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548・神牙羅社殿

第548話になります。

よろしくお願いします。

 かつて、僕らと共に旅をしたラプトとレクトアリス。


 2人は『神牙羅』と呼ばれる『神々を守護する衣』であり、その力によって自分たちの主神である正義の神アルゼウス様を護っていた存在だ。


 つまり、アルゼウス様の眷属。


 なので2人の社殿は、神帝都アスティリオにあるアルゼウス大神殿の境内に建立されたそうなんだ。


 そして今、僕らはそのアルゼウス大神殿へとやって来た。


(相変わらず、立派だなぁ)


 その敷地面積は、シュムリア王国にある戦の女神シュリアン様を祀ったシュムリア大聖堂の2倍以上もあるんだ。


 そして、参拝者の数も凄い。


 神殿前の駐車場には、僕ら以外にもたくさんの馬車、竜車が停まっていて、そこで降りた僕らは大神殿の広い境内へと向かった。


「こっちだ」


 フレデリカさんの案内で、人混みの中を進んでいく。


 …………。


 ここに集まった人の中には『魔血の民』もいるかもしれない。けど、この神帝都には差別はなく、魔力測定をされることもなく境内に入れるんだ。


「……やっぱ変な感じよね」


 呟くソルティス。


 差別があるのが当たり前だったから、彼女には違和感があるみたいだ。


(……それはそれで悲しい話だけど)


 でも、そうして感じることは、神帝都アスティリオが素晴らしいことの証明にも思えた。


 差別のない世界。


 それを実現してしまった都市は、紛れもない世界の希望だ。


 人々が差別なく生きていける証明であり、この都市の価値観や考え方が世界中に広まってくれればいいなと思っている。


 ……まぁ、唯一の欠点は、物価が高いことかな。


 それがなければ、もっと多くの『魔血の民』がこの都市で暮らせるし、同じような都市も増えていくと思うんだけど。


 っと、閑話休題。


 とにかく僕らは、そんな差別のないアルゼウス大神殿の中を歩いていった。


 まずはアルゼウス様の像がある大神殿に参拝し、挨拶をしてから、ラプトとレクトアリスの社殿があるという場所へと移動する。


 神殿敷地内の端の方だ。


 そこに、まだ真新しい2つの社殿が建っていた。


(へぇ、これか)


 そこにあったのは、2階建ての一軒家ぐらいの大きさの石造りの社殿だった。


 参拝者も結構いる。


 ……何だろう?


 よく知った友人たちが、こうして神様として祀られ、多くの人に拝まれているのかと思うと、なんだか不思議な気分だ。


(ちょっとこそばゆい感じだよ)


 モゾモゾ


 思わず身体を揺らしてしまった。


 キルトさん、イルティミナさん、ソルティス、ポーちゃんの4人も興味深そうに社殿を見上げている。


 すでに来たことがあるのか、フレデリカさんだけは、そんな僕らの反応を微笑ましそうに見守っていた。


「では、中に入ろうか」

「うん」


 彼女の言葉に頷いて、僕らは社殿内に入っていった。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 最初に入ったのは、ラプトの社殿だ。


 静謐な空気が広がる空間に、3メードぐらいの頭から2つの角を生やした青年の像が立っている。


 …………。


 こ、これ、ラプトなの!?


 その像を見た僕は、思わず吹き出しそうになってしまった。


 ラプトは、僕と同じぐらいの小柄な少年だ。


 でも、この像のラプトは20歳ぐらいの青年で、物憂げな神秘的な表情をしていて凄く格好良かった。


(あはははっ)


 び、美化しすぎだよ!


 内心で大笑いしながら、他に参拝客もいる社殿内なので、必死に声を我慢する。


 キルトさんも口元を押さえながら肩を揺らし、イルティミナさんは『なるほど』といった表情をし、ソルティスは呆れた顔をし、ポーちゃんは相変わらずの無表情だった。


 そんな僕らに、フレデリカさんは苦笑している。


「アルンでも腕利きの職人が作ってくれたんだがな。どうにも理想の姿を求めすぎて、こうなってしまったようだ」 


 そ、そうなんだ?


 僕は笑いを堪えながら、言った。


「きっとラプトも、神界で恥ずかしがってるかもしれないね?」

「かもしれないな」


 軍服のお姉さんも苦笑しながら同意する。


 それから不本意ながらも、格好良いラプト像にお参りをしてから、僕らはレクトアリスの祀られたもう1つの社殿へと移動した。


 …………。


 …………。


 …………。


「うわぁ……素敵」


 レクトアリスの社殿も、造りはラプトの社殿と同じみたいで、違うのは祀られている像だけみたいだった。


 そして、そのレクトアリスの像は、本人に優るとも劣らぬ美女だった。


 うん、こっちは似てるね。


 本物のレクトアリスも大人の姿だったから、特に違和感もない。


 額の目も含めた3つの瞳が、参拝しに訪れた人間たちを厳かに、そして優しく見下ろしている。


 …………。


 レクトアリス、元気にしてるかな?


