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【書籍化&コミカライズ!】少年マールの転生冒険記 ~優しいお姉さん冒険者が、僕を守ってくれます!~  作者: 月ノ宮マクラ


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510・草原の精霊さん

第510話になります。

よろしくお願いします。

 本格的な夏も近づくある日、僕とイルティミナさんは、王国の北西部にある1つの街を訪れていた。


 いつものように討伐クエストのためだ。


 この街近郊の山岳地帯に出没するようになった『死巨象』という魔物を討伐するのが、今回の任務なんだ。


 といっても、


「それほど強い魔物ではありませんよ」


 と、イルティミナさん。


 ただ、街の近くで群れとして目撃されたので、緊急性があるとして『金印の魔狩人』が派遣されたんだ。


 街に着いたのは、午後だった。


 それから、街長に詳しい経緯や魔物の出現場所などを確認して、気がついたら、もう日暮れだった。


「今日は街に1泊して、明日、動きましょう」

「うん」


 自分の奥さんの提案に、僕は頷いた。


 …………。


 宿屋を見つけて、3階部屋へと案内される。


 なかなか広くて、清潔な良い部屋だ。


(ベッドもいいね)


 柔らかくて弾力もあり、寝心地も良さそうである。


 窓も大きくて、カーテンを開けると、街の景色や宿の裏手にある公園などが見渡せた。


(ん?)


 その公園の一角を、犬たちが走っていた。


 近くには、飼い主さんらしい人たちの姿も見えている。


 ドッグランだ。


(へぇ、この世界にも、そういう場所があるんだね)


 芝生の上を走り回る犬たちは、元気いっぱいで、とても気持ちが良さそうだった。


 ……いいなぁ。


 自分も『かみいぬ』だからか、そう思ってしまった。


 飼い主さんには、家族となったペットの心身をリフレッシュさせる義務がある。時に、こういう場所でその能力を解放させるのは、大事なことなのだろう。


(ペットか……)


 僕は、ペットを飼っていない。


 むしろ、僕自身がイルティミナさんのペットみたいで……って、いやいや、あはは。


 でも、僕にも、頼もしい家族みたいな仲間がいた。


 チラッ


 僕は、視線を左腕の『白銀の手甲』へと向けた。


 精霊さんだ。


 僕は、ここに宿った『大地の精霊』さんの主人だった。


「…………」


 そういえば最近、精霊さんを呼んでいないなぁ。


 僕自身、それなりに強くなってきたからか、精霊さんに助けてもらう機会は少なくなっていた。


 それに精霊さんは強いから、僕がもっと強くなるためには、あまり精霊さんに頼らないようにしなければと意識していたのもある。


 あるけれど、


(精霊さんも、もっと外に出たかったかな?)


 そう思ってしまった。


 ワンワン ワンッ


 夕暮れのドッグランでは、飼い犬たちが元気いっぱいに芝生の大地を全力で走っていた。


「マール?」


 イルティミナさんが声をかけてくる。


 見れば、彼女はすでに装備を外していて、リラックスした格好だった。


 おっと……。


 僕も、自分の装備を外していく。


 カチャッ


 最後に『白銀の手甲』のベルトを緩めて、それを他の装備と一緒に丁寧に棚へとしまった。


「…………」


 ちょっと見つめてしまった。


 それから僕は、夕食を取るために、イルティミナさんと一緒に宿のレストランへと向かった。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 翌日、僕らは、街近郊の山岳地帯へとやって来た。


