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【書籍化&コミカライズ!】少年マールの転生冒険記 ~優しいお姉さん冒険者が、僕を守ってくれます!~  作者: 月ノ宮マクラ


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058・ソルティスとお勉強

第58話になります。

よろしくお願いします。

「今夜は、これで帰る。木剣などを準備して、また明日、来るからの」


 そう言って、キルトさんは帰っていった。


(明日かぁ)


 すぐにでも始めたかったから、ちょっと残念。


 でも、今日は疲れてた。

 ギルドで冒険者登録をして、クレント村へ行き、ゴブリン討伐をして、そこから何時間もかけて帰ってきた。


(さすがに子供の体力じゃ、限界かな?)


 思った通り、その日は、布団に横になった瞬間に眠っていた。

 朝まで、目が覚めなかった。


 ――翌朝、朝食の席で、ソルティスが言った。


「これ食べ終わったら、私の部屋に来て」

「……へ?」


 ポカンとする僕とイルティミナさん。

 眼鏡少女は、ため息交じりに、


「タナトスの魔法文字について、知りたいんでしょ? キルトが来るまでに、少しやっときましょ」

「う、うん!」


 おぉ、彼女がやる気になっている!?


 僕は、勢い込んで頷く。

 そして、お礼に朝食のパンを半分千切って、彼女にあげた。「これだけ?」と言いながらも、彼女はちょっと嬉しそうな顔をして、一瞬でムシャムシャと食べた。

 ちょっと餌付けしてる気分……。


「後片付けは、私が1人でやっておきますよ」


 朝食が終わると、イルティミナさんは笑って、そう言ってくれた。


(イルティミナさんって、本当に優しいなぁ)


 感動しつつ、お言葉に甘える。

 そうして、僕とソルティスは、さっそく彼女の部屋に向かった。


 また新しい異世界の知識が学べるので、ちょっとワクワクした――。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 相変わらず、本だらけのソルティスの部屋だ。


 でも、初めて来た時と違って、床に崩れた本の山はなくなり、机の上も整理されている。そして、備えつけとは違う椅子が、もう1脚、用意されていた。


(もしかして、僕のために?)


 ちょっと驚く。


「ほら、そこ座って」

「あ、うん」


 眼鏡少女に促されて、僕は、その椅子に座った。

 ソルティスも、自分の椅子に座る。


 ……なんだろう?


 学校の誰もいない教室で、女の子と1つの机で勉強しているような、そんな妙な気分……。

 緊張とドキドキが、一緒にある。


(いやいや、相手はソルティスだよ?)


 ブンブン


 頭を激しく左右に振った。


「……何やってんのよ?」

「気にしないで。勉強に集中するための準備運動だから」

「ふぅん?」


 変な動きね、と呟いて、彼女は、机の上にノートを開いた。


(あ……タナトス文字だ)


 ノートの見開き2ページには、左上に大きなタナトス文字が1文字だけ書かれ、それ以外は、注釈のような文章が物凄く小さな文字で、みっちりと書き連ねられている。……え、何これ?

 33文字分、計66ページがそんな感じだ。


「私の研究ノートよ」

「…………」

「タナトスの魔法文字ってね、1文字に、凄く多くの意味が宿ってるの。このノートには、現状でわかっている意味と、それ以外の考察が書いてあるわ」


 僕は、ソルティスを見る。

 当たり前のように言っているけれど、これは全然、当たり前のことじゃない。


(もしかして、ソルティスって本当の天才少女?)


 今更、気づく。


「そもそも、タナトス魔法文字っていうのは、古代タナトス魔法王朝時代に使われていた言語なの。そして、文字の形、発音で、大きな力を発揮する魔法的な装置にもなっているわ」

「魔法の装置?」

「そう。組み合わせ方によって、大きな魔法が使えるの」


 僕は、今までにソルティスが使った魔法を思い出した。


 巨大な人面樹。

 7つの太陽みたいな光球。

 水の大蛇。


 他にも、回復魔法や光の鳥もあったね?


(あれが、タナトス魔法文字の力?)


 そう聞くと、彼女は頷いた。


「そうよ。ちなみに、一部は私のオリジナル」

「オリジナル……」


 うわ~、本当に天才だ。


「でもね、『組み合わせ』って複雑なの。1つでも文字が違ったり、順番が違ったり、1文字、多いか少ないだけでも、魔法の効果はゼロになっちゃう。何も起きない、何にもなし」

「へ~?」

「もっと言うと、発音のズレはもちろん、そのテンポがズレるだけでも駄目よ」


 なんだそれ?

