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490・別れと出国

第490話になります。

よろしくお願いします。

 アーノルドさんが新王になってから、1週間が経った。


 その間、ヴェガ国の重鎮たちとシュムリア王国、アルン神皇国、ドル大陸の3国の使節団は、交流の時間を多く取っていた。


 ヴェガ国の新政府とシュムリア、アルン両国が友好を結ぶため。


 そして、ヴェガ国が仲介役となって、シュムリア、アルン両国とドル大陸の3国との交流も深めるため。


 つまりは、


(国同士で、今後のための話し合いをしてるんだね)


 ってことだ。


 その会談の席には、英雄キルトさん、金印の魔狩人イルティミナさん、アルン近衛騎士フレデリカさんも参加していた。


 でも、年若い僕とソルティス、ポーちゃんの3人は、参加させてもらえなかった。


「その年から、国の重責など負うことはない」


 とは、キルトさんの言。


 イルティミナさん、フレデリカさん、2人のお姉さんも頷いていた。


「…………」

「…………」


 そんなものかな?


 言われた僕とソルティスは、顔を見合わせてしまったよ。


 そうして暇な時間ができてしまった僕らは、せっかくなので、オルトゥさんを始めとしたヴェガ国の騎士さんたちと剣の稽古をしたりした。


 カン ギン ガィン


(お、おぉおお!?)


 実際に対戦して、驚いた。


 わかっていたけれど、獣人である彼や彼女たちの身体能力は凄まじく、それは想像以上だった。


『魔血の民』ではなくても、それに近いものがある。


 また動きに独特のバネがあって、思いもかけない動作で剣が間合いの外から伸びてきたり、あるいはこちらの当たると思えた攻撃が弾かれたりした。


(強いな)


 それが素直な感想だ。


 強いて弱点を言えば、


(剣技にまだ雑な面があることかな?)


 おかげで負けはしなかったけれど、それでも負けそうな場面は幾つもあった。


 うん、


「……本当に、世界は広いや」


 そう思い知らされたよ。


 ちなみにオルトゥさんたちも、稽古中に1敗もしなかった僕のことを『その若さで、これほどの強さとは……』と驚きながら褒めてくれたっけ。


 ちょっと嬉しかった、えへへ。


 ソルティスには「ふん、調子に乗るんじゃないわよ?」と不機嫌そうに睨まれてしまったけど。


 ちなみにポーちゃんは、ずっと見学してた。


 そんな風にして、僕らの日々は過ぎていった。


 そして、アーノルドさんが即位してから2週間後、ついに僕らはシュムリア王国へと帰る日を迎えたんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 早朝の空には、美しい青空が広がっている。


 僕らは『黄金の宮殿』の前で、アーノルドさん、シャマーンさん、オルトゥさんを含めたヴェガ騎士団、ヴェガ国の重鎮さんたちの見送りを受けていた。


 獣車へと乗る前に、僕らは挨拶を交わした。


 新国王となってもアーノルドさんの僕らへの態度は変わらず、1人1人と握手して、言葉を交わしてくれる。


 ギュッ


 僕の手も、獅子の手に握られた。


「ありがとう、マール」


 え?


 見上げる僕を、彼の瞳は真っ直ぐに見つめてくる。


「この世界は滅亡の危機にあった。それを、神の子であるお前が命懸けで救ってくれたのだ。その結果として、今、この時間があるということを俺は忘れない」

「…………」

「そのことを、一度、ちゃんと伝えておきたかった」


 アーノルドさん……。


 思わず、その顔を見つめてしまう。


 パン


 そんな僕の肩を、彼の手は叩いた。


「マール、お前が守った世界で、俺は新しい王となれたことを誉れと思うぞ」


 そう彼は笑った。


 白い牙が輝き、とても力強くて頼もしい笑顔だった。


 僕も笑った。


「がんばってね、アーノルド王」

「あぁ!」


 若き獅子王は、大きく頷いた。


 そうして僕ら全員がアーノルドさんとの挨拶を済ませて、獣車へと乗り込んだ。


 ガラン ガラン


 獣車の鐘が鳴り響き、その巨体が動き出す。


 見送りに来てくれたヴェガ国の人たちに大きく手を振りながら、僕らは、暑い日差しの首都カランカを出発した。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 3日後、僕らは、入国の時に訪れた港町へと到着した。