 灌木が多く、岩肌の多い地形だ。


 そこにある湖の畔に、体長10メード近い巨大な6本足の象たちが集まっているのを発見した。


 あれが『死巨象』だ。


 名前は象だけど、肉食で、非情に好戦的な魔物だ。


 大食漢なので、周辺の動物が食い散らかされ、たまに生態系にも影響を与えてしまうそうだ。


「いきますよ」

「うん」


 木の陰に隠れて、僕らは頷き合う。


 そして僕は飛び出して、手にした『大地の剣』の剣先を地面へと突き刺した。


大地の破角(アースホーン)!」


 神気を流し、詠唱する。


 発動した魔法の力は、大地を伝わり、集まった『死巨象』の群れの真下地点で集束した。


 ズドドン


 飛び出した5メードほどの無数の黒い角が、魔物たちの肉体を貫く。


 水を飲んでいた2体は、頭部を貫かれ、絶命。


 残った魔物たちも、太い足や胴体を貫かれ、その場で動きを封じられてしまった。


『パォオオオッ!?』


 山間に、激痛の悲鳴が響く。


 そして、そんな動きの止まった巨大な魔物たちに対して、イルティミナさんは情け容赦なく『白翼の槍』による砲撃を開始した。


 ドパァン ドパァン


 次々と頭部が爆散し、巨体が地面に倒れていく。


 …………。


 1分後、動いている魔物は、どこにもいなくなった。


 大量の紫色の血液が湖に流れ込み、ゆっくりと広がっていく。


(ふぅ……)


 今回の討伐も、無事に達成できたみたいだ。


 イルティミナさんも「お疲れ様でしたね、マール」と微笑んで、僕の髪を撫でてくれる。


 僕も笑った。


 討伐証明の部位となる『長い鼻』を回収して、そのまま僕らは下山した。


 半日ほどかけて、街に向かう。


 その途中、広い草原があった。


 遠くには森と、僕らがいた山岳地帯が見えていて、反対方向には、かすかに目指している街が見えていた。


 …………。


 ふと、昨日、見たドッグランを思い出した。


(うん)


 1つ、思いついた。


 でも、先に報告があったので、そのまま街へと帰ることにした。


 街長に報告して、討伐証明の部位を確認してもらい、あとで冒険者ギルドに提出する『討伐証明書』などの書類を発行してもらう。


 終わったら、やっぱり夕方だ。


 昨日泊った宿屋に、今日もお世話になることにして、同じ部屋に案内された。


 キュッ キュッ


 夕食後、僕はベッドに座って『白銀の手甲』を布で拭く。


 優しく、丁寧に。


 ジジ ジジジ……ッ


 心地よさそうな音色が聞こえて、僕は微笑んでしまった。


 それから、もう1つのベッドに座って、書類の確認をしていたイルティミナさんに声をかけた。


「ねぇ、イルティミナさん?」

「はい?」


 顔をあげる彼女に、


「明日なんだけど、帰る前にちょっと寄り道していってもいい?」


 そう聞いてみる。


 イルティミナさんは驚いた顔をしていたけれど、


「いいですよ。思った以上に早く討伐が終わりましたので、日数的には、まだ余裕がありますからね」


 と、微笑んでくれた。


(よかった)


 わがままを許してくれた奥さんに、僕は笑って「ありがと」とお礼を伝えたんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 翌日、僕とイルティミナさんは、昨日の帰り道に通った広い草原へとやって来た。


 広い空間。


 他に誰の目もない。


(うん、ちょうどいいよね)


 僕は頷くと、左腕に装備している『白銀の手甲』を、青い空に向かって高く掲げた。


「精霊さん、おいで!」


 大きな声で呼びかけた。


 次の瞬間、


 ジ、ジガガァア……ッ


 手甲に填められた魔法石が強く輝き、そこから『白銀の鉱石』が溢れ出して、体長5メードもある巨大な狼の姿を形作った。


 太陽光に、白銀の毛が輝く。


 太い尾は3本も生えていて、それは、ゆっくりと左右に揺れていた。


 ジジジッ


 震える音色を響かせて、『白銀の狼』は紅い瞳を細めると、その鼻っ面を僕に押し付けてくる。


「あはは」


 僕は笑いながら、精霊さんの頭を撫でた。


 よしよし。


 精霊さんに会うのも久しぶりだ。


 その存在は、常に左腕に感じていたけれど、こうして触れ合うことはしばらくなかったんだ。


(あったかいな)