 かなり難しいじゃないか。……しかも僕は、音痴だぞ? 


 ソルティスは、小さな指でノートを示す。


「しかも、文字の力の意味も、組み合わせ方でガラッと変わるの。火の力が水の力に、あるいは重力の力に変わったりするのよ。……一応、ここに全部書いてあるけどね」

「1文字、100以上の意味がない?」

「あるわよ。多いのだと、300ぐらい」

「…………」


 覚えられる自信がない。


「ついでに言うと、現状、わかっている奴だけだからね。将来、また新しい力が解明される可能性は大きいんだから」

「…………」


 僕は、遠い目になった。


「こんな1文字にたくさん意味があって、タナトス魔法文字の文章って、翻訳できるの?」

「素人には無理ね」


 きっぱり言われた。

 ……そっか。


(ムンパさんに頼んで、大正解だった気がする)


 最初、1人でも調べようとか思ってた自分は、とんでもない浅はかさだ……。


「辞典あるから、調べるなら貸そっか?」

「ん……一応、借りとく。ありがと」


 ソルティスが見せた国語辞典みたいな奴を、受け取る。

 せめて、アルドリア大森林の塔で、イルティミナさんが教えてくれた『ラー』、『ティッド』、『ムーダ』の3文字の意味ぐらいは、調べておこう。


(それにしても、魔法かぁ)


「あのさ、ソルティス?」

「ん?」

「……僕にも、魔法って使える?」


 思い切って、聞いてみた。


(だって、せっかくファンタジー世界にいるなら、やっぱり使ってみたいよね?)


 多分、これは転生者の夢だ。


 でも、現実は厳しい。


「無理じゃない?」

「…………」

「マールは、『魔血の民』じゃないから、全然、魔力なさそうだし」


 そう言いながら、彼女は、白い手のひらを僕に向ける。


 う?

 なんか、風みたいなのを感じた。


「駄目ね」

「駄目なの?」

「うん、血の魔力が足りないわ。そうね、私の魔力が100だとすると――」


 そして教えてもらったのは、


 ソルティス、100。


 イルティミナさん、90。


 キルトさん、70。


 魔血の民、50以上。


 魔血の民じゃない魔法使い、20~30。


 普通の人、1~10。


 で、


「マールは、3ね」

「…………」


 3。

 普通の中でも、低い方だ。


「ほ、本当に無理?」

「まぁ、訓練で多少は増えるけど、10は無理でしょ」

「…………」


 言葉もない僕に、ソルティスは言う。


「空気を吸って、血の中に酸素を取り込むように、空気の中の魔素を吸って、血の中に取り込んだのが、魔力。その許容量が、マールは少なすぎるわ。でも、これは生まれながらの『資質の問題』だからね」

「…………」

「魔法を使えば、血の中の魔力を一気に消費する。でも、血の中の酸素がなくなれば、人は酸欠で死ぬでしょ? 同じように、血の中の魔力が突然なくなれば、人は魔欠症で死ぬわ。死ななくても、脳にダメージが残るかも」

「…………」

「だから、マールに魔法は、おすすめしないわ」


 ……そっか。


(僕のファンタジー世界の野望は、潰えたのね……しくしく)


 よほど落ち込んだ顔だったのか、ソルティスは、少し困った顔になる。

 唇を尖らせて、


「……まぁ、微回復や光鳥ぐらいなら、できるかもだけど」

「本当!?」


 ガバッ


 顔を上げ、ソルティスに肉薄した。


 ソルティスは驚き、「ち、近いわよ!」と僕を突き飛ばす。あ、ごめん。

 彼女は、なぜか顔を真っ赤にして、コホンと咳払い。


「でも、1日1回だけよ? それ以上は、本当に死ぬからね?」

「うん!」


 1回でも使えるなら、嬉しいよ!

 僕の笑顔に、眼鏡少女は、長くため息をこぼした。


「じゃあ、対応するタナトス魔法文字と発音、教えるから」

「あ、その前に」


 僕は手を上げて、それを遮る。

 ソルティスは、「何よ?」という顔でこちらを見る。


「そもそも魔力って、どうやって使うの?」

「…………」


 うわ~。

 呆れたあと、とても残念な子を見る目で見つめられてしまった。


「マール、強く生きて? ……死んじゃ駄目よ?」

「死なないよ!?」


 思わず、突っ込んだ。


 そして僕は、冒険者印を出すためには、グルグルしないといけないことも説明する。

 実演もしてみた。


 僕の手にある、赤い魔法の紋章を見ながら、 


「……初めて見たわ、そんな、だっさ~いやり方」

「……うぐぅ」


 悔しげな僕に、ソルティスは、なぜか満足そうに笑う。

 でも、すぐに真面目な顔になって、


「っていうか、そもそもマールは、自分の魔力を感じたことがなさそうね?」

「……うん?」


 確かにない、けど。


 彼女は、紫色の2つのおさげ髪を揺らしながら首を傾け、腕組みしながら考える。

 やがて、「しょうがないか」とため息をこぼして、


「ほら、マール」


 彼女の小さな左手が、僕の右手を握った。


(え?)