 港には、シュムリア、アルン両国の大型船が停泊しているのが、遠くからも見えていた。


 港に入り、手続きを済ませる。


(…………)


 ここで、アルン神皇国へと帰るフレデリカさんとはお別れだ。


 軍服のお姉さんは、敬礼する。


 その手を下ろして、いつものフレデリカさんとして微笑んだ。


「こうして共にいられて楽しかったぞ、マール殿」

「うん」


 僕は頷いた。


 でも、寂しさがあって、彼女のように笑えなかった。


 気づいたフレデリカさんの手が、僕の頬を撫でる。


「きっと、また会える。だから、そんな顔をしないでくれ」


 うん……。


 僕は、無理に笑った。


 それを見た彼女は、少しだけ切なそうな顔を見せたけれど、すぐにそれを消して頷いた。


 それから、他の皆を見る。


「貴殿らにも世話になったな」

「こちらこそじゃ」


 キルトさんが答える。


「パディア皇女殿下には申し訳ないが、どうか、上手く取りなしてやってくれ」

「わかった」


 フレデリカさんは苦笑する。


 仕方ないこととはいえ、皇女様の望みを叶えられないのだから、臣下して彼女も辛いだろう。


 キルトさんは、皇女様宛の手紙をフレデリカさんに託していた。


 多分、フレデリカさんに責が及ばないようにという配慮だろう。


 そうして、アルンのお姉さんは、ソルティス、ポーちゃんとも挨拶を済ませ、そして最後にイルティミナさんと向き合った。


「…………」

「…………」


 2人とも、何も喋らなかった。


 フレデリカさんは、その碧色の瞳を伏せて、


「マール殿」


 と僕を呼んだ。


(ん?)


 キョトンとする僕に、


「マール殿にとって、一番大切な人は誰だろうか?」


 と質問してきた。


 え……それは、


「イルティミナさん」


 僕は驚きながら、正直に、即、答えた。


 イルティミナさんは僕を見て、「マール……」と嬉しそうにはにかんでくれた。


 いや、そんなの当り前だよね。


 困惑していると、フレデリカさんは「そうか」と頷いて、


「では、2番目は?」


 と聞かれた。


(2番目……?)


 思わぬ質問に、今度は、僕はすぐに答えられなかった。


 だって、そんなの考えたこともないよ。


 イルティミナさん、キルトさん、ソルティスも驚いた顔をしていて、それから、僕の方を見てくる。


 ポーちゃんだけは、我関せずだ。


 しばらく悩んで、


「ごめんなさい。……よくわからない」


 僕は、そう謝った。


 大切に思っている人は、たくさんいる。


 だけど、明確に2番目となると、その順位付けはどうしても上手くできなかった。


 フレデリカさんは、


「そうか」


 と頷いた。


 彼女は、キルトさん、ソルティスの方へと視線を送って、それから僕を見た。


 そして、


「イルティミナ殿が一番なのはわかった。それはいい。だが、もしマール殿の心に余裕があるならば、そうした他の者たちへも心を砕いてみてはどうだろうか?」


 と言われた。


 …………。


「アルンの上流貴族には、一夫多妻という制度もある」

「…………」

「別にそうしろとは言わないが、マール殿に向けられる他の者たちの思いも、可能ならば受け止めてやってくれ」


 フレデリカさんは、真摯な声で頼んでくる。


(え、えっと……?)