 ラプトの像では笑わせてもらったけれど、こっちの社殿では、なんだか懐かしさを覚えてしまった。


 ソルティスも切なそうな顔で、


「レクトアリス……」


 と呟いている。


 ソルティスにとって、レクトアリスは色々な知識を与えてくれた教師だった。


 誰より多くの時間を、彼女と過ごしていたと思う。


 そんなソルティスの様子を、隣にいる『神龍』の幼女が優しく見守っている。


 ポーちゃんにとっても、ラプトとレクトアリスの2人は神界の同胞で、そんな2人の社殿を訪れるのは、特別な気持ちがあるのかもしれないと思えた。


(会いたいな……また2人に)


 かつての笑顔を思い出して、僕はそんなことを思った。


 それから、レクトアリス像にもお参りする。


 特に何かを願うこともなく、ただ共にいた日々を思い出しながら、どうか2人が神界で幸せに暮らしていることだけを祈った。


 そうして、僕らの参拝は終わった。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 アルゼウス大神殿の境内には、参拝者のための食堂も設置されていた。


 少し早い時間だけど、僕らは、そこで昼食を取ることにした。


 食堂に入ると、フレデリカさんは「予約していたダルディオス家の者だ」と給仕の神官さんに声をかけ、僕らは2階の個室へと案内されたんだ。


 広く清潔な部屋だ。


 僕らはそれぞれにテーブルを囲んで、席に座る。


 窓からは青空とアルゼウス大神殿が見え、敷地内を歩いている多くの参拝客を眺めることもできた。


(いっぱいいるなぁ)


 参拝する人の本当に多いこと。


 それだけ、アルン神皇国ではアルゼウス様が信奉されているということなのだろう。


 そして、その影響か、ラプトとレクトアリスの社殿に詣でる人の数も、予想以上に多いんだ。


 ぶっちゃけ、大人気。


 2人は神様でもない、ただの『神の眷属』でしかないんだけど、人間にとったら自分たちより上位の存在ということで、あまり違いはないのかな?


(ちょっと不思議)


 やがて、頼んだ料理がテーブルに並ぶ。


 それに舌鼓を打ちながら、今日の観光の感想なんかをみんなで話した。


 その中で、フレデリカさんが教えてくれた。


「ラプトは、実は、冒険者や行商人などに人気のようでな。そのような職種の人たちに、よく詣でられているみたいだ」


 冒険者や行商人?


(そりゃまたどうして……?)


 料理を食べる手を止めて、フレデリカさんを見つめてしまう。


 アルンのお姉さんは、


「ラプトは頑丈で、盾も使い、守りに優れた存在だったろう?」

「うん」

「その『守護』の加護を求めらるようでな。冒険者は危険な地へと赴く前に、自分たちの命を守ってもらえるように祈り、行商人は旅の無事を守ってもらえるよう祈るそうなのだ」


 へぇ……そうなんだ。


(そんな風にお参りされるなんて、なんだか本物の神様みたいだ)


 そんなことを思いながら、料理を口に運ぶ。


 モグモグ


 それを飲み込んでから、


「それじゃあ、レクトアリスの方は?」


 と聞いてみた。


 フレデリカさんは微笑み、


「『知識』や『学業』の加護を求めらているようだな。学生が試験前などによく参拝に来るそうだ。他には、学者や研究者も顔を出すと聞いているな」


(なるほど)


 僕は頷いた。


 レクトアリスは400年前にも人間の教師をしていたというし、ソルティスにも『神術』の知識を教えてあげていた。


 確かに、そうした加護にはぴったりに思える。


 ソルティスも「レクトアリスらしいわ」と笑っていた。


 だけど、そうして祀られるのはいいけれど、あの2人に、次元の違う神界からそんな加護を与える力なんて、本当にあるのかな?


 少なくとも、僕らと一緒にいた時の2人には、なかったと思うけど……?


 そう疑問を口にしたら、


「人々は本物のラプトとレクトアリスを知りませんからね。2人の力が物質的なものでなく、超常的な奇跡のように思えても仕方がないことでしょう」


 と、イルティミナさん。


 彼女は微笑み、


「人は真実ではなく、自分の信じたいものを信じるものです。それによって、心救われることもあるでしょう」

「…………」


 そっか。


(前世の世界でも、信じる者は救われる……なんて言ったっけね)


 そんなことを思い出す。


 改めて、窓から見れば、ラプトとレクトアリスの社殿には、途切れることなく大勢の人が訪れていた。


 …………。


 お参りする行為だけで、その人の心が救われるなら。


 それは、きっと良いことなのだろう。


 僕は微笑む。


「やっぱり凄いね、ラプトとレクトアリスは」


 そう呟いた。


 そんな僕のことを、みんなが見ていた。


 それからフレデリカさんが噛み締めるように「そうだな」と微笑んで、みんなも同意するように頷いていた。


 やがて、食事も終わった。


 そのあとは社務所でラプトとレクトアリスの『お守り』が売っていたので、それを買ってみたりした。


 角と3つ目のマークが入った、小さな木札だ。


(ふ~ん?)


 それを見て、なんだか笑みがこぼれてしまった。


 僕は、それを旅服の内ポケットにしまう。


 信じる者は救われる。


(守ってね、ラプト、レクリアリス)


 そんな風に心の中で呼びかける。


 見たら、ソルティスも、自分の分とポーちゃんの分のお守りを購入したりしていた。


 キルトさん、イルティミナさん、フレデリカさんの3人は、そんな僕らを見つめて、優しく笑っていた。


 そうして僕らは、アルゼウス大神殿をあとにする。


 馬車に揺られながら出発し、ふと窓から振り返れば、快晴の空の下で、ラプトとレクトアリスの社殿には、まだまだ大勢の人が参拝に訪れ続けているようだった。

ご覧いただき、ありがとうございました。


※次回更新は、来週の月曜日0時以降になります。どうぞ、よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様ですヽ(´▽`)/ 美化されたラプトの像。 もしラプト自身が見たとしたら神界で恥ずかしがって悶えると云うよりは、寧ろ「何でやねん!」って全力の突っ込みを入れてきそうな気がする(…
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