「私が、アンタの魔力をコントロールしてあげるから、まず、その魔力の感覚を覚えて」


 そして、反対の手も繋がれる。

 眼鏡の奥の目が、ゆっくりと閉じていく。


「え? あの、ソルティス?」

「ほら、呼吸を合わせて?」

「…………」


 小さな、でもふっくらした唇が、息を吐く。

 合わせて、幼い胸も上下する。


 呼吸を合わせようと、僕も息を吸う。


(……ソルティスって、バニラみたいな甘い匂いがして、なんか美味しそうだね?)


 触れ合う手のひらは、とても熱い。


「……ちょっと照れるね?」

「だぁぁ! そういうこと、言うな~っ!」


 怒られた。

 ご、ごめん。


 ソルティスは、赤くなった幼い美貌で、「真面目にやんなさいよ!?」と僕を睨む。

 でも、その上目づかいも、可愛い。


(……美人なんだよなぁ、ソルティス) 


 悔しいけど。

 だけど黙っていたら、深窓のご令嬢にもなれそうなぐらい、端正な顔だ。


「ほら、行くわよ?」


 ご令嬢が言う。


 その瞬間、僕の右手が、とても熱くなった。


(う……?)


 その熱は、身体の中を流れて、左手から抜けていく。


 まるでお湯だ。

 血管の中を、熱い湯が流れているようだった。それが僕とソルティスの間を、円を描くように動いてる。


「わかる?」


 ソルティスが、紅潮した頬で言う。

 僕は、頷いた。


「うん、凄く熱い」

「そ。それが、アンタの中にある魔力よ」


 これが……魔力。


「その流れる感覚と、熱さを忘れないで。その流れを、今度は、右手に集めるわ」

「う、うん」


 途端に、お湯が右手に流れていき、熱い熱い。


 ボウッ


 冒険者印も、勝手に浮かび、赤く輝きだした。


「いい? そのまま意識してて。私は、手を離すわよ?」

「わ、わかった」


 そして、ソルティスの手が離れていく。


(あ……流れが揺らいでる?)


 慌てて、僕は、消えそうな流れを意識する。


 冒険者印の輝きは、少し弱くなった。

 でも、消えない。


「お? やるじゃない、マール」


 ソルティス、ちょっと感心した顔だ。


(でも、感覚が消えていく……雪が溶けるみたいだ)


 30秒ぐらい粘ったけど、消えてしまった。

 僕は、大きく息を吐く。


「……駄目だぁ」

「何、贅沢、言ってんの? 初めてなら、上出来よ」


 ソルティスは、褒めてくれる。


(そ、そう?)


「これからは毎日、暇な時にでも、印を出す練習するのよ? 今の感覚を忘れないように」

「うん、わかった」


 僕は頷き、


「1人で駄目だった時は、また手を繋いでもらえる?」

「…………。ま、いいけど」


 やった。


「ありがと、ソルティス」

「ふん。お礼はいいから、さっさと覚えなさいよ? そしたら次は、魔法の使い方を教えてあげるから」

「うん」


 口は悪いけど、本当に優しい子である。


 そして、そのあと、僕はソルティスの前で何回も練習して、何度も彼女と両手を繋ぐことになった。


「しょーがないわね!」


 文句は言われたけど、あんまり彼女も嫌そうに感じなかったのは、気のせいかな?


 やがて、10回に1回は成功するようになった頃、


 コンコン


 部屋の扉がノックされ、イルティミナさんが僕らを呼びに来た。


 そして、階段を下りる。

 玄関には、片手を腰に当て、もう片方の手に2本の木剣を持った、銀髪をポニーテールにした美女が立っていた。


「待たせたの、マール。稽古に来てやったぞ?」


 頼もしく笑う、キルトさん。


 ――そうして午後からは、僕の剣の稽古が始まった。

ご覧いただき、ありがとうございました。


※次回更新は、明後日の金曜日0時以降になります。よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] >(……ソルティスって、バニラみたいな甘い匂いがして、なんか美味しそうだね?) 最初、ニラみたいな匂い、と読み間違えて二度見しました。
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