491・懐かしき王都風景
皆さん、こんばんは。
月ノ宮マクラです。
本日より更新再開です。
皆さんには、またゆっくりとマール達の物語を楽しんでもらえたら幸いです♪
それでは本日の更新、第491話になります。
よろしくお願いします。
ドル大陸を出立して2ヶ月後、僕らは、海路、陸路を通って、シュムリア王国の王都ムーリアへと帰ってきた。
「ここは、相変わらずの景色じゃの」
王都名物、大渋滞。
城門前の街道に並んだ竜車、馬車の列を眺めて、キルトさんは懐かしそうに瞳を細めていた。
ちなみに僕らは、使節団と一緒だった。
だから、渋滞に並ばずに王都の中に入ることが許される。
竜車の中では、
「ふふん、こういう特別扱いって、ちょっと気持ちいいわね」
なんて、ソルティスは言っていた。
僕とイルティミナさん、キルトさん、ポーちゃんの4人は、つい顔を見合わせて苦笑してしまったよ。
そうして僕らは、王都の中に入った。
5ヶ月ぶりの王都ムーリア。
街並みに、特に変化はないけれど、実家に帰ってきたみたいな安心感があった。
(キルトさんにとっては、1年半ぶりかぁ)
彼女も、窓からの景色を眺めている。
「良い街じゃの、ムーリアは」
と呟いた。
(え?)
僕らの視線が集まる。
「各地を旅してきたが、改めて、この王都ムーリアは良き街であったのじゃと思い知った。このまま、変わらんで欲しいの」
そう微笑んで、瞳を伏せる。
……キルトさん。
(うん、僕もこの街が大好きだ)
僕も笑った。
イルティミナさんも微笑み、ソルティスとポーちゃんは、改めて窓からの景色を眺めていた。
さて時間的には、まだ午前中。
王家の方にも、僕らの帰還についての連絡は届けられていて、僕らと使節団は、そのまま神聖シュムリア王城へと向かうことになった。
◇◇◇◇◇◇◇
「息災そうで何よりだ、キルト・アマンデス」
お城の煌びやかな謁見の間で、僕らを出迎えてくれたのは、なんと国王様ご本人だった。
いや、
(正確には、キルトさんの出迎え、かな?)
そう思った。
謁見の間には、国王様だけでなく、レクリア王女やロベルト将軍、竜騎隊隊長のレイドルさん、他シュムリア貴族の方々が集まっていらっしゃった。
そして、使節団を労う前に、国王様直々に声をかけられたのがキルトさんだった。
彼女も、
「お久しぶりにございます、国王陛下」
と首を垂れている。
謁見の間の全員の視線が、久しぶりに帰ってきたシュムリアの英雄キルト・アマンデスに向けられていた。
さすが、キルトさんだ。
使節団の帰還報告、というよりは、もはや、キルトさんを歓迎するための場みたいだった。
(……それだけの人なんだなぁ)
その存在の大きさを、改めて思い知った感じだよ。
国王様とキルトさんの会話は、しばらく続いた。
やがて、その話が終わってから、ようやく使節団の代表の方がアーノルド王即位の報告をして、国王様から労いの言葉がかけられた。
報告が終わると、謁見も終了だ。
ふぅ、緊張した……。
控室に戻ると、多くの貴族からキルトさんは面会を求められていたけれど、
「すまぬが、全員、断ってくれ」
と誰とも会わなかった。
(いいの?)
と思ったけれど、
「わらわは、すでに一個人であるからの。政治的な理由での面会は、全て受けぬことにしたのじゃ」
だって。
ただ、ロベルト将軍やレイドルさんなど、個人的に友好のある人が訊ねてきた時だけは、再会の挨拶を交わしていたけどね。
そんなこんなで、帰還の挨拶も終わる。
そうして僕ら5人は、神聖シュムリア王城をあとにした。
大聖堂を出ると、キルトさんは、
「ふぅ、やれやれじゃ」
と肩を揉む。
僕の視線に気づくと、苦笑して、
「先の謁見はの。歓迎だけでなく、国王自らが声をかけることによって、しばらくはシュムリアに留まれよ、と暗に脅されてもいたのじゃ」
と教えてくれた。
(え、そうだったの?)
