501・奥さんからの思わぬ提案
皆さん、こんばんは。
月ノ宮マクラです。
今話にて、今年の更新も最後となります。どうか最後まで楽しんで頂けましたら幸いです♪
それでは本日の更新、第501話です。
どうぞ、よろしくお願いします。
その夜は心配になったので、僕は『大地の剣』を握ったまま、自室のベッドに横になった。
何事もなく、朝は来た。
チチッ チュンチュン
庭木にとまった小鳥たちの鳴き声が聞こえる。
「…………」
窓から青い空を見上げて、僕は考える。
(昨日のあの視線は、何だったんだろう?)
やっぱりあれが、ソルティスの言っていた視線や気配だったのかな。でも、それなら、昨日はなぜ僕を?
……わからない。
でも、あの視線は、あまり良くないものの感じがした。
「何とかしたいな」
あの視線にソルティスが付け狙われているとしたら、どうにか解決したかった。
そう思いながら、自室を出る。
階下に降りると、部屋の明かりはついておらず、まだイルティミナさんが帰っていないことがわかった。
1人で朝食の準備。
(…………)
台所って、こんなに広かったっけ?
そんな風に思いながら、簡単にベーコンエッグと野菜炒めとスープを作って、パンと一緒に食べた。
モグモグ
なんか味気ない。
僕の料理の腕が悪いのか、それとも1人だからか……ちょっとわからない。
……ちょっと寂しいな。
ふと広いリビングを眺めて、僕はそう思ってしまった。
朝食の後片付けをして、洗濯、掃除などをしている内に、日も高く昇って午前11時ぐらいになった。
カチャッ
ソファーでくつろいでいると、玄関で音がした。
「ただいま帰りました」
(!)
大好きな人の声に、僕はピョンと立ち上がる。
玄関へと向かえば、そこには、急いでやって来た僕に驚き、すぐに優しく笑ってくれるイルティミナさんの姿があった。
「ただいま、マール」
柔らかな声。
外からの光に、長い緑色の髪がキラキラと艶やかに輝いて見える。
僕は、自分の心の芯が温かくなるのを感じながら、「おかえり、イルティミナさん」と微笑みをこぼした。
◇◇◇◇◇◇◇
「ソルティスの様子はどう?」
リビングに戻ると、彼女は帰ってきたばかりだというのに、すぐに紅茶を淹れてくれて、2人の時間を作ってくれた。
一緒にソファーに座りながら、僕は問いかける。
イルティミナさんは微笑んで、
「おかげ様で、落ち着いたようです。夜も久しぶりに同じ部屋で眠ったのですが、よく眠っていましたよ」
そっか。
やっぱりイルティミナさんがいたことで、ソルティスも安心したんだね。
(よかった)
僕も笑った。
それから、一応、確かめるために質問した。
「イルティミナさんは、今日、この家まで帰ってくる時に何もなかった?」
「?」
彼女は、キョトンとした。
その反応を見るに、僕みたいに誰かの視線を感じたりはしなかったみたいだ。そのことにも、僕は安心してしまう。
ホッと息を吐く僕に、イルティミナさんは首を傾ける。
その綺麗な真紅の瞳が、僕の顔を覗き込んできて、
「……もしや、何かありましたか、マール?」
そう聞いてきた。
(鋭い)
さすがイルティミナさんだと思いながら、僕は、情報共有のためにも昨日の帰り道のことを話した。
彼女は驚いた顔をする。
「まさか、マールのことを?」
「うん」
僕は頷いた。
「気のせいじゃないと思う。だけど、振り返ってみても誰もいないんだ。ソルティスが言ってた通りでさ」
「…………」
「それと、あまりいい視線に感じなかった」
少しだけ警戒を滲ませた声で、そう伝えておく。
だから、ソルティスのためにも早く解決してあげたい――そう意思を込めたつもりだったけど、イルティミナさんは勘違いをしたみたいだった。
その白い手が伸びてきて、
ギュッ
僕の頭は、突然、その胸に挟まれるように抱きしめられた。
(わっ?)
驚く僕の髪を、イルティミナさんの手が優しく撫でる。
「ごめんなさい、マール。私がそばにいないことで、怖い思いをさせましたね。でも、もう大丈夫ですからね?」
甘やかな声。
僕は目を丸くしてしまったけど、その慈愛に満ちた声と手の動きに、
「……うん」
ついまぶたを閉じて、頷いてしまった。
…………。
それからしばらく、イルティミナさんは僕の髪を撫でながら、優しく抱きしめ続けてくれた。
温かくて心地好い。
僕がそれに浸っている間、彼女は何かを考えている様子だった。
「もしかしたら……」
ん?
小さな呟きをこぼしたイルティミナさんを、僕は見上げた。
彼女の瞳も、こちらを見る。
「マール、私に1つ考えがあります。そこで頼みがあるのですが、よろしいでしょうか?」
「頼み?」
思わず聞き返す。
けど、もちろんイルティミナさんの頼みなら断る気なんてない。
「うん、いいよ」
僕は、素直に頷いた。
彼女は嬉しそうに「ありがとう」と微笑みをこぼす。
そして、僕のお嫁さんは言った。
「では、明日からしばらくの間、マールはソルティスの恋人となってあげてください」
…………。
……ほえ?
ご覧いただき、ありがとうございました。
これにて、2021年のマール達の物語も終わりとなります。読んで下さった皆さん、本当にありがとうございました!
次回の更新は、来年の1月10日(月)に再開予定です。
もしよかったら、またご覧になってやって頂ければ幸いです♪
それでは皆さん、どうか良いお年を~!




