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【書籍化&コミカライズ!】少年マールの転生冒険記 ~優しいお姉さん冒険者が、僕を守ってくれます!~  作者: 月ノ宮マクラ


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498・歩みゆく日々

第498話になります。

よろしくお願いします。

 リカンドラさんと戦った日は、キルトさんも休息を取った。


 明日には、また旅立つそうで、その夜はまたお別れ会といった感じで、僕ら5人はキルトさんの部屋で過ごしたんだ。


 食後のお茶を飲みながら、


「リカンドラの動きは、あまり参考にし過ぎるな」


 と、キルトさんに言われた。


(え?)


 驚く僕。


 キルトさんは、琥珀色のお酒の入ったグラスを傾けながら、


「あれは『魔血の民』だからこその動きじゃ。そして、その速さを計算した上で立ち回っておる。動きだけ真似ては、意味がない」

「…………」


 そ、そうなんだ?


 いくら正確に真似られても、速さが足りなければ通じない……ってことだね。


(じゃあ、どうすればいいんだろう?)


 悩む僕だったけれど、キルトさんにはお見通しだったようだ。


「我流を身につけよ」


 と一言。


「我流?」

「そうじゃ。そなたの剣の先を歩む者は、もはや誰もおらぬ。そなた自身が試行錯誤し、鍛錬を重ねながら、目指す剣技を見つけ出すのじゃ」

「…………」

「わかったの?」

「うん」


 僕は頷いた。


 キルトさんに教わった剣技を土台に、僕は、僕だけの『マールの剣技』を見つけなければいけないんだ。


(……大変そうだね)


 でも、これまでの多くの剣士が、そしてキルトさんが通って来た道だ。


 僕もがんばろう!


 1人、拳を握り締めて決意する。


 そんな僕に、キルトさんは笑って、


「イルナ。時間があれば、マールに稽古をつけてやってくれ。試行錯誤するコヤツの剣技を、そなたが採点してやって欲しいのじゃ」


 と、僕の奥さんに頼んだ。


 イルティミナさんは微笑んだ。


「マールのためになるのならば、もちろんです」


 そう言ってくれた。


(イルティミナさん……)


「ありがとう」


 僕は万感の思いを込めて、言う。


 イルティミナさんは優しく笑い、緑色の綺麗な髪を柔らかく揺らしながら、「いいえ」と首を振った。


 ソルティスとポーちゃんは、そんな僕らを見ながら、食事を続けている。


 そして、


「そういえば、イルナ姉とリカンドラは、どっちが強いのかしら?」


 ソルティスが、ふと思い出したように呟いた。


(ん?)


 僕らの視線が集まる。


 パクッ モグモグ


 彼女は、肉を一切れ、口に運びながら、


「リカンドラよりキルトが強いのはわかったけど、イルナ姉とはどうなのかなって、ちょっと気になったの」


 と言った。


 僕らの視線は、イルティミナさんとキルトさんに集まる。


 イルティミナさんは、少し驚いた顔をしていたけれど、実際に手合わせしたキルトさんの方を確かめるように見た。


 キルトさんは、


「今は、まだイルナかの」


 と答えた。


(……今は?)


 その言い方が、ちょっと気にかかる。


「2人とも速さを身上とした戦いが得意のようじゃが、今はイルナの方が経験を重ねている分、応用力が高い。ゆえにイルナの方が上じゃろう」

「…………」


 じゃあ、リカンドラさんも経験を積んだら……?


 その問いに、


「イルナは負けるかもしれぬ。それほどに、エルの弟には才がある」


 と、キルトさんは笑った。


 …………。


 僕は、ちょっと笑えない。


 勝手かもしれないけれど、イルティミナさんには、キルトさん以外に負けて欲しくないな……なんて思っていた。


 これまで僕は、ずっと彼女の『強さ』を見てきた。


 その努力も。


 そのがんばりも。


 それが負けてしまうのは、ちょっと悔しいと思ってしまったんだ。


 でも、イルティミナさんは、


「そうですか」


 と、落ち着いた表情で頷いていた。


 それから僕の視線に気づいて、小さく苦笑する。


「私も負けるつもりはありませんが、それが事実ならば仕方ありません。他人と比べる前に、私は私なりに精進を重ねていくのみでしょう。その現実を受け止めるのみです」

「…………」


 ……そっか。


 イルティミナさんは大人だね。


 自分にできることをしっかりがんばろうとする彼女は、とても素敵に思えた。


 キルトさんは苦笑する。


「イルナには、マールがいるからの。その存在が、イルナの心を支えておるのじゃて」


 そうなの?


