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【書籍化&コミカライズ!】少年マールの転生冒険記 ~優しいお姉さん冒険者が、僕を守ってくれます!~  作者: 月ノ宮マクラ


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489・新時代の入り口

第489話になります。

よろしくお願いします。

 時刻は夕刻になり、空は茜色に染まった。


 それでもカランカの街の賑わいは、衰えることもなく、むしろこれから本番といった様相だ。


 そんな活気に満ちた空気。


 その中を、僕とイルティミナさんとフレデリカさんの3人は、滞在している『黄金の宮殿』目指して帰路につく。


(あまり遅くなると、心配かけるからね)


 僕らの立場は、あくまで異国の使節。


 こうして3人で出かけるのにも、実はシュムリアとアルンの使節の人たちと、アーノルドさん経由でヴェガ国政府に話を通し、許可を得た上でのことだったりするんだ。


 まぁ、許可は意外とすんなり下りたけど。


 でも、それはやはり、キルトさんやアーノルドさんの存在が大きいからなんだよね。


(…………)


 そのお出かけも終わりの時間。


 少し……寂しいな。


 僕はふと立ち止まって、赤く輝く夕日を見上げた。


 気づいたお姉さん2人も、足を止める。


 ポムッ


 僕の肩を、フレデリカさんが優しく叩いた。


「また、こういう機会はあるさ」

「……うん」


 僕は頷いた。


 僕らは友人で、きっと、またフレデリカさんとは会えるだろう。


 だけど、


(それは、いつになるのかな?)


 夕日を見つめる青い瞳を細めながら、そう思った。


 フレデリカさんは、アルン神皇国の人だ。


 会うためには、僕らがアルン神皇国に行くか、フレデリカさんがシュムリア王国に来てくれるかしか、基本的には方法がない。


(……だけど)


 僕は、その青い髪の麗人を見上げた。


 フレデリカ・ダルディオスは、現在、アルン皇女のパディア・ラフェン・アルンシュタッドの護衛を務める近衛騎士だ。


 その職務に休みはない。


 シュムリア王国を訪れる機会は、多分、公務ぐらいしかないのだろう。


 一方で、僕の奥さん、イルティミナ・ウォンは、シュムリア王国が誇る『金印の魔狩人』だ。


 王国の人々を守る責務がある。


 だから、冒険者として休暇はあっても、簡単に異国を訪れることが許される立場ではないのだ。


 …………。


 今、こうしてフレデリカさんと一緒にいられる時間は、本当に貴重なものなんだと改めて思った。


「どうした、マール殿?」


 彼女は優しく笑う。


 夕暮れの風に、短くなった青い髪がなびき、それを白い手が軽く押さえていた。


 僕は、首を横に振る。


「ううん。いつかアルンに会いに行くから、その時はよろしくね、フレデリカさん」


 そう無理に笑って、言った。


 フレデリカさんは頷いた。


「あぁ、わかった。約束だ」

「うん」


 白い小指を絡ませ、希望を込めた約束を交わす。


 いつか。


 その『いつか』は、いつになるかわからないけれど、そう思って口にしていれば実現すると信じたいんだ。


 それを彼女もわかっている。


 だから、約束してくれた。


「…………」


 そんな僕ら2人を、イルティミナさんもこの時ばかりは口を挟まずに、ただ静かに見守ってくれていた。


 今日は楽しかった。


 また、こんな日が迎えられると僕は信じている。


 いや、絶対に迎えてみせるんだ。


 夕暮れに染まった街並。


 カランカに暮らす賑やかな獣人たち。


 それらを背景に立つ、美しいアルンの麗人フレデリカ・ダルディオスさんの微笑む姿。


 その全てを目に焼き付ける。


 その大切な時間を噛み締めながら、僕ら3人は、遠くの丘にキラキラと輝いている『黄金の宮殿』に向かって歩いていった。



 ◇◇◇◇◇◇◇



「帰りも、また2ヶ月の船旅なのよね~」


 その夜、僕らに割り当てられた客室で、ベッドにうつ伏せになったソルティスがそんなことを呟いた。


 僕らの視線が少女に集まる。


 この客室にいるのは、僕とイルティミナさん、ソルティス、キルトさん、ポーちゃんの5人だけだ。


 フレデリカさんは、報告書を作らなければいけないとかで、アルン使節団の人たちと一緒の部屋にいるんだ。帰国までは、ずっとそうなる予定なんだって。


(大変だなぁ)


 ちなみにフレデリカさんの任務は、皇女様の命令で、キルトさんがアルンに帰るよう説得することである。


 でも、キルトさんは『シュムリア王国に行く』と明言している。


 それを翻意させることは不可能だと、フレデリカさんもわかっているので、報告書の作成は気が重いことだろうね……合掌。


 と、話が逸れた。


 僕らの視線の先で、ソルティスは、ポーちゃんに背中をマッサージされている。


 それに心地良さそうにしながら、


「さすがに退屈だわぁ」


 とぼやいた。 


 確かに何もない船の上で、また2ヶ月過ごすのは退屈かもしれない……同意できてしまう僕は、苦笑した。


「早く転移魔法陣が実用化されたらいいのにね」


 そう呟く。


 もし転移魔法陣が使えたら、遠いシュムリア王国までも一瞬だ。


 それだけじゃなくて、フレデリカさんのいるアルン神皇国にだって、気軽に遊びに行けるだろう。


(そうしたら、いつでも会えるのになぁ)


 そんな夢想をしてしまう。


 ナデナデ


 と、そんな僕の髪を、イルティミナさんの白い指が優しく撫でた。


「そうですね。早くそうなったら、いいですね」

「うん」


 僕らは頷き、笑い合う。


 仲睦まじい僕らに、キルトさんは苦笑して、


「そうじゃの。しかし、そう簡単にはいかぬであろう。各地を転移魔法で結ぶには、まだまだリスクが高すぎるからの」


 と言った。


 リスク、か。


(つまり、悪用される可能性……だよね?)


