉しそうに頷いたんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 僕らは、商店の並んだ通りを歩いていく。


 シュムリア王国の首都ムーリアだと、商店通りには露店も建ち並んだりしているけれど、神帝都アスティリオには1軒もなかった。


 みんな、ちゃんとした店舗ばかりだ。


 そういうところ、厳格な国風のアルン神皇国らしいなと思った。


 シュムリア王国は、もう少し大らかな雰囲気だね。


 そんな話をしながら、イルティミナさんたちと人の多い歩道を歩いていると、


「少し寄りたい店があるんだ」


 と、フレデリカさん。


(寄りたいお店?)


 ちょっと驚いたけれど、もちろん反対する理由もないので、僕らは了承し、軍服のお姉さんについて行った。


 …………。


 …………。


 …………。


 やがて辿り着いたのは、1軒の飲食店だった。


 お洒落な喫茶店かな?


 でも、お茶や軽食だけでなく、ちゃんとした料理も提供されている感じだね。


 カララン


 扉につけられた鈴を鳴らしながら、僕らは店内に入る。


「いらっしゃいませ」


 カウンター奥にいた店主らしい女性の挨拶が聞こえ、すぐにフレデリカさんに気づいて「あ」という顔をした。


 彼女は微笑み、


「いらっしゃい、フレデリカ様」


 と頭を下げる。


 どうやら顔見知りらしいね。


 フレデリカさんも笑顔で「やぁ、コルレット殿」と応じている。


 女店主さんは、キルトさんと同年代ぐらい、だいたい30歳前後といった感じだ。


 清楚で落ち着いた雰囲気。


 赤茶色の髪を頭の後ろでお団子にまとめ、黄色い瞳が僕らを見つめてくる。


 僕は笑って、


「こんにちは」


 と挨拶した。


 女店主さんも笑顔になって、「こんにちは」と返してくれる。


 そんな僕らをフレデリカさんは優しく見守り、それから、彼女はコルレットさんを手で示しながら、


「マール殿。こちらは、コルレット・ビリーラング殿。かつて、貴殿らと共に旅をした『金印の魔狩人』ガルン・ビリーラング殿の妹君だ」

「……え?」


 その紹介に、僕らは目を丸くした。


 ガルンさんの妹?


 ガルン・ビリーラングさんは、3年前、愛の女神モア様の神託を受けに、共に『カリギュア霊峰』という万の竜が棲むという山を一緒に登った『金印の冒険者』さんだ。


 第2次神魔戦争にも参加してくれている。


 突然、キルトさんとも手合わせした武人さんだったっけ。


 その妹さんが、この目の前にいる女性だという。


(に、似てないかも……)


 ガルンさんは大柄で、禿頭なのもあって、一般人には近寄りがたい独特の雰囲気があった。


 でも、コルレットさんは上品なご婦人さんって感じ。


 人当たりもとても良さそうだ。


 目の色は、確かに一緒だけど……失礼ながら兄妹と言われても、一瞬、疑ってしまった。


 キルトさんたちも驚いた顔をしている。


 コルレットさん自身は、僕らの反応にキョトンとした顔だ。


 フレデリカさんが軽く苦笑しながら、今度は、彼女に僕らのことを教えてやった。


「コルレット殿。前にも話したと思うが、彼らが2年前、兄君と共に、世界を襲った大魔獣を討伐せしめたマール殿とその仲間の方たちだ」

「えっ? この子たちが!?」


 コルレットさんは口元を手で押さえて、とても驚いている。


 その視線は、特に僕とポーちゃんに向けられていた。


 ……うん、わかってる。


 僕って見た目が幼いから、ポーちゃんと同じ未成年に思われてたんだよね。


 うん、わかってるから……しくしく。


 ちょっと遠い目になりながら、驚いているガルンさんの妹さんに、僕は愛想笑いを浮かべたんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



「席は空いているかな?」


 互いの紹介が済むと、フレデリカさんがそう訊ねた。


 コルレットさんは頷いて、


「はい、こちらへどうぞ」


 と、カウンターから出てきて、直々に雰囲気の良い窓際の席に案内してくれた。


 アルゼウス大神殿で昼食は食べてきたので、コルレットさんのお店では、簡単なデザートと紅茶だけを注文した。


 頼んだのは、お店自慢だというフルーツタルト。


 コルレットさんが厳選した果実をふんだんに使い、美味しい秘伝のタルト生地で作られるという一品で、近所でも人気なんだとか。


(楽しみだなぁ) 


 待ってる間、僕はウキウキだ。


 ソルティスも同じような顔でソワソワしていて、隣のポーちゃんも真似をして、2人で小刻みに身体を揺らしている。


 あはは。


 そんな僕らに、年長のお姉さんたちは笑っていた。


「しかし、ガルンの妹か」


 キルトさんが、ふと呟いた。


「何と言うか、己の求道のみに関心があるような武人の妹が、まさかフルーツタルト作りの名人として、神帝都で店を出しているとはの。正直、予想外であったの」


 なんだか、しみじみとした口調だ。


(うん、そうだよね)


