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479・獅子王子の頼み事

第479話になります。

よろしくお願いします。

(頼みたいこと……?)


 僕らは、アーノルドさんを見つめた。


 彼は「座っていいか?」と控室にある毛皮のソファーに腰かけてから、僕らを見つめ返した。


「『獣神の霊廟』というものがある」


 彼は言った。


「カランカから1日ほど北上した場所にある『獣神』を祀った神殿だ。同時に、歴代のヴェガ国王とその一族が眠る廟ともなっている」


(へぇ、そんな場所が?)


 この国にとって、重要な場所なんだろうなと思った。


「新たに即位する新国王は、即位前に『獣神の霊廟』を訪れるしきたりだ」


 それって、


「じゃあ、アーノルドさんも?」

「あぁ」


 彼は頷いた。


「明日、俺も『獣神の霊廟』へと向かう。そこでお前たちには、俺の護衛を頼みたいと思った」


 護衛?


 僕らは驚いた。


「この国の騎士たちはどうした? それが役目だろう?」


 アルン騎士のフレデリカさんが問う。


 アーノルドさんは笑った。


「本来はそうなんだがな。だが、これは俺のわがままだ」


 わがまま……って。


「これが、俺の王子としての最後の自由な時間だ。その時間を、俺は友であるお前たちと共に過ごしたいと思った」

「…………」

「…………」

「…………」


 アーノルドさん……。


 僕らは思わず、目の前の獅子の獣人さんを見つめてしまった。


 …………。


 他のみんなとも視線を交わす。


 同じ思いだということを確認して、全員が頷いた。


「わかった。そなたと共に参ろう」


 キルトさんが代表して、そう答えた。


 アーノルドさんは嬉しそうに獣の瞳を細めて、微笑んだ。


「ありがとう」  


 心からの言葉。


 それを感じて、僕らも笑った。


 アーノルドさんは息を吐き、ソファーの背もたれに寄りかかりながら、窓から見えるヴェガ国の空を見上げる。


 吹く風に、獅子の黄金の毛並みが揺れた。


「霊廟には、俺の母も眠っている」

「…………」

「今の俺を見たら、少しは喜んでもらえるだろうか?」


 独り言のように呟いた。


 かつて悪童だったアーノルドさんは、母の死をきっかけに更生し、立派な王となることを誓ったのだと3年前に聞いていた。


 僕は言った。


「喜ぶに決まってるよ」


 みんなも、大きく頷いた。


 アーノルドさんは驚いた顔で、こちらを見る。


 それから、


「そうか。そうだといいな」


 そう笑った。


 そうして僕らは明日、アーノルドさんと一緒に『獣神の霊廟』を訪れることが決まったんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 翌朝、僕らは1台の『獣車』に乗り込んで、ヴェガ国の首都カランカを出発した。


 ガラン ガラン


 街道に、獣車の鐘の音が響く。


 車内には、僕とイルティミナさん、キルトさん、ソルティス、ポーちゃん、フレデリカさんの6人とアーノルドさん、それともう1人獣人さんの姿があった。


 黒く長い髪をした女の人だ。


 野性味のある凛々しい顔立ちで、髪の中から獣耳が生え、お尻からはフサフサした尻尾も生えている。


 多分、狼の獣人さんかな?


 僕らの視線に、アーノルドさんはため息をこぼした。


「俺の護衛騎士のオルトゥ・レンタールだ。……ついていくと言って、聞かなくてな」


 参ったような声だ。


 そんな主人にオルトゥさんは厳しい視線を向け、それから僕らを見る。


 …………。


 敵意……というほどではないけれど、対抗心みたいなものを感じる。


(まぁ、仕方ないかな?)  


 護衛騎士として、自分たちではなく国外の者が選ばれたことに思うものがないわけないだろう。


 僕は頷く。


「うん、これはアーノルドさんが悪い」

「……ぐっ」


 僕の突っ込みに、アーノルドさんは胸を押さえて、わざとらしくよろめいた。


 その姿に、僕らは笑ってしまった。


 ……まぁ、オルトゥさんだけは笑っていなかったけど、ね。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 移動をしている間に、僕らは『獣神』と呼ばれる存在についても話してもらった。


「お前たちの信じる神とは違う、俺たちの信じる獣の姿をした神のことだ」


 と、アーノルドさん。


 昔々、ドル大陸は、1つの大きな国だった。


 その時代に、恐ろしい魔物たちから獣人たちを守り、国の繁栄を支えた『聖なる獣』たちがいたという。その1体が、アーノルドさんの言う『獣神』なんだそうだ。


 ヴェガ国で信仰されているのは、『翼の生えた獅子』だ。


 この国の国章にも描かれているよね。


 それは、アルバック大陸で信仰され、僕らもよく知っている『神界の神々』とはまた違う系統の『力ある存在』なのだそうだ。


 ソルティスは、


「エルフの国でも『精霊王』が大事にされていたでしょ? あれと同じね」


 と言った。


 要するに、ドル大陸には、土着の神のような存在がいて、僕らの知る『神々』とは違う存在が人々に信仰されているんだね。


 ヴェガ国では『翼の生えた獅子』。


 でも、他の国では、別の『獣神』が信仰されていたりもするそうだ。


(なんだか面白いなぁ)