それは気づかなかった。
イルティミナさんは苦笑して、
「まぁ、貴方はキルト・アマンデスですからね。国民にとっては、もしかしたら国王よりも影響力を持っている存在です。王国から、軽く圧力もかけられますよ」
「別に、わらわは何かするつもりもないのじゃがの」
英雄様はため息だ。
すぐに気を取り直したように顔をあげ、
「まぁよい。とりあえず今は、冒険者ギルドに顔を出しに行くか」
と笑った。
(うん)
僕らは頷いて、そうして久しぶりの5人で『冒険者ギルド・月光の風』を目指したんだ。
◇◇◇◇◇◇◇
湖沿いの通りを歩いていくと、やがて、白亜の塔のような建物が見えてきた。
「…………」
1年半ぶりのギルドに、キルトさんは瞳を細めている。
そのまま、僕らは中に入った。
5ヶ月経っても変わらない、冒険者たちの集まる空間がそこにはあった。
自分の居場所。
そう感じられる大切な場所だ。
そして、そこにいた冒険者たちは、まず現役の『金印の魔狩人』であるイルティミナさんに気づいた。
次いで、僕とソルティスとポーちゃん。
そして、一番最後に入ってきた銀髪の美女にも、もちろん気づいた。
彼や彼女たちの目が見開かれる。
「え……?」
「キルト?」
「嘘……」
全員、呆然としていた。
そんな中、キルトさんは小さく笑って、「よ」と軽く片手をあげる。
それを見て、みんなが爆発した。
「うおおぃ、本当に鬼姫様じゃねえかよ!」
「やだ、いつ帰ってたの!?」
「うわぁ~っ!」
「おかえり!」
「おかえりなさい、キルトさん!」
物凄い勢いで人が集まってくる。
あっという間にキルトさんは、その輪の中心になって飲み込まれてしまった。
(あはは……)
これも懐かしい景色だ。
慣れている僕とイルティミナさん、ソルティスとポーちゃんは、しっかりキルトさんから距離を取って、その荒波から逃れていた。
4人で顔を見合わせ、笑い合った。
「ええい、落ち着け。皆、落ち着かぬかっ」
集まる人垣の向こうで、キルトさんの慌てたような、それでいて嬉しそうな声が聞こえていた。
◇◇◇◇◇◇◇
「ふふっ、おかえりなさい、キルトちゃん」
ギルド長室では、キルトさんの幼馴染であるムンパさんが、1年半ぶりに帰ってきた彼女のことを抱きしめていた。
キルトさんは苦笑しつつ、
「ただいまじゃ」
そんな友人のされるがままになっている。
ただ、その様子を僕らに見られるのが、少し恥ずかしそうだったけどね。
やがて、ソファーに腰を落ち着けて、キルトさんとムンパさんは、たくさんの話をしていた。
アルン神皇国でキルトさんは、最初にナルーダさんの村に行った。
ナルーダさんは、ムンパさんの幼馴染でもあり、友人でもあったから、その近況を聞いて嬉しそうだったり、懐かしそうだったり、安心したりしているみたいだった。
他の話も色々と。
何度か手紙で知らされていた内容も、真っ白な獣人さんは、より詳しく、興味深そうに聞いていた。
気づいたら、3時間ぐらい経っていた。
「あらあら、ごめんなさいねっ」
気づいたムンパさんは、少し慌てたように僕らに謝ってきたけれど、僕らは誰も気にしてなかった。
2人とも楽しそうで。
幸せそうで。
だから、そんな2人を見ているだけで、僕らも楽しい時間を過ごせていたんだ。
そして、外はもう夜だ。
「キルトちゃんの部屋は、前のままにしてあるからね。せっかくだから、今夜は、みんなで泊まっていったら?」
ムンパさんは、そう提案した。
もちろん、誰からも異論は出ずに、僕らはそうすることにしたんだ。
◇◇◇◇◇◇◇
冒険者ギルド・月光の風は、創立から20年近くになる。
キルト・アマンデスは、その創立メンバーの1人であり、それからずっと所属冒険者たちの先頭に立ちながら、『金印』としてギルドを支えてきた最大の功労者だった。
そんな彼女の使っていた部屋は、永久に『キルト・アマンデスの部屋』として保持されることとなったのも当然の流れだろう。
その部屋へと、キルトさんは1年半ぶりに戻ってきた。
「うむ。相変わらず、よく手入れをされておるのぉ」
満足そうなキルトさん。
1年半も主のいない部屋だったけれど、その間もギルド職員さんが掃除をしてくれていたみたいで、室内には埃1つ落ちていなかった。
僕らとしても、1年半ぶりの部屋。
(ちょっと感慨深いなぁ)
なんて思ったり。
それから職員さんに料理を頼んで、僕らは、無事にシュムリア王国まで帰ってこれたお祝いの食事会を開いた。
料理は美味しい。
滅多に飲まないけど、今夜はお酒も飲んでみた。
「ふっ……そうか、マールも酒を飲むようになったか」
そんな僕を見て、キルトさんは少し驚き、どこか楽しそうに頷いていた。
(???)
いや、いつもそんなに飲まないよ?
ただ、今日ぐらいはいいかと思っただけだから。
ちなみに、ソルティスは大食いだけでなく、酒豪の才能もあったのか、この1年ぐらいで結構、パカパカとお酒をあおるようになった。
「飲み過ぎない限界がわかるようになったのよね~」
とは、少女の言。
キルトさんは嬉しそうに「そうか、そうか」と笑っていた。
そんなキルトさんとソルティスのすぐ空になるグラスに、ポーちゃんは甲斐甲斐しくお酒を注いであげていた。優しいなぁ……。
そうして食事会が続く。
窓の外には、紅白の月と美しい星々が煌々と輝いていた。
…………。
楽しいな。
楽しくて、なんだか懐かしくなった。
「マール?」
僕の様子に気づいて、僕の大好きな奥さんが声をかけてくる。
僕は笑って、
「なんだか、キルトさんもいて、ソルティスもいて、ポーちゃんもいて……昔の5人でパーティーを組んでいた時を思い出しちゃってさ」
そう呟いた。
楽しいのに、でも、なぜか泣きたいような不思議な感覚。
お酒に酔ったのかな?
イルティミナさんは驚いた顔をした。
そして彼女も、お酒を飲み合うキルトさんとソルティス、お世話をするポーちゃんのいる風景を見つめた。
優しく微笑み、
「そうですね。本当に、そうです」
ギュッ
そう言いながら、僕の頭を柔らかな胸に抱きしめてくれた。
甘い匂い。
心が落ち着いて、安らぐ感じ……。
(うん)
その胸の中で、僕は青い瞳を閉じる。
キルトさんがいて、ソルティスがいて、ポーちゃんがいて、そこに僕とイルティミナさんもいる風景――その懐かしくて優しい空間の中で、僕は、自分が幸せであることを強く感じていたんだ。
ご覧いただき、ありがとうございました。
※次回更新は、明後日の水曜日0時以降になります。どうぞ、よろしくお願いします。