 冷たい鉱石の毛なのに、奥にちゃんと体温がある。


 精霊さんを可愛がる僕と、僕に甘える精霊さんを眺めて、イルティミナさんは優しく真紅の瞳を細めていた。


 …………。


 一通り撫で回して、僕は言った。


「さぁ、精霊さん! ここなら誰にも遠慮はいらないから、自由に駆け回っていいよ!」


 ジジ……ッ


 でも、精霊さんは動かず、僕を見つめている。


(あれ?)


 きっと喜んで走り出すと思ってたんだけど、違ったのかな?


 困惑していると、


「この子は『精霊』ですから、犬のように走り回りたいという欲求はないのではありませんか?」


 と、僕の奥さん。


(え?)


 そ、そうなの?


 僕は、精霊さんを見つめた。


 精霊さんの表情は変わらなかったけれど、その瞳には、困ったような感情があるみたいだった。


 …………。


 そ、そっかぁ。


 僕は自分の浅はかさを自覚して、ガックリと肩を落としてしまった。


 ジジ……ッ


 そんな僕を見かねたのか、精霊さんが鼻先を押し付けてくる。


「あはは……ごめんね」


 精霊さんのことを勝手に判断して、その本心もわからないなんて……僕は、主人失格だ。


 そう思いながら、顔を撫でる。


 と、その大きな口が開いて、パクッ……と僕の身体を咥えた。


(へっ?)


 突然の行為に、僕は驚き、見ていたイルティミナさんも目を丸くしている。


 加減されているのか、痛みはない。


 けど、身体が固定されて動けない。


 次の瞬間、精霊さんは、太い首を振り上げて、僕の身体を上空へと放り投げた。


 ポ~ン ドサッ


 わっ?


 落ちたのは、精霊さんの背中だった。


「せ、精霊さん?」


 ジ、ジジジッ


 驚く僕を乗せて、精霊さんは草原をゆっくりと歩きだした。


(わ? わ?)


 結構、揺れる。


 慌てて、その逞しい首に縋りつくと、それを待っていたかのように、精霊さんは速度を上げて走り出した。


 ズダダダ……ッ


 速い、速い!


 風を切って走るその速度は、時速80キロ以上は出ていそうで、周囲の景色は一気に後方へと流れていく。


(おおお……っ)


 ちょっと怖い。


 でも、吹き抜ける風が気持ちいい。


 ジガァアッ


 精霊さんが吠えた。


 まるで僕に『楽しいか?』と問いかけているみたいだった。


(……精霊さん)


 僕は、優しい精霊さんに胸が熱くなった。


 パンパン


 その首を強めに叩いて、しっかりと身体を固定する。


 笑って、


「うん、楽しいよ! もっと速く! もっと飛ばして!」


 ジ、ジガァアッ


 僕の言葉に、精霊さんは『任せろ!』とでも言うように音色を響かせ、更に速度を上げて草原を走り抜けていく。


(うわぁ!)


 怖くて楽しい。


 まるで、自由に走るジェットコースターだ。


 遠くになったイルティミナさんが微笑みながら、走る僕らに向かって、その白い手を振ってくる。


 僕も笑って、そちらに手を振り返した。


 ザザザッ


 千切れた草が舞い上がり、風に踊る。 


 太陽の輝く青空の下で、美しい『白銀の狼』は僕を乗せたまま、縦横無尽に緑の草原を走り回った。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 気がついたら、1時間以上が経っていた。


 せっかくなので、精霊さんには、その背中に僕ら夫婦で乗らせてもらったり、イルティミナさんだけを乗せてもらったりもしてみた。


 ちょっと興味があったので、イルティミナさんと精霊さんで『鬼ごっこ』もしてもらった。


「マールの頼みなら」


 と、僕の奥さんも快諾。


 イルティミナさんも凄く足が速いんだけど、さすがに精霊さんの方が走る速度は上だった。


 すぐに追いつかれて、でも、そこからのイルティミナさんが凄い。


 シュッ ヒュン ヒョイ


 精霊さんが触れようとしても、それを全てかわしてしまうんだ。


(うわぁ……)