 僕はイルティミナさんを見る。


 彼女は「はい」と美しく微笑み、頷いた。


(そっか)


 それが嬉しかった。


 ソルティスは「はいはい、ご馳走様」と見つめ合う僕ら夫婦に、小さく肩を竦めている。


 隣でポーちゃんも、その仕草を真似していた。


 それに、僕らは笑ってしまった。


 そうして、その夜の僕ら5人の食事会も、和やかに過ぎていったんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



「では、の」


 翌朝、日の出と共に、キルトさんは旅立っていった。


 いつものように。


 ちょっと出かけてくるといった雰囲気で、冒険者ギルドの前の通りを歩き去っていく。


 僕ら4人は、それを見送った。


(またね、キルトさん)


 そのあとは、僕らも旅立ちの用意をし始めた。


 魔狩人である僕らにも、受けるべき討伐クエストが待っていて、それぞれの現地に向かう必要があったんだ。


 僕らは、西方の山岳部。


 ソルティスたちは、北部の森林だって。


「そっちもがんばってね、イルナ姉、マール」

「…………(ペコッ)」


 先に準備を終えた2人は、そう言って、冒険者ギルドを出ていった。


 15分ほど遅れて、僕らの受注手続きも完了する。


「では、行きましょうか」


 イルティミナさんが微笑んだ。


「うん」


 僕は頷く。


 2人で、王都の乗合馬車の乗降場に向かって、竜車をチャーターして現地へと出発した。


 …………。


 …………。


 …………。


 5日後、僕らは、目的の山岳部へと到着した。


 木々もまばらな、岩と砂利だらけの山脈が、僕ら2人の目前に広がっていた。


 天気は快晴だ。


 青い空に、灰色の斜面が際立っている。


 ここに『鮮血の大邪虎(ブラッディ・タイガー)』と呼ばれる凶悪な魔物が生息しているんだって。


 それが人里に近づく前に、討伐する必要があるんだ。


 ジャリッ


 硬い足場を踏みしめて、イルティミナさんは1歩を踏み出すと、僕を振り返った。


「がんばりましょう、マール」


 そう微笑む。


 僕も笑って、頷いた。


「うん」


 そうして僕らは、巨大な岩山の斜面を登っていった。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 山岳地は広くて、魔物を見つけるのに時間がかかった。


 イルティミナさんの魔狩人としての観察眼が、小さな魔物の痕跡を見つけて、僕も鋭い嗅覚を使って、その残り香を追跡した。


 追いついたのは、2日後だ。


「いました」


 風上からそれを発見し、イルティミナさんは短く告げる。


 僕も見ていた。


 山岳部の崖下の斜面、そこに4体の『鮮血の大邪虎(ブラッディ・タイガー)』の姿があったんだ。


 でも、その内の3体は、とても小柄だった。


(子供!?)


 その事実に、ショックを受ける。


 魔物だって、子孫を残すために繁殖するのは当然だろう。


 だけど、子供だ。


 親らしき魔物と比べて、それはまさに仔猫サイズ――まだ赤ん坊だった。


 イルティミナさんは、僕の様子に気づく。


「情けは無用です」


 凛とした魔狩人の声で。


「見逃せば、あの3体は成長し、やがて人を襲う魔物となるでしょう。その未来で殺される人々を、私たちは守らねばなりません」

「……うん」


 頭では、わかっている。


 見逃しても、あの魔物の子供たちは恩義なんて感じない。


 むしろ、その親を殺すのだ。


 人間を恨み、成長することはあっても、その逆はあり得ない。


(……あの子たちが、悪いわけじゃない)