 兄と妹、本当に違う方向を向いている。


 イルティミナさんとソルティスの姉妹も、それに同意するように頷いた。


 フレデリカさんも笑う。


「ガルン殿と旅する中で、私も妹君のことを教えられてな。挨拶がてらこの店を訪れてみたのだが、その味の虜になり、常連になってしまったのだ」

「そうなんだ?」

「あぁ。だから、マール殿たちにもぜひ食してもらいたくてな」


 それで今日は、この店にも案内してくれたんだって。


(そっかぁ)


 ますます、フルーツタルトが楽しみだね。


 ……そういえば、


「ガルンさんは今、どうしてるんだろう?」


 と、ふと思った。


 もしかして、神帝都アスティリオにいるのなら、会いに行ってみたいなと思ったんだ。


 だけど、


「生憎と、クエストで神帝都の外に出ているみたいでな」


 と、フレデリカさん。


 実はフレデリカさんも、せっかく僕らが来店するのだから会わせられないかと思って、ガルンさんの状況を調べてくれたんだって。


 だけど残念ながら、クエストのために神帝都外に出かけていたそうなんだ。


「ガルン殿も『金印』だからな。辺境も含め、魔物の被害に遭っている人々から、常に求められる立場なのだ」


 だから神帝都にいること自体が珍しいのだとか。


(そうなんだ?)


 でも、考えたら僕やイルティミナさんだって、王都ムーリアにいるよりも、それ以外の土地にいたり、移動してたりする時間の方が多い気がする。


 それはガルンさんも同じかもしれないね。


 そんな話をしていたら、コルレットさんが自慢のフルーツタルトを持って、やって来てくれた。


「わぁぁ……」


 漂ってくる甘い匂いだけで、もう美味しいと確信できる。


 見た目も、とても綺麗。


 何て言うか芸術作品みたいで、フォークで崩してしまうのが勿体ないと思えるぐらいだ。


「いただきます!」


 僕は手を合わせる。


 みんなも『いただきます』と声を出して、それぞれに手を伸ばした。


 パクッ モグモグ


 ん……美味しい~!


 フルーツの香りが口の中いっぱいに広がって、果実と粉砂糖、クリームの甘さが舌と心を幸せにしてくれる。


 タルト生地もサクサクした食感で、噛むのも楽しい。


 甘いけど、それはくどくない甘さで、食べるのがやめられない感じだ。


 お、おかしいぞ? さっき昼食を食べたばかりなのに、簡単に平らげられてしまった。


 なのに物足りない。


「あの、おかわりしてもいい?」


 僕は言った。


 ソルティスは大きく頷いて「私も!」と手を挙げた。


 すると、少し恥ずかしそうにイルティミナさん、キルトさんも手を挙げて「こちらにも」と呟き、珍しくポーちゃんもおかわりを求めていた。


 フレデリカさんは笑って、


「では、私の分も含めて、もう6人分、頼む」


 と注文。


 コルレットさんは、僕らの食べっぷりに満足そうな顔で「わかりました」と了承してくれた。


 そうして、2度目のフルーツタルトだ。


(あぁ、幸せ)


 甘さは人を幸福にしてくれるね。


 そんな風にして食べながら、見守るコルレットさんとも少しお話をすることができた。


 彼女曰く、


「兄と会うのは、年に2回ぐらいしかありませんよ」


 とのこと。


 兄妹だけれど、そんなに会わないらしい。


 でも、仲が悪いとかではなく、もうお互いに自立した大人だからといった感じだった。


 ガルンさんは冒険者として。


 コルレットさんは料理人として。


 それぞれに、それぞれの道を歩んでいる。


(ふ~ん?)


 その話を聞きながら、フルーツタルトを口に運んで、僕はふと思った。


「やっぱり似ているかも」


 って。


 イルティミナさんが「え?」と僕の顔を振り返り、見つめてくる。


「ガルンさんもコルレットさんも、それぞれ自分の選んだ道に邁進して、凄い人になっている……そこが、そっくりだなって」


 職業は違う。


 でも、生き方は似ている気がしたんだ。


 イルティミナさんも「あぁ、なるほど」と納得した顔をし、僕らの会話を聞いていたコルレットさんも「そうかもしれませんね」と柔らかく微笑んだ。


 みんなも同意した雰囲気だった。


 やがて、お土産に持ち帰り用のフルーツタルトも手に入れて、僕らはコルレットさんのお店をあとにする。


 それからも、6人で神帝都をしばらく散策した。


 日が暮れて、馬車へと戻り、


「今日は楽しかったね」

「はい」


 車内では、イルティミナさんとそう笑い合った。


 夕日に赤く染まった通りを、そうして僕らを乗せた馬車は、ダルディオス家のお屋敷に向けてガタゴトと帰っていったんだ。

ご覧いただき、ありがとうございました。


※次回更新は、明後日の水曜日0時以降になります。どうぞ、よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様ですヽ(´▽`)/ ソルティスが食べる描写は兎も角、ポーちゃんがお世話する描写すら入る間もなく全員で完食。 しかもイルティミナやポーちゃんまでもがおかわりを求めるとかホントに珍…
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