 でも、僕には、よく意味がわからなくて、どう返事をしていいのか困ってしまった。


「…………」

「…………」


 キルトさん、ソルティスも驚き、そして、やはり困った顔をしていた。


 代わりに、


「フレデリカ……」


 イルティミナさんがとても低い声を出す。


 アルンのお姉さんは、苦笑する。


「貴殿は良い女だ、イルティミナ殿。マール殿の一番に間違いなく相応しい。それは私も認めている」

「…………」

「だが、そうした方が、マール殿もより幸せなのではないかと思えたのだ」


 ……幸せ?


 僕は今だって、充分に幸せなつもりなんだけど。


 イルティミナさんは沈黙している。


 フレデリカさんは笑った。


「まぁ、気にしなくてもいい。ただ、心の片隅にでも留め置いてくれ」


 う、うん。


 僕は、曖昧に頷いた。


 ふと見たら、キルトさんとソルティスは妙に居心地悪そうにしていて、視線が合ったら、すぐに逸らされてしまった。


「ではな」


 フレデリカさんは拳を胸に当てる敬礼をして、そう告げる。


 そして、輝く笑顔を見せると、軍人らしく颯爽と身を翻して、アルン大型船の乗船口の方へと歩いて行ってしまった。


 僕らは、それを見送った。


 イルティミナさんは、なんだか悔しそうにその背中を見つめている。


 …………。


 僕は何となく、自分の奥さんが辛そうに見えて、 


 キュッ


 その手を握ってみた。


 イルティミナさんは、驚いた顔をして、僕を見下ろしてくる。


「僕は今でも、充分、幸せだよ?」


 そう言った。


 彼女は目を見開く。


 それから、少しだけ泣きそうな顔になって、僕のことをギュッと抱き締めてきた。


「私も幸せですよ」

「うん」

「……独占欲が強くて、ごめんなさい」

「ううん」


 むしろ、僕のことをイルティミナさんが独占してくれて嬉しい。


 ずっと好きだった。


 初めて見た時から一目惚れで、それから、彼女に相応しい男になろうとがんばってきたんだ。


 そして今、こうして夫婦でいられる。


(それ以上、何を望むというんだろう?)


 僕は笑った。


「イルティミナさん、大好きだよ」


 彼女の身体が震えた。


「あぁ、私もですよ、マール」

「うん」


 ギュッ


 僕も抱きしめ返した。


 そんな僕らに、キルトさんは苦笑しながら吐息をこぼし、ソルティスは視線を逸らしている。ポーちゃんの手は、ソルティスの背中に優しく触れていた。


 …………。


 僕は、フレデリカさんの言葉の意味を少しだけ考えてみた。


 でも、やっぱりよくわからない。


(だけど……)


 何かが少しだけ、心に棘のように刺さってしまった気がした。


 まぁ、いいか。


 それも、きっと、いつかわかるようになるのかもしれない。


 それまでは……。


 やがて、僕ら5人もシュムリア大型船に乗船して、そうして両国の大型船の出港準備が整った。


 ジャアアン ジャアアン


 銅鑼の音が響く。


 海風を帆に受けて、魔導機関が唸りを上げながら、巨大な船舶が港湾を抜け、ゆっくりと移動していく。


 灼熱の太陽。


 白く育った入道雲。


 それら熱き南国の空の下、広がる大海原へと漕ぎ出した2隻の船は、自分たちのそれぞれの母国を目指して、再び長き航海の旅に出たのだった。

ご覧いただき、ありがとうございました。


次回からは、シュムリア王国に冒険の舞台が戻ります。

ですが、それまで申し訳ないですが、2週間ほどお休みを頂きまして、次回の更新は12月6日(月)を予定しております。


少し間が空いてしまいますが、また再開した時には、もしよかったら、どうか皆さん、またマールたちの事を見守ってやって下さいね。

どうぞ、よろしくお願いします♪

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様ですヽ(´▽`)/ フレデリカに責が及ばない様に配慮して手紙を嗜めたキルト。 流石は亀の甲より年no……いや、何でもありません(笑) [一言] ゲルフォンベルクと同じくハーレ…
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