 信仰の違い、文化の違い、国ごとにそうした違いがあるのが面白くて、とても興味深い。


 アルバック大陸でも同じ。


 シュムリア王国では、戦の女神シュリアン様が信仰され、アルン神皇国では、正義の神アルゼウス様と愛の女神モア様が信仰されている。


 更に僕とイルティミナさんは、狩猟の女神ヤーコウル様の信徒みたいなものだ。


(みんな、色々だね)


 そして、僕らがこれから行くのは、その『翼の生えた獅子』である『獣神』を祀った神殿だ。


 どんな場所なのか、ちょっと楽しみだ。


 僕はワクワクしていたのだけれど、


「一応、聞いておくが、アーノルド? その『獣神の霊廟』には、何か危険があったりするのか?」


 とキルトさん。


 生真面目な彼女は、護衛らしく『獣神の霊廟』の危険度を確認しているみたいだ。


 アーノルドさんは、


「ないな」


 と答えた。


(ないんだ?)


「そこはヴェガロス王家にとっても大事な場所だ。国として管理し、周辺の魔物の駆除も定期的に行われている。問題はない……と思う」


 ……ん?


 と思う……って、なんか微妙な言い方だ。


 キルトさんも気づいたみたい。


「アーノルド?」


 その黄金の眼光が、鋭く、虚偽を許さない強さで、獅子の獣人さんに向けられる。


 王子様は、困った顔だ。


 それから吐息をこぼして、


「問題はないと思うんだが、実はな……歴代の新国王になる者が『獣神の霊廟』を訪れ、そのまま霊廟内で行方不明になった事例が、これまでに3件起きている」


 ……はい?


(行方不明って……)


 思わぬ話に、僕は目を丸くしてしまった。


 キルトさんは、表情をしかめる。


「その者たちは、その後も見つからなかったのか?」

「あぁ」


 アーノルドさんは認めた。


「その後の行方は、今も誰もわかっていない。その時は、別の親族が王位を継いでいる。まぁ、長いヴェガの歴史の中で、たったの3件だけだがな」


 たった3件……。


 それを多いとみるか、少ないとみるかは、難しいところだ。


(なるほど)


 オルトゥさんが強引にでもついて来る訳だよ。


 僕の隣にいたイルティミナさんが、長い髪を肩からこぼしながら、首をかしげた。


「もしや、その者が王となることに反対する勢力が、霊廟内で暗殺でもしたのではないですか?」


 そう予想を口にする。


 アーノルドさんは「かもな」と答え、


「だが、どちらにしても真相は闇の中だ。当時も色々と調べられただろうが、結局はわからなかったんだ。俺たちが考えても仕方がないさ」


 と、気楽そうに笑った。


 いや、アーノルドさん、これからその霊廟に入るんだよね?


(気にならないのかな?)


「気にしても始まらんからな。それに何があろうと、俺は霊廟に入らなければならん。そういうしきたりだ」

「…………」


 僕の表情に気づいた彼は、そう言った。


(そっか)


 僕は頷いた。


 と、彼は人懐っこく笑って、


「それに、俺にはお前たちがついている。あの恐ろしい『悪魔の欠片』を討伐したお前たちが護衛なのだ。不安はないさ」


 と、僕らを見回した。


 深い信頼の瞳だ。


 僕は、


「うん、任せて」


 その瞳を見つめ返し、大きく頷いてアーノルドさんに約束した。


 みんなも頷く。


 アーノルドさんは嬉しそうだ。


(何もないとは思うけど……)


 もしも何かがあったなら、僕は全力で彼を守るためにがんばろう――そう決意を新たにする。


 ガラン ガラン


 青い空に、獣車の鐘の音が響いていく。


 そのまま旅は続いた。


 その夜は野営をして過ごし、そして翌朝、僕らは目的地である『獣神の霊廟』へと到着した。

ご覧いただき、ありがとうございました。


※次回更新は、明後日の水曜日0時以降になります。どうぞ、よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様ですヽ(´▽`)/ アーノルドの細やかな我儘で護衛に着いたマール達。 友情だねえ〜(*´∇`*) [一言] アーノルドの言い分も解るけれど、護衛騎士を付けないで行くのは無理があ…
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