 凄まじい瞬発力。


 半径1メードの範囲なら、イルティミナさんの方が速いみたいで、これには精霊さんも驚いた様子だった。


 …………。


 そんな感じで、あっという間の1時間だった。


 ちょっと休憩ということで、精霊さんは、広い草原のど真ん中に、その白銀の鉱石でできた巨体を横たわらせて、半円を描くように寝そべった。


 そのお腹を背もたれに、僕とイルティミナさんも座らせてもらった。


 僕ら夫婦は、まるで親犬のお腹にくっつく子犬みたいだ。


(なんだか、心地好いな)


 青い空からは、夏間近の太陽が降り注ぎ、周囲の風景も生命力に満ちているように感じる。


 イルティミナさんも穏やかな表情だ。


 僕は、精霊さんのお腹を撫でてやる。


 鉱石の毛並みは、ちょっと硬くて、でも艶やかで触り心地も滑らかだ。


 ジジ……ジ


 精霊さんも、気持ち良さそうな音色を響かせている。


 思えば、精霊さんと戦闘以外でこうして会うのは、初めてかもしれない。


(……もっと会えば良かったな)


 そう思った。


 これからは、もう少し暇があったら呼びだすことにしよう。


 まぁ、体長5メードもあるんで、呼びだす状況や環境は考えないといけないだろうけどね。


 そうして過ごしていると、


 ジジッ


 不意に、目を閉じてリラックスしていた精霊さんが、その大きな頭部を持ち上げた。


(ん?)


 紅い瞳は、上空を見ている。


 その視線を追いかけると、青い空をキャンバスにして、地上から20メードほどの高さに『青い球体』が浮かんでいるのが見えた。


 1メードほどの球体で、表面が揺れている。


 水の塊?


 そんな印象だった。


 同時に、僕の中の感覚が訴えてくる。


(あれは……精霊?)


 不思議とそう気づいた。


 その『水の精霊』らしき存在は、音もなく上空を漂いながら、こちらに近づいてくる。


 イルティミナさんも気づいて、


「あれは……?」


 と、怪訝そうに真紅の瞳を細めた。


 ジジ……ッ


 精霊さんが立ち上がる。


 その瞬間、『水の精霊』の表面がボコボコと沸騰したように震えて、無数の棘が生えた。


 キュボッ


 その1本がこちらへと、投擲された槍のように飛び出してくる。


(えっ?)


 精霊さんが跳ね上がるように動き、その『水の槍』を噛み千切った。


 バシャン


 水滴が弾け、陽光に煌めく。


 イルティミナさんも驚いたように僕を抱きしめながら立ち上がり、片手で『白翼の槍』を構えた。


 カシャッ


 翼飾りが開き、内側の紅い魔法石と美しい刃が露出する。


(……今、攻撃された?)


 遅ればせながら理解して、すぐさま僕も『大地の剣』と『妖精の剣』を両手に握り、鞘から引き抜いた。


 ジジガアアッ


 白銀の美しい精霊獣が、威嚇するように咆哮する。


 空気が爆ぜ、草原が激しく揺れた。


 けれど、上空にいる『水の精霊』は、まるで変化を見せず、風船のようにプカプカと浮かんだまま、こちらへと接近してくるのだった。

ご覧いただき、ありがとうございました。


※次回更新は、来週の月曜日0時以降になります。どうぞ、よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様ですヽ(´▽`)/ 半ば忘れ去られていた『白銀の手甲』の精霊、久し振りの登場。 ……偶には構ってあげるのも大事って事ですね( ^ω^ ) [一言] 出オチにしかならなかった『死…
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