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478・黄金宮にて

第478話になります。

よろしくお願いします。

 3日後、僕らはヴェガ国の首都カランカへと到着した。


 美しい純白と黄金の都。


 多くの街路樹と水路が張り巡らされた街中に見える住民は、9割以上を『獣人』が占めていて、なんとも異国情緒に溢れた都市だ。


「ほぅ……美しい街だな」


 初めて訪れたフレデリカさんは、その景色に目を輝かせている。


 その様子に、アーノルドさんも嬉しそうだ。


 僕やイルティミナさん、キルトさんやソルティスも懐かしい景色に瞳を細めてしまう。


 ポーちゃんだけは、表情が変わらない。


 そうして街の通りを進んでいくと、やがて正面には小高い丘が見え、そこに『黄金の宮殿』が現れた。


 ヴェガ国のお城だ。


 ガラン ガラン


 鐘を鳴らしながら、僕らを乗せた『獣車』は、城門を抜けて宮殿へと続く丘の道を登っていった。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 シュムリア、アルンの使節団が『黄金の宮殿』へと到着すると、まずは現国王様との謁見が行われることになった。


 僕ら6人は、控室に通される。


 このあと、使節団の人たちと一緒に、僕らも謁見する予定だ。


 毛皮の敷かれたソファーや床に腰を落ち着けて、獣の牙を削って作られたコップで冷たい果実水などを飲みながら、その時を待っていた。


 と、そんな僕らに、来客があった。


「ようこそ来てくださいました、皆さん」


 その人は、細い両手を広げながら、笑顔で歓迎の言葉を贈ってくれた。


 僕らは驚いた。


 それは、金色の毛の中に、白いものが混じった高齢な獅子の獣人さんだった。


 腰は曲がり、手足は細い。


 あご髭のような毛が長く下がり、その瞳には、けれど年齢には見合わぬ、衰えぬ知性の輝きが満ちていた。


 僕らは跪く。


「お久しぶりです、シャマーン陛下」


 代表して、キルトさんが挨拶した。


 そう、謁見の前に、控室まで僕らに会いに来てくれたのは、アーノルドさんの父親であり現ヴェガ国国王であられるシャマーン・グイバ・ヴェガロスその人だったんだ。


 彼は温和な微笑みで、僕らに立つように促した。


「皆さんは、我がヴェガ国を救った恩人であり、我が息子の友人です。どうか楽になさってください」


 父の隣にいるアーノルドさんも「そうだぞ」と頷いた。


 僕らも笑顔になり、素直に従った。


 シャマーン陛下からは、遠路遥々訪れた労いと、息子の晴れの舞台に来てくれたことへの感謝の言葉を頂いた。


 そして、


「ワタシの退位後も、どうか息子のことをよろしくお願いします」


 と頭を下げられてしまった。


 国王という立場はとても責任が重く、時には孤独にもなってしまう。だからこそ、新国王になった息子の友として、これからも心の支えとなって欲しい――そう頼まれた。


「父上……」


 アーノルドさんは、少し困った顔だ。


 本人が目の前にいるのに、そういうことを頼まれてしまうのは、少し気恥ずかしかったのかもしれないね。


 でも、僕らは「はい」と頷いた。


 それに、シャマーン陛下も安心したように笑ってくれた。


 …………。


 アルン神皇国の皇帝陛下は、貴人だった。


 シュムリア王国の国王様は、武人だった。


 そして、このヴェガ国の国王様は、賢人だった。


 ヴェガという国の繁栄とその裏で犯した罪、同時に自国を守るための苦悩の板挟みとなる中で、3年前の彼は多くの反対を押し切り、僕らの悪魔討伐に力を貸してくれた。


 その結果として、今の世界平和がある。


(……国王として苦しんだ分、退位後は、ゆっくりして欲しいな)


 シャマーン陛下を見つめて、僕はそう願った。


 と、そんな僕の視線に気づいて、その年老いた獅子の獣人さんは、優しく、穏やかな好々爺な笑みを浮かべて、瞳を細められたんだ。 



 ◇◇◇◇◇◇◇



 控室では、シャマーン陛下とアーノルドさんから、今後のヴェガ国についての話も聞かされた。


 20年以内に、この国を支えた魔法石産業は終わる。


「だから今は、それに代わるものとして、観光業や冒険者事業、それと加工品貿易などを考えているんだ」


 と次期国王のアーノルドさん。


 ヴェガ国というのは、とても裕福な国だ。


 そのためか、危険な冒険者という職業につく者は少なく、また冒険者という概念がアルバック大陸から伝わってまだ30年と浅いため、冒険者事業は発展していないそうなんだ。


 結果として、国内には『未発掘の遺跡』が多く残されている。


 それらを求める冒険者を、シュムリア王国、アルン神皇国からも呼び寄せ、それに付随して自国の冒険者事業も発展させていきたいのだそうだ。


「よければ、お前たちの知恵も貸してもらいたい」


 そう冒険者である僕らに、助けを求められた。


 と言われても、


(どうすればいいんだろう?)