「その通りじゃ」


 キルトさんは頷いた。


「仮の話じゃがの。もしも悪意ある者が『転移魔法陣』を王都のどこかに隠れて設置したとしたら、突然、何千、何万の敵兵が王都内部に出現することも可能になる」

「…………」


 それは、とんでもない奇襲だね。


「その他にも、盗みや殺人などの犯罪を犯した者が逃走手段として用いることもあるかもしれぬ」

「…………」

「転移し、逃げた先の魔法陣を消せば、追手も追えぬ。残された魔法陣の座標から位置が割り出せても、そこに辿り着いた時にはもぬけの殻。犯罪者どもは逃走済みじゃ」


 う、う~ん。


(そう説明されると、実用化がかなり難しく思えるね)


 イルティミナさんも頷いた。


「なるほど。王国も、転移魔法陣の実用化に慎重になっている理由がわかりますね」

「うむ」


 キルトさんも重々しく頷いている。


 と、


「その点については、義母が色々と対策を考えている」


 ソルティスをマッサージしながら、突然、ポーちゃんがそう言った。


(え?)


 驚く僕ら。


 僕らの視線が集まる中で、彼女はせっせとソルティスの背中を揉みながら、


「すでに王家から相談が来ている。そして、その解決法については、すでに確立されている」

「そうなの?」

「そう。ただし、時間がかかる方法だ」


 そうなんだ?


(でも、どんな方法なんだろう?)


 僕は、好奇心と興味を持って、金髪の幼女を見つめた。


 彼女は答える。


「王国の各地に『魔法の塔』を建設する」


 魔法の塔?


「そこからは、常に特殊な魔力波が発生され、それは王国全土を網羅する。その中では、許可された転移魔法しか発動できない」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「すでに試作の『魔法の塔』が建築され、実証実験は行われているはずだ。それが成功すれば、各地の建設も始まるだろう。それが終われば、転移魔法も実用化される」


 な、なんか、凄いスケールの話なんだけど……。


(……本当に?)


 僕は、他のみんなと顔を見合わせてしまった。


 みんなも驚いているみたい。


 でも、ポーちゃんがこんな嘘をつく子じゃないのもわかっているので、やっぱり本当なんだろう。


(はぁぁ……)


 遠大な計画に、思わず、ため息が漏れてしまった。


 ソルティスが呟く。


「もしそうなら、その塔の管理や保全も考えなきゃいけないし、予算も工期もとんでもないことになるわね」

「うむ」


 キルトさんも頷いた。


「実用化されるとしても、10年……いや、20年はかかるかもしれぬの」


 20年……か。


 でも、その時には、王国の各地を自由に、それも一瞬で移動できる時代がやって来るんだ。


 それは、僕の前世の世界でも確立できていない超技術の世界だ。


(凄いなぁ)


 思わず、遠い目になってしまう。


「もしかしたら、かつてのタナトス魔法王朝のような世界の入り口に、私たちの時代は踏み入ろうとしているのかもしれませんね」


 イルティミナさんが呟いた。


 …………。


 うん、そうかもしれない。


 でも、その優れた魔法の力で、タナトス魔法王朝は滅んでしまったんだ。


(僕らは、そうならないようにしないといけないね)


 きっと、そのための『魔法の塔』だ。


 僕は笑った。


「もしそんな時代が来たら、『2ヶ月間の船旅』なんて、むしろ贅沢なことだって思われるようになってるかもね?」


 みんな、キョトンとする。


 それから、吹き出すように笑った。


「そうじゃな、そうかもしれぬ」


 キルトさんは頷き、イルティミナさんも「そうですね」と微笑んだ。


 さっきはぼやいていたソルティスも、


「そう考えたら、2ヶ月の船旅も今の時代にしか体験できない貴重な経験なのかもね。それなら、なんだか悪くないって思えてきたわ」


 なんて笑っていた。


 ポーちゃんも少女の背中を揉みながら、『うんうん』と頷いている。


 僕は、青い瞳を伏せる。


 ヴェガ国には新しい王が生まれ、魔法石産業から脱却した新しい国造りも始まっている。


 シュムリア王国も新技術を活用するため、大規模な国家事業を行っているみたいだ。


 もしかしたら、アルン神皇国でも何かがあるのかもしれない。


 …………。


 時の流れと共に、世界は少しずつ変わっていた。


 第2次神魔戦争が終わって、『闇の子』もいなくなって、それでも世界は止まらずに、見えない未来へと進んでいた。


(怖いような、楽しみなような……)


 キュッ


 隣にいるイルティミナさんの手を握る。


 温かな手だ。


 彼女は、すぐに僕の手を優しく握り返してくれた。


 ……うん。


 これからの時代がどうなるか、それはわからない。


 それでも訪れる未来がきっと明るいものだと信じて、僕は微笑みながら、ゆっくりと静かな吐息をこぼしたんだ。

ご覧いただき、ありがとうございました。


※次回更新は、明後日の金曜日0時以降になります。どうぞ、よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様ですヽ(´▽`)/ イルティミナとフレデリカの国の大使達からすれば、二人が揉める事なく無事にデートが済ませられて一安心って処ですかね(笑) [一言] < 王国の各地に『魔法の塔…
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