 でも、僕らは自分たちの守るべきもののために、お互いを殺し合う関係なんだ。


 僕は目を閉じて、深呼吸。


 そして、青い瞳を開く。


「ごめん、イルティミナさん。大丈夫」


 僕は言った。


 イルティミナさんはそんな僕をしばらく見つめ、「はい」と頷いた。


 それから、


「では、参りますよ」

「うん」


 僕らは覚悟を定め、眼下の魔物たちへと襲いかかった。


 …………。


 …………。


 …………。


 討伐は、あっけないほど簡単に終了した。


 初手でイルティミナさんの放った『白翼の槍』が命中し、その不意打ちで親である魔物を絶命させた。


 残された3体は、混乱し、恐怖していたのか、死んだ親のそばを離れなかった。


「…………」


 その命を、僕の『大地の剣』とイルティミナさんの『白翼の槍』は、簡単に奪った。


 それで、おしまい。


 4体の魔物たちは死んで、僕らのクエストは完了だ。


 討伐の証は、真っ赤な血みたいな牙。


 それを見つめ、そして僕の手は、それを強く握り締める。


 そんな僕の姿を、イルティミナさんは、少しだけ悲しそうに見つめていた。



 ◇◇◇◇◇◇◇



「今回は辛い思いをさせてしまいましたね、マール」


 クエスト完了後、近くの町の宿に泊まって、一緒のベッドに寝ている時に、イルティミナさんがそう言った。


(え?)


 僕は驚く。


 そんな僕の頭を、イルティミナさんの両手が抱きしめる。


 ムギュッ


 柔らかな弾力が、僕の顔を包み込んだ。


 わわっ?


 慌てる僕の耳に、彼女の声が響く。


「貴方は、とても優しい子。今回は、私が1人で魔物を全て狩っておくべきだったかもしれません」


 それは、少しだけ後悔の滲んだ声だ。


(……イルティミナさん)


 モゾモゾ


 僕は、何とか彼女の胸から顔を出し、その綺麗な白い美貌を見つめた。


「それは違うよ」

「…………」

「イルティミナさん1人でやるのは、何か違う。ごめんね? 今回は、僕の覚悟が足りなかっただけなんだ。次は、ちゃんとするから」


 そう必死に言った。


 僕が弱くて、迷いを見せたから、彼女にこんなことを言わせてしまった。


(旦那、失格だ)


 僕の眼差しに、彼女は微笑んだ。


「マール……。ありがとう」


 ギュッ


 もう一度、強く抱きしめられる。


 僕も抱きしめ返した。


 サラサラした彼女の美しい緑髪が、僕ら2人の肌を撫でていく。


(僕こそ、ありがとう……だよ)


 イルティミナさんは、いつも僕を守ってくれる。


 これまでも。


 今回も。


 きっと、この先も何度も守ってもらいそうな気がする。


 けど、


(僕も、イルティミナさんを守らなきゃ……)


 僕のために、自分を犠牲にすることも厭わない彼女を守るために、僕自身が強くならなければいけない。


 イルティミナさんのために。


 少しでも、強くなる。


 そう思っていると、


「ふふっ……その心が、すでに私を守っていることを、マールはわかっていないのですね」


 彼女はそう微笑んだ。


(え?)


 思わず、その美貌を見つめる。


 すると、その唇が近づいて、僕の唇に押し付けられた。


 濡れた弾力。


 心地好い感覚。


 それに驚いていると、


「マールを好きになってよかった、と改めて思いました。愛していますよ、私の可愛いマール」


 唇を離して、彼女はそう微笑んだ。


 とても綺麗で、思わず見惚れてしまった……。


 ギュッ


 そんな僕を、イルティミナさんはまた抱き締めてくれる。 


 …………。


 僕も、僕の好きになった人がイルティミナさんでよかったな……そう思った。


「愛してる、イルティミナさん」


 そう告げて、今度はこちらから口づけ。


 イルティミナさんは、とても嬉しそうだった。


 そうしてその夜は、お互いの心と身体を愛し合い、翌日、僕ら夫婦は、王都ムーリアへと帰還する竜車に乗ったんだ。

ご覧いただき、ありがとうございました。


※次回更新は、明後日の金曜日0時以降になります。どうぞ、よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様ですヽ(´▽`)/ 今回は夜逃げをせずにキチンと旅立って行ったキルト(笑) やはり別れは普通が一番ですよね(*´∇`*) [一言] < そうしてその夜は、お互いの心と身体を愛し…
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