 僕は首をかしげてしまう。


 と、キルトさんが「ふむ」と頷いて、


「文化も土地も違うが、わらわもかつて冒険者ギルドの創設に関わったことがある。その時の話でよければ、してやるが」

「本当か!?」


 アーノルドさんも嬉しそうだ。


 キルトさんは苦笑し、


「あとは、ギルド長のムンパの方が冒険者事業には詳しいであろうの。その辺の詳細をしたためた手紙をよこすよう、こちらから伝えておく。それも参考にするが良い」


 と言った。


 アーノルドさんは「助かる」と大きく頷いていた。


 また、それからシャマーン陛下は、加工品貿易についても話をしてくれた。


 ヴェガ国は、魔法石産業で栄えた。


 そこでは魔法石の加工技術が発展し、それらの技術は応用されて、魔法石以外の部品や調度品などの加工技術も高い水準にあるのだとか。


「今後は、そちらの貿易に重点を置くつもりです」


 とのこと。


 魔法石はなくとも、技術はなくならない。これからは、それを駆使していこうという考えみたいだ。


(なるほどね)


 そして、最後の観光業。


 ヴェガ国は裕福なだけあって、上流階級のおもてなし方法がよくわかっている。


 現在も、冬の寒さを逃れるため、常夏のこの国を訪れるシュムリア、アルンの貴族や商人はいるそうで、今後は、その裾野を広げていきたいのだそうだ。


 つまり、もっと安価な金額で、上質なもてなしを……という感じだ。


 そうすることで、より多くの観光客を呼び込み、そこで外貨の獲得を狙えるという訳だ。


「まぁ、すぐには無理だろうがな」


 アーノルドさんは、そう判断している。


 けれど、彼は、今後20年、あるいは30年先を見据えているという。


(???)


 どういう意味か、僕はわからなかった。


 彼は言った。


「お前たちの発見した転移魔法陣だ」


 と。


 それはあまりに影響が大きすぎるため、今はまだ公式に発表もされておらず、一部の人間しか知らない古代魔法だ。


 でも、やがてそれは発表され、世界に広まる。


 そうなれば、世界の距離はグッと近くなる。


 それこそ、シュムリア王国からヴェガ国まで2ヶ月かかった僕らの旅も、将来は、ほんの1秒でできてしまう時代が来るんだ。


(なるほど)


 だから観光業か。


 アーノルドさんもシャマーン陛下も、本当に未来を見て、物を考えているんだね。


 …………。


 比べて僕は、あんまり考えて生きていないんだなぁ……と思えてしまった。


 ちょっと反省だ。


 アーノルドさんは、


「まぁ、まだ机上の話ばかりだがな。これから問題は、次々と出てくるだろう」


 と落ち着いた声で言った。


 その獅子の瞳が、僕らを見つめる。


「これらの考えも、アルン、シュムリア両国の協力があってこそ実現可能な部分がある。今回の俺の即位式に、両国の使節団を招いたのも、その関係を深めるためという側面もあった」


 そうなんだ?


「だが、それは諸刃の刃でな」


 アーノルドさんは、小さく自嘲気味に笑った。


 キルトさんは、ハッと気づいた顔をする。


「他の6つ国との関係か?」

「そうだ」


 頷くアーノルドさん。


 ドル大陸には、ヴェガ国の他にも6つの国があった。


 中には鎖国している国々もあり、その7つの国の関係は、必ずしも良好なものだけではなかった。


 ヴェガ国も『自国を守るため』に、神々の封印を削って、自国を繁栄させる必要があったともいえる。


 つまり、7つ国は危ういバランスで成り立っているのだ。


 そんな中、ヴェガ国は、3年前の悪魔討伐の件をきっかけとして、シュムリア、アルン両国と深い友好的な関係になり始めた。


(それって、7つ国のバランスが崩れる?)


 僕も気づいた。


 当事国であるヴェガ国のシャマーン陛下やアーノルドさんは、もっと前から気づいていただろう。


 イルティミナさんが眉をひそめる。


「大丈夫なのですか?」

「今のところは」


 シャマーン陛下は、落ち着いた声で答えた。


 アーノルドさんも頷く。


「今のところ、6つ国に動きはない。いや、一時、グノーバリス竜国で不穏な動きはあったが、その後は何もなかった」


 グノーバリス竜国。


 それは、ドル大陸北西部に位置する『竜人の国』だそうだ。


 竜人たちは、自分たちが世界で最も優れた民族であり種族だと信じているそうで、現在は他国との交流もなく鎖国状態だ。


 その国で、軍事行動が起きそうな気配があったそうだ。


(結局はなかったみたいなんだけどね)


 でも、恐ろしい話だ。


 アーノルドさんは笑う。


 今回のヴェガ国の行動は、確かにドル大陸全体に緊張を呼ぶものだ。


 けれど、もしもシュムリア、アルンとの友好関係が確立されたならば、ヴェガ国は窓口となって、両国の益をドル大陸全土に広めることができる。


 それはヴェガ国の重要さを生み、自国を守ることにも繋がるのだそうだ。


 もちろん、リスクはあるけれど、


「まぁ、将来、最悪の事態を招かないよう、いかに外交の手綱をコントロールするかは、新国王となった俺の手腕の見せ所だな」


 ドン


 アーノルドさんは頼もしく言って、自分の胸を叩く。


(そっか)


 僕らとしてはできることはないけれど、ただ平和的解決が為されるように祈っていよう。


 でも、


「もしもの時は、力を貸すからね」


 僕は、アーノルドさんを見つめて、そう言った。


 彼は驚いた顔をする。


 そして、笑った。


「あぁ、その時は頼むぞ、マール」

「うん」


 自分のことを友と言ってくれた人に、僕は大きく頷いた。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 謁見のための支度があるとかで、やがて、シャマーン陛下とアーノルドさんは控室を退室した。


 僕らは、また待ち時間となった。


 そうして待っている最中、


「そういえば、フレデリカさんって、ずっとここにいていいの?」


 僕は、ふと訊ねた。


 フレデリカさんはアルン神皇国の人なのに、アルン使節団と一緒にいないで、シュムリア王国の僕らと一緒で良いのかと不思議に思ったんだ。


 軍服の麗人さんは、頷いた。


「今回の私の任務は、キルト殿の見張りみたいなものだからな。彼女から目を離すな、それが皇女殿下からのご命令だ」


 あらま。


「やれやれじゃ」


 キルトさんは苦笑する。 


 パディア皇女殿下に、キルトさんは本当に気に入られてしまったんだねぇ。


「大変ですね」


 イルティミナさんは他人事みたいに言う。


 ソルティスなんかは気にした様子もなく、出されたお茶菓子を食べていて、ポーちゃんはそのお世話をしている。


 フレデリカさんは吐息をこぼし、


「皇女殿下は、キルト殿にずっとそばにいて欲しいのだ。まぁ、それが不可能なのはわかっているが……」


 そう言いながら、キルトさんを見る。


 キルトさんは肩を竦めた。


 フレデリカさんは苦笑する。


「まぁ、パディア殿下には泣かれてしまうかもしれないが、私から上手く言っておこう」


 キルトさんは「頼む」と答えた。


 そんなこんなで時間を過ごして、やがて、謁見の時間となった。


 シュムリア、アルン両国の使節団と一緒に、僕らも謁見の間にて、改めて、シャマーン国王陛下とアーノルド王子にお会いした。


 挨拶は主に、使節団の高官が。


 謁見では、両国使節団の来訪への労いと感謝が告げられ、そして、即位式が10日後であることが伝えられた。


(10日後か……)


 そんなことを思いながら、控室へ戻る。


 宮殿内に客室を用意してくださったとのことなので、その案内を待っていた。


 と、そこに、またアーノルドさんがやって来た。


(おや?)


 驚く僕らに、


「すまないが、お前たちに1つ、個人的に頼みたいことがあるんだ」


 と、獅子の獣人さんは言った。

ご覧いただき、ありがとうございました。



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これからもマールの物語の更新は続けていきますので、お時間がある時にでも、どうかまた読んでやって頂ければ幸いです。

どうぞ、よろしくお願いします~!



※次回更新は、3日後の月曜日0時以降になります。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様ですヽ(´▽`)/ グノーバリス竜国に不穏な動きも見られたようですが、ヴェガ国も国の運営見直しで上手くいきそうですね。 取り敢えずは安心って感じかな( ^ω^ ) [一